ここは愽麗神社。
かつては妖怪神社と呼ばれ、人が寄り付かなくなっていたが、今では少しずつ人が来るようになっていた。
今日も賽銭箱に小銭が入る音が鳴り響く。
「むふふふ・・・・・」
「霊夢・・・・・変な笑い方は止めろ。
正直不気味だぞ」
「だって、毎日お賽銭が入るんだもの。
これを笑わずにいられる?」
「確かに・・・・・最初に来た頃より人が来ているな」
「そうでしょ、以前は一ヶ月に一人来れば御の字だったのよ」
「・・・・・立地条件が悪いからな。人が来るようになるだけでも奇跡って事か・・・・・ん?」
「あの・・・・・すみません。
神主様と巫女様ですか・・・・・?」
「いや、俺は神主では――――」
「はいはいはい! 愽麗神社の素敵な巫女です!
どんなご用!? 妖怪退治!? それとも悪霊退治!?」
「落ち着け霊夢! 怖がっているじゃないか!
驚かせてすまない、それで、一体どの用件で?」
「はい、実は―――」
こうして今日も繁盛している愽麗神社であった。
―――――――――――
二人は先程の参拝客から悪霊退治の依頼を受け、その帰りに団子屋によっていた。
「いや~儲かった♪ 儲かった♪
弱い悪霊を祓うだけで、こんなに儲かるなんて」
「霊夢、少し不謹慎だぞ」
「だって、嬉しいものは嬉しいものなのよ。
ジン、今日は私の奢りよ。じゃんじゃん食べちゃって」
「やれやれ・・・・・ん?」
ジンはふと、団子屋の向かい先の蕎麦屋が目に移った。
「どうしたのジン?」
「あ、いや、向こうの蕎麦屋が繁盛しているな、と思って」
「ん? ああ、福の神が来た蕎麦屋ね」
「福の神?」
「私も以前、魔理沙から聞いた話だけど、何でも繁盛しているのは福の神が訪れたお陰っていう話しなのよ。
まあ、真偽はどうだか知らないけど」
「福の神か・・・・・まあ、神様がいる幻想卿だ。いてもおかしく無いだろな」
「そうね、どっちみち私達には関係無いわ」
「・・・・・」
「ん? どうしたの?」
「いや、霊夢にしては関心薄いな、と思ってな。
いつもだったら――――」
『福の神を拉致して、神社に来てもらおー♪』
「―――なんて言いそうだったからな」
「・・・・・そうね、以前ならそう考えていたわ。
けど、今はそんな必要は無いの。だって――――」
「だって?」
「・・・・・何でも無いわ」
「何だよそれ? 余計に気になるだろ」
「何でも無いったら何でも無い!
さっさと団子食べて帰るわよ!」
そう言って、霊夢は神社に帰るまで口を開かなかった。
何処と無く顔が赤く見えたのだが、ジンは気のせいだと考えた。
―――――――――――
それから数日後、愽麗神社にある仙人が密かにやって来た。
「これは・・・・・一体何が・・・・・?」
「あれ? 歌仙じゃないか、久し振りだな」
「魔理沙・・・・・」
彼女の名は、茨歌仙(茨木華扇)。
行者を名乗る仙人である。
ここ半年以上、神社に姿を現せていなかったので、愽麗神社の現状を把握出来ていなかった。
「ところで、半年以上も何をしてたんだぜ?」
「ちょっと竿打の訓練に手間取ってね」
「竿打?」
「何でもないわ。それよりも、この参拝客の数は・・・・・」
「ん? そう言えば、歌仙は知らなかったな
半年以上前に、神社に住み着いた外来人がいて、そいつが神社を持ち直したんだ」
「外来の人が・・・・・それは怪しいわね」
「歌仙?」
「もしかして、人間に化けた妖怪の類いじゃないかしら?
それを使役して、参拝客を集めているとか・・・・・」
「いや、いくらなんでも飛躍し過ぎじゃないか?」
「でも・・・・・そう考えないと、神社の繁盛が説明できない。
霊夢は、楽して神社を繁盛させようとする癖があるから」
「まあ、否定は出来ないぜ」
「今回もきっと、良からぬ事をして繁盛させているに違いないわ。
それを突き止めるのよ!」
「いや・・・・・今回のは完璧に冤罪だと思うのだが・・・・・って聞いていないか」
こうして、ジンと霊夢の知らないところで、歌仙の監視が始まったのである。
―――――――――――
日が登り始める頃、愽麗神社の一日が始まる。
最初に起きるのはジンである。
ジンはいつも通りに起き、着替えてから布団を畳み、境内の掃除を始める。
「さて、今日も頑張るか」
ジンが掃除をしている頃に霊夢も起き、顔を洗ってから、朝食作りを始める。
ジンが掃除を終わる頃には、朝食が出来上がる寸法である。
「「いただきます」」
こうして二人は朝食を終えると、霊夢は参拝客を迎える準備。
ジンは、ミズナラの御神木に供え物を持って行く。
「おーい! 三人ともいるかー?」
そう呼び掛けると、ミズナラの御神木からサニー達が現れる。
そして一緒に二礼二拍をしてから、サニー達にお供え物を渡す。
「お団子だー♪」
「お酒よー♪」
「ガラス玉ー♪」
「それじゃ、今日も頼むな」
「「「はーい♪」」」
サニー達にそう伝えると、ジンは神社に戻って行く。
昼頃になると、神社には参拝客がやって来る。
お賽銭を入れる物、厄除けの札を買うもの。あるいは妖怪、妖、悪霊退治を依頼する者など。しかし、今回は退治依頼をする者はいないようであった。
「こちらが御守りです。それと、効果抜群の御札もありますよー」
「おみくじもいかがですかー?」
「こらジン! もっとしゃんとしなさいよ!」
「そうは言っても、接待は苦手なんだよ」
「まったく、掃除以外全然駄目なんだから。
少しはあの子達を見習いなさい」
そう言って指した方向には、ミズナラの御神木に案内しているサニー達であった。
参拝客が来れば、供え物が増えると知った彼女達は、積極的に神社の手伝いをするようになった。
失敗も多いが、その姿が微笑ましいと評判で、更に参拝客を呼び寄せる要因になっていた。
そして、日が傾く頃には最後の参拝客が帰って行った。
だが、愽麗神社の仕事はまだ終わらない。
ジン達は、直ぐ様次の準備を始めるのであった。
夜、昼とは正反対にそこには妖怪達が集まり、宴会を始めていた。
「おーいジン。飲みくらべしようよ」
「おいおい、勘弁してくれ萃香。俺はそんなに飲めないぞ」
「いいじゃん別に、宴会は楽しむ物だよ」
「まあ、勝負の云々抜きなら付き合うが」
「それでこそ男だ。それじゃ行くよ」
ジンは鬼の少女―――伊吹萃香と飲みくらべをする事になった。
普通なら、鬼である萃香に勝てる道理では無いのだが、ジンは違っていた。
「うぃ~~ひっく~~」
「なかなかやるじゃないか」
「も、もう飲めませ~・・・・・ん・・・・・」
飲みくらべに巻き込まれた鴉天狗、射命丸文が最初にダウンした。
一方、鬼である萃香はまだまだ余裕である。
そしてジンの方は既に酔っていた。だが――――。
「グビグビグビ」
「ガブガブガブ」
「お、おい、鬼の萃香とタメ張っているぜ・・・・・」
「ジンはね、酔いやすい体質なんだけど、酔えば酔うほど酒が入るのよ。
前に面白半分でお酒を飲ませ続けたら――――」
「飲ませ続けたら?」
「神社内のお酒、全部飲み干されたのよ」
「ま、マジかよ」
「しかも、本人はその時の記憶がまったく無いのよね」
「弱いのか強いのか、良く分からんな」
「そうね・・・・・」
そんな話をしながら、霊夢と魔理沙は二人の飲みくらべを眺めるのであった。
こうして、愽麗神社の一日は終わるのであった。
―――――――――――
それからしばらく監視を続けた歌仙は、ある結論に達した。
その事について、歌仙は魔理沙と話していた。
「なるほど、神社が持ち直したのは彼のおかげという訳ね」
「ああ、そうだぜ。
参拝客が来やすいように、道を整理したり、里の人に宣伝したりと色々やっていたぜ」
「確かに、どれも霊夢がやりそうに無い事ばかりね。
最も、彼がやったのは人寄せ。その後の功績は霊夢自身の力でしょうね」
「あんなんでも、実力はあるからな、瞬く間に知れ渡ったらしいぜ」
「それが神社繁盛の秘密ね・・・・・」
「何が秘密なの?」
二人が話しているところに、霊夢が話し掛けて来た。
「霊夢? 珍しいな箒を持って掃除なんて。ジンの仕事だろ?」
「今日は寺子屋の日なのよ。
それで代わりに私が掃除しているの」
「代わりって・・・・・元々貴女の仕事でしょうに・・・・・」
「あら歌仙いたの?」
「さっきからいたわよ。
それにしても、随分繁盛しているのね」
「そうでしょ、これもジンのお陰よ。
なんたって――――」
“うちの福の神なんだから”
霊夢は自信を持って言った。
その笑顔は、何処までも輝いていた。
東方茨歌仙の話によると、福の神は繁盛する店の後押しをするだけの神様らしいです。
書いていて、ジンの行動が福の神みたいだなと思い、このタイトルにしました。