ボツにしようかどうか最後まで悩み、投稿した物ですので、微妙な出来です。
人里から少し離れた野原に、橙と妖怪の子供達が遊んでいた。
「よーし 投げるよー」
「ばっちこーい」
橙がボールを投げ、妖怪の子がバットでボールを打つ。ボールはそのまま遠くまで飛び、たまたま通り掛かった布都の足元に転がる。
「すみませーん、ボールを取って――――」
そう言おうとしたその時――――。
「妖怪め! 我が退治してくれる!」
突然そう叫び、子供達目掛けて火を放つ。
驚いた子供達は、大慌てて逃げ出した。
「逃がさぬぞ妖怪!」
布都は追い討ちと言わんばかりか、子供達に皿を放つ。しかし――――。
「土獸招来!」
突如現れた土の獣に、布都の皿はボロボロに朽ち果て、消滅した。
「む、何故邪魔をするのだジン!」
布都は土獸を召喚したジンに、非難なした目で言う。
一方ジンは、かなり呆れた様子であった。
「あのな・・・子供が襲われている所に出くわしたら、誰だって助けるだろ? それ以前に、どうして襲ったりしたんだ?」
「あやつらは妖怪じゃ、退治して何が悪いんじゃ?」
「悪さをしていないのに、退治する必要は無いだろ」
「分かっておらぬなお主は。古今東西、妖怪や化け物は人間の敵と相違ないではないか? 事実、書物等では、大半が悪者扱いされとるじゃろ?」
「それは・・・そうだが・・・・・・」
「故に、我がしている事は人の為になっているのじゃ」
布都は自慢気にそう言うが、ジン自身は納得してはいなかった。
「だからって、無差別に襲うのは感心しない」
「無差別に襲ってはおらん。妖怪だけじゃ」
「妖怪なら、問答無用で退治するのか?」
「もちろんじゃ、巫女達もそうしておるじゃろう?」
「うっ・・・・・・」
これにはジンは何も言い返せず、言葉を詰まらせてしまう。
「ともかくじゃ、今後我の邪魔をするで無いぞ」
「あ、ちょっと待て! 話はまだ――――」
ジンは呼び止めようとするが、布都はそのまま何処かへと飛び去ってしまった。
―――――――――――
人里にある茶店。そこでジンは、布都の事でマミゾウと相談していた。
「―――そんな事があってな・・・少し困っているんだ」
「ふむ・・・確かに困るのうそれは・・・・・・よし、儂に任せておれ」
「実際どうするんだ?」
「なに、二度と大それた事をせぬように、完膚なくまでに叩き潰すだけじゃよ」
「待て待て待て! 何もそこまでしなくても良いだろ!? もう少し穏便に――――」
「じゃが、布都の行いには目が余るのも事実。実際、あやつに対して不満を持つ妖怪は多いぞ?」
「それはそうだが・・・やはり穏便に済ましたいんだ」
あくまでも穏便に事を解決したいジンに対して、マミゾウはやれやれと肩を竦めた。
「やれやれ・・・お主はお人好しじゃのう。わかった、他の妖怪には儂が言い聞かせておく。しかし、根本的な解決をせねば、いずれ火種は起きるぞ?」
「わかった。何とかしてみる。ありがとうマミゾウ」
ジンはマミゾウに礼を言いながら、茶店を後にした。
ジンが去った後、マミゾウは小さく呟く。
「やれやれ、もっと楽な道を選べば良いものを、難儀な性格じゃのうあやつは・・・まあ、そこが気に入っておるのじゃが」
マミゾウは残された団子を食べながら、ジンの背中を見えなくなるまで見つめた。
―――――――――――
マミゾウと別れたジンは、次に神子に布都について話を聞くため、神霊廟に訪れていた。
「なるほど・・・布都がそんな事を・・・・・・」
「彼女はアホですからね。未だに時代錯誤の考えをしているんですよ」
毒舌を言い放ちながら、屠自子はジンにお茶を差し出す。
彼女の時代錯誤という言葉が気になったジンは、屠自子にその事について聞いた。
「時代錯誤って?」
「私達が生きていた時代では、妖怪は当然のように襲い喰らう。人を仇なす存在だったのよ」
「故に、妖怪は敵と認識しているんですよ」
「そうか・・・でも、今は違うだろ? 少なくとも幻想郷の妖怪は最低限のルールを守っている筈だから、無闇に人を襲う事は無い筈」
外の人間はともかくと言おうとしたが、ジンはその言葉を飲み込んだ。
「それでも、過去のわだかまりは中々解けない物です。頭で分かっていても、心が受け入れられないのですよ」
「私でも妖怪を見ると、思わず身構えてしまう時がありますから」
「思ったより難しい問題だな・・・・・・」
「そうですね、こればかりは私がどうこう言って直る物ではありませんから」
「わかった、参考になった。ありがとう」
ジンは二人に礼を言いながら、神霊廟を後にする。
ジンが去った後、屠自子は口を漏らした。
「どうして布都の奴の事で真剣になるんですかね? 自業自得なの上に、自分には関係無い筈なのに」
屠自子は疑問を抱いていた。
ジンと布都はあまり接点は無く、親しい友人でも無い。良くて知人程度の関係である。それなのにジンは、布都の為にあれこれ動いている。そこに屠自子は不思議に思っていた。
「知人相手でも、あそこまで親身になれるんでしょうか?」
そんな事を呟く屠自子に、神子は首を横に振った。
「彼はある出来事が切っ掛けで、惻陰の心を幼少の時に会得しているのですよ」
「ある出来事とは一体・・・・・・」
「それは彼の過去―――主に母親の言葉が要因となっています」
そう言って、神子はお茶を啜りながら話始めるのであった。
―――――――――――
神霊廟を後にしたジンは、歩きながら布都をどう説得するかを考えていた。
(さて、一体どうするか・・・ん?)
そんな時、偶然にも布都と出会う。しかし、それは昼に出会った時とは違い、あちらこちらボロボロであった。
「い、一体どうした布都!? そんなボロボロになって・・・・・・」
「む? ジンか・・・実はのう――――」
布都の話によると、あの後九尾の狐妖怪と出会い襲われ、抵抗むなしくボロボロに負けてしまったらしい。
「何やら、“橙を虐めたのはお前かー!?”と叫んでおったが、我は虐めなどのような卑怯な事はしておらぬ! とんだ濡れ衣じゃ!」
「ははは・・・・・・」
そこでジンは、布都が襲った妖怪が誰なのか直ぐに分かり、思わず苦笑いをしてしまう。
「まったく、妖怪はやはり敵じゃ。人を問答無用に襲う害悪じゃ」
布都は敵意を隠さずそう良い放った。
それに対してジンは、先程の苦笑いを消し、無表情で布都に言う。
「それは、お前もじゃないか布都?」
「な、何だと!? 我がいつ害悪となったのだ!?」
「妖怪を問答無用で襲っているじゃないか?」
「それはあやつ等が妖怪で―――」
「妖怪だから襲っていうのが正当化されるのなら、人だから襲うのも正当化されるな」
「な、何でそうなるんじゃ!」
布都は声を荒げるが、ジンは動じずそのまま言葉を続ける。
「そりゃそうだろ、妖怪だけを一方的に襲うのは良くて、人を一方的に襲うのは駄目なんて、おかしいだろ?」
「おかしいのは御主だろう! 人が襲われて良くは無い筈! 御主とて、襲われたくは無いだろう?」
「ああ、俺だってそんなのは御免だ。でも、それは妖怪だって同じじゃないか?」
「妖怪も・・・同じ?」
「昔、母さんに言われた事があったんだ。“自分が嫌がる事を、他人にしてはいけない”って」
それは遠い昔の事。それはジンがまだ十にも満たない子供の頃である。
当初のジンは、今のジンからでは思えない程自分勝手で、理由も無く暴力を振るい、自分の力を誇示していたのである。
「ある日、その事を母さんに自慢したら、思いっきり叩かれたんだ。その時に言われた言葉なんだ」
それは、ジンにとって衝撃的な事であった。
それ以降ジンは、他人を重んじるようになり、苛めもせず、逆に助けるようになった。
それは全て、相手の立場になって考えた行動であり、それは今も変わらず続けているのである。
「だから布都、一度でも良いから、相手の立場になって考えて欲しい。今している事が、本当に正しいのかを」
「・・・・・・」
ジンは話を終えると、その場を去って行った。
ジンの話を聞いた布都は、しばらくその場で考え込むのであった。
―――――――――――
その夜、ジンは縁側で霊夢に今日の出来事を話していた。
「へえ、あの話をしたんだ」
「正直言って恥ずかしかった。後、訳わからん言葉も口走った」
「そう? 良い話だと思うけど?」
「あの話をする際に、俺の黒歴史も話さなくちゃいけないから、精神的なダメージを食らう」
「そうよねぇ、今じゃ考えられないもの。あのジンに、身勝手で唯我独尊な時期があったなんてね♪」
霊夢は面白そうにそう言い、ジンはバツ悪そうにした。
「それでどうなの? 布都はそれで納得出来たの?」
「さあ、そればかりは本人次第だな。ただ―――」
「ただ?」
「分かってくれると思う。
俺の人生で一番感銘を受けた言葉なんだから」
どんな偉人の名言より、その母の一言ががジンの心に深く刻まれていた。
―――――――――――
それから数日後。ジンが人里を歩いていると、偶然にも布都とバッタリと鉢合わせした。
「む、御主か・・・・・・」
「布都か・・・・・・」
二人はしばらく無言であったが、布都はおもむろに口を開く。
「あれから自分なりに考えたが、やはり妖怪は我の敵である。それだけは変えられぬ」
「そうか・・・・・・」
「じゃが」
「ん?」
「少々やり過ぎたのは・・・認める。これからは相手を選ぶ事にする。
じゃが、我は妖怪を認めた訳では無いからな。それを努々忘れるでは無い」
それだけ言うと、布都はその場を去った。
「ああ、それだけで十分だ。ありがとう布都」
ジンは小さく呟きながら、その場を後にする。
それから布都は、無闇に妖怪を襲う事は無くなり、トラブルが減ったという。