東方軌跡録   作:1103

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戦闘シーンを書いたら、グダグダになりました。
やはり自分には、バトル物は不向きかも知れません。



ムーンライフ 中編

綿月姉妹に厄介になる事になったジンは、依姫と共に玉兎の訓練場に向かっていた。

 

「良い? ここではお前が玉兎という事にしている。故に、玉兎として振る舞うように心掛けなさい、分かった・・・・・・ピョ、ピョン吉」

 

「・・・・・・わかりました依姫さん」

 

依姫は笑いを堪えながら、ジンの偽名であるピョン吉と呼んだ。

命名者は豊姫であり、彼女の曰く――――。

 

『それは最初の鈴仙につけたかった名前だったのよ』

 

そう彼女は楽しそうに言った。因みに、ピョン吉は男用に改名した物で、本来はピョン子という物らしい。

 

「・・・正直言って、豊姫のネーミングセンスはぶっ飛んでいるな・・・・・・」

 

「言わないで頂戴、それよりもこれからはお姉様と私に対して敬語と様を付けなさい。貴方は玉兎なんだから」

 

「わかりました・・・・・・依姫様」

 

「よろしい。それじゃあ、他の玉兎に紹介するから、ちゃんと挨拶するのよ」

 

「了解しました・・・・・・」

 

慣れない敬語で返事をしながら、ジンは訓練場に足を踏み入れた。

 

―――――――――――

 

「今日から一ヶ月間、皆の仲間になる・・・ピョ、ピョン吉よ」

 

「「「ぷっ」」」

 

やはりおかしなキグルミ姿と名前のせいか、玉兎達は必死に笑いを堪えていた。

 

「笑わないの、ともかく彼も今日から防衛隊の一員として入るから、仲良くするのよ。レイセン!」

 

「は、はい!」

 

レイセンと呼ばれた玉兎が前に出る。彼女は綿月姉妹の玉兎で、ジンの事情を知る一人でもあった。

 

「事情は知っているわね? 彼の面倒を見てなさい」

 

「は、はい! わかりました!」

 

「よろしい、それでは訓練に入る! 先ずは長距離マラソンよ!」

 

こうして、ジンことピョン吉は初めての訓練に参加するのであった。

 

 

長距離マラソンを終えたジンであったが、既にバテバテだった。

 

「はあ・・・はあ・・・二十キロは洒落にならないぞ・・・・・・」

 

「これでもまだマシですよ、何時もなら四十キロは走らされます」

 

「四十!?」

 

「因みに、これは準備運動です」

 

レイセンの言葉を聞いて、ジンは気絶しそうになった。

次に二人一組の組手が行われ、ジンの相手はレイセンとなった。

 

「よろしくお願いします」

 

「お願いします・・・・・・」

 

ジンは身構えた。今までの経験上、華奢な少女であっても、弱いとは限らない。ジンは本気でレイセンに挑んだ。

 

「せい!」

 

「ほいっと」

 

ジンの拳は軽々とかわされ、逆にレイセンに投げられてしまった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だ。もう一度―――」

 

その後、何度もレイセンに挑むが、ことごとくかわされ、いなされ、投げられた。

その日は、レイセンに一本も取れないまま終わった。

 

―――――――――――

 

その日の訓練が終えた後、ジンは地下牢にいた。

何故地下牢にいるというと、この地下牢には穢れを出さない結界が施されているからである。

豊姫は別室を用意してくれたのだが、結界が施されていないので、キグルミを着たままで居なくてはならない。

豪華な部屋でくつろげるが、一ヶ月ずっとキグルミのままで生活するか、質素で窮屈だが、キグルミを脱げる地下牢。ジンは後者を選んだ。

 

(いくら通気性が良くても、ずっとはごめんだからな)

 

ジンはキグルミを地下牢の片隅に置くと、堅いベットに横たわる。今日の訓練の疲労で、体はボロボロであった。

 

(俺、一ヶ月生き残れるかな・・・ああ、神社に帰りたい)

 

軽いホームシックに陥るジン。そんな彼の元に、レイセンが傷薬を持ってやって来た。

 

「ジンさん、傷薬を御持ちしましたよ」

 

「ああ、ありがとうレイセン」

 

「いえ、今日は酷くやってしまいましたから、その御詫びです」

 

レイセンの心遣いに感謝しながら、ジンは傷薬を受け取った。その際、ジンはある疑問についてレイセンに聞いてみることにした。

 

「なあレイセン、一つ聞いて良いか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「レイセンには姉がいるのか?」

 

ジンがそう聞くと、レイセンはキョトンとしたが、ジンの質問の意味を直ぐ様理解した。

 

「私に姉妹は居ませんが、先代ならいます」

 

「先代?」

 

「はい、私の名前レイセンというのは、綿月様達が以前飼っていたペットの名前から取ったんです」

 

「もしかして・・・永遠停にいる鈴仙の事か?」

 

ジンがそう聞くと、レイセンはしっかりと頷いた。

 

「はいその通りです。だから私は二代目レイセンなんです」

 

「なるほど、それで同じ名前だった訳か、納得した」

 

「まあ、私はそんな大層な玉兎では無いんですけどね・・・・・・」

 

「ん? それはどういう事だ?」

 

ジンがそう聞くと、レイセンは寂しそうに昔の事を話した。

 

「私、一度月から逃げた事があるんです。

毎日、毎月、毎年も餅をつき続け、変わらないルーチンワークに嫌気が差して逃げたんですよ」

 

レイセンの言葉から分かるように、余程不満のある生活だったんだろうとジンは思えた。

 

「その後色々あって、豊姫様と依姫様のペットにして頂けたのです」

 

「・・・前から思っていたんだが、ペット扱いで不満は無いのか?」

 

ジンの玉兎が抱いた印象は奴隷であった。奴隷と無縁な生活を送っていたジンにとって、玉兎の扱いは些か疑問を抱くのだが――――。

 

「全然ですよ、確かに訓練は厳しいですが、それなりに良くして貰っているので、不満なんてありません」

 

そう言ったレイセンの表情は、とても満足そうであった。

奴隷扱いであっても、それが不幸とは限らない。レイセンの話を聞いて、ジンはそう考えを改めるのであった。

 

―――――――――――

 

月に来てから数週間後、ようやく訓練に慣れたジンであったが、ある疑問を抱く。

 

「なあ、一つ聞いて良いか?」

 

「なにピョン吉?」

 

「訓練しなくて良いのか?」

 

ただいま絶賛サボり中の玉兎達に聞くが、彼女達は笑いながら答えた。

 

「ははは、ピョン吉は真面目だね」

 

「いやまあ・・・・・・」

 

「大丈夫大丈夫、そう簡単にバレないって」

 

「いや、バレるバレない以前の問題で、何かが攻めて来たらどうするんだ?」

 

「何かって・・・何が?」

 

「例えば・・・敵とか」

 

「大丈夫だって、都に攻め込む奴なんて千年に一度あるか無いくらいなものだよ」

 

「そうそう、それに何かあったら、依姫様と豊姫様がいるから大丈夫」

 

「あの二人は強いですから、この前だって――――」

 

玉兎達は笑いながらそう言ったが、彼女達の危機感の無さにジンは危機感を抱くのであった。

 

―――――――――――

 

玉兎達の姿勢に危機感を覚えたジンは、この事について依姫に相談していた。

 

「なるほど・・・困ったものね」

 

「ああ、危機感が無いのが一番不味いと思う。この先、凶悪な侵略者が攻め込んで来ないとは限らないし、もし実際に来たら対処が出来ないと思う」

 

ジンは、この世に絶対は無いと考えている。数百年敵が来なかったとしても、その後の数百年で来ないという保証は何処にも無い。

 

「いざという時の為に、何か対策をしていた方が良いと思うぞ」

 

「そうね、考えてみるわ。教えてくれてありがとう」

 

依姫はそう礼を言い、ジンと別れた。

 

 

ジンの話を聞いた依姫は、この事を豊姫と相談していた。

 

「――――と言うわけなんですよ」

 

「うーん、確かに彼の言う通りね」

 

「前回の月面戦争の時も、それが露呈してしまいたしたし、あの時の彼女達みたいに話が通じない相手だったら――――」

 

「間違いなく玉兎に被害は出るわ。しかも、それだけですまないわ」

 

仲間の死は恐怖を生み、恐怖は伝染する。そうなれば、平和ボケをしている玉兎達は兵職を嫌がり、脱走するかも知れない。

 

「事実、鈴仙が逃げてしまったのよね」

 

「あれは私の指導不足でした。彼女の欠点を矯正出来なかったのだから・・・・・・」

 

「もう、何でもかんでも自分のせいにしないで依姫」

 

「ですが―――」

 

「過ぎた事を悔やんでも仕方ないでしょ、今は過ちを繰り返さないようにする事。違う?」

 

「・・・ええ、そうですね」

 

豊姫の言葉で、少し気が楽になったのか、依姫は微笑んだ。

それを見た豊姫も、同じように微笑む。すると、豊姫はある案を思いつく。

 

「そうだ、私良い事を思いついたんだけど」

 

「良い事?」

 

「玉兎の危機感を無くし且つ、恐怖を乗り越える方法を」

 

そう言った豊姫は、何処か悪戯な笑みを浮かべた。

 

―――――――――――

 

月の海辺にやって来た依姫と豊姫。しかし、依姫は何処か納得していない様子であった。

 

「お姉様、私はやはり反対です」

 

「そう? 良い考えだと思うけど?」

 

「だからって、擬獸を使いのはやり過ぎだと思いますけど?」

 

擬獸とは、かつて永琳が作った物で、使用者の思いのままに形を変える獣である。

豊姫はこれを使い、仮想敵として玉兎達に差し向けるようである。

 

「大丈夫だって、その辺の采配はちゃんとするつもりよ」

 

「ですが・・・・・・」

 

「貴女は心配性ね、それだから玉兎達は平和ボケをするんじゃないの?」

 

「それは自覚していますよ・・・・・・」

 

依姫は玉兎の訓練を厳しくする一方、あまり彼女達を前線出したがらない面があった。

それは実力を考慮した結果でもあるが、やはり自分の教え子を危険な目に会わせたくない気持ちもあるのだろう。

 

「まあともかく、今回は心を鬼しなさい。それが玉兎達の成長に繋がるのだから」

 

「・・・わかりました。今回だけですよ」

 

「ええ、それじゃ―――!?」

 

その時、豊姫は異変を感じた。何かが結界を壊そうとしていると、それは依姫も感じた。

 

「お姉様!」

 

「ええ、何者かが結界を壊そうとしているわ」

 

「まさか地上の―――」

 

「いえ違うわ、これは地上の物じゃない。これは―――」

 

すると空の一部が壊され、そこから何とも言えない異形の怪物が落ちて来た。

 

「まったく別の場所から来た物よ」

 

豊姫がそう言うと、異形の怪物が二人に襲い掛かった。

 

―――――――――――

 

その頃ジンは、玉兎達と将棋を指していた。

この日は依姫から珍しく休みを言い渡され、暇を持て余したジンは玉兎達と将棋をする事にした。

 

「王手飛車取り」

 

「ギャー!? 詰んだー!」

 

ジンは玉兎の一人と将棋を指していた。

天狗大将棋で鍛えられたジンは、次々と玉兎を撃ち破っていった。

 

「ピョン吉って凄いね、もう十人抜きだよ」

 

「割りと鍛えられているからな、さてどうする?」

 

「も、もう一回!」

 

「ちょっと、次は私の番よ!」

 

そんな団欒とした一時を過ごしていると、何やら凄い音がした。

 

「な、何!?」

 

「見てあれ!」

 

玉兎の一人が空を指差すと、空が割れており、そこから異形の怪物が落ちて来たのが見えた。

 

「何あの化け物!?」

 

「っ!」

 

「あ、ピョン吉! 何処に行くの!?」

 

ジンは玉兎の声を無視し、化け物が落ちた場所へと向かった。

 

―――――――――――

 

「せいっ!」

 

依姫は刀を振るい、怪物を切り裂く。

 

「はっ!」

 

豊姫は組み紐を使い、怪物達を縛り上げる。

 

「炎雷神!」

 

依姫は炎雷神を神降ろしし、辺り一帯に雨と雷を降らせ、八頭の炎龍で怪物達を焼き払う。しかし、次から次へと怪物達が落ちて来る。

 

「キリがありませんね・・・」

 

「ええ、だけどこの程度なら大した事は無いわ。所詮は有象無象の雑魚よ」

 

「そうですね、何者かはわかりませんが、一気に終わらせ――――」

 

その時、何かが割れる音がした。二人は音がした方を見ると、自分達の場所と同じように空が割れ、そこから異形の怪物が落ちた。

 

「なっ!?」

 

「どうやら、こいつらの目的は私達の足止めで、本命は向こうのようね。

依姫、ここは私に任せて、貴女は向こうの奴を追いなさい」

 

「え!? お姉様一人でこの数を相手にするのですか!?」

 

「時は一刻も争うのよ、こんな禍々しい穢れを都に入れれば、たちまち月の民は穢れてしまうわ」

 

「ですが―――」

 

「私を誰だと思っているの? 貴女の姉よ?」

 

「―――っ、わかりました、ここは任せます」

 

そう言って、依姫は怪物達を切り伏せながら、別の場所に落ちた怪物の元へ急いだ。それを邪魔しようと、怪物達が触手を伸ばすが―――。

 

「依姫の邪魔はさせないわ!」

 

豊姫は扇子を振りかざすと、触手はたちまち崩れ去った。

 

「穢れを持つものよ、お前達にこの地に足を踏み入れる資格は無い!」

 

そう言って、豊姫は再び扇子を構えるのであった。

 

―――――――――――

 

一方ジンは、隠れながら様子をうかがっていた。

 

「何なんだあの怪物は・・・・・・」

 

ジンが見たのは異形の怪物としか表現出来ない生き物であった。これがSF映画なら、確実にエイリアンと呼ばれるだろう。

 

「ともかく、依姫に報告しないと――――」

 

「ピョン吉ー!」

 

そう呼ぶ声がした。振り返ると、玉兎達がジンを探しに来ていたのだった。

 

(不味い!)

 

「皆逃げろ!」

 

「え?」

 

ジンがそう叫ぶのと同時に、怪物もジン達に気づき触手を伸ばして来る。

 

「ちぃ!」

 

ジンはそれをかわすと、石を拾い上げ、怪物の目に目掛けて投げつける。

 

「Gyaaaaaa!!」

 

「今だ走れ!」

 

ジンがそう叫ぶと、玉兎達も一目散に逃げ出した。

幸いにも、怪物が怯んでいた為、ジン達は逃げ仰せる事が出来た。

 

 

逃げる事が出来たジンと玉兎達は、この事を他の玉兎達に話していた。

 

「一体何なのあの怪物は!」

 

「知らないよ!」

 

予想外の事態に、彼女達はパニックを起こしていた。

すると、依姫を呼びに行ったレイセンが戻って来た。

 

「どうだった!?」

 

「駄目! 依姫様も豊姫様も何処にもいない!」

 

それを聞いた玉兎達は絶望を感じた。

 

「こんな肝心な時に居ないなんて!」

 

「ど、どうするの!?」

 

「ど、どうするって・・・・・・」

 

玉兎達は何も言えなくなってしまった。

彼女達は内心、何をすべきかは分かっていた。しかし、それを口にする事が出来なかった。口にすれば、逃げる事が出来なくなるからである。

 

(あんな怪物に勝てる訳が無いよ・・・・・・)

 

(でも、戦わなければ職務放棄として罰せられる・・・・・・)

 

(地上の流刑にされてしまう・・・・・・)

 

(だからって、あんな怪物と戦うのは御免だよ!)

 

誰もが恐怖に押し潰される中、ジンだけは違っていた。

 

「なあレイセン」

 

「え? な、なんですか・・・?」

 

「武器庫の場所を知っているか?」

 

「知っていますけど、どうするつもりなんですか・・・?」

 

「戦うんだよ」

 

「「「!?」」」

 

ジンの言葉に、玉兎達は驚きを隠せなかった。

 

「ピョン吉! 何を言っているか自分で分かっているの!?」

 

「分かってる、分かっている上で言ったんだ」

 

「ハッキリ言うけど、私達でどうこう出来る相手じゃないよ。ここは依姫様に―――」

 

「そんな事をしていたら、月の都に奴が入って来てしまう」

 

「それは――――」

 

最早自分達が戦うしか無い。それは誰もが分かっているが、行動に移せるかどうかは別の話で、やはり恐怖心がそれを邪魔をするのである。そんな彼女達にジンはこう言った。

 

「別に一緒に戦えとは言わない。俺だって、あんなのと戦うなんて御免だ」

 

「ならどうして――――」

 

「彼処に住む人がいる。平和に暮らしている人がいる。そんな彼等の平穏を守れるのは、自分しかいないと思ったからだ。

もし、ここで逃げたら一生後悔する。後悔するような事は、二度としないと決めたんだ」

 

「ピョン吉・・・・・・」

 

「でもこれは俺自身で決めた事だ。だから、お前達もどうするかは自分で決めてくれ」

 

そう言って、ジンはレイセンと共に武器庫の場所へと走って行った。

残された玉兎達は、ただその場を立ち尽くすだけだった。

 

 

武器庫についたジンは早速武器を漁り始めた。幸いにも、月の武器の大半は近代兵器によく似た物が多い為、迷わず選ぶ事が出来た。

選んでいる最中、レイセンが声を掛けて来た。

 

「ジンさん!」

 

「レイセン? どうした?」

 

「私も一緒に戦います!」

 

「・・・良いのか?」

 

「私も・・・逃げないで戦います! ここでまた逃げたら、依姫様や豊姫様に顔を合わせられません!」

 

「わかった、よろしく頼む」

 

「はい!」

 

二人は装備を整え、怪物がいるであろう場所へと向かうのであった。

 

―――――――――――

 

二人が怪物がいる場所に到着すると、そこは既に惨状になっていた。

 

「これは・・・・・・」

 

「酷い・・・・・・」

 

怪物の通った後は木が腐り枯れていた。どうやら怪物は毒素を出しながら進んでいるらしく、確実に月の都へ進行していた。

 

「これ以上は進めさせる訳にはいかないな。やるぞレイセン」

 

「は、はい!」

 

こうして二人は怪物に攻撃を仕掛けるのであった。

 

 

交戦開始から時間がそれなりに経過した。

ジンとレイセンは持って来たありたっけの武装で怪物に攻撃をしたが、効果はあまり無かった。

 

「くっ、レイセン! 残っている武器は!?」

 

「このバズーカを撃ったら、突撃銃しかありません」

 

「こっちはこの手榴弾と光剣しか残っていない」

 

 

「どうします・・・?」

 

「バズーカを撃ったら、一旦撤退しよう。再度武器を持って来て再戦だ」

 

「わかりました。それでは―――」

 

レイセンがバズーカを放とうとしたその時、触手がレイセンを弾き飛ばした。

 

「レイセン! くっ―――」

 

レイセンに駆け寄ろうとしたが、怪物の触手が今度はジンを狙って襲って来た。

ジンは光剣を引き抜き、触手を切り払うが、切った側から触手は再生してしまう。

 

(このままじゃレイセンの側に行けない! どうすれば――――)

 

すると突然、切った触手が蛇のようにジンに絡みつき、動きを封じられてしまう。

 

「し、しまった!」

 

動けなくなったジンに大して、怪物の触手が容赦なく襲い掛かる。

万事休すと思われたその時、別の方向から怪物を攻撃する者達がいた。

 

「ピョン吉! レイセン! 二人とも大丈夫!?」

 

それは仲間の玉兎であった。それも一人では無く、全員がこの場に駆けつけてくれたのである。

 

「お前達・・・・・・」

 

「じっとしていて、この変な触手を外すから」

 

「俺の事よりレイセンの方を――――」

 

「安心して、既に回収しているから」

 

「助かる。それと武器を貸して欲しい」

 

「あいよ! 一杯持って来たから、好きなの使って」

 

ジンは玉兎から武器を受け取ると、彼女達と共に攻撃を開始した。

先程とは違い、一気に人数が増えたおかげで怪物を足止める事には成功。しかし決定打が無く、膠着状態が続いた。

 

「もううっとおしい! これでも喰らえ!」

 

業を煮やした玉兎の一人が、焼夷手榴弾を投げた。すると――――。

 

「Agaaaaa!!」

 

怪物は物凄く怯み、たちまち逃げ出したのである。

 

「やったー! 追い払ったぞー!」

 

玉兎達は束の間の勝利に喜んだが、ジン一人は戦いが終わっていない事を感じた。

 

「まだ終わっていない、あの程度じゃ直ぐにでも来る」

 

その言葉に、玉兎達は不安を抱く。何故なら、彼女達の武装では足止めが精一杯だと先程の戦いで痛感していたからである。たった一つの武器を除いて――――。

 

「ど、どうするの? 私達の武器じゃあいつを倒せないわよ?」

 

「そんな事は無い。一つだけ、あいつに有効な武器があった」

 

「それって――――」

 

「おかげで、あいつを倒す策を思いついた」

 

ジンはキグルミの中で、不敵に笑った。

 

―――――――――――

 

焼夷手榴弾を受けた怪物は、その傷を治す為に潜伏していた。しかし、怪物がいく場所には木や大地は腐っていく為、直ぐにジン達に捕捉されてしまった。

 

「投げ込め!」

 

ジンの合図と共に、焼夷手榴弾が投げ込められた。

爆発と共に焼かれる怪物。そして――――。

 

「Shaaaaa!!」

 

怪物は怒りの咆哮を上げながら、ジン達に襲い掛かる。

 

「よし釣れた! 全員、規定の場所まで走れ!」

 

ジンの言葉に頷き、玉兎達も一目散に走り出した。

怪物とジン達の追い駆けっこが始まるが、怒りが原因なのか、今までより怪物の動きは早かった。

 

「お、追いつかれる~」

 

「ゴタゴタ言う暇があったら走りな!」

 

「皆頑張れ! 後少しだ!」

 

ジンは玉兎達を励ましながら走った。そしてついに、規定のポイントにたどり着く。

 

「良し今だ!」

 

ジンがそう言うと、全員が大きくジャンプをし、怪物はそのまま通ろうとしたその時――――。

 

「!!?」

 

怪物は大きな落とし穴に落ちてしまった。そしてすかさず、隠れていた玉兎達が焼夷手榴弾や火炎放射機で怪物を焼いた。

 

「Gaaaaa!!!」

 

怪物は断末魔を上げ、そのまま灰となった。

 

「・・・・・・やった?」

 

「ああ、流石にやったと思う」

 

「私達やれたんだ・・・・・・」

 

「そうだよ! 依姫様抜きで都を守ったんだよ!」

 

「「「「やったー!」」」」

 

玉兎達は歓声を上げた。自分達の手で都を守れた事に、達成感を感じたのであった。

しかし、それも束の間であった。

 

「ふぅ、何とか―――」

 

喜びに浸っている彼等の前に、先程より大きい怪物が現れたのである。

それを見た玉兎達は勿論、ジンですら言葉を失ってしまった。

 

「Shaaaa!」

 

「ひぃ!?」

 

怪物は近くの玉兎を捕らえ、それを大きな口に入れようとした。

ジンは無我夢中でその玉兎を助けようとしたその時――――。

 

「はぁ!」

 

依姫が現れ、怪物を一刀両断した後、捕らわれた玉兎を救い上げた。

 

「貴女達大丈夫?」

 

「よ、依姫様~」

 

緊張の糸が切れたのか、玉兎達は泣きながら依姫の元に駆け寄った。流石のジンも緊張の連続で、暫くは腰を上げれ無かった。

 

―――――――――――

 

その頃月の結界の外では、豊姫が怪物の親玉を排除していた所であった。

 

「やはりね、これは地上―――いえ、この天体系の物では無いわ」

 

そう言って、割れた隕石に触れた。どうやら今回の襲撃者は地球外生命体―――つまりは本物エイリアンだったのである。

 

「まさかこんなのが月に落ちて来るなんて、今日は厄日かしら?」

 

そう言って、豊姫は扇子を使い、エイリアン達の死骸と隕石を崩壊させた。

その後依姫の通信で、ジンと玉兎の活躍を聞いた豊姫は、微笑みながら内心思った。

 

(寧ろ運が良かったのかも、彼が月にいる時に来たんだから)

 

その昔、永琳はあることを豊姫に教えていた。

 

『戦いにおける士気とても重要。これが無ければ例え百戦錬磨の兵であっても、新兵に負けてしまうのよ。

それでは、どうすれば士気上げられるか、それは――――』

 

「“勇気を与える事。一人でも勇敢な者がいれば、それに呼応する者も現れ、最後は全員に勇気が行き渡る。

恐怖も伝染するが、勇気もまた伝染する。”まさに彼は“勇士”だった訳ね」

 

そう言って豊姫は、月の結界の中へと帰って行くのであった。


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