東方軌跡録   作:1103

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今回は時間が思いの他掛かってしまいました。
もしかしたら、次の投稿も時間が空くかも知れません。


流行り祟り

ここは博麗神社。人里から離れた場所にあり、幻想郷の境にある神社である。

しかし、この数日は神社は休業していた。何故なら――――。

 

「うーん・・・だるいわ・・・・・・」

 

巫女である霊夢がここ数日体調を崩しているからである。しかも、体調を崩しているのは彼女だけではなかった。

 

「霊夢・・・大丈夫か?」

 

「あんたの方こそ・・・大丈夫なの?」

 

「霊夢よりはマシだ」

 

ジンもまた体調を崩していた。しかし、霊夢より良いらしく、こうしてお粥を作って持って来てくれるのである。

 

「ほら、お粥を作って来たぞ」

 

「助かるわ。こういう時、ジンのお粥が良いわよね」

 

そう言いながら、霊夢はお粥を口にする。

ジンのお粥は非常に食べやすく、食事療法として非常に効果的だと、永琳が賛美する程である。因みに、永遠亭で出されるお粥は全て、ジンから教わった物である。

 

「ふうー、御馳走様」

 

「御粗末様。後は妖狐達が薬を買って戻るまで安静していれば大丈夫だろう」

 

「そうね・・・それにしても遅いわね・・・・・・」

 

「仕方ないだろう。人里でも流行っているみたいだしな」

 

そう言って、ジンは新聞を霊夢に見せた。

 

“人里に風邪が流行。永遠亭、対策に追われる”

 

―――という見出しが書かれていた。

 

「風邪ねえ、まったく厄介な物ね」

 

「ああ、こういう時は大人しく寝ているのが得策だな」

 

「あんたもよ。そろそろ休んだら?」

 

「そうだな・・・少し辛くなって来た。これを片付けたら休むよ」

 

「あんまり無理をしないでね」

 

「わかった」

 

そう返事をして、ジンは食器を片し、部屋を出ていった。

ジンを見送ると、霊夢は再び眠りについた。

 

―――――――――――

 

それから数日が経過したが、風邪は一向に良くならず、人里でも日に日に感染者が増えて行った。

 

「とうとう、人里の大半がこの流行り病に掛かったのか・・・・・・」

 

新聞を読みながらジンは呟く。幸いにも死者は出ていないが、いつ出てもおかしくは無い状況であった。

 

(病気に関してはどうにも出来ないからな・・・ここは医者に任せるしかないな)

 

そんな事を考え、新聞をたたみ休もうとした時、妖狐が部屋にやって来た。

 

「あのジンさん、永遠亭の永琳さんが御越しになりましたけど・・・・・・」

 

「永琳が? 呼んだ覚えは無いが・・・・・・」

 

「何でも、霊夢さんとジンさんに話がある事らしいです」

 

ジンは疑問を感じた。医者である永琳が、わざわざ病人を起こしてまで話をしに来たという。普通では有り得ないが、そうまでしないといけない事情があると、ジンは考えた。

 

「・・・わかった。話を聞こう」

 

ジンは永琳の話を聞きに、ダルい体を起こし、永琳が待つ居間へと向かった。

 

 

居間につくと、そこには永琳と自分と同じ様に具合が悪そうな霊夢がいた。

 

「悪いわね、寝込んでいるときに起こして」

 

「まったくよ・・・それで要件は?」

 

「この流行り病を静めて欲しいのよ」

 

「病を・・・静める?」

 

ジンはイマイチ、永琳が言った事を理解出来なかった。医者である彼女が、この流行り病を静めて欲しいと言ったのだ。

理解が追いつかないジンに対して、霊夢は納得したようであった。

 

「なるほど、そういう事だった訳ね」

 

「そういう事。神降ろしが出来る貴女にしか頼めなくて」

 

「やれやれ・・・辛いけど、仕方ないわね」

 

「ど、どういう事だ?」

 

「簡単に言うと、この風邪は普通の風邪では無く、祟り類いの物なのよ」

 

話によると、この流行り病は、誰かが判善男様という神様の封印を解いてしまい、封じられた祟りが解放されてしまったらしい。その祟りが、今回の流行り病を引き起こしているのだ。

 

「だからもう一度、祟りを判善男様で封じれば、この流行り病も収まるって訳」

 

「そうだったのか・・・って、霊夢は病人だぞ!」

 

「それでもやって貰うしか無いのよ。このままだと、いずれは死人が出るわ」

 

「それはそうかも知れないが・・・・・・」

 

「私なら大丈夫よ。ササッと行って、再封印すれば良いんだから」

 

「だが・・・・・・」

 

「それに封印をしないと、この病は収まらないんだから、異変解決は博麗の巫女の仕事なんだから」

 

そう言って笑う霊夢だが、何処か無理をしているようであった。

ジンは少し考え、口を開いた。

 

「わかった。霊夢がそう言うなら止めない。けど、俺も一緒に行く」

 

「ちょ、ちょっと、あんた病人なのよ。ここは私に任せて―――」

 

「それは霊夢だって同じだろ。それに、ちゃんと考えてある」

 

するとジンは、永琳に確認するようにある質問をする

 

「永琳、この病に掛かったのは人だけで、妖怪は掛かっていないんだよな?」

 

「ええ、これは人にだけ伝染するみたいなのよ」

 

「それだったら、鬼人になれば症状も収まる筈だ。それなら、一緒に行っても大丈夫だろ?」

 

「まあ、そうだけど・・・・・・結構面倒くさい事をするけど、良いの?」

 

「良いさ、それよりも霊夢の体の方が心配だ」

 

「わかった。正直言って、少し辛かったのよね」

 

「俺で良ければ、杖代わりにしてくれて構わないぞ」

 

「それなら、御言葉に甘えようかしら」

 

「話は纏まったかしら?」

 

しばらく静観していた永琳がそう尋ねて来たので、ジンは頷いて答えた。

 

「ああ、取り合えずな」

 

「あ、そうだ。頼みたい事があるんだけど」

 

「何かしら?」

 

「病気に掛かった人達を一ヶ所に集めて欲しいの。頼める?」

 

霊夢がそうお願いすると、何の為か理解した永琳は、頷いて了承した。

 

「わかったわ。一軒ずつ回るのは大変でしょうから、永遠亭に集めておくわ」

 

「御願いね。それじゃ行く準備をするわよ」

 

「行くって・・・何処に?」

 

「香霖堂よ。あそこで依り代になる物を手に入れるのよ。なるべく古い物が良いから」

 

「なるほど。確かにあそこなら、骨董品が多くあるからな。早速準備をして行こう」

 

永琳は人を集める為に人里に向かい。ジンと霊夢は、判善男様の依り代を求め、香霖堂へと向かうのであった。

 

―――――――――――

 

魔法の森の入り口にある香霖堂。鬼人になったジンは霊夢をおぶったまま、店の入口に立っていた。

 

「着いたぞ霊夢、大丈夫か?」

 

「うん・・・ありがとうジン」

 

そう御礼を言いながら、霊夢はジンの背中を降りた。

やはり辛いのか、少しフラついている。

 

「あまり無理をしない方が良い。飛んでる最中も辛そうだったぞ?」

 

「途中でおぶって貰えたから、少し楽になったわ。ありがとう」

 

笑顔でそう言うが、ジンには何処か無理をしていると感じた。

 

「本当に辛くなったら言えよ」

 

「そうするわ。それじゃ入るわよ」

 

二人は香霖堂へと入った。

店内では、相変わらず暇そうにしている霖之助の姿があった。

 

「おや、ジンに霊夢。いらっしゃい」

 

「こんにちは霖之助さん」

 

「霖之助は無事だったみたいだな」

 

「人里で流行っている風邪の事かい? ああ、僕は半妖だからね。あまり病には掛からないんだよ」

 

「やっぱりな。鬼人になって正解だった」

 

「そうだね。この病は妖怪には掛からないみたいだから、鬼人の状態なら症状は出ないだろう。ただし、人に戻ったら振り返すかも知れないから、戻る時は気をつけた方が良いよ」

 

「ああ、わかった。ありがとう霖之助」

 

「君は大事な御得意様だからね」

 

「あら、私はどうなの霖之助さん?」

 

「ツケを払ってくれたらね」

 

「ケチ」

 

「それよりも、今日はどんな要件だい?」

 

「ああ、実は―――」

 

ジンと霊夢は、これまでの経緯を話始めた。

 

「なるほど、それでうちに来たわけだね」

 

「そういうこと。何か良い物はある?」

 

「ちょっと待ってて、探してみるよ」

 

そう言って、霖之助は店の奥へと入って行った。

 

 

それから数分後、霖之助は何かの破片を持って戻って来た。

 

「こんなのしか無かったけど」

 

「うん、ちょうど良いわ。それじゃ早速―――」

 

霊夢は破片に御札を張り、何やら呟き始める。すると霊夢の顔色が良くなり始めた。

 

「ふう、これで少し楽になったわ。後は、病に掛かった人の祟りをこれに集めて回るだけね」

 

「それだったら、魔理沙の家に寄って貰えないか? どうやら件の病に掛かっているらしいんだ」

 

「最近姿が見えなかったのは、そういう事だったのね。

まあ近くだし、先に行っておきましょう」

 

「そうだな。あ、会計は―――」

 

「いや、タダで良いよ。こんなガラクタを売りつけるのは、商売人として失格だからね」

 

「ありがとう霖之助さん、また何かあったら来るわ」

 

「ああ。これからも、香霖堂を御贔屓に」

 

霖之助に礼を言ったジンと霊夢は香霖堂を後にし、魔理沙がいる魔法の森へと向かい出した。

 

―――――――――――

 

魔法の森の中にある魔理沙の家に着いた二人は、早速呼鈴を鳴らす。

 

「魔理沙ー、いるんでしょー?」

 

霊夢がそう言うと、扉が開いた。出てきたのは魔理沙ではなく、魅魔であった。

 

「おや、霊夢にジンじゃないか、魔理沙に用かい?」

 

「ええ、霖之助さんから聞いたんだけど、魔理沙も風邪を引いているって?」

 

「そうなんだよ。数日前から具合が悪くて、こうして私が看病してるんだよ」

 

「それなら朗報だ。霊夢がその病気を治せる」

 

「霊夢は医者じゃないだろ?」

 

「今回のは祟りが原因だから、それを祓えば治るわ」

 

「へぇ、そうなのかい。それなら早いとこ魔理沙を治しておくれ。

看病も、楽じゃないからねぇ」

 

そう言って、魅魔は家に招き入れてくれた。

家の中は思いの外片付いており、恐らく魅魔が魔理沙の代わりに片付けをしたのだろうとジンは考えた。

ふと、ジンはある事を思いつき、魅魔にそれを訪ねた。

 

「・・・思ったんだが、一応魅魔は祟り神なんだろ? 祟りをどうこう出来ないのか?」

 

すると魅魔は、首を横に振って答えた。

 

「いくら祟り神や怨霊であっても、他人の祟りをどうこう出来ないよ。出来るとしたら、自分が出した祟りぐらいだね」

 

「そうなのか・・・・・・」

 

「祟りってのは、人を呪う以外使い道の無いしょうもない力さ。間違っても手を出すんじゃないよ」

 

「わかってるさ、人を呪おうなんて思わない」

 

「・・・・・・本当かい?」

 

魅魔は、まるで全てを見透かしたような視線でジンを見る。そんな視線を受けて、ジンは一人の人物を思い浮かべた。

それはジンが幻想郷に迷い込む切っ掛けと、外の世界での生活を狂わした人物。

その人物のせいで、ジンは外の繋がりを全て断たれてしまったのである。

 

(何で・・・あんな奴の事を思い出すんだ)

 

ジンは目眩を感じ、少しふらつく。そんなジンに、霊夢は心配そうに声を掛けた。

 

「ジン? 大丈夫?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ・・・・・・」

 

「ちょっと魅魔、あまりジンに変な事を言わないでよ」

 

「それはすまなかったね。今のは忘れてくれ」

 

それだけ言うと、魅魔も黙ってしまった。

重い空気の中、三人は魔理沙の部屋に入った。

 

 

 

魔理沙の御祓いが終わると、彼女はさっきまで寝込んでいたのが嘘のように元気になった。

 

「いや~、助かったぜ。ありがとうな霊夢」

 

「礼を言われる程の事じゃないし、まだまだやる事が多いのよね」

 

「ああ・・・確か病に掛かった―――いや、祟られている奴等の祟りを集めて回るだって? 大変だな」

 

「まったくよ、一体誰が封印を解いたのかしら?」

 

「さあな、意外と近くにいる奴かも知れないぜ」

 

「案外、あんたかもね魔理沙」

 

「失敬だな、そんな事して―――」

 

すると魔理沙の言葉が止まり、次第と冷や汗をかき始めた。不審に思った霊夢は、魔理沙を問い詰めた。

 

「まさかあんた、何かに張っていた御札を剥がしたりしていないでしょうね?」

 

「剥がしてはいない。綺麗に洗っていたら剥がれたんだ」

 

「同じ事でしょうが!」

 

魔理沙の話によると、無縁塚で古びた皿を拾い。香霖堂で売ろうと、皿を洗っていたら、張っていた御札が剥がれてしまい。次第に具合が悪くなったと言う。

 

「御札が張られている物は大概曰くの品なんだから、無闇に拾わない」

 

「だって、高く売れそうだったから」

 

「欲に目が眩んだんだな。それで、その皿はどうしたんだ?」

 

「まだ家に有るが、やらないぜ」

 

「そんな縁起が悪い物はいらん」

 

こうして、今回の祟りの原因が魔理沙だとわかったが、それでも祟りを集め回る事は変わらない。

 

「さてと、魔理沙の祟りを回収した事だし、次に行きましょう」

 

「それだったら紅魔館に行った方が良いぜ。確か咲夜も風邪を引いていたからな」

 

「咲夜もか・・・って、不味くないか?」

 

紅魔館は実質咲夜が取り仕切っており、彼女の敏腕で紅魔館の秩序が保たれていると言っても過言では無い。

そんな彼女が風邪でダウンしたのなら、紅魔館はたちまち無法地帯に早変わりしてしまうだろうと、ジンは想像した。

 

「確かにね、レミリアが妖精メイドとゴブリンを纏められるとは思えないわ」

 

「カリスマ(笑)だからな」

 

「取り合えず、次の行き先は紅魔館で良いか?」

 

「そうね、少し寄り道になるけど、無視する訳にはいかないわね」

 

「よし! 私も一緒に行くぜ! 本を借りに行きたかったからな」

 

そう言って、支度をしようとした魔理沙に、魅魔少し厳しい口調で止めに入った。

 

「魔理沙、あんたは病み上がりなんだから、大人しく寝てなさい」

 

「えー・・・」

 

「また振り返したら大変だろ? 今日一日は大人しく」

 

「はーい・・・・・・」

 

魅魔に止められ、魔理沙は渋々同行を諦める事にした。

ジンと霊夢は、魔理沙の家を後にし、咲夜がいる紅魔館へと向かうのであった。

 

―――――――――――

 

紅魔館の正門に辿り着いた二人であったが、予期せぬ妨害にあっていた。

 

「ここから先は、何人足りとも通しません!」

 

普段は居眠りをしている筈の美鈴であったが、この日に限って起きており、しかもいつも以上にやる気を出していた。

 

「俺達は咲夜の病気を治しに――――」

 

「やはりそうですか、咲夜さんが風邪で動けない事を知って、紅魔館に攻め込んで来たんですね!」

 

「会話が噛み合っていないんだけど・・・・・・」

 

「咲夜さんが動けない今、紅魔館の平和は私が守ります!

さあ、何処からでも掛かって来なさい!」

 

美鈴はそう言って構えを取った。

一方ジンと霊夢は、美鈴に聞こえないように相談をしていた。

 

「どうする?」

 

「どうもこうも、力ずくしか無いんじゃない?」

 

「だが、この後の事を考えると、あまり体力を使わない方が良いんじゃないか? それに、霊夢は病み上がりだろ?」

 

「それはそうだけど・・・この門番、普段よりやる気を出しちゃっているし、話も聞いてくれなさそうよ?」

 

「そうなんだよな・・・咲夜がいれば、通して貰えそうなんだが・・・・・・」

 

美鈴の言葉から推測すると、咲夜も風邪を引いているらしい。そうなると、彼女が出てくる確率は限り無く無いだろう。

やはり力ずくしかないか、そんな事を考えていると、意外な人物が門に訪れた。

 

「誰か来たの?」

 

普段は地下の図書館に籠っている筈のパチュリーが現れた。

 

「あ、パチュリー様。侵略者が二名来ています」

 

「いや、俺達は侵略者じゃない。咲夜の風邪を治しに来ただけだ」

 

「咲夜の風邪を? 貴方達は治療法を突き止めたの?」

 

「治療法っていうか・・・詳しい話は中で良いか?」

 

「構わないわ。美鈴、通して上げなさい」

 

「は、はい! わかりました!」

 

パチュリーの口添えのおかげで、二人は無事に館に入る事が出来た。

 

 

紅魔館に入った霊夢は早速咲夜の祟りを祓う作業に入り。その間ジンは、客室でパチュリーとレミリアに今回の流行り病の原因について説明を行っていた。

 

「――――という訳で、その祟りを取り除けば、咲夜も元気になる訳だ」

 

「なるほど、道理でどんな方法でも治らない訳ね」

 

「それで本当に咲夜が元気になるのね?」

 

「ああ、霊夢ならやってくれるさ」

 

「そう・・・・・・良かった」

 

レミリアに安堵の溜め息が漏れる。よほど咲夜の事が心配だったようで、彼女が治る事を知ったら、すっかり安心したようである。

 

「ところで、貴方は大丈夫なのジン?」

 

パチュリーが気遣うように聞いて来たので、ジンは大丈夫と答えた。

 

「ああ、この祟りは人にしか効かないようだから、鬼人になっていれば大丈夫だ」

 

「そう、意外と便利ね」

 

「その度に、酒を適量に飲まないといけないんだが・・・・・・」

 

「貴方、まだ酒が苦手なの?」

 

「付き合い以外に飲まないからな、これでも大分強くなったと思うぞ」

 

「そうね、一杯飲んだだけで酔い潰れた時に比べると、随分マシになったわ」

 

「貴方が酔い潰れた後、無尽蔵に飲むから大変だったのよ」

 

「その時の記憶は無いんだが・・・すまなかった」

 

そんな他愛の無い話をしていると、霊夢と咲夜が客室に入って来た。

 

「終わったわよ」

 

「咲夜、もう動いて大丈夫なの?」

 

「はい、御心配御掛けしましたが、もう大丈夫です」

 

「念の為、今日一日は休んだ方が良いんじゃないか?」

 

「御気遣いありがとうございます。ですが、仕事が貯まっておりますので」

 

そう言う咲夜に対して、レミリアは威厳を持って言う。

 

「咲夜、今日一日は休むように」

 

「で、ですが――――」

 

「主としての命令よ」

 

レミリアにそう命令され、咲夜は困った表情するが、パチュリーがすかさずフォローに入る。

 

「今日一日ぐらいなら、私達だけで大丈夫だから、貴女はゆっくり休んで」

 

二人の気遣いを察したのか、咲夜は頭を下げた。

 

「はい、わかりました。御言葉に甘えて、今日一日は休ませて貰います」

 

「ええ、しっかり休んで、またしっかりと働いて貰うわよ咲夜」

 

そう言ってレミリア、ニコやかに笑うのであった。

 

―――――――――――

 

その後二人は紅魔館を後にし、二人は永遠亭に向かった。そこで見たのは、かなりの数の病人達であった。

 

「これは酷い・・・・・・」

 

「思った以上に広まっていたのね・・・・・・」

 

二人は患者達を眺めていると、鈴仙が出迎えに来てくれた。

 

「あ、やっと来てくれた。皆待っていたのよ」

 

「ちょっと寄り道をしてたのよ、今取りかかるから」

 

「俺はどうすれば良い?」

 

「鈴仙達の手伝いを御願いね。こっちは何とかなるから」

 

「わかった。あまり無理をするなよ」

 

「誰に向かって言ってるのよ。私は大丈夫だから」

 

そう言って、霊夢は御祓いに取りかかる。

ジンは霊夢の言う通りに、鈴仙達の手伝いをするのだった。

 

 

それから時間が経過し、全ての住民の御祓いが終わる頃には、すっかり夕方になっていた。

 

「ふぅ、流石に疲れたわ・・・・・・」

 

「お疲れ霊夢」

 

ジンは霊夢を労い、彼女に御茶を手渡した。

 

「ありがと・・・・・・はぁ、一仕事の一杯は格別だわ」

 

「あらかた祓い終わったし、これにて一件落着か?」

 

「まだよ、最後に祟りを集めたこの破片を供養して捨てないと、また祟りが溢れるから」

 

「やれやれ、祟りを鎮めるのは大変なんだな」

 

「そうよ、だから御札が張ってある物には触らない。“触らぬ神に祟り無し”って言うしね」

 

「それで、何処に捨てるんだ?」

 

「それはもちろん、無縁塚よ」

 

 

―――――――――――

 

ここは無縁塚、本来は身元不明の遺体を埋葬する場所であるが、その殆どが外来人の物である為、外来人の墓場とも言われている。

そんな場所で、ジンは祟りが集まった破片を埋める穴を掘っていた。

 

「よっと、深さはこれぐらいで良いか?」

 

「ええ、それぐらい掘れば、掘り返される心配は無いわ」

 

「よし、それじゃ破片を入れるぞ」

 

ジンは破片を穴の中に入れ、再び埋め始める。

作業事態はものの数分で終わった。

 

「よし、これでおしまい。お疲れジン」

 

「霊夢ほうこそ、お疲れ。今日は大活躍だったな」

 

「活躍したのは良いけど、大変だったわ。もうこんなのは御免よ」

 

「だけど、今回の功労は里の人達に伝わっているから、参拝客が増えるかもな」

 

「本当!? だったら幾らでも祟りを祓ってあげるわ♪」

 

「流石にそれは不謹慎だぞ・・・・・・」

 

そんな話をしながら、二人は無縁塚を後にしようとしたのだが、不意にジンは立ち止まり、辺りを見回した。

 

「どうしたのジン?」

 

「いや・・・もし霊夢に出会わなかったら、俺も無縁塚の仲間入りをしてたかなって」

 

「・・・・・・そうね、幻想入りをした人間の殆どが妖怪に襲われるか、野垂れ死ぬのどちからになるわ。そう言った意味では、生存率は一割以下かもね」

 

霊夢の言葉を聞いて、ジンは背筋を凍らせる。

今では普通に暮らしてはいる幻想郷ではあるが、一歩間違えていれば死んでいた危険地帯でもある事に、改めて実感した。

 

「・・・・・・やっぱり怖い? この場所が」

 

霊夢はジンにそう聞くと、彼は少し困った表情をした。

 

「改めて考えると、少し怖い場所。でも、良いところでもあると思う」

 

「本当?」

 

「ああ・・・来て良かったと、思えるぐらいに」

 

それは紛れもなく本心であった。全てを失ったが、こうして新しい生活を得た。そう考えると、自分はそんなに不幸では無いと思えてしまう。

もしかしたら、あの人物を許す日が来るんじゃないかと、ジンは内心そう思うのであった。


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