東方軌跡録   作:1103

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今回は茨歌仙の話しです。
ちょうど梅雨の季節なので、茨歌仙四巻の話しから引っ張りました。


梅雨の天気石

梅雨の季節に入り、雨が降る日が続いていた。

この季節になると、湿気で大変なのだが、博麗神社はそれとは無縁の生活をしていた。

 

「いや~、本当に快適だわ~♪」

 

「本当ですね、こういう季節は洗濯物が乾かなくて大変でしたけど、ジンさんのおかげで助かります」

 

「結構大変なんだが・・・まあ、喜んで貰えてよかった」

 

そう言ってジンは、木獸の頭を撫でた。

何故湿気が無いかというと、ジンが木獸を使い空気中の水分を吸い取りつつ、新鮮な空気を出しているからである。まさに空気洗浄機の役割を果たしているのだ。

 

「本当に快適だぜ、こんなんじゃ家に帰りたく無くなるな」

 

「そうだねぇ、梅雨が明けるまで、ここに厄介になろうかしら」

 

遊びに来ていた魔理沙と魅魔は、そんな事を呟きながらくつろいでいた。

 

「ちょっとあんた達、ここはあんた達の家じゃないんだから、くつろぐなら自分の家でしなさいよ」

 

「ジメジメしているから嫌だ」

 

「なら、御得意の魔法で、ジンみたいに湿気を取り除きなさいよ」

 

「そんな細かい魔法は覚えていないし、得意じゃない。

パチュリーやアリスなら出来るかも知れないけど」

 

「それじゃ魅魔は?」

 

「私の専門外だ!」

 

「威張るな! まったく、二人してダメダメね。少しはジンを見習いなさいよ」

 

「いや、その見解は間違いだぞ霊夢、二人とも偉大な魔法使いだ」

 

霊夢は自慢気言うが、ジンがそれに対して異を唱える。

 

「そうかしら? あんまり役に立つ所を見て無いけど?」

 

「役に立つかどうかでは無く、凄い魔法を二人は持っている。

俺のは科学の応用、理屈が分かれば誰だって出来るもんだ」

 

「そういうものかしら?」

 

「そういう物だ。誰でも出来る事より、誰にも出来ない事をするのが、魔法使いだと思う」

 

ジンがそう言うと、魅魔と魔理沙は機嫌が良くなり、ジンの背中をバンバン叩く。

 

「そうそう、分かっているじゃないかジンは」

 

「そうだねぇ、誰にも出来ない事をするから、人々はそれを魔法と呼び、それを使う私達を魔法使いと呼ばれる。

それが我ら魔法使いの誇りだよ」

 

「ふーん、まあ、私は誰にも出来ない魔法より、何かの役に立つ術の方が良いけど」

 

「そうですね、実用性がある方が良いと思います」

 

「やれやれ、夢の無い主従だぜ・・・」

 

そんな雑談をしていると、針妙丸とサニー、ルナ、スターの四人がやって来た。

 

「ただいまー」

 

「「「お邪魔しまーす」」」

 

「ん? ああ、お帰り針妙丸。いらっしゃい三人とも、今日はどうした?」

 

「あのね、サニー達の家ので遊んでいたら、こんなのが見つかったんだ」

 

そう言って、一つの大きな濡れている石を出した。

 

「何だ? 石?」

 

「ちょっと、持って来るのは良いけど、ちゃんと拭いてからにしなさい」

 

そう言って霊夢は石を拭くが、拭いても拭いても湿り気を取る事は出来なかった。

 

「何これ?」

 

「どうやらこの石自体から水が出ているみたいだな」

 

「そうなのよ・・・この前神社で拾ったんだけど、気味が悪くて・・・・・・」

 

ルナは不気味そうに、石を指して言った。

そんな時に、魅魔が石を見てこう言った。

 

「おや? 天気石じゃないか」

 

「天気石?」

 

「何か知っているの魅魔?」

 

「この石は天気石と言ってな、季節の変わり目に見つかる事があるんだよ」

 

「そうなんだ・・・でも、何で湿っているの?」

 

「それは、中にいる生き物が呼吸をしているからだよ」

 

「ええ!? 石の中に生き物がいるんですか!?」

 

魅魔の言葉に、一同は驚きを隠せなかった。

更に彼女は天気石について話し続けた。

 

「ああ、石の中にいる間はその生き物は不老不死と言われているけど、実際はどうだが・・・」

 

「ねぇ、何の生き物がいるか分からない?」

 

サニーが魅魔にそう聞くと、彼女は難しい表情を浮かべた。

 

「さあねぇ・・・魚かも知れないし、カエルかも知れない、はたまた龍かも知れない」

 

「「「「龍!?」」」」

 

「そうさ、龍はこう言った天気石から生まれるんだよ。その場合は龍石と呼ばれる」

 

「龍石・・・これだわ!」

 

霊夢は天気石を持ち上げ、高らかに叫んだ。

 

「うお!? いきなりどうした霊夢?」

 

「これを祭って、参拝客を集めるのよ! 龍石なんて珍しいから、人は大勢集まるわよ♪」

 

「ちょっと霊夢さん! 見つけたのは私達――――」

 

「うっさい、神社にある物は全て私の物よ。文句ある?」

 

「いえ・・・まったくありません・・・・・・」

 

霊夢の凄みに負け、サニーは素直に身を引く事にした。

 

「さーて♪ お堂を建てなくちゃ♪」

 

霊夢は機嫌良さそうに、部屋から出ていった。

 

「・・・大丈夫なんだろうか?」

 

そんな彼女の姿を見て、一抹な不安を抱くジンであった。

 

―――――――――――

 

次の日、境内には立派なお堂が建てられていた。そしてそこには、龍石堂と書かれていた。

 

「結構立派なんだな」

 

「そりゃそうよ、貴重な龍石を祭るんだから、粗末な物には出来ないでしょ」

 

「その事なんだが・・・本当に龍石なのか?」

 

「魅魔も言っていたじゃない、龍は天気石から生まれるって」

 

「天気石の一つだとは言ったが、これが龍石かどうかまで断言してはいないぞ」

 

「・・・言われて見ればそうね」

 

「ハッキリするまでは、あまり公にしない方が良いと思う。違っていたら、恥をかくだけだからな」

 

「分かっているわよそれぐらい。でも、何とか分かる方法は無いかしら・・・・・・」

 

二人は天気石の正体について考えたが、判断材料が少なく断定出来なかった。

そんな時、華仙が境内にやって来た。

 

「あら? お堂を建てたの?」

 

「あ、華仙じゃない、ちょうど良かった。少し力を貸してくれない?」

 

「どういう事?」

 

霊夢はこれまでの経緯を華仙に説明をした。

 

「なるほどね、これが龍石かどうかを知りたいのね?」

 

「そうなのよ、何か良い方法は無いかしら?」

 

「一応あるわよ」

 

「是非聞かせて!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着きなさい!

えっと、龍石の最大の特徴は日が経つにつれ石が大きくなるのよ」

 

「石が大きくなるのか?」

 

「当たり前でしょ、龍がこんな小さい訳無いじゃない」

 

「当たり前なのか・・・・・・」

 

「つまり、しばらく様子を見て、大きくなったら龍石って訳ね」

 

「ええ、だけど気をつけて、龍石が孵る時、周辺に災害を引き起こす時があるから」

 

「「え!?」」

 

「もし龍石なら、手離す事をおすすめするわ」

 

その後、華仙の言葉を聞いた二人は、この天気石をどうするかを何時間も話し合うのであった。

 

―――――――――――

 

それからジンと霊夢は話し合いの結果、天気石をしばらく観察する事にした。

もし龍石なら、華仙に引き取って貰い、違うなら神社で祭る事で、御互い納得したのである。

それから数日後、石は大きくはならなかった。

 

「一応、龍石じゃないみたいだな」

 

「そうね・・・喜んで良いのかしら? それともガッカリするべきなのかしら?」

 

「世の中そう上手くいく物じゃないさ。それよりも、この中にいる生き物は何なのかを知るのが先だろ」

 

そう言ってジンは、石を持ち上げる。

石の大きさは変わらずとも、石は相変わらず湿っていた。

 

「うーん・・・湿っているだけじゃインパクトに欠けるのよね・・・・・・。何か無いかしら?」

 

二人はこの天気石をどうすれば、より目立つかを考え始める。

そこに、様子を見に来た華仙、魅魔、魔理沙の三人がやって来た。

 

「よお御二人さん! 石は大きくなったか?」

 

「残念だけど、大きくはならなかったわ」

 

「そうかい、それじゃ龍石では無いみたいだね」

 

「なーんだ、ガッカリだぜ」

 

「もしかしたら、魚石かも知れないわね」

 

「魚石?」

 

「ええ、天気石の一つで、龍石とはまた違う価値があるのよ」

 

「どんな価値?」

 

「“石を表面を透けるギリギリまで削ると、中の水が輝きを放ち二匹の金魚を照らす。その姿はとても美しい”と言われ、美術的価値は龍石以上と言われているのよ」

 

「そうなの!?」

 

「まあ、伝承だけで、実際やってみた事は無いんだけど」

 

「それでも、龍石以上の価値になるんでしょ? これはやるしかないわ!」

 

霊夢はそう言って、目を輝かせながら魚石を手に取った。

 

「よーし、早速削るわよー」

 

「おい、待てよ霊夢!」

 

霊夢は意気揚々と、魚石を持って母屋の方へと行ってしまい、ジンは慌てて後を追って行った。

その様子を見た三人は――――。

 

「あれ、絶対に失敗するな」

 

「ああ、霊夢だけならな」

 

「ジンが上手くストッパーになってくれれば大丈夫だとは思うけど・・・・・・」

 

魔理沙と魅魔は楽しそうに、華仙は不安を募らせながら母屋に行った二人を見送るのであった。

 

―――――――――――

 

翌日、二人は居間で石を削る作業を行っていた。

 

「うーん、難しいわね・・・・・・」

 

「そんなに豪快にやると割れるぞ、貸してくれ」

 

ジンは霊夢から鑿を受け取り、丁寧に削り始めた。

 

「そんなチマチマしたら、何日掛かるかわかったもんじゃないわ」

 

「割るよりマシだ」

 

「気長ねー、私には無理だわ」

 

「諦めるの早いな・・・そんなんだから飽き性と言われるんだよ」

 

「うるさいわね、性に合わないのよ。

寧ろ、そういうのはジンに任せるわ」

 

「やれやれ・・・・・・」

 

そう言ってジンは、再び作業に集中し始める。

その様子を、霊夢は横から静かに眺めた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

無言は暫く続いたが、霊夢は不思議と辛くはなかった。寧ろ、集中している彼の姿をずっと見ていたいという気持ちを抱いていた。

 

(・・・・・・何か、良いわね)

 

そんな時、鑢で削っているジンの手が止まった。

 

「うーん・・・これ以上は削れないな」

 

「どれどれ、見せて頂戴」

 

「そっとだぞ」

 

ジンは霊夢に石をそっと渡した。

感触から石はかなり薄くなっており、まるで卵のような感じがした。しかし、うっすら魚の影が見えるだけで、透明とは限り無く遠かった。

 

「うーん・・・思っていたような感じじゃないわね」

 

「石なんてそんな物だろ。これ以上削れば、間違いなく割れる」

 

「残念ね、透けて輝く魚石を見て見たかったんだけど・・・・・・」

 

少し残念そうにしている霊夢。何とかしてやりたいと思ったジンは、ある方法を思いつく。

 

「そうだ! 石をこれ以上削れないなら、光を当てれば良いんだ」

 

「光を?」

 

「ああ、ちょっとやってみるぞ」

 

ジンは方術を使い、石に光を当てた。すると、石から魚の影がハッキリと映り、まるで影絵のような美しさがあった。

 

「うわ・・・綺麗・・・・・・」

 

「もしかしたら、昔の人もこうして魚石の金魚を鑑賞したんだろう」

 

「そうみたいね」

 

二人はしばらく光照らされている魚石を眺めていると、ドタドタという音が近づいて来た。

 

「おーい! 上手く削れたかー!」

 

魔理沙の声に驚く二人。そしてそれが悲劇の引き金であった。

 

「「あ!」」

 

パキッという嫌な音が鳴り響いた。

 

―――――――――――

 

数日後、居間では割れた石と二匹の金魚がいる金魚鉢がテーブルの上に置かれていた。

 

「つまり、魔理沙の声に驚いてしまい、思わず割ってしまったっていう訳ね」

 

「面目無い・・・・・・」

 

今回の件で悪いと感じたのか、魔理沙は深く反省をしていた。

 

「しかし残念だね霊夢、折角の魚石が水の泡になったんだから」

 

「まあそうだけど、割れちゃった物は仕方ないわ」

 

「おや? もっと残念がると思ったんだが・・・・・・」

 

魅魔はそう聞くと、霊夢は微笑みながら答えた。

 

「残念とは思っているけど、素敵な物を見れたからね」

 

そう言った霊夢の顔は、何処かスッキリとしていた。


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