東方軌跡録   作:1103

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今回は、東方茨歌仙を読んで思いついた話です。


博麗神社の福の神

ここは愽麗神社。

かつては妖怪神社と呼ばれ、人が寄り付かなくなっていたが、今では少しずつ人が来るようになっていた。

今日も賽銭箱に小銭が入る音が鳴り響く。

 

「むふふふ・・・・・」

 

「霊夢・・・・・変な笑い方は止めろ。

正直不気味だぞ」

 

「だって、毎日お賽銭が入るんだもの。

これを笑わずにいられる?」

 

「確かに・・・・・最初に来た頃より人が来ているな」

 

「そうでしょ、以前は一ヶ月に一人来れば御の字だったのよ」

 

「・・・・・立地条件が悪いからな。人が来るようになるだけでも奇跡って事か・・・・・ん?」

 

「あの・・・・・すみません。

神主様と巫女様ですか・・・・・?」

 

「いや、俺は神主では――――」

 

「はいはいはい! 愽麗神社の素敵な巫女です!

どんなご用!? 妖怪退治!? それとも悪霊退治!?」

 

「落ち着け霊夢! 怖がっているじゃないか!

驚かせてすまない、それで、一体どの用件で?」

 

「はい、実は―――」

 

こうして今日も繁盛している愽麗神社であった。

 

―――――――――――

 

二人は先程の参拝客から悪霊退治の依頼を受け、その帰りに団子屋によっていた。

 

「いや~儲かった♪ 儲かった♪

弱い悪霊を祓うだけで、こんなに儲かるなんて」

 

「霊夢、少し不謹慎だぞ」

 

「だって、嬉しいものは嬉しいものなのよ。

ジン、今日は私の奢りよ。じゃんじゃん食べちゃって」

 

「やれやれ・・・・・ん?」

 

ジンはふと、団子屋の向かい先の蕎麦屋が目に移った。

 

「どうしたのジン?」

 

「あ、いや、向こうの蕎麦屋が繁盛しているな、と思って」

 

「ん? ああ、福の神が来た蕎麦屋ね」

 

「福の神?」

 

「私も以前、魔理沙から聞いた話だけど、何でも繁盛しているのは福の神が訪れたお陰っていう話しなのよ。

まあ、真偽はどうだか知らないけど」

 

「福の神か・・・・・まあ、神様がいる幻想卿だ。いてもおかしく無いだろな」

 

「そうね、どっちみち私達には関係無いわ」

 

「・・・・・」

 

「ん? どうしたの?」

 

「いや、霊夢にしては関心薄いな、と思ってな。

いつもだったら――――」

 

『福の神を拉致して、神社に来てもらおー♪』

 

「―――なんて言いそうだったからな」

 

「・・・・・そうね、以前ならそう考えていたわ。

けど、今はそんな必要は無いの。だって――――」

 

「だって?」

 

「・・・・・何でも無いわ」

 

「何だよそれ? 余計に気になるだろ」

 

「何でも無いったら何でも無い!

さっさと団子食べて帰るわよ!」

 

そう言って、霊夢は神社に帰るまで口を開かなかった。

何処と無く顔が赤く見えたのだが、ジンは気のせいだと考えた。

 

―――――――――――

 

それから数日後、愽麗神社にある仙人が密かにやって来た。

 

「これは・・・・・一体何が・・・・・?」

 

「あれ? 歌仙じゃないか、久し振りだな」

 

「魔理沙・・・・・」

 

彼女の名は、茨歌仙(茨木華扇)。

行者を名乗る仙人である。

ここ半年以上、神社に姿を現せていなかったので、愽麗神社の現状を把握出来ていなかった。

 

「ところで、半年以上も何をしてたんだぜ?」

 

「ちょっと竿打の訓練に手間取ってね」

 

「竿打?」

 

「何でもないわ。それよりも、この参拝客の数は・・・・・」

 

「ん? そう言えば、歌仙は知らなかったな

半年以上前に、神社に住み着いた外来人がいて、そいつが神社を持ち直したんだ」

 

「外来の人が・・・・・それは怪しいわね」

 

「歌仙?」

 

「もしかして、人間に化けた妖怪の類いじゃないかしら?

それを使役して、参拝客を集めているとか・・・・・」

 

「いや、いくらなんでも飛躍し過ぎじゃないか?」

 

「でも・・・・・そう考えないと、神社の繁盛が説明できない。

霊夢は、楽して神社を繁盛させようとする癖があるから」

 

「まあ、否定は出来ないぜ」

 

「今回もきっと、良からぬ事をして繁盛させているに違いないわ。

それを突き止めるのよ!」

 

「いや・・・・・今回のは完璧に冤罪だと思うのだが・・・・・って聞いていないか」

 

こうして、ジンと霊夢の知らないところで、歌仙の監視が始まったのである。

 

―――――――――――

 

日が登り始める頃、愽麗神社の一日が始まる。

最初に起きるのはジンである。

ジンはいつも通りに起き、着替えてから布団を畳み、境内の掃除を始める。

 

「さて、今日も頑張るか」

 

ジンが掃除をしている頃に霊夢も起き、顔を洗ってから、朝食作りを始める。

ジンが掃除を終わる頃には、朝食が出来上がる寸法である。

 

「「いただきます」」

 

こうして二人は朝食を終えると、霊夢は参拝客を迎える準備。

ジンは、ミズナラの御神木に供え物を持って行く。

 

「おーい! 三人ともいるかー?」

 

そう呼び掛けると、ミズナラの御神木からサニー達が現れる。

そして一緒に二礼二拍をしてから、サニー達にお供え物を渡す。

 

「お団子だー♪」

 

「お酒よー♪」

 

「ガラス玉ー♪」

 

「それじゃ、今日も頼むな」

 

「「「はーい♪」」」

 

サニー達にそう伝えると、ジンは神社に戻って行く。

 

 

昼頃になると、神社には参拝客がやって来る。

お賽銭を入れる物、厄除けの札を買うもの。あるいは妖怪、妖、悪霊退治を依頼する者など。しかし、今回は退治依頼をする者はいないようであった。

 

「こちらが御守りです。それと、効果抜群の御札もありますよー」

 

「おみくじもいかがですかー?」

 

「こらジン! もっとしゃんとしなさいよ!」

 

「そうは言っても、接待は苦手なんだよ」

 

「まったく、掃除以外全然駄目なんだから。

少しはあの子達を見習いなさい」

 

そう言って指した方向には、ミズナラの御神木に案内しているサニー達であった。

参拝客が来れば、供え物が増えると知った彼女達は、積極的に神社の手伝いをするようになった。

失敗も多いが、その姿が微笑ましいと評判で、更に参拝客を呼び寄せる要因になっていた。

そして、日が傾く頃には最後の参拝客が帰って行った。

だが、愽麗神社の仕事はまだ終わらない。

ジン達は、直ぐ様次の準備を始めるのであった。

 

 

夜、昼とは正反対にそこには妖怪達が集まり、宴会を始めていた。

 

「おーいジン。飲みくらべしようよ」

 

「おいおい、勘弁してくれ萃香。俺はそんなに飲めないぞ」

 

「いいじゃん別に、宴会は楽しむ物だよ」

 

「まあ、勝負の云々抜きなら付き合うが」

 

「それでこそ男だ。それじゃ行くよ」

 

ジンは鬼の少女―――伊吹萃香と飲みくらべをする事になった。

普通なら、鬼である萃香に勝てる道理では無いのだが、ジンは違っていた。

 

「うぃ~~ひっく~~」

 

「なかなかやるじゃないか」

 

「も、もう飲めませ~・・・・・ん・・・・・」

 

飲みくらべに巻き込まれた鴉天狗、射命丸文が最初にダウンした。

一方、鬼である萃香はまだまだ余裕である。

そしてジンの方は既に酔っていた。だが――――。

 

「グビグビグビ」

 

「ガブガブガブ」

 

「お、おい、鬼の萃香とタメ張っているぜ・・・・・」

 

「ジンはね、酔いやすい体質なんだけど、酔えば酔うほど酒が入るのよ。

前に面白半分でお酒を飲ませ続けたら――――」

 

「飲ませ続けたら?」

 

「神社内のお酒、全部飲み干されたのよ」

 

「ま、マジかよ」

 

「しかも、本人はその時の記憶がまったく無いのよね」

 

「弱いのか強いのか、良く分からんな」

 

「そうね・・・・・」

 

そんな話をしながら、霊夢と魔理沙は二人の飲みくらべを眺めるのであった。

こうして、愽麗神社の一日は終わるのであった。

 

―――――――――――

 

それからしばらく監視を続けた歌仙は、ある結論に達した。

その事について、歌仙は魔理沙と話していた。

 

「なるほど、神社が持ち直したのは彼のおかげという訳ね」

 

「ああ、そうだぜ。

参拝客が来やすいように、道を整理したり、里の人に宣伝したりと色々やっていたぜ」

 

「確かに、どれも霊夢がやりそうに無い事ばかりね。

最も、彼がやったのは人寄せ。その後の功績は霊夢自身の力でしょうね」

 

「あんなんでも、実力はあるからな、瞬く間に知れ渡ったらしいぜ」

 

「それが神社繁盛の秘密ね・・・・・」

 

「何が秘密なの?」

 

二人が話しているところに、霊夢が話し掛けて来た。

 

「霊夢? 珍しいな箒を持って掃除なんて。ジンの仕事だろ?」

 

「今日は寺子屋の日なのよ。

それで代わりに私が掃除しているの」

 

「代わりって・・・・・元々貴女の仕事でしょうに・・・・・」

 

「あら歌仙いたの?」

 

「さっきからいたわよ。

それにしても、随分繁盛しているのね」

 

「そうでしょ、これもジンのお陰よ。

なんたって――――」

 

“うちの福の神なんだから”

 

霊夢は自信を持って言った。

その笑顔は、何処までも輝いていた。




東方茨歌仙の話によると、福の神は繁盛する店の後押しをするだけの神様らしいです。
書いていて、ジンの行動が福の神みたいだなと思い、このタイトルにしました。

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