東方軌跡録   作:1103

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最近書くにあたって、タイトルが一番悩みます。
先に内容を書いてから、タイトルを書くので、ピッタリのタイトルが中々思いつきません・・・。
なるべく内容に合ったタイトルを心がけています。


天狗の特ダネ

ここは妖怪山にある天狗の里。

そこにある大掲示板に、一部の新聞が張り付けられていた。

 

“文々新聞。

氷の妖精の偉業! 春の湖に氷の橋を掛ける。”

 

そう書かれた見出しと、氷の橋を背景にピースポーズを取っているチルノの写真があった。

 

「文の奴、またスクープを取ったらしいな」

 

「またかよ、これでいくつ目だ?」

 

「最近の文々新聞はネタが豊富だな、一体何処で見つけているんだろう?」

 

「大方、ネタの木でも見つけたんじゃないか?」

 

「はは、違いない」

 

そんな天狗達の会話を横で聞いていた一人の少女がいた。

彼女の名は姫海棠はたて、文のライバル記者である。

 

(文の奴・・・今に見ていなさい! 文々新聞以上のスクープを取って見せるわ!)

 

はたては打倒文々新聞と、激しく闘志を燃やすのであった。

 

 

家に戻ったはたては、早速どうスクープを見つけるか考え始めた。

 

(うーん・・・やっぱり念写だけじゃ限度があるわねぇ・・・)

 

彼女の能力、“念写する程度の能力”なのだが、正確に言えば遠隔撮影ではなく、念写機にキーワードを入力して念写をする物で、どちからかと言うと検索向けの能力である

それ故に、未知の物を探すのはあまり適していない能力なのだ。

 

(癪だけど、文みたいに足で探さなきゃ。だけど、闇雲に探しても見つかるわけ無いし・・・どうしょうかしら?)

 

はたては頭を捻りながら考えていると、先程の天狗達の会話を思い出す。

 

「ネタの木か・・・・・・」

 

何かを思ったのか、はたては念写機にネタの木とキーワードを打ち込んだ。

 

「・・・なーんて、そんなのある訳―――」

 

すると、念写機からピロリンと音が鳴る。これは該当有りを知らせる音である。

 

「え? うそ!?」

 

まさかの該当有りに、はたては驚き、慌てて画像を見る。そこには、一人の青年が写っていた。

 

―――――――――――

 

新聞発行から数日前、人里のとある料理店に、ジン、文、チルノ、大妖精の四人が何やら打ち上げをしていた。

 

「氷の橋製作、お疲れ様です」

 

「おおーお疲れー」

 

「お疲れさまです」

 

「お疲れ様」

 

四人は互いのコップを当て、乾杯をした。

 

「いやー、まさか本当に出来るとは思わなかったわ」

 

「へへん♪ あたいの実力さ!」

 

「もうチルノちゃんったら、ジンさんのおかげでもあるんだよ」

 

「俺は少し知恵を貸しただけだ。後は全部チルノの力だよ」

 

「それでも大したものよ、まさかあんな方法を思いつくなんて」

 

ジンが思い付いた方法とは塩を使うことであった。

詳しい説明は省くが、氷に塩を振り撒くと、周囲の温度をさらに下げる働きを持つので、ジンはそれを利用したのである。

先ず、チルノにかなり大きめの氷塊を幾つか作ってもらい、湖に浮かべる。次に氷塊と氷塊を隣接させ、その間に水をかけ、塩を振り撒く、そうする事により氷塊同士がくっつくのである。

その作業を何度も繰り返して、橋を作ったのである。

 

「ちょっとした理科だ。勉強すれば誰だって思いつく」

 

「おおー! あたいも勉強すれば、ジンみたいに凄いこと思いつく?」

 

「まあ・・・頑張れば」

 

「よーし! あたいも勉強するぞー♪」

 

「三日坊主にならなければいいんだけど・・・・・・」

 

「はは・・・否定できない」

 

チルノの勉強宣言を余所に、文はジンにある質問をする。

 

「ところで、ジンはどうしてチルノのお手伝いを?」

 

「ああ、大した事では無いんだが―――」

 

事の発端は、ふてくされているチルノと偶然に出会い。理由を訪ねてみると――――。

 

『湖を凍らそうとしたけど、こう暖くちゃもう凍らないよ』

 

そうチルノは言った。するとジンは、こう返した。

 

『湖全面は無理だが、氷の橋ぐらいなら作れるかも』

そう言い、チルノに氷の橋計画を持ち出したのである。

 

「なるほど、黒幕は貴方だった訳ね」

 

「黒幕とは人聞きの悪いな。俺はチルノに手を貸しただけだ」

 

「まあ、貴方がそう言うのなら、そう言う事にしましょう」

 

「そうして貰えると助かる。ほら注いでやる」

 

「あら、ありがとう」

 

ジンは文のコップに酒を注ぎ、それを見た文は艶やかに笑った。

 

―――――――――――

 

新聞発行から数日後、はたては密かに博麗神社に訪れていた。

 

(念写によると、ここに住んでいるのよね)

 

はたては隠れながら境内の様子を覗いた。すると、一人の少女が掃除をしている姿を見つける。

 

「~♪ ~♪」

 

(あれは化け狐? どうして神社なんかに?)

 

疑問を抱いていると、そこに例の青年がやって来た。

しかし、念写の姿と違い、彼の額に鬼の角が生えていた。

 

(ええ!? 鬼!? あ、そう言えば、博麗神社に住んでいる鬼の人妖がいるって聞いた事があるわね)

 

それは随分と前だが、文々新聞にもその事が掲載されていたが、当時は殆どの天狗が信じていなかったのだ。

 

(まさか、彼がそうだったの・・・・・・)

 

はたては、青年の事をじっと観察する事にした。

 

「それじゃ行ってくる。留守番頼むな」

 

「はい、行ってらっしゃいジンさん」

 

ジンと呼ばれた青年は、狐の少女に見送られながら、荷馬車を担いで石段を降りていった。

 

(何処に行くのかしら?)

 

はたては、ジンの後をつけることにした。

 

―――――――――――

 

人里に続く街道を、ジンは荷馬車を引きながら走っていた。

普通の人間なら先ず出せないスピードではあるが、天狗であるはたてには、まるで歩いているような速さなので、見失う事はなかった。

 

(あの荷馬車、一体何を積んでいるのかしら?)

 

荷の中身が気になるものの、ジンに気づかれない距離を保つはたて。すると、ジンの目の前に二体の妖怪が立ちはだかる。

 

「おうおう! 命が欲しかったら、荷馬車を置いていきな!」

 

「兄貴はこう見えても狂暴さ、言う通りにした方が身のためさ」

 

(あいつら・・・確かここ最近暴れている追い剥ぎ妖怪ね)

 

追い剥ぎ妖怪とは、この妖怪達の通り名である。

普段は自分達より弱い妖怪や妖精から、金品や荷物など強奪する悪徳妖怪である。

何故人間を襲わないかというと、博麗の巫女が怖いからである。

 

「・・・・・・」

 

「おらおらどうした? 怖くて声も出ないのか?」

 

「お前たちが最近暴れている追い剥ぎ妖怪か?」

 

「あ? だとしたらどうなんだよ?」

 

「遠慮なくぶっ飛ばす」

 

ジンはそう言うと、兄貴と呼ばれた妖怪に対してアッパーカットをぶちかます。

 

「ぐへぇ!?」

 

「あ、兄貴!?」

 

兄貴は上空数十メートルまで飛ばされ、そのまま地面に落下した。

残された子分は、ただ呆然としていた。

 

「おい」

 

「ひぃ!」

 

ジンに声を掛けられた子分は、思わず悲鳴を上げてしまう。

そんな子分の様子を無視し、ジンは言った。

 

「二度と追い剥ぎしないと誓え、さもないと―――」

 

「わ、わかりましたー!」

 

子分はそう叫びながら、気絶している兄貴分を抱え、走って逃げて行った。

それを見たジンは、満足そうな顔をして、再び荷馬車を引き走り始める。

その一部始終をはたてはしっかりとカメラに撮っていた。

 

(まさかいきなりネタをてに入るなんて・・・これはもしや、本当にネタの木かも知れない!)

 

そう思ったはたては、ジンの尾行を続行する事にした。

 

―――――――――――

 

人里についたジンは、早速居酒屋に行き、店主に博麗酒を納品していた。

 

(なるほど、こうして人里に博麗酒が出回っていたのね)

 

博麗酒は大変な人気があり、今では中々手に入るのが難しい酒になっていたのである。

ジンは納品を終えると、今度は市場へと向かった。

 

(今度は何をするのかしら?)

 

はたてはその後を密かに追った。

 

 

市場についたジンは、日用雑貨が売られている場所に訪れた。どうやら日用品を買いに来たらしい。

 

(うーん・・・思ったより普通ね)

 

何か起こるか期待していたはたてだが、あまりにも普通の買い物にやや残念そうな顔をしていた。

そこに、小さな子供達がやって来た。

 

「「「ジン先生ー」」」

 

「ん? お前らか、一体どうした?」

 

「あのね、猫のミミが朝から見かけないの」

 

「俺らずっと探してんだけど、見つからないんだよ。

でも、ジン先生なら見つけられるよな?」

 

「なるほどな・・・わかった、探してやろう」

 

ジンは子供達の頼みを聞き入れ、猫を探し始めるのであった。

 

 

その後、無事に猫を見つけたジンは、子供達に感謝されながら帰路につこうとしていたが、不意に足を止めた。

 

「・・・そろそろ後をつけるのはやめて貰えるか?」

 

ジンがそう言うと、はたては物影から現れた。

 

「バレていたのね」

 

「まあ、ついさっき気づいたばかりなんだが・・・・・・お前は?」

 

「私は、花菓子念報の発行者の姫海棠はたてよ」

 

「花菓子念報?」

 

「私の作った新聞よ。まあ、あまりメジャーじゃないけど・・・・・・」

 

「つまり文と同じ記者か? 」

 

「まあね、最も私の方が優秀だけど」

 

「そのわりには、花菓子念報はマイナーみたいだが?」

 

「これから有名になるの! その為には、貴方を取材させて欲しいんだけど・・・いい?」

 

「何で俺なんか?」

 

「今日一日貴方を観察したら、興味を持ったのよ。

お願いできない?」

 

「まあ・・・時間を取らせないなら」

 

「取らせない取らせない♪ それじゃ、近くの店で話を聞かせて貰うわ」

 

そう言って、はたてはジンの手を取り、近くの喫茶店に向かい出したのである。その時、半鐘の音が鳴り響く。

 

「これって――――」

 

「ああ、何処かで火災が発生したんだ」

 

ジンは空を見上げ、煙を確認すると、一目散に走って行った。

 

「あ! 待ちなさいよ!」

 

はたても、急いでその後を追って行った。

 

 

現場に到着すると、とある店が燃えていた。

周囲には火消しと、河童達の消防団が消火活動を行っていた。

 

「これは、酷いわね・・・・・・」

 

「まあ、火消しと消火団が来ているから心配は無いだろう」

 

そんな事を話していると、一人の女性が店の中に入ろうとしているのを、火消し達に止められている姿を見つけた。

 

「放して! まだ店の中に夫が!」

 

「無茶だ! もう火の手が上がっているんだ! 今入れば、あんたが死ぬぞ!」

 

どうやら店の中に店主が取り残されているらしい、その声を聞いたジンは、一目散に走った。

 

「え!?」

 

「お、おい! あんた!」

 

火消し、消防団の制止振りきり、火の手が上がる店へと入って行ったジン。

 

 

それから数十分後、燃え盛る店の中から、ジンは女性の夫である店主を抱えて出て来た。

 

「ああ! 貴方!」

 

「気絶しているだけだが、一酸化炭素中毒かも知れない。急いで永遠亭に運ぼう」

 

ジンはそのまま店主を永遠亭に運んで行ったのである。

 

―――――――――――

永遠亭に運び込まれ、治療を施された店主は無事に一命を取り止めた。

一方ジンは、鬼人になっていたおかげで、大した火傷もなく、軽い手当てで済んだ。

永遠亭を出ると、そこにははたての姿があった。

 

「大丈夫?」

 

「まあなんとか」

 

「いつもあんな事をしているの?」

 

「まさか、偶々だ。いつもやっていたら、命が幾つあっても足りないからな」

 

「それもそうね」

 

「さてと、それじゃ取材は――――」

 

「また今度にするわ。貴方も疲れているだろうし、それにさっきの火災についての記事に書きたいから」

 

「そうか」

 

「それじゃまたね、えーと・・・・・・」

 

「ジンだ」

 

「ジンね。それじゃまたねジン」

 

そう言って、はたては帰って行った。

はたてを見送ったジンも、そのまま神社へと帰って行ったのである。

 

―――――――――――

 

それから翌日、ジンはいつもの通り境内の掃除をしていると、文が血相を変えてやって来た。

 

「ジ、ジジジン! これはどういう事!?」

 

「な、何だよ文? 一体どうした?」

 

「これよ! この記事を見なさい!」

 

文が持って来た花菓子念報という新聞の記事には、昨日の火災で店主を救ったジンの姿があった。

 

「どうしてはたての新聞に、貴方が載っているのよ!?」

 

「いや、偶々居合わせただけだなんだが・・・・・・」

 

「くぅ~こんなスクープを逃すなんて・・・射命丸文、一生の不覚だわ・・・・・・」

 

文は心底悔しそうに呟いた。

そこに、タイミング悪くはたてがやって来てしまう。

 

「ジンいる? この前の取材について何だけど――――」

 

「はたて?」

 

「あら、文じゃない。こんなところで何しているのよ?」

 

「それはこちらの台詞よ。貴女こそ、ジンに何の用なの?」

 

「決まっているじゃない。独占インタビューよ」

 

「なっ!? 誰の許しを得てそんな事―――」

 

「誰って、そりゃジンによ」

 

それを聞いた文は、物凄い形相でジンを睨み付けた。

 

「どういう事ジン! どうしてそんな約束を!」

 

「いや・・・特に困る訳でも無いかと・・・・・・」

 

「私との約束を忘れたの! 独占インタビューを受けるって言っていたのに!」

 

「え? そうだったけ?」

 

ジンは思い返すが、その事に関してまったく記憶がなかった。しかし、彼女が言うなら、本当に約束をしたのだろうと、信じてしまう。

しかし、それを黙って見ているはたてではなかった。

 

「ちょっと! そんな当人が知らない約束なんて無効よ! 嘘言ってるんじゃないわよ!」

 

「嘘とは人聞きの悪い、私はちゃんと約束したんだから」

 

両者は一歩も譲らず、火花を散らし合う。

こんな時霊夢がいれば、力業で場を収めてくれるのだが、残念ながら彼女は外出中で神社にいないのである。

ジンは、どうすればいいか悩んでいたが、とうとう矛先が彼に向けられてしまった。

 

「それなら、どちらにインタビューされたいか、ジンに決めてもらいましょう」

 

「良いわ! それで白黒つけれるなら!」

 

「へ?」

 

すると文とはたては、同時にジンの方を見る。

 

「ジン!」

 

「私達の!」

 

「「どちらのインタビューを受けるの!?」」

 

この日、ジンは最大のピンチに立たされてしまうのであった。

この後ジンはどうなったのかは気になるところだが、彼なら、このピンチを切り抜けるだろう・・・・・・多分。

 


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