ここは永遠亭、幻想郷唯一の病院と言っても過言では無い場所である。
ここが解放されてから、人里での病気や怪我で死ぬ人は激減したのは言うまでも無い。
しかし、そんな永遠亭に事件は起きた。
永琳の弟子である鈴仙が、いつもの通り薬の在庫をチェックしていた時の事である。
「これとこれはまだ足りるけど・・・こっちのは少ないかな」
鈴仙は在庫が不足している薬のリストをまとめていると、突然爆発音が鳴り響いた。
「な、何!? 敵襲!?」
慌てて倉庫から出ると、離れの場所から煙が上がっていた。
「あそこは師匠の実験室! 」
不穏を感じた鈴仙は、急いで永琳の研究室に向かうのであった。
―――――――――――
その後、鈴仙によって救出された永琳は病室で安静にしていた。
話を聞くと、うっかり薬の配合を間違えてしまったらしく、オマケに調合失敗の薬を嗅いでしまい、体が上手く動かせなくなる状態に陥っていた。
「まさに猿も木から落ちるね・・・・・・」
「でも驚きましたよ。蓬来人である師匠が倒れるなんて思いもよらなかったです」
「いくら不老不死とはいえ、薬や病がまったく効かないという訳では無いのよ。
病原菌が体内に居続ければ、症状はずっと続くし、薬が体内に入れば多祥なり影響はあるのよ。
最も、その程度では死なないけどね」
「はあ・・・思ったより便利ではないですねぇ・・・・・・」
「不老不死なんてそんな物よ。それよりもうどんげ」
「はい」
「私はしばらく動けないから、午前の診察は貴女がやってちょうだい」
「ええ!? 私がですが!?」
「貴女は私の元で十分な経験を積んでいるわ。これを期に、一人でやってみて欲しいのよ」
「でも・・・・・・」
「もしかしたら、ジンが怪我か病気で来るかも知れないわ。そうしたら、合法的に二人きりになれるのだけど――――」
「やります! この不肖鈴仙、見事師匠の期待に応えます!」
そう言って、鈴仙はやる気を出して病室から出て行った。
それを見て永琳は呟く。
「最近のうどんげは扱いやすくて助かるわ。これもジンのおかげね。
さて、私は一眠りしますか」
永琳はベットに潜り込もうとした時、輝夜とてゐが病室にやって来た。
「永琳大丈夫?」
「ああ輝夜、私は大丈夫よ。少し横になれば直ぐに良くなるわ」
「そんなお師匠様にこれを!」
そう言っててゐが出したのは、何とも言えない混沌とした色の飲み物?であった。
「そ、それは・・・・・・?」
「私が永琳の為に作った特製ドリンクよ。
これを飲めば一発で元気になるのは間違いないわ!」
輝夜は自信満々に言うが、永琳の医者としての直感が言う。“これを飲んだら大惨事”だと。
(でも、飲まない訳にはいかないわ! 輝夜の善意を無下にするにはいかないもの!)
意を決した永琳は、それを飲み干すのであった。
―――――――――――
「なるほど、それで俺を呼んだ訳か」
ジンは永琳の病室で、事の経緯を鈴仙から聞いていた。
「姫様に悪気があった訳じゃないんだけど、姫様に任せたら師匠が死んじゃうと思って・・・・・・」
そう言って、寝込んでいる永琳の顔を見る。顔色はかなり悪く、うなされているのが分かる。
「別に看病するのは構わないが、大した事は出来ないぞ」
「それで構わないわ、ジンならこれ以上悪化させる事も無いだろうし」
「取り合えず、やれるだけやるさ」
「お願いね。何かあったら呼んでね」
そう言って、鈴仙は仕事に戻った。残されたジンは、本を読みながら寝ている永琳の側にいる事にした。
しばらくすると、輝夜が病室の外で様子をうかがっている事に気づく。
「・・・・・・どうした? 入って来ないのか?」
その言葉にビクッとする輝夜。するとおずおずと聞いて来た。
「・・・永琳の様子は?」
「まだ寝ている、しばらくはこのままだろう」
「そう・・・・・・」
輝夜は何処か申し訳なさそうであった。そんな輝夜に、ジンはこう言った。
「いつまでそうしていないで、部屋に入ったら?」
「でも、私が居たら永琳がまた倒れるわ・・・・・・」
「変な物を飲まさない限り、倒れる事は無いさ。そんな所で覗かれている方が、心身に良くないと思うぞ」
そう言われ、輝夜はおずおずと病室に入って来て、永琳の寝顔を覗き込んだ。
「うなされているわね・・・・・・」
「そうだな、手でも握ってやったらどうだ?」
「え?」
「それだけでも人は安心する物だ」
ジンの言葉を聞いた輝夜は、ゆっくりと永琳の手を握り締めた。すると彼女顔が、いくらか安らいだのが分かる。
「あ、本当だ・・・・・・」
「もう大丈夫だろう、起きたら他愛の無い会話でもすれば良いと思うぞ」
「ジンはどうするの?」
「輝夜が居ればもう大丈夫だろ。変な物を出さない限り」
「変とは失礼ね、割と真面目に作ったのよアレは」
「なら自分で飲んでみるか?」
「遠慮するわ・・・・・・」
「自分で飲めない、食べれない物は出さない方が良いぞ。それじゃあ」
そう言って、ジンは病室を後にするのであった。
―――――――――――
病室を後にしたジンは、鈴仙に一言いってから帰ろうとした為、彼女を探していた。そんな時、てゐとバッタリと出会う。
「あれジン? お師匠様の看病は?」
「輝夜に任せた。余程変な物を出さない限り、大丈夫だろ」
「ふーん」
「・・・なあ、勘違いなら良いが、もしかして永琳を休めさせる為にわざと輝夜にあんな物を作らせたのか?」
「さあ? 何の話?」
「・・・まあ良い、取り合えず俺は帰ろうと思うが、その前に鈴仙に一言伝えようと――――」
「輝夜はいるかー!」
突然鳴り響く声、ジンはその声に聞き覚えがあった。いや、あんな事を言うのは一人しかいなかった。
「妹紅だな・・・・・・」
「こんな時に来るなんて、空気を読めない奴だね」
「今のを輝夜が聞いた可能性は?」
「無いね、病室全てに防音が施されているから」
「事情を話したら、帰ってくれるか?」
「信じてくれるかどうかだけど・・・・・・」
「微妙か・・・取り合えず駄目元で話してみるか」
「駄目だったら?」
「弾幕勝負するしか無いだろ」
「おお! いつになく交戦的だねジン」
「今回ばかりは輝夜の邪魔をさせたく無いからな」
「頼りにしているよジン♪」
「頼られても困るのだが、善処はするつもりだ」
「負けても骨は拾って上げるから」
「出来れば、ちゃんと埋葬して欲しい」
そう言ってジンは、妹紅がいる場所に向かうのであった。
―――――――――――
「輝夜を出せー!」
その場所に向かうと、明らかに怒っている妹紅の姿があった。
ジンは取り合えず、事情を聞く事にした。
「どうしたんだ妹紅、そんなに怒って」
「ジンか、輝夜を出しな!」
「だから落ち着けって、一体何があった?」
ジンはそう聞くと、妹紅は怒りを露にしながら話始めた。
「私が楽しみにしていた西瓜を盗んだ!」
「・・・・・・予想はしていたが、しょうもない理由だな」
「何だと!」
「だから落ち着けって! 輝夜が盗んだ証拠はあるのか?」
「輝夜以外にいる筈が無い!」
最早何を言っても聞く耳を持たない様子であった。
ジンは最後の望みとして、妹紅に事情を話す事にした。
「あのな妹紅、輝夜は今永琳の看病をしているんだ。また後日にしてくれないか?」
「・・・・・・ぷっ、あはははは!」
ジンはそう妹紅に伝えたが、何故か笑われてしまった。
「お前なぁ、そんな話誰が信じるんだよ」
「え?」
「良いか、あの永琳って奴も蓬莱人だろ? 不老不死が寝込む訳無いだろう」
どうやら伝えた方が悪かったらしい。ジンは再度、伝えようと試みるが――――。
「それには理由が――――」
「そんな御託は聞き飽きた。良いから輝夜を出しな、さもないと燃やすよ」
そう言って、妹紅は指から炎を出す。どうやらこれ以上は無理だと感じたジンは、妹紅の前に立ち塞がる。
「ふぅん、私の邪魔をするわけジン?」
「今回は輝夜の味方をすると決めたからな、ここを通りたければ俺を倒してから行け」
「上等! 不死の炎に抱かれて燃え尽きろ!」
こうして妹紅とジンは弾幕勝負する事になった。
それから時間が経ち、勝負は硬直状態に陥っていた。
「“不死 火の鳥ー鳳翼天翔ー”!」
妹紅はスペルカードを発動させ、鳥の形をした炎がジンに目掛けて放たれた。対するジンは―――。
「“土金水獸 水弾返し”!」
ジンは三体の五行獸を呼び出し、土獸で妹紅の炎を吸収、その力を金獸に受け渡し、水獸の力に変換させで水弾を放ち、残った火の鳥を相殺させた。
「ちぃ、何処かの引きこもり魔女みたいな事をするな」
「意外と使い勝手が良いからな、参考にさせてもらっている。最も、本家には及ばないがな」
ジンは余裕を持って言う。一方妹紅はジレンマを感じていた。
ジンの能力によって、通常弾幕の動きを全て読まれてしまい、当てるのは至難の技である。かと言って、安易なスペルカードを使えば先程のように防がれ、強いスペルカードを使えば、輝夜と戦う前にスタミナ切れを起こしてしまう。
(ったく、これだけは使いたくは無かったんだが、仕方ない)
妹紅は意を決して、あるスペルカードを発動させる。
「行くぞジン! “借命 不死身の捨て身”!」
すると妹紅は突然ジンに向かって走り出した。
(何かヤバイ!)
身の危険を感じたジンは、ギリギリの所でかわした。すると妹紅は爆発した。爆発したのであった。
「じ、自爆?」
爆心地には黒焦げの妹紅が倒れていたが、ゆらりと立ち上がり。
「リザレクション!」
直ぐ様復活し、ジロリとジンを睨みつける。
「うっ」
「逃がさないぞ! もう一発食らえ!」
再びジンに向かって走り出した。ジンは当然のように逃げ出した。
「ちょっと待て! 弾幕じゃないだろそれ!?」
「うるさい! 反則染みた能力を使うお前に言われたくない!」
「お前だって似たような物だろ! こっち来るな!」
「近づかないと駄目なんだよ! 大人しく自爆に巻き込まれろ!」
「心中するつもりは無い! と言うか、前々から思ったけど、お前絶対ドMだろ!」
「私は変態じゃない!」
ジンは妹紅は怒りの買ってしまい、その後執拗に追い掛けられてしまうのであった。
一方、妹紅とジンが追い掛けっこをしている様子を、影から覗いていた人物達がいた。
「助けた方が良くない?」
「大丈夫、大丈夫、ジンならあれくらい余裕だって」
「でも・・・・・・」
「だったら鈴仙一人で行けば良いじゃない」
「そこまでの勇気は無いわ・・・・・・」
「だからヘタレなんだよ鈴仙は」
「むぅ・・・・・・」
てゐの言葉に、鈴仙は言い返せなかった。
そうしている内に、妹紅とジンは竹林の中へと行ってしまった。
「ジン・・・お前の犠牲を忘れないよ」
「勝手に殺さない! ジン・・・大丈夫かな?」
「だから大丈夫だって、ジンなら竹林の罠を利用して逃げ切るだろうし」
「ああ、ジンの能力ならてゐの罠を見破られるわね」
「その日に作った罠は絶対に引っ掛からないからねぇ、まあ、古い罠なら可能性あるけど」
「・・・本当に大丈夫かしら?」
「あんまり気にしない気にしない、それよりも――――」
そう言って、てゐは立派な西瓜を取り出した。
「皆で西瓜食べない? キンキンに冷やしているよ」
「あんたが犯人か!!」
鈴仙の叫びが永遠亭に響くが、それが妹紅とジンに届く事はなかった。