今回はあまりアレンジが出来なかったので、話の流れがやや漫画通りになってしまいました。
こういうのは、そのままだと不味いらしいのですが、アウトなら消すつもりでいます。
桜の木下で、小鈴はたたずんでいた。
淡い期待と不安を抱きながら、小鈴はある人を待ち続けていた。
(まだかな? 来てくれるよね?)
先程から桜の周囲を行ったり来たりとしている。
そんな時、その人は訪れた。
(き、来た!)
小鈴の胸はどくんと高鳴った。その人が近づく度に、胸の鼓動は早くなる。
そして、彼女の目の前にその人は立った――――。
「はっ!」
そこで小鈴は目を覚ました。
周囲を見回すと、そこは自分の部屋である事がわかる。
「また、あの夢か・・・・・・」
小鈴はしばらく夢の余韻に浸るのであった。
―――――――――――
「――――という夢を見たのよ」
鈴奈庵の店内で、小鈴は遊びに来た阿求に今朝の夢の内容を話した。
「・・・・・・で?」
「で?って何よ?」
「そんな乙女ちっくな夢を聞かされて、私にどうしろと?」
「わかっていないわね~阿求は。だって素敵じゃない、愛しの人を待ち続けるなんて」
「少女漫画の読みすぎじゃない?」
「それも良いけど、私はこっちが良いわ」
そう言って、小鈴はいくつかの古い手紙を取り出した。
「それは?」
「江戸時代の恋文よ。しかも、妖気を漂わせている曰く付きの」
「あんた、そんな事まで分かるの?」
「うん、何となくね」
「大丈夫? 妖気に当てられているんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。それよりこの恋文、とある有名な高僧が持っていた物なのよ」
小鈴が言った高僧とは、江戸時代で有名な僧で、数々の逸話を残す程の大僧正でもある。
「へ~随分と隅におけない高僧がいたものね」
「だけど、これは本人宛では無いみたいなのよね」
「そうなの?」
「内容もそうなんだけど、この手紙の妖気がそう言ってるの。“これは私の手紙だ”って」
―――――――――――
その日の深夜、霊夢と魔理沙は人里のにある一本の桜の木を見張っていた。
「本当に出るんでしょうね?」
「ああ、人里じゃ噂で持ちきりだ」
魔理沙の話によると、最近桜の木の下で幽霊が目撃される事が多いらしい。
もっとも、被害らしい被害は今のところ出ていない。
「ただの幽霊じゃない?」
「そうかも知れないが、万が一って事もあるぜ」
「それはそうだけど・・・・・・」
「お、出て来た見たいだぜ」
二人は物影から桜を見る。その場所から、幽霊らしき女性が現れた。
「ささっと終わらせて帰るわよ」
霊夢はお払い棒を手に持ち、行こうとするが、魔理沙に止められてしまった。
「待て霊夢、誰か来た」
すると一人の男性がフラフラとやって来た。そして一通の手紙を女性に手渡した。
「え? これってまさか・・・・・・」
「もしかして・・・逢い引き?」
男性は女性の手を取り、熱心に話しかけていた。
「こ、これ以上は野暮だな」
「そ、そうね、人の恋路は邪魔するもんじゃないわ」
二人はそのまま立ち去ろうとしたその時、男性が突然倒れてしまう。
「え?」
「これは!?」
二人は飛び出し、急いで男性の安否を確認する。
「大丈夫か!?」
「・・・大丈夫、気絶しているだけだわ」
男性が無事だと確認すると、女性の方を見る。すると女性は笑いながら夜空へと消えていった。
「なあ霊夢、これは・・・」
「ええ、間違いなく怨霊の類いだわ」
霊夢は、幽霊が消えた夜空を見上げてそう言った。
―――――――――――
早朝、ジンは境内の掃除をしながら、霊夢の帰りを待っていた。
(霊夢の奴、結局帰ってこなかったんだよな・・・大丈夫かな?)
霊夢の心配をしながらも、手を休めないジン。そんな時、境内にフラフラの状態で帰って来た霊夢と魔理沙の姿があった。
「お帰り――って、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない・・・徹夜で見張っていたんだから・・・・・・」
「幽霊は出なかったのか?」
「出たんだが・・・取り逃がした。それから結局現れなかった・・・・・・」
「そ、そうか」
「調査の続きは、寝てからにするわ・・・・・・」
「わかった。今布団を用意してくる」
ジンは、寝不足の二人の為に、寝床を用意するのであった。
それからしばらくして、十分な睡眠をとった霊夢と魔理沙は、ジンを交えての作戦会議を行っていた。
「あの後、霊夢に頼まれて人里で聞き込みをしたんだが、夢遊病が多発しているみたいだ。
しかも、共通点は全員が男で、目を覚ましたら桜の木の下にいたと、全員がそう証言している」
「間違いないわ、怨霊の仕業ね」
「でもよ、どうして手紙なんかを渡そうとしていたんだ?」
「残念ながら、その点については詳細不明だ。誰もその事を覚えていなかったからな」
「手紙の事は置いといて、どうやって退治するか・・・」
「私達は顔を見られたからな、警戒しているだろう」
「なら、誘き寄せるだけよ」
「誘き寄せる? どうやって?」
「簡単よ、私と魔理沙のどちらかが男装をして、怨霊に手紙を渡すのよ」
「え~? 私は嫌だぜ」
「私だって嫌よ。だから公平にジャンケンで―――」
「その役割、俺が引き受けよう」
「え・・・・・・?」
予想外の提案に、霊夢は呆気に取られたが、直ぐに我に帰った。
「だ、駄目よ! 相手怨霊はなのよ! 危険だわ!」
「それは霊夢達も同じだろ? それだったら、俺がやった方が不測の事態に対処出来るだろ?」
「それは・・・まあ、そうだけど・・・・・・」
「それに、異変解決のエキスパートが二人もいるんだから、心配する要素は無い。そうだろ?」
「お、おう! 私と霊夢に掛かればチョチョイのチョイだ! なあ霊夢?」
「うーん・・・・・・」
霊夢はジンの提案に気が進まなかったが、自分達を信用してくれているジンの思いを無下に出来なかった。
「・・・わかった。あんたに任せるわ。ただし、危ないと思ったら直ぐににげるのよ?」
「了解、それじゃ今夜決行だな」
こうして、誘怨霊き寄せ作戦が開始されるのであった。
―――――――――――
その夜。霊夢、魔理沙、ジンの三人は、物影から悪霊が出るのを待ち伏せていた。
「良い? 怨霊がジンの手紙に気を取られている間に、私と魔理沙が怨霊を退治する手筈だからね」
「わかった」
「任せろ」
「そろそろ時間だわ・・・・・・」
三人が再び桜の方を見ると、そこには昨夜の怨霊らしき女性がたたずんでいた。
「出た! 任せたぞジン!」
「ああ」
ジンは物影から出て行き、恐る恐る女性に近づいた。
相手もジンに気がついたのか、手招きをしてきた。
(ここまでは順調だな・・・・・・)
ジンは慎重に近付き、用意して来た手紙を女性に渡そうとした時、女性の顔を見て驚く。
「お、お前―――!?」
「今よ!」
「おう!」
様子をうかがっていた霊夢と魔理沙は、物影から飛び出した。
突然の事に、怨霊の女性は戸惑い、動きを止めていた。それをチャンスとばかり、二人は御払い棒とミニ八卦炉を取り出した。
「ま、待て二人とも!」
「え!?」
「なに!?」
突然のジンの制止に、魔理沙は動きを止めてくれたが、霊夢は既に御払い棒を振りかざそうとしていた。
「ちぃ!」
ジンは怨霊の女性を庇い、霊夢の御払い棒を腕で受けた。
「ぐっ!」
「ジン!? あんた何を―」
予期せぬ事態に戸惑う霊夢達。その間に、女性は姿を消していた。
「ジン! 腕大丈夫!?」
「あ、ああ・・・・・・痛むが、折れてはいないみたいだ」
「良かった・・・・・・」
「ところで、一体どうしたんだ? 突然あんな事を言って」
「ああ・・・あの女性の顔、小鈴に見えたんだ」
「え? それってどういうだ?」
「わからない、見間違いかも知れないが・・・・・・」
「取りあえず、ジンの手当てもしたいから、今日のところは帰りましょ。
あれが小鈴ちゃんかどうかは、明日本人に確かめれば良いんだし」
「そんな悠長で良いのか?」
「こんな夜遅く訪ねても迷惑なだけだぜ。それに、今のところ死者は出ていないんだろ?」
「まあ、それはそうだが・・・・・・」
「心配なのはわかるけど、先ずは自分の心配をしなさい。腕、痛むんでしょ?」
「まあ、多少は・・・・・・」
「怪我を軽んじていると、後々大変な事になるんだから、ちゃんと手当てをしないと」
「わ、わかった。霊夢の言う通りにする」
「よろしい、それじゃ帰るわよ」
三人は作戦を中断し、博麗神社に一旦帰ることにしたのであった。
―――――――――――
翌日、鈴奈庵で店番をしている小鈴。しかし何処か元気が無く、ため息を溢していた。
「はあ・・・・・・」
「どうしたの? そんなため息をついて」
「阿求・・・・・・」
いつの間にか、店内居た阿求。どうやら気づかない程に、気落ちしていたらしい。
「大丈夫? やっぱ妖魔本の影響が――――」
「違うの、そうじゃなくて・・・・・・」
「?」
「今朝見た夢何だけど――――」
小鈴は夢の内容を阿求に話始めた。
最近よく見る夢と途中までは同じだったのだが、今までよく見えなかった相手の顔が、今回だけはハッキリと見えたと言うのだ。
「その相手が・・・ジンさんだったの」
「ふーん、つまり小鈴はジンさんの事が好きって訳ね」
「え?」
阿求が言った言葉が一瞬理解出来なかった小鈴は、しばらく呆然していたが、やがて理解すると同時に顔を真っ赤にした。
「ち、ち違うわよ! そんなんじゃなくて――――」
「違わないわよ。夢にまで出るって事は、それだけ意識している事じゃない?」
「いや、まあ・・・その・・・・・・」
「小鈴にも春が来たのね~険しい春だけど」
「だから! そんなんじゃなくて言っているでしょ! この夢には続きがあるの!」
「続き?」
「そう、夢の中のジンさんが私に手紙を渡そうとした時。私、黒い影に襲われたの」
「黒い影?」
「ハッキリと見えなかったけど、影は私を殴りかかろうとして、ジンさんが私を庇ってくれたの」
「ふーん・・・でも夢なんでしょ?」
「そうなんだけど・・・・・・」
小鈴は不安そうに俯いた。
そんな時、鈴奈庵に霊夢と魔理沙、そしてジンの三人が店に入って来た。
「小鈴ちゃんいる?」
「邪魔するぜ」
「霊夢さんに魔理沙さん、それに――――」
「こんにちは小鈴」
「こ、こんにちはジンさん・・・・・・」
先程の話もあって、小鈴はやや緊張していたが、どうにか挨拶を返す事が出来た。
「き、今日はどんな御用件で?」
「幾つか聞きたい事があるんだけど・・・昨夜は何をしていた?」
「昨夜ですか? 本の整理や掃除をして、普通に寝ていましたけど?」
そう言うと、三人は顔を見合わせてから、次の質問をした。
「最近変わった事は無いか?」
「最近ですか? 特には―――」
すると小鈴は言葉を止めた。それは最近見るようになった夢の事を思い出したのだが、その内容を―――特にジンには知られたくなかったのである。
「何かあるのか?」
「い、いえ! 何でもありません!」
小鈴は慌てて誤魔化そうとするが、残念ながら三人相手では誤魔化し切れなかった。
「怪しい・・・何か隠しているな?」
「うっ」
「小鈴ちゃん、これは重要な事だから正直に答えて」
「うう・・・でも・・・・・・」
小鈴はジンの方をチラリと見た。内容が内容だけに、どうしても彼の前で話すのは抵抗があった。
そんな時、助け船を出したのは阿求であった。
「実は小鈴の奴、最近おかしな夢を見るようになっているんです」
「おかしな夢?」
「ちょ、ちょっと阿求! 何を言って―――」
慌てている小鈴なに、阿求は三人に聞こえないように耳打ちをした。
「大丈夫、ジンさんに関する事は黙っておいてあげるから」
そう告げると、小鈴の表情は幾らか安らいだ。
そして小鈴に代わって、彼女が最近見るようになった夢の内容を三人に話始めた。
「―――ってな感じの内容です」
その話を聞いた三人は、確信を得た表情になった。
「間違いないわ。小鈴ちゃん、貴女は怨霊に取り憑かれているわ」
「ええ!? 一体どういう事ですか!?」
「実は昨日、怨霊とおもしき女性と接触した時、その時の顔が小鈴に見えたんだ」
「えええ!?」
「恐らく昨日の女性は、取り憑かれている小鈴ちゃんだったのね」
「一体何を根拠に?」
「夢の内容だ。昨日私達の出来事と、小鈴の夢の内容が一致したんだ」
そう魔理沙が言った後、ジンは昨日怪我した腕を小鈴に見せた。
「そ、それって・・・・・・」
「そう、私が怨霊を叩こうとした時、ジンが小鈴ちゃんを庇って出来た怪我なのよ」
「それじゃ・・・あれは夢じゃ――――」
「ああ、実際に起きた現実だ」
そう言われて、小鈴は絶句してしまった。
しばらくしてから、霊夢はある事を小鈴に質問する。
「最近、曰く付きの物に手を出さなかった?」
「えっと・・・古い手紙―――妖気を漂わせた手紙なら、最近読みましたけど・・・・・・」
「それね、悪いけど持って来て貰える?」
「は、はい!」
そう言って、小鈴はトタトタと奥へ走って行き、直ぐ様手紙を持って戻って来る。
「これが例の手紙です」
それを手に取った霊夢は、ハッキリと告げた。
「当たりね。この手紙から怨霊の霊気を感じるわ。
でも、何でこんな手紙に―――」
「それについては私が説明するわ」
「何か知っているのか阿求?」
「実は小鈴の話を聞いた時から、妙な違和感を感じて調べてみたんです。すると、驚くべき事がわかったんです」
「驚くべき事?」
「実はその高僧、怨霊退治は出来るですけど、普通の徐霊はまったく出来なかったんです」
阿求の話によると、その高僧は全てにおいて力業で解決した何とも豪快な僧でもあった。
そして例の悪霊は、元々手紙に未練があって成仏出来なかった地縛霊だったのだが、その僧は強引に手紙ごと封印してしまったのである。
「そして、何百年も封印されていたわけだな・・・そりゃ怨霊にもなるわけだ」
「それなら、手紙ごと供養した方が良いわね」
「て、手紙ごと!? だ、駄目ですよ!」
小鈴は慌てて手紙を拾い上げ、渡さないように抱え込んだ。
「これは大事な資料なんです!」
「資料って・・・これは怨霊が憑いているのよ?」
「そうだぜ、さっさと供養しないと、また体を乗っ取られるかも知れないぜ」
「な、なら、再封印とかすれば――――」
「小鈴、お前はこの霊を再び閉じ込めるのか?」
ジンはいつになく真剣な眼差しで小鈴に言った。
今まで見たことの無いジンの表情にやや圧倒されたが、小鈴は一歩も譲るつもりはなかった。
「元々封印されていたんですから、元に戻すだけじゃないですか」
「それは違う、再封印をすれば確かに一連の騒動は収まるだろうが、それじゃこの人がいつまで経っても成仏出来ないじゃないか?」
「そ、それは・・・・・・」
「それに、恋文はこの人とその相手だけの物だ。それを他者が読んだり、持っているのはどうかと思うぞ。
小鈴だって、自分宛の恋文を他人に読まれたり、持っていたりしたら不愉快だろ?」
「ううっ・・・・・・」
「諦めなさい小鈴。どうがんばってもあんたに勝ち目は無いわ」
阿求の言葉で悟ったのか、小鈴は渋々手紙を手放す事にした。
―――――――――――
その後、手紙は命蓮寺でしっかり供養して貰い、怨霊の女性は無事成仏させる事が出来た。
事件も無事解決し、各々の帰路につくことになった。
その帰りのこと、ジンと霊夢の二人が桜の並み道を歩いていたときである。ジンは霊夢が元気がない事に気がついた。
「どうした霊夢? 何か気になる事でもあるのか?」
「まあ・・・何て言うか、少し反省してる」
「反省?」
「囮の時、私ジンに怪我をさせちゃったじゃない」
「あれは俺が勝手にやったことだ。霊夢は悪くない」
「そうだとしても、ジンが止めなかったら、小鈴ちゃんが怪我をしていたかも知れないじゃない。
今回の私、良いところ無いなって・・・・・・」
霊夢は酷く落ち込んでいた。そんな霊夢を励まそうと、ジンはある事を伝える。
「大丈夫、良いところはいつも見ているから、そんな事、あまり気にするな」
そう伝えると、霊夢は呆気に取られてしまうが、直ぐに笑顔になる。
「・・・・・・ありがとジン」
「ん? 何か言ったか?」
「別に、何でもないわよ」
「そうか? 何か言ったような気がしたんだが・・・」
「気のせい気のせい。それよりも帰りましょ、私達の神社に」
「お、おい、そんな急がなくても良いだろう!」
霊夢はジンの手を取り、桜の並み木道を走り出す。
桜の花びらは、まるで二人を祝福するかのように舞っていた。