旧作の陰陽玉の力って、意外と謎ですよね。
春が訪れ、桜が咲き誇る中、霊夢は縁側でのんびりしていた。
「は~平和だわ~」
霊夢は膝の上で寝ている猫を撫でながら、のほほんとしていた。
そこにジンがやって来る。
「霊夢、取り合えず花見の準備は終わったぞ。後は買い出しに行った妖狐達が戻って来るだけだ」
「御苦労様、後は私の番ね。腕によりをかけて作るから」
そう言って霊夢は立ち上がる。その時ジンは、霊夢が抱いていた猫が消えるように見えた。
「あれ?」
「ん? どうしたの?」
「いや、さっきまで猫がいたよな?」
「ああ、これの事」
そう言って霊夢は、陰陽玉を取り出した。すると次の瞬間、陰陽玉は一瞬にして猫となった。
「え!?」
「ふふん♪ 驚いたでしょ」
「ああ・・・一体どんな術なんだ?」
「私の力じゃないわよ。これは陰陽玉の力」
「え?」
「だから、これは陰陽玉の力なんだって」
ジンは耳を疑った。
詳しいことは知らないが、彼女の持っている陰陽玉は博麗代々伝わる秘宝であり武器である。歴代の博麗はそれを使い、妖怪や悪霊を退治して来たと言われている。
そんな秘宝が猫になる力などあるなんて、予想斜めを行っていた。
「なんでそんな力が・・・?」
「知らないわよ。他にも、色んな香りを出せる芳香剤、食べてもふとらなくなる加護とか」
「それで良いのか博麗の秘宝・・・・・・」
「まあ、これはほんの一部で、私も全部知っている訳じゃないのよ。
因みに、貴方の浮遊玉はこれを模倣して作られたのよ」
「へ~、そうなのか・・・・・・」
ふとジンは考え込んだ。この陰陽玉で、参拝客を呼べないかと。
「ジン? どうしたの?」
「いや、陰陽玉で参拝客を呼べないかなって」
「流石にそれは無理でしょ。猫にしたり、太らなくなったり、香りを出すくらいだし。後の用途は妖怪退治をするぐらいのものよ」
「うーん、そうか・・・待てよ?」
「何か思いついた?」
「霊夢、香りを出せると言ったけど、どんな香りが出せるんだ?」
「どんなって・・・色々よ」
「いやもうちょっと具体的に」
「そんな事を言われても・・・どんな香りでも再現出来るんだから」
「どんな香りでも?」
「例えばね、“雪の中にある苺の茎の香り”とか」
「そんな馬鹿な・・・」
「それじゃ試してみる?」
そう言って、霊夢は陰陽玉に霊力を込める。すると陰陽玉から、ほのかの香りが漂う。
それを嗅いだジンは、驚愕した。
「!? 本当だ! 何故だか分からないが、“雪の中にある苺の茎の香り”がする!」
「そうでしょ、本当に不思議なのよね」
ジンはこの事で、陰陽玉の出す香りにある仮説を立てる。
(つまり術者が望めば、それが抽象的な物でも再現可能という訳か・・・それなら――――)
「なあ霊夢、こんな香りを出せるか?」
ジンは、自分が考えた香りを霊夢に伝えた。
「まあ、出来ると思うけど・・・・・・」
そう言って霊夢は、陰陽玉に霊力を込め、香りを出す。
その香りはとても澄んでおり、ジンと霊夢の心を落ち着かせた。
「いい香りだな・・・・・・」
「そうね、心が落ち着くわ・・・・・・」
「よし、これなら参拝客を増やせるな」
「これで一体どうするの?」
「まあ見てな、あっと驚くぞ」
ジンは自信満々に霊夢に行った。
―――――――――――
それから数日後、博麗神社ではこれまでみた事の無いくらいの長蛇の列が並んでいた。
「こ、これは一体・・・・・・」
久々に神社に訪れた華仙も、これには驚きを隠せなかった。
すると、魔理沙と魅魔がやって来る。
「おっ、華仙も新聞を読んで来たのか?」
「新聞? また何かやっているの?」
「なんでも、心を落ち着かせる御神体が公開されたらしくてな、皆それを見に来てんだよ」
「御神体? そういえば見た事は無いわね・・・ところで――――」
すると華仙は、魅魔を睨み付けた。それは明らかな敵意を持っていた。
魅魔もそれを感じ取り、華仙を睨み返す。
「なんだい? 私に何か用?」
「どうしてこんな所に悪霊がいるのかしら?」
「私がここに居ちゃいけないのかい?」
「ええ、地上に住んでいいのは、善人と聖人と大悪党だけよ。お前の居場所は無い」
「それなら大丈夫さ、私は大悪霊だからね」
「へらず口を・・・その魂、握り潰してあげるわ」
「上等! 返り討ちにしてやるわ!」
二人はその場で戦い始めてしまう。
当然参拝客達は、二人の戦いに巻き込まれる前に、逃げるように避難して行き、境内に瞬く間に人はいなくなってしまった。
異変に気付いた霊夢は、慌てて境内にやって来た。
「ちょ、ちょっと! これは一体どういう事よ!?」
「お、霊夢じゃないか」
「お、じゃないわよ! どうしてこうなっているのかって聞いているのよ!」
「簡単に言うと、華仙が魅魔様に喧嘩を売った」
「はあ!?」
こうしている間にも、魅魔と華仙は戦い続け、境内はどんどんボロボロになっていく。
「あんたら・・・いい加減にしろー!」
霊夢は争い続けている二人目掛けて、夢想天生を放った。
「え?」
「まず―――」
戦いに夢中になっていた二人は、霊夢が放った夢想天生をかわせず、仲良く吹き飛ばされるのであった。
その後、ボロボロになった境内では、魔理沙、魅魔、華仙の三人が正座をさせられ、霊夢に説教を受けていた。
「あのね、暴れるのは勝手だけど、神社では暴れないでよね。こっちがいい迷惑よ」
「わ、私は悪霊を滅殺しようとしただけで――――」
「だからってやりようはあったでしょ。見なさいよ、こんな境内をボロボロにして」
「そ、それは・・・・・・」
「やーい、怒られてやんのー♪」
「あんたもよ魅魔!」
「私に非がある? それは違うよ霊夢。そっちの奴が最初に喧嘩を売って来たのさ」
「わ、私のせい!?」
「そうだよ。元々こっちは新聞を読んで、興味本位で来ただけなのにさ、悪霊って理由から向こうから売って来たんだよ」
「それを言うなら、貴女だって非があるじゃない! 元々悪霊、怨霊の類いは地底から出てはいけない決まりがあったでしょ!」
「残念だけど、私は地底の悪霊じゃないから、そんなのは適応はされないよ」
「そんな屁理屈が通るとでも――――」
「うるさい! 二人ともこれ以上喧嘩をするなら、私にも考えがあるわよ!」
そう言って取り出したのは、霊夢がいつも持っている陰陽玉であった。
「見せてあげるわ、新しい陰陽玉の使い方を!」
そう言って、霊夢は陰陽玉に霊力を込める。すると魅魔と華仙が苦しみ始めた。
「うっ・・・こ、れは・・・・・・」
「くっ・・・お、陰陽玉に・・・そんな使い方が・・・・・・」
「華仙? 魅魔?」
「「くっ・・・・・・臭いー!」」
二人はそう叫びながら、勢いよく神社から去って行った。
それを見た霊夢は、とても満足気な笑みを浮かべる。
「ふふん♪ どうだ参ったか」
「一体何をしたんだぜ?」
「簡単な事よ、この陰陽玉を使って、“仙人と悪霊が嫌う香り”を出したのよ」
「へ? 何だそりゃ?」
「これは術者の望んだ香り再現できるの。だから、“仙人と悪霊が嫌う香り”とか抽象的な香りも可能、もちろん“心を落ち着かせる香り”もね」
「心を落ち着かせる・・・ああ、つまりそういう事か」
心を落ち着かせる御神体の正体は、陰陽玉から“心を落ち着かせる香り”を出して参拝客の心を落ち着かせていたのだ。
これがジンが新たに考えた客寄せである。
「でも、あの仙人と悪霊のせいでスッカリ台無しよ。あーあ、せっかくジンが考えたのに・・・・・・」
「それだったら、“人が集める香り”を出せばいいんじゃないか? それなら参拝客が一杯くるだろ?」
「馬鹿ね、この陰陽玉から出る香りの範囲はそんなに広くは無いのよ。せいぜい一部屋分くらいよ」
「そうか・・・いいアイディアだと思ったんだが」
「そんなに上手くいく程、世の中甘くは―――」
「ん? どうした霊夢?」
「い、いえ、なんでもないわ」
「?」
この時霊夢は、また別の使い方を思いついたのであった。
―――――――――――
霊夢は本殿で、その使い方について考えていた。
(うーん、流石に無理かな? でも、抽象的な香りでも再現出来たから・・・)
するとそこにジンがやって来た。
「おーい霊夢」
「あ、おかえりジン」
「妖狐から色々聞いたぞ、今回は残念な結果になってしまったな」
「まったくよ。とんだ営業妨害よ」
霊夢の言葉を聞いたジンは安心した。彼は霊夢が落ち込んでいないかと、心配して様子を見に来たからである。
「あ、そうだ。ちょっと試したい事があるんだけど、手伝ってくれない?」
「良いけど、何をすればいいんだ?」
「何もしなくて良いわよ。これを嗅いでくれれば」
そう言って、霊夢は陰陽玉を使い香りを出す。
「な・・・ん・・・だ・・・・・・」
その香りを嗅いだジンは、凄まじい眠気に襲われる。
ついに耐えきれず、眠りについてしまった。
霊夢は、眠り倒れそうになったジンを支え、膝枕をする。
「上手くいったみたいね」
「スー・・・・・・スー・・・・・・」
「綺麗な寝顔ね・・・・・・」
霊夢は安らかに眠っているジンの頭をそっと優しく撫でた。
それから数十分後、眠っていたジンは目を覚ます。
ぼんやりとした目で、霊夢の顔を見た。
「霊夢・・・・・・?」
「おはよう。いい夢見れた?」
「夢・・・・・・?」
「そう、貴方が嗅いだのは、“望んだ夢が見れる香り”なのよ」
「そんな香りまで再現出来るのか・・・・・・」
「まあ、思いつきなんだけどね。上手く出来て良かったわ」
「・・・・・・」
ジンは見た夢を思い出す。
それは既に他界した両親の夢であった。
何となくであったが、母は霊夢に似ていたような気がした。
「ジン? どうしたの? ま、まさか悪夢を見たなんて言わないわよね?」
霊夢は不安そうに聞いて来る。その様子が何となく微笑ましく思い、思わず笑ってしまう。
「あー! 何よ人が心配していたのに!」
「悪い悪い、つい嬉しくてな」
「え?」
「心配してくれる人がいて」
「当たり前じゃない。あんたは私の家族なんだから」
「・・・・・・」
その言葉に、ジンは思わず涙を流す。それは家族がいないジンにとって、尊い言葉であった。
「ジ、ジン? 大丈夫?」
「いや、なんでも無い。大丈夫だ」
「で、でも・・・貴方泣いて―――」
「嬉しかったんだ。霊夢の言葉が」
そう言うと、霊夢は目をパチクリさせたが、直ぐに微笑み返した。
魅魔と華仙の関係ですが、自分的には最悪だと思います。
怨霊とは悪霊の仲間で、怨霊に対して快く思っていません。実際、怨霊を問答無用で握りつぶしています。
故に、人畜無害?の悪霊である魅魔に強い敵対心を持つのではないかと思っています。