東方軌跡録   作:1103

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段々と仕事の方が落ち着いてきました。暫くは安定したペースになると思います。


鴉天狗の卵を探せ

ここは妖怪山にある天狗の里。

そこには文々。新聞社と呼ばれる、射命丸文の新聞社が存在する。最も、社員は彼女一人なので、新聞社より個人事務所と言った方が適切である。

 

「あーあ・・・最近、これだ!っていうネタは無いわね・・・・・・」

 

そう言って、文は机にうつ伏せになる。どうやら記事のネタが見つからず、どうにもテンションが落ちてしまっているらしい。

そんな文の元に、一人の鴉天狗の女性が新聞社に入って来た。

 

「文!」

 

「ひゃあ!? あ、あれ? つむじじゃない。もう、驚かせないでよ・・・・・・」

 

彼女の名前はつむじ、文の幼馴染みで、親友の一人である。最近は結婚し、幸せ真っ只中である。そんな彼女は、今にも泣き出しそうな顔をして、文にすがり付いた。

 

「お願い文! 助けて!」

 

「お、落ち着いて、一体何があったの?」

 

「実は――――」

 

つむじの話によると、彼女は所用で外に出掛けた。その時、妖に襲われてしまい、何とか逃げ出せたものの、一緒に持っていた卵を落としてしまったのである。

 

「何で卵を持って外なんか出たのよ」

 

「だって・・・夫は仕事で二、三日家に帰らないから、私が持っていないといけなかったのよ・・・・・・」

 

つむじは消え入りそうな声で呟いた。どうもこの友人は、肝心なところが抜けているようである。

 

「白浪天狗達には通報したの?」

 

「したけど・・・この前の大雪のせいで、人員をあまり割けれないって言われて・・・・・・」

 

「なんとも、間が悪いと言うか・・・・・・」

 

「お願い文! 何とか卵を探すのを協力して! このままだと私、死んじゃうわ!」

 

「だから落ち着きなさい」

 

取り乱すつむじを、諭す文。友人である彼女の力になりたいのだが、何の手かがりも無しに探すのは不可能だとも感じていた。

 

(せめて、物を探す事に長けた人が居れば・・・・・・あ)

 

そこで文は、一人の人物を思い至った。

 

「そうだ。彼なら引き受けてくれるかも」

 

「彼?」

 

「博麗神社に住んでいる青年の事は知っているわね?」

 

「ええ、何でも鬼の人妖だとか。詳しくは知らないけど」

 

「彼に卵探しを手伝って貰うわ。事情を話せば力を貸してくれると思うし、彼の能力なら、探し物をみつけられるかも」

 

「大丈夫なの? 人妖と言っても、鬼の血を引いているんでしょ?」

 

「確かに鬼の血を引いていけど、人間の血の方が濃いし、私の友人であるから大丈夫よ」

 

「文がそこまで言うなら、大丈夫なんでしょうね」

 

「そうと決まれば、善は急げよ」

 

「あ! ちょっと待ちなさいよ!」

 

文はもうスピードで、神社の方に飛んで行き、つむじも急いでその後を追った。

 

―――――――――――

 

ここは博麗神社。ジンは境内の雪掻きをしていた。

 

「まったく。子供の頃ははしゃいでいたが、こうも雪掻きが大変だと、雪が降るのが嫌になるな」

 

そう呟きながら、作業を続けていると、文がもうスピードとやって来た。

 

「こんにちはジン。少しいいかしら?」

 

「どうしたんだ文? 何か問題が起きたのか?」

 

いつもの丁寧口調では無いことから、新聞関連では無く、個人的または天狗関連で来たのとジンは予想した。

 

「そうなのよ、詳しくは彼女から――――」

 

そう言って、誰かを紹介しようとしたが、そこに誰もいない事に気づいた。そして少し遅れてから、鴉天狗の女性がやって来た。

 

「もう、遅いわよつむじ」

 

「貴女が早すぎるのよ!」

 

女性は息絶え絶えながら叫ぶ。どうにか息を整えて、改めて自己紹介を行う。

 

「はじめまして、私はつむじ。文と同じ鴉天狗よ」

 

「御丁寧どうも、俺は――――」

 

「文から聞いているわ。何でも、鬼の人妖だとか」

 

そう言って、つむじは何処か警戒をしていた。恐らく、ジンが鬼の血を引いている事が原因だろう。ジンは特に気にせず、文から事情を聞く事にした。

 

「それで、一体どうしたんだ?」

 

「実はね、彼女の卵を探して欲しいの」

 

「卵?」

 

「ええ、彼女が産んだ鴉天狗の卵をね」

 

「待て待て待て! 鴉天狗って、卵から産まれるのか!?」

 

「何を言っているのよ? そんなの当たり前でしょ」

 

「・・・・・・」

 

ジンは言葉を失ってしまった。冷静に考えてみれば、彼女達は妖怪。人間とは違う生き物であるのだ。そう考えてみると、卵を産んでもおかしくは無いのである。

そんな事を考えていると、文が訝しい眼差しで、ジンを見ていた。

 

「ジン、貴方もしかして、いやらしい事を考えていないでしょうね?」

 

「ま、まさか。ただ、あまり天狗の生態に詳しく無かったから、驚いただけだ」

 

「まあ確かに、天狗と言っても色々あるから、その中で卵を産むのは鴉天狗ぐらいしかいないから、勘違いしても仕方ないわ。でも、失礼だから今後は気をつけるように。いいわね?」

 

「ああ、肝に命じておく」

 

「よろしい。それでは早速本題に入るわ」

 

文はジンに、これまでの事情を話す。話を聞いたジンは、事態の深刻さを理解する。

 

「それは一大事だ! 急いで卵を探さないと!」

 

「話が早くて助かるわ。それじゃ早速だけど、力を貸してくれる?」

 

「もちろんだ。早く落とした場所に行こう。案内をしてくれないか?」

 

「え、ええ・・・わかったわ」

 

思いの外、引き受けてくれた事に戸惑いながらも、つむじは卵を落とした場所に案内をするのであった。

 

―――――――――――

 

妖怪山から少し離れた場所に文とつむじ、そしてジンの三人がいた。

 

「ここが落とした場所か・・・どれどれ」

 

ジンは能力を使い、卵の行方を探していた。

そんな様子を、つむじは少し不安そうに見ていた。

 

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

つむじが心配そうに小声で文に聞く。そんなつむじに対して、文は自信満々に答えた。

 

「大丈夫よ、彼の能力なら卵の行方を探せるから」

 

「正直言って、不安なのよね・・・何て言うか、軌跡って言うのがイマイチよく分からなくて」

 

「私もよく分からないけど、ようは未来視と過去視が出来る能力みたいな物よ」

 

「なるほど、それで卵の行方を探しているのね」

 

そんな話をしていると、突如ジンが口を開いた。

 

「これは・・・厄介と言うべきか、行幸と言うべきか・・・・・・」

 

「どうしたのジン? 何か視えたの?」

 

そう訪ねる文に、ジンは微妙な顔をしていた。

 

「どうやら卵はここにあったらしいが、偶々通りかかった妖精達に拾われたらしい。そして、その妖精達は俺の身内だ」

 

「それってもしかして――――」

 

「ああ、サニー達が卵を拾って行った」

 

そう言って、ジンが指を差した。その方向に、雪のくぼみと小さな足跡が多数残されていたのであった。

 

―――――――――――

 

一方、卵を拾っていたサニー達は、わきあいあいと卵を運んでいたのである。

 

「それにしても、こんな大きな卵を拾えるなんて、ラッキーよね♪」

 

「そうね♪ これなら特大目玉焼きが作れるわ♪」

 

「また目玉焼きなの? 別のにしない?」

 

鴉天狗の卵とは知らず、三人は既にどう調理しようか相談していた。

そんな時、一匹の妖がサニー達の方に、ゆっくりと近づいていた。

 

「あら? 妖がこっちに来ているわ」

 

「サニー、私達の姿をちゃんと消しているの?」

 

「やっているわよ、ルナこそ音を消し忘れているんじゃない?」

 

そんな事を言っている間にも、妖は徐々に三人の方に近づいて来る。

 

「やっぱり、こっちに来ているわね・・・」

 

「どういう事かしら?」

 

「・・・あのさ、私達の姿は消えているけど、“足跡”は消えていないんじゃ・・・・・・」

 

「「・・・・・・あ」」

 

そこでようやく三人は気づいた。どんなに姿と音を消したとしても、雪に刻まれた足跡までは消す事は出来ない。あの妖は、突然現れる足跡を追っている事に――――。

 

「ど、どうする?」

 

「どうするも何も、逃げるしか無いじゃない」

 

「こんな大きな卵を持って、逃げれる訳無いじゃない」

 

「卵を捨てる?」

 

「却下、この卵は絶対に手放さないわ」

 

「それじゃ、逃げれ無いわよ」

 

「大丈夫、私には必殺技があるのよ」

 

「必殺技?」

 

「まあ、見ていなさい」

 

サニーは自信満々にそう答えると、卵を二人に預け、妖の前に姿を現す。

 

「え!?」

 

「ちょっとサニー!?」

 

能力を解除した事に驚く二人。そして、突然現れた事に妖も驚きを隠せなかった。その隙を、サニーは見逃さなかった。

 

「くらえ! 魔理沙さん直伝の“サニースパーク”!」

 

サニーは日の光を集め、それをレーザーのように放つ。虚を突かれた妖は、彼女の攻撃をまともに食らう。

 

「どんなもんだい!」

 

「凄いわサニー! いつの間にこんな技を覚えていたのね」

 

「まあね。この前、魔理沙さんに教えて貰ったのよ」

 

「良いな、私にもそんな技が欲しいな。・・・・・・ん?」

 

そこでルナは気づいてしまう。サニースパークを受けた妖は、ピンピンしている事に。

 

「あのさサニー・・・あまり効いていないように見えるんだけど・・・・・・」

 

「そんな筈は―――ありそうね・・・・・・」

 

「グルル・・・・・・」

 

サニーの攻撃に腹が立ったのか、妖は三人目掛けて襲い掛かった。

 

「「「キャー!?」」」

 

「突風“猿田彦の先導”!」

 

声と共に、サニー達を襲い掛かった妖は、何かにぶつかり宙に舞った。そして妖が地面に落ちたすぐ側には、いつの間にか文が立っていた。

 

「ふう、危ないところだったわね貴女達」

 

「あ、貴女は・・・・・・」

 

「いつもの新聞屋さん」

 

「はい♪ いつも清く正しい射命丸文です♪っと、今はそれどころではなかったわね」

 

「文ー!」

 

「大丈夫かー?」

 

すると後から、つむじとジンがやって来る。どうやら、文のスピードについて来れなかったようである。

ジンの姿を見ると、サニー達は安堵した。

 

「ジンだ!」

 

「もしかして、助けを呼んでくれたの?」

 

「いや、そういうわけでは――――」

 

「あ! 私の卵!」

 

「「「え!?」」」

 

「実はな――――」

 

ジンはサニー達に、これまでの事情を説明した。

 

「つまり・・・私達が拾ったこの卵は、鴉天狗の卵なのね」

 

「ああ、だからこの人に返して貰えないか?」

 

「うーん・・・惜しいけど、ジンの頼みなら仕方ないわね。はい」

 

事情を聞いたサニー達は、つむじに卵を返して上げる事にした。

卵を受け取ったつむじは、涙を流しながら感謝を言うのであった。

 

「ありがとう・・・本当にありがとう。この御礼はいつか必ず返すわ」

 

こうして、卵は無事に母親の元に戻ったのである。

 

―――――――――――

 

それから数日後。博麗神社の母屋で、ジンと正邪と霊夢はのんびりしていた。

 

「ところで、この前話していた鴉天狗の御礼はどうなったんだ?」

 

「そうね、私も気になるわ」

 

正邪は漫画を読みながら、霊夢は御茶を置いてジンに訪ねた。するとジンは、興味無さげに答えた。

 

「ん? それなら辞退した」

 

「はあ!? なんでよ! 折角お宝とか貰えたかも知れないのに!?」

 

ジンの答えを聞いた正邪は、漫画を放り投げ起き上がる。それに対して、ジンは呆れながらも答えた。

 

「卵を拾ったのはサニー達だ。結果として俺は何にもしていないからな」

 

「あんたらしわね」

 

「相変わらず真面目な奴だよな・・・そこは貰っていれば良いものを」

 

「俺の勝手だろ。というか、お前はいつまでここにいるんだよ!?」

 

ジンは正邪に指を差して言った。

彼女は大雪の後も、ずっと神社に居座っているのである。

 

「家が壊れているんだから、仕方ないだろ。建て直す金も宛も無いから」

 

「・・・・・・霊夢、良いのか」

 

「まあ、特に問題を起こしていないし、神社の仕事もやってくれるから、追い出す理由は無いのよね」

 

「こいつが素直に仕事する訳が無いだろ。絶対に裏があるぞ」

 

「そうでしょうね。でもまあ、何かを起こすようであれば、速攻で退治すれば良いんだし。それに、彼女を連れて来たのはあんたなんだから、責任は持ちなさいよ」

 

「うっ、わ、わかった」

 

そんなやり取りをしていると、突然の突風が三人を襲う。雨戸は外れ、雪が中に入り、居間がメチャクチャになっていた。

 

「いたた・・・一体何なのよもう!」

 

怒り心頭の霊夢の目に写ったのは、天狗の秘宝である天狗の葉団扇を持っているサニーの姿があった。どうやら、葉団扇の力を試している際に、流れ風が母屋に当たってしまったか、悪戯に使ったのどちらかであるとジンは考えた。

 

「あ、あんた達~!」

 

「「「ご、ごめんなさーい!」」」

 

サニー達は直ぐ様逃げ、霊夢は鬼のような形相で三人を追い掛けて行った。

その後、罰として葉団扇は没収されてしまうのだが、そのあとジンが、こっそりと返してくれたのは、言うまでも無い。




今回は松倉Verの三月精の話しを流用したものです。
これを読んで驚いたのは、鴉天狗が卵を産むという事です。まあ一応妖怪ので、別におかしくはないのですが。
それと、今回オリジナル技である"サニースパーク"ですが、これはガンダムのソーラーシステムやソーラレイみたいなものと思ってください。

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