書いたものの、微妙な出来の話しがいくつかあるので、機会があればこれらも書き直して出したいと思います。
秋の収穫祭が近づく中、人里で事件は起きた。
「これは・・・・・・」
「随分酷くやられているわね・・・・・・」
ジンと霊夢が見たのは手酷く荒らされた畑であった。しかもここだけでは無く、多数の畑と果樹園がここと同じように荒らされていたのである。
最初は獣の仕業だと農民達は思ったが、奇妙な事に獣の足跡一つ残っておらず、代わりにツタがあちらこちらに落ちていたのである。
「なるほど、それで私を呼んだ訳ね」
「そうなんだよ巫女さん。これは獣じゃなくて、妖の仕業だよ」
「うーん・・・」
霊夢は荒らされた畑の方へと歩み寄り、地面に触れた。
「微かに妖気を感じるわ、間違いなく妖の仕業ね」
「それじゃ――――」
「ええ、後は博麗の巫女である私に任せて頂戴。畑を荒らした妖を退治してみせるわ」
霊夢がそう言うと、農民達は安堵の表情を浮かべるのですあった。
農民達が立ち去った後、霊夢とジンは畑荒しの妖の追跡を始めた。
「それじゃジン、頼んだわよ」
「わかった」
ジンはそう言うと、能力を使い始める。
「軌跡は残っているな。どうやら夜遅く畑を荒らしたらしい」
「どんな奴なの?」
「ツタを纏わせているからよく分からないが、どうやらツタを操る妖みたいだ」
「ツタならノヅチ・・・?いえ、もしかしたらツチノコかも知れないわね。
ともかく後を追うわよジン」
「わかった。こっちだ、ついて来てくれ」
二人は犯人の軌跡を追い、歩き出した。
―――――――――――
軌跡を追って、二人は太陽の畑に訪れていた。
「なあ霊夢、この先には――――」
「ええ、幽香の畑がある場所よ」
「もの凄く嫌な予感がするのだが・・・・・・」
「奇遇ね、私もよ」
「どうする?」
「行くしか無いわよ」
「だよな・・・出来れば予感が外れてくれていると助かるんだが・・・・・・」
ジンは不安を抱えながらも、幽香の畑へと進んだ。
そしてそこには、見るも無惨な姿になった畑と、そこに立ち尽くす幽香の姿があった。
((うわ・・・これは不味い))
幽香はこよなく植物を愛する女性である。故に植物を蔑ろにする者は、人間だろうが妖怪だろうが容赦が無い。
そんな彼女が育てていた畑を荒らされたのだから、彼女の機嫌が超絶に悪いのは容易に想像出来るだろう。
霊夢とジンは、とばっちりを受ける前に立ち去ろうとするのだが―――――。
「待ちなさい貴方達」
幽香に呼び止められてしまう。
「な、なんでしょうか・・・・・・?」
「これは貴方達がやったの?」
「違うわ、私達は人里の畑を荒らした犯人を追ってここに来たのよ」
「あ、ああ・・・恐らく人里の畑を荒らした後に、こっちの畑を荒らしただと思う」
「ふーん、なるほどね・・・ねぇ貴方達」
「何よ?」
「私も同行させて貰うわ」
「へ!?」
「人里の畑と私の畑を荒らしたのが同一犯なら、私も行く権利はあると思うけど?」
「俺は別に構わないが・・・・・・」
「私も構わないわよ。邪魔さえしなければ」
「邪魔しないわよ。ただ、私の畑に舐めた真似をした奴にお仕置きしたいだけ♪」
幽香はにこやかに笑うが、その笑顔が非常に恐怖を感じるジンであった。
―――――――――――
幽香も加わり、再び犯人の追跡を再開するジン達。
すると今度は魔法の森に到着した。
「今度は魔法の森か・・・・・・」
「ここに犯人の寝床があるのね」
「・・・・・・」
「どうした霊夢?」
「いやねぇ、魔理沙の奴もツチノコを飼っていたのを思い出したのよ」
「そう言えば・・・ってまさか!?」
「その可能性はあり得るわね・・・・・・」
二人の頭には、魔理沙の飼っているツチノコが逃げ出し、それが人里の畑を荒し、さらには幽香の畑を荒らす光景が浮かび上がった。
そんな時、不意に後から声を掛けられた。
「ん? こんなところで何をやっているんだ?」
「魔理沙?」
「あら、奇遇ね」
「あんたこそ、何をしていたのよ?」
「私は家に帰る途中だぜ。そういうお前らは?」
「ああ・・・実は――――」
ジンは魔理沙にこれまでの経緯を話始めた。
「ふーん、そんな事が起きていたのか」
「ねえ魔理沙、少し良いかしら?」
そう言って、霊夢は幽香に聞こえないよう魔理沙に話し掛けた。
「あんたのツチノコ、今何処にいるの?」
「ツッチーか? ツッチーなら相変わらず寝ているが」
「家にいるのね?」
「当然だ。まさか霊夢、私のツッチーが畑を荒らしたと思っていたのか?」
「可能性はあるわ」
「おいおい、私はちゃんと世話をしているんだから、逃げ出す訳が無いだろう」
「魔理沙が寝ている隙に抜け出したかも知れないわ」
「そこまで言うなら良いだろう、私も同行させて貰おう。ツッチーの無実を晴らしてやるぜ」
「構わないけど、邪魔をしないでね」
「おいおい、私はツチノコハンターだぜ。寧ろ私の力が必要になるんじゃないか?」
「あんた、いつツチノコハンターになったのよ?」
霊夢が呆れながらそう言うと、魔理沙は得意気に笑うのであった。
―――――――――――
四人は軌跡を追って、森の中を歩いていた。
歩いた先には、魔理沙の家では無く、ツタに覆われている大樹にたどり着いた。そしてそのすぐ側に、チルノと大妖精がいて、何やら困っている様子であった。
「チルノに大? 一体どうしたんだ?」
「あ! ジンに霊夢に、え~と・・・・・・」
「幽香さんと魔理沙さんだよチルノちゃん」
「あ、そうだった! ところで皆は何をしているの?」
「私達は畑荒しの犯人を追って来たのよ。貴女達、何か知らない?」
「畑荒しですか・・・関係あるかどうかは分からないですが、私の家が変な妖に乗っ取られてしまって・・・・・・」
そう言って、大妖精は大樹の方を見る。そこにはあちらこちらにツタが巻かれており、不気味な姿をしていた。
それを見た魔理沙は――――。
「これは間違いないく、ツチノコの仕業だな」
「ええ、間違いないわ、それじゃ早速――――」
そう言って霊夢は、御払い棒を取り出し、大樹に近付いていった。
「どうするつもりなんだ霊夢?」
「決まっているじゃない。木ごと中にいるツチノコを退治するのよ」
「えー!?」
「ダメだ! その木は大ちゃんの家なんだぞ!」
「私の目の前でそんな事をするなら、ツチノコの前に貴女を倒すけど?」
霊夢の提案に、大妖精、チルノ、幽香がこぞって反対した。
「もっと穏便に出来ないか? 例えば、ツタを引き千切ってやるとか?」
「それは無理だな、千切って場所から直ぐに生えるから」
「なら幽香の能力で、ツタを退かせないか?」
「期待してくれるのは嬉しいけど・・・ここのツタは、木の中にいる奴の支配下に置かれているから、私の能力は効かないのよ」
「・・・もしかして、ツチノコって凄いのか?」
「ノヅチの使いだからね、一応神様の使いでもあるのよ」
「何か方法は無いのか?」
「だから最初っから言っているじゃない。木ごと退治すれば良いのよ」
「「「「それは駄目」」」」
「それじゃあ、どうするつもりなの? 木を無傷で中にいる妖を退治する方法があるの?」
「それは・・・・・・」
ジンは、霊夢に対して何も言えなかった。そんな様子を見ていた魔理沙は、不敵に笑っていた。
「ふふふ・・・やはりここはツチノコハンターである私の出番だぜ」
「何か方法があるのか魔理沙?」
「おう、取っておきな方法があるんだぜ。少し準備するから、待っててくれ」
そう言って魔理沙は、何処かへと飛び去って行った。
それから数十分後、魔理沙は鍋を持って戻って来た。
「その鍋は?」
「ふふふ、これがツチノコを捕まえる秘結さ」
そう言って、鍋の蓋を開ける。その中には美味しそうな匂いを漂わせるスープが入っていた。
「なるほど、餌で誘き寄せるって訳か」
「何か、おもしろみが無いわね・・・・・・」
「うるさいな、これで私はツッチーを捕まえたんだぞ」
「何でも良いけど、早く試してみましょう」
「わかってるって」
魔理沙は大樹の側に鍋を置く。すると匂いに誘われるかのようにツタが動き始める。
「よーし、狙い通――――」
ツタは鍋を掴むと、そのまま大樹の中へと引きずり込んだ。
その後、ツタは空になった鍋を放り投げた。
「・・・・・・」
「ダメダメじゃん」
「魔理沙は駄目だね」
「期待させておいてこれとはねぇ・・・正直言ってガッカリだわ」
「ま、まあ、今回は悪知恵が働く奴だったんだ。作戦事態は悪くは無いと思うぞ」
「そ、そうですよ! 魔理沙さんの狙いは良かったんですから、次は上手く行きますって!」
ダメ出しを出す霊夢、チルノ、幽香。それに対してフォローを入れてたのは、ジンと大妖精であった。
餌誘き寄せ作戦は失敗したが、魔理沙はめげずに次の作戦に移った。
「よーし! これで上手くいく筈だ!」
「って、何も変わっていないじゃない」
霊夢は再び鍋を持って来た魔理沙に対して言うが、魔理沙は指を振りながら自信有り気に言う。
「ちっちっち、甘いな霊夢は、私が二度同じてつをふむと思ったのか?」
「何か仕掛けたのか?」
「勿論、これは毒キノコスープ。これを食べた奴はイチコロだぜ」
「はたして、上手く行くかしら・・・・・・?」
幽香の不安を他所に、魔理沙は自信満々に、毒キノコスープを大樹の前に置いた。
それから数時間経過するが、中にいる妖は魔理沙の毒キノコスープにまったく見向きもしなかったのである。
「だあー! 何でだー!?」
「そりゃそうよ、人間相手ならまだしも。鼻が利く妖じゃ、匂いで毒かどうかわかってしまうわよ」
「魔理沙はバカだね」
「チルノに言われたら御仕舞いだわ」
三人の更なるダメ出しに、魔理沙の怒りは頂点に達した。
「もうまだるっこしいのは辞めた! 私のマスタースパークで焼き払ってやる!」
そう叫んで、魔理沙はミニ八卦炉を取り出す。それを見たジンと大妖精は慌てて止めに入る。
「お、落ち着け魔理沙!」
「私の家を焼き払わないでくださ~い!」
「うるさい! こうまで言われて引き下がれるか!」
半ば自暴自棄になりかけている魔理沙を、必死に宥めようとするジンと大妖精。
二人の必死の呼び掛けのお陰で、魔理沙は少し落ち着いてくれた。
「少し落ち着いてたか?」
「ああ・・・見苦しいところを見せたな」
「ところでどうします? 魔理沙さんの作戦が駄目なら、他にどうしようも無いですよ・・・・・・」
「最初から言っているじゃない。木ごと退治した方がてっとり早いって」
「そんなの駄目だって!」
「私の目の前でそんな事をするなら、貴方からやるわよ?」
霊夢の強攻策に反対するチルノと幽香。そんな時、ジンは全員に向けて言った。
「次は俺がやってみる」
「ジン? 何か方法があるのか?」
「方法っていうか、試してみたい事があるんだ」
「試してみたいかこと?」
「まあ、上手く行けば良いと思うが・・・取り合えず手伝ってくれないか魔理沙」
「別に良いが、何をすれば良いんだ?」
「少し台所を貸して欲しいんだ」
その言葉を聞いた霊夢は、何故か顔を青ざめた。
「ジン・・・貴方まさか!」
「そのまさか」
「な、何もそこまでしなくても良いじゃない!」
「こっちの方がより平和的だ」
「だからって――――」
「何だか良く分からないけど、大ちゃんの家を焼かないならさんせー♪」
「私もチルノと同じ意見よ。むしろそれで良いと思ったわ」
「平和的なら、ジンさんの作戦が良いと思います」
「決まりだな。それじゃ、準備をして来る。行くぞ魔理沙」
こうしてジンは、魔理沙と共にその場を後にするのであった。
それから更に時間が過ぎ、ジンは鍋を持って戻って来た。しかし、魔理沙の姿はなかった。
魔理沙の姿はなかった。
「あれ? 魔理沙は?」
「ああ・・・俺のスープを摘まみ食いをして・・・・・・」
「スープって、それですか?」
そう言って大妖精は、ジンが持って来たスープ指差した。
それはとても美味しそうな匂い、艶やかな色は食欲をそそるのに十分であった。
「あら、美味しそうじゃない」
「本当だ! ちょっと食べても良い?」
チルノがそう言うと、霊夢は物凄い形相で止めに入った。
「止めなさい! 死ぬわよ!」
「ええ!? これ食べたら死んじゃうんですか!?」
「死ぬどころじゃないわ、想像絶する苦痛を味わう事になるわ」
「どういう事?」
「ジンはお粥以外の料理を作ると、その料理は死ぬほど不味くなるのよ」
霊夢は昔の事を思い出しながら呟く。
ある日、その日の晩御飯を作るのが面倒と感じた霊夢は、ジンに作らせる事を思いつく。
『今日作るのが面倒だから、ジン作ってよ。あと、お粥は飽きたからそれ以外で♪』
そんな要求したのだが、後にジンの料理を食べた霊夢は、酷く後悔したのは言うまでもない。それ以降、ジンにお粥以外の料理を作らせないと決めたのである。
「そんな訳で、ジンに料理を作らせない方が良いのよ」
「そ、そうなの・・・それにしても、こんな美味しいそうなのに、どうして不味いのかしら?」
「さあ? 俺自身も分からない。レシピ通り作っても、何故か不味くなるんだ」
「詳しく分からないけど、微妙にジンから呪詛を感じるのよね。
多分だけど、ジンの祖先が料理関連で祟られる事をしたんじゃない?」
「呪われていたのか俺!? それじゃ、祓って貰えれば――――」
「それは難しいわね。効力は微妙なのに、地味に強いのよね。少なくとも、今の私じゃ無理よ」
「そうか・・・あれ? チルノの奴が静かだな?」
「そう言えば・・・って、チルノちゃーん!?」
「ブクブクブク・・・・・・」
そこには泡を吹いて倒れているチルノの姿があった。どうやら、ジンたちが話している間に、ジンのスープを食べてしまったようであった。
「まったくバカなんだから、せっかく忠告したのに」
「確かに、これは強烈ね・・・・・・」
「チルノちゃーん! しっかりしてー!」
「やっぱり、俺は料理を作らない方が良いな・・・・・・」
ジンは落胆しながら、大樹の前に鍋を置いた。するとツタがそれを掴み、中へと引きずり込んだ。それからしばらくして――――。
「ギャオーン!!!」
悲痛の叫びが、森に響き渡ると、大樹に絡まったツタは枯れ落ち、中から体を痙攣させているツチノコが発見されたのであった。
―――――――――――
畑を荒らしたツチノコを見事退治したジンと霊夢は、里の人から報酬を受け取り、帰路につこうとしていた。
その時霊夢は、ジンが元気が無いことに気がつく。
「どうしたのジン?」
「いや・・・今日の事について少し考えていたんだ」
そう言って、ジンはおもむろに話始めた。
「料理ってのは、相手を幸せにするものだと考えている。だけど、俺の料理は相手を傷つける物なんだと、改めて理解した」
「ジン・・・・・・」
「やっぱり、俺は料理を作らない方が良いと思うんだが・・・・・・」
ジンは沈んだ声でそう呟いた。そんなジンに対して霊夢は――――。
「そうね、あんたは料理をしない方が良いかも」
そうはっきりと言ってのけた。
「正直言って、あれは二度と食べたく無いわ」
「うっ、それは悪かった・・・・・・」
「でもね、ジンが作るお粥は好きよ」
「え?」
「何て言うか、味もそうだけど、食べる側の事を考えて作られいて、とても暖かく感じるの。そこが好きなのよ」
「霊夢・・・・・・」
「他が駄目でも良いじゃない。何か食べたいなら、私が作ってあげるから」
「それじゃ、お言葉に甘えて、早速リクエストをして良いか?」
「良いわよ。その代わり、荷物持ってよね♪」
霊夢は笑顔でそう言った。
その後、二人は買い物をし、神社へと帰るのであった。