以前も、七不思議を題材にした話があるので、やや被っています。
色々と考えたのですが、これが一番しっくり来たので、これにしました。
雪が降りしきる夜。小鈴は外来本を読みながら夜更かしをしていた。
「ふーん、外ではこんな事をしているのね・・・・・・ん?」
ふと、外からカチカチと音が聞こえて来た。気になった彼女は、そっと窓から除き込む。
そこには、宙に浮かんだ提灯達がまるで隊列を組んでいるようにして、何処かに行進していた。
小鈴は不気味に思いながら、提灯達を見送った。
―――――――――――
翌日、博麗神社で雪かきしていたジンに、小鈴が訪ねて来た。
「あのすみません。霊夢さんいますか?」
「霊夢なら、依頼を受けて留守にしているぞ。多分、明日までには戻らないな」
「そうですか・・・困ったなあ・・・・・・」
「一体どうしたんだ?」
「実は――――」
小鈴は昨夜の出来事を、ジンに詳しい話始めた。
「なるほど、提灯と音がねえ・・・・・・」
「あのあと、気になって色々と調べて見たんです。すると、ある事がわかったんですよ」
「ある事?」
「誰かが、本所七不思議をなぞっているんです」
本所七不思議。それは江戸時代に流行った典型的な怪談を集めた物である。最も、七不思議なのにエピソードが七つ以上もあるのだが、それは突っ込んではいけない。
「なぞっているって、どうして分かるんだ?」
「最近噂が絶えないんですよ。置いてけ掘りで、誰もいないのに“置いてけ”って声が聞こえたり、里の夜だと、北の外れでも声が聞こえたり、町中じゃ送り提灯を見たり、送り拍子木の音が聞いた人がたくさんいたんです」
「確かに・・・偶然にしては出来すぎているな・・・・・・」
「だから霊夢さんに頼んで、解決して貰おうかと思ったんですけど・・・・・・」
「そうか、うーん・・・・・・」
小鈴の話を聞いたジンは、少し考えてから口を開いた。
「それなら、俺が調査しようか?」
「ジンさんがですか?」
「ああ。これでも多少は強くなったし、妖ぐらいなら退けられる」
「でも・・・御一人で大丈夫ですか?」
「話を聞く限り、実害は無さそうだから心配無いと思う。それじゃ行って来る」
そう言ってジンは、早速調査に向かおうとするのだが、不意に足を止めてしまう。
「ジンさん?」
「・・・・・・そう言えば、七不思議の場所を知らないんだった」
ジンの情けない言葉を聞いて、小鈴は小さくため息をついた。
―――――――――――
小鈴に案内を頼み、ジンは七不思議の一つである置いてけ掘に到着していた。
「ここか・・・」
「はい。ここで“置いてけ”という声が聞こえ、掘周辺で拾った物を置いてかないと、掘に引きずり込まれる。と言われているんです」
小鈴が置いてけ掘りの説明をしているまさにその時、何処からともかく声が聞こえて来る。
“オイテケ〜・・・・・・”
「ひぃ!?」
その声を聞いた小鈴は驚き声を上げ、急いでジンの後ろに隠れた。
「お、置いてけ掘ですよ! ジンさん! 拾った物を置いて下さい!」
「落ち着け小鈴。俺達は何も拾っていないし、そもそもこれは置いてけ掘じゃない」
「え?」
「サニー! ルナ! スター! そこにいるんだろ! 出てこい!」
ジンがそう叫ぶ。しばらくすると、何も無い所からサニー達が現れた。
「や、やっぱりバレてた?」
「だからやめとこうって言ったのに・・・・・・」
「まあでも、相手がジンで良かったわ。これが霊夢さんだったら、お仕置き確定だもの」
「「確かに」」
「貴女達は、博麗神社に住んでいる妖精じゃない。どうしてこんな所に?」
相手が置いてけ掘では無いことを知ると、小鈴はジンの後ろから出て、サニー達に質問をした。
「アルバイトをしているのよ」
「「アルバイト?」」
「そう、ここに人が来たら追い払うの。悪戯出来て尚且つ、給金が貰えるから一石二鳥よ♪」
「誰に頼まれたんだ?」
「それは――――」
サニーが言い掛けた瞬間、それを遮るようにルナが声を上げた。
「ちょっとサニー! それは言わない約束でしょ!」
「あ、そうだった」
「ごめんねジン。雇い主に関しては、誰にも喋らない約束になっているから」
「そうか・・・まあ、無理に聞き出そうとはしないから、安心してくれ」
「ありがとう。今度、美味しいコーヒーを御馳走するわ」
「ああ、楽しみにしている。それと、アルバイトも程々にな」
「「「はーい♪」」」
サニー達から一通り話を聞き終えたジン達は、置いてけ掘を後にする事にした。
「誰に頼まれたか、聞かなくていいんですか? 」
小鈴はジンにそう尋ねると、ジンは歩きながら答えた。
「ああ、無理に聞く必要は無い。誰かは、軌跡を見て分かっている」
「え!? 一体誰なんですか!?」
「河童のにとりだ。理由は分からないが、あそこに人を近づけさせたく無いらしい」
「人を近づけさせたく無いですか・・・・・・」
「もう少し調べる必要があるな。
小鈴、次の七不思議は?」
「えっと・・・片葉の葦は、今だと見つけられないから・・・呪われた龍神の像にしましょう」
呪われた龍神の像。
人里の中央広場に置かれており、天気によって像の瞳の色が変わると言われている。
「ちょっと待て、それは本所七不思議じゃないだろ」
「え? 何を言っているんですかジンさん。ちゃんと本に書かれ――――」
そう言って小鈴は、本所七不思議の事が書かれた本を開く。しかし、どのページにも龍神の像に関する話は書いていなかった。
「―――ていませんね・・・これはどういう事ですか?」
「恐らくだが、この七不思議だけが、本所七不思議じゃなく、後付けされた七不思議なんだろう」
「そう言えば、龍神の像は河童達が建てたって話を聞いた事があります」
「また河童か・・・取り合えず調べてみるか」
ジンと小鈴は、里にある龍神の像に向かう事にした。
―――――――――――
人里の中央広場についたジンと小鈴は、早速龍神の像について調べ始めた。
「特に怪しい所は無いな・・・・・・」
「そうですね・・・無駄足だったかな?」
「取り合えず、近くの店で休憩するか?」
「そうですね。そろそろお昼ですし」
「それじゃ、ラーメンでいいか?」
「はい♪」
小鈴は嬉しそうに頷く。こうして二人は、近くのラーメン屋に入った。
―
「はあ♪ 美味しかったです♪」
小鈴は満足そうに、ラーメンを食べ終えていた。
食事を終えた二人は、これからの方針を話す事にした。
「それで、次は何処に?」
「そうですね・・・送り提灯と送り拍子木と狸囃子は夜でしたから、足洗邸ですかね」
「よし、そこに言ってみるか」
ジンと小鈴は会計を済ませ、足洗邸に向かう事にした。
―――――――――――
人里から離れた場所に、足洗邸と呼ばれる廃墟があった。
「ここが足洗邸か・・・随分ボロいな」
「随分と昔から誰も住んでいなかったので、荒れ果てているんです。最近では、狸囃子の噂も出ていますし」
「ん? 狸囃子を聞いたのもこの近くなのか?」
「そうらしいです」
「ふむ・・・小鈴、送り提灯が向かった方角とかは分かるか?」
「えっと・・・だいたい北の方角に―――あ」
そこで小鈴は気づいた。送り提灯達がが向かった方角には、この足洗邸がある事に。その事をジンに伝えると―――――。
「ふむ、どうやらこの足洗邸が本命みたいだな」
ジンは足洗邸の戸をを調べ始める。出入口は板が打ち付けられて、封鎖されているように見えるが、外せるようになっていた。ジンは、板を外した。
「よし、これで中に入れるな」
「だ、大丈夫ですか? 噂によると、足洗邸に入って生きて出た人はいないと・・・・・・」
「これまでの事を考えると、七不思議事態はこの足洗邸を遠ざける為のブラフだ。心配ない」
「ですが・・・・・・」
「なら、小鈴はここに居てくれ。俺一人で行く」
「あ、待って下さいジンさん!」
中に入って行くジンの後をついていく小鈴。
中に入ると、そこには多数の道具が置かれていた。
「どうやら、ただの廃墟って訳じゃなさそうだ」
ジンは中に置かれていた行灯に火をつけ、中を調べ始める。
パソコン、ストーブ、冷蔵庫などの外の物や、見たことも無い道具がそこにあった。
「廃墟というより、倉庫だな」
「一体誰がこんな事を・・・・・・キャア!?」
突然小鈴は悲鳴を上げ、ジンに抱きついて来た。
「ど、どうした!?」
「あ、あそこに足洗いが・・・・・・」
小鈴は震えながら、指を差した。ジンは、彼女が差した方に方術ね光を照らす。そこには天井に吊るされた多数のケーブルがあった。
「落ち着け、これはただのケーブルだ」
「え? ケーブル?」
「そう、恐らくケーブルの影と足洗いを見間違えただけだ」
「なーんだ・・・・・・あ」
小鈴はようやく、ジンに抱きついている事に気がつき、慌てて離れる。
「ご、ごめんなさい!」
「いいって。それよりも、これで七不思議を起こしている犯人が分かった」
「へ?」
「ここにマークがあるだろう?」
そう言ってジンは、ケーブルを翻した。そこには河童の帽子が描かれたマークであった。
「これは河童達が自分達の所有物として、つけているものなんだ」
「へー・・・ってことは、七不思議も河童達が?」
「そうだろうな、恐らく足洗邸から遠ざける為にやったと考えるべきだな」
「これからどうします?」
「にとりと話す。このまま噂が広まれば、霊夢が動く事態になるかも知れないしな」
「あ、あの、私も一緒に行っていいですか?」
「え? 良いのか? 妖怪の総本山だぞ?」
「ここまで来たんですから、最後まで付き合わせて下さい」
「・・・まあ、話をするだけなら大丈夫かな? 分かった、一緒に行こう」
「はい!」
こうして二人は、にとりに話を聞くべく、河童の住みかに向かうのであった。
―――――――――――
妖怪の山の麓にある河童の住みかに到着したジン達は、早速にとりに事情を説明していた。
「――――そんな訳で、このままだと問題が起きると思うだが、何とかならないか?」
「あちゃー、まさかそんな大事になっていたなんて・・・・・・」
ジンの話を聞いたにとりは、少し困った顔をした。彼女の話によると、あの足洗邸は置いてけ掘が全面凍結した時用の緊急倉庫として使われていたらしく。件の七不思議は、人払い用のカモフラージュとして流したらしい。
「わかったよ、二、三日中に足洗邸から別の倉庫に移すよ。今度は人里からかなり離れた場所だから、心配ないと思う」
「すまんな、出来ればこんな退去勧告まがいな事を言いたくはなかったんだが・・・・・・」
「ジンが気にする必要はないよ。寧ろ、この事を教えてくれてありがとう」
「そう言って貰えると助かる」
「そっちの子も、怖い思いをさせて悪かったね」
「い、いえ! 少し怖かったですけど、理由を聞いたらそんな怖い事でもなかったですし」
「それなら良いけど。あ、そうだ、七不思議の事は里の人には黙っておいて欲しいんだ。一応、人が来られると困るからさ」
「はい、わかりました」
にとりと話をつけ、二人はそのまま帰路につくことにした。
―――――――――――
それから数日後。鈴奈庵に訪れていたジンは、小鈴と今回の件について話をしていた。
「どうやら、河童さん達の引っ越しが終わった見たいですね」
「ああ、これで七不思議騒動も一件落着だな」
そんな話をしていると、霊夢と阿求が店にやって来た。
「小鈴いる? あれ、ジンさん?」
「あんた、こんな所で何をしているのよ?」
「それはこっちの台詞だ。今日は退治の依頼で遅くなるって言っていたじゃないか」
「今仕事中なのよ。調べたい事があるから、こっちに寄っただけ」
「調べものですか?」
「ええ、“本所七不思議”についてよ」
「「え?」」
阿求の言葉に、ジンと小鈴は驚きの声を上げた。更に阿求の説明が続く。
「最近、送り提灯や送り拍子木、更には狸囃子の噂が絶えないじゃない? だから、もしかしたら妖怪の仕業だと思って、霊夢さんに依頼したのよ」
「大した事じゃないとは思うんだけど、この子がどうしてもって言うから」
「「ははは・・・・・・」」
説明を受けたジンと小鈴は、乾いた笑い声をする。
その後二人は、既に解決している事を、霊夢と阿求にどう伝えるか悩むのであった。