東方軌跡録   作:1103

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魅魔の過去については独自設定にしています。
詳しい事は後書きで説明します。


帰って来た悪霊 後編

続いて一行が向かったのは、山の麓にある架空索道である。これに乗り、妖怪の山の山頂にある守矢神社に向かうのだ。

 

「それにしても、よくこんなのを天狗達が許したね」

 

「そりゃ、賭け将棋で負けたからな。不満があっても口には出来ないさ」

 

「あれは中々面白かったな。魅魔様にも見せてやりたかったぜ」

 

「どうでも良いけどこのロープウェイ、もう少し早くならないかしら。これなら飛んだ方が早いわよ」

 

「無理を言うな、そういう決まりなんだから。

お、ようやく見えて来た」

「あれが、外から来た神社か、一体どんな巫女がいるんだろうねえ」

 

魅魔は楽しそうに笑う一方、守矢神社に連れて来たのは失敗だったかな?と、内心不安を抱くジンであった。

 

―――――――――――

 

守矢神社では、早苗が参拝客の相手に接客をしていた。

 

「はい、こちらが退魔の御守りです」

 

一人一人丁寧に対応していると、そこにジン達がやって来た。

 

「おーい早苗ー」

 

「あ、ジンさん。いらっしゃ―――」

 

早苗は不意に言葉を止めた。どうやら魅魔の姿を見て、彼女が悪霊の類いだと感知したようだ。

更に、ここで彼女の悪い癖が出てしまう。

 

「やや! そこにいるのは悪霊! まさかジンさん! 悪霊に取り憑かれたのですね!」

 

「へ? 何の事だ?」

 

「御安心を! この現人神である東風谷早苗が、その悪霊を見事退治してみます!」

 

「お、おい! 何か勘違いを――――」

 

「その通り! 私はコイツに取り憑いた大悪霊魅魔だ!」

 

「ええ!?」

 

何を考えているのか、魅魔は完全に悪乗りをしていた。

そのおかげで、早苗は完全に乗ってしまう。

 

「やはりそうでしたか! しかし! この私がいる限り、貴女の好きにはさせません! いざ!」

 

「見せて貰おうか、守矢の巫女の力とやらを!」

 

こうして二人は、周囲をお構いなしに戦い始めた。

 

「おい・・・どうすんだよこれ?」

 

「まあ、魅魔様なら心配ないぜ。早苗くらいなら勝てると思うから」

 

「いや、そっちじゃなくて」

 

「ああ、被害者がまた一人増えるのね・・・」

 

「止める気は無いのか・・・仕方ない。俺だけでも避難活動をするか」

 

ジンは参拝客に被害が及ばないよう、避難活動をし始めた。

 

 

参拝客の避難が終わる頃には、魅魔と早苗の決着はついていた。

結果は魅魔の勝利に終わっていた。

 

「こ、こんな筈は・・・」

 

「やれやれ、素質はあるようだが、まだまだ修行不足だね」

 

「ううっ・・・神奈子様、諏訪子様、申し訳ありません」

 

「さて、敗者は勝者に従うのがこの世の理。さて、どいしょうかね~♪」

 

魅魔はボロボロの早苗を見て、悪辣な笑みを浮かべる。

流石に不味いと感じたジンは、魅魔を止めようとする。

 

「お、おい、もうその辺に――――」

 

「うちの早苗に何をするつもり?」

 

すると現れたのは、守矢神社の神である神奈子であった。

 

「おや? やっと本命が来たか」

 

「私が留守の間、随分好き勝手やってくれたね。この代償は高くつくよ」

 

「ふーん、どうつくんだい?」

 

「天国も地獄にも行けなくしてやるよ」

 

「面白いじゃないか、やってみな!」

 

こうして、魅魔対神奈子の戦いが始まってしまった。

 

「これ、どうやったら止められるんだ?」

 

「無理だな。下手に間に入ればミンチ確実だぜ」

 

「そうね、終わるまで放っておけば良いんじゃない」

 

「良いのかそれ?」

 

「大丈夫だよ、見たところ実力は拮抗しているみたいだから、そのうち飽きて止めるよ」

 

「いや、そういう問題じゃなくて・・・・・・」

 

「まあまあ、お茶でも飲んでゆっくりしていきなよ。茶菓子もあるし」

 

「お、気が利くな」

 

「それじゃ、いただこうかしら」

 

魔理沙とアリスは、諏訪子に出されたお茶と茶菓子を貰い、すっかり観戦モードに入ってしまった。

 

(良いのかこれで?)

 

釈然としないジンであったが、せっかく御厚意を無下にするのは悪いと思い、魔理沙達と同じ様にお茶と茶菓子を受け取り、魅魔と神奈子の戦いを静かに観る事にした。

 

―――――――――――

 

守矢神社を後にした魅魔一行は、夕方の街道を歩いていた。

 

「いや~、あの神様は中々強かった。あれだけ苦戦したのは魔界神以来だよ」

 

魅魔は神奈子との戦いに、すっかり御満悦の様子であった。

 

「頼むから、あまり面倒事を起こさないで欲しいんだが・・・」

 

「そりゃ無理だよ。幻想郷はこういったところなんだから」

 

魅魔は楽しげに笑う、それはあまりにも無邪気で、まるで子供のような笑みであった。

 

「ところで、魅魔は今日は何処に泊まるんだ? 宛はあるのか?」

 

「魔理沙の所に泊まろうと思っているよ。元々あそこは私の家だったからね」

 

「魔理沙の? あそこは確かにゴミ――――」

 

「ストップ! 余計な事は言うなジン」

 

「む、むが・・・・・・」

 

魔理沙は慌ててジンの口を塞ぎ、誤魔化すように笑う。

 

「あはは・・・ちょっと散らかってて、片付くまで神社で待ってて魅魔様」

 

そう言うと、魔理沙は箒に乗り飛び去って行った。恐らく、家を片付けに行ったようだ。一夕でどこまでやれるのだろうか、少し心配するジンであった。

 

「さて、私も帰ろうかしら、何か疲れちゃった」

 

「おや、なんだいだらしの無い」

 

「その辺にしておいてくれ。アリスだって、慣れない服装を着て疲れているんだから」

 

「ん? そうなのかい?」

 

「・・・そういう事にしておいて。それじゃ」

 

アリスも、その場を飛び去って行った。残されたのは、ジンと魅魔の二人だけである。

 

「取り合えず、神社に帰ろう。霊夢も帰って来ているかも知れないし」

 

「そうだね、あの子の驚く顔が目に浮かぶよ」

 

魅魔は嬉しそうに言った。余程霊夢に会えるのが嬉しいのだろう。まるで親戚の叔母が、数年振り姪に会うような印象であった。

だからこそ、どうしても彼女に聞いてみたい事があった。

 

「なあ、魅魔と霊夢―――いや、魅魔と博麗神社はどういう関係なんだ?

何で、悪霊が神社の神様をしているんだ?」

 

それを聞いた魅魔は、呆れた表情をする

 

「神社の神様って・・・あんたまだそんな事を信じていたのかい?」

 

「違うのか?」

 

「当たり前だよ。そりゃ、神様になろうとは思ったけどさ」

 

「なら、一体どういう関係なんだ?」

 

「聞きたいのかい?」

 

魅魔はジンにそう聞いて来た。ジンは静かに頷くと、魅魔は神妙な赴きで話始めた。

 

「・・・・・・その昔、この地には人間を憎んだ大悪霊がいたんだ」

 

「え? それって・・・・・・」

 

「何で憎んでいたのかはもう思い出せない。だけど当時は、それしか想えなくなっていたんだ。

そこに、何代も前の博麗の巫女がその悪霊を封印したんだよ」

 

それは幻想郷が出来る前の話であった。彼女は霊夢の先祖に封印され、今に至るという。

 

「それから何百年後に封印が解かれたんだけど、力を殆ど失ってしまってね。取り戻そうと博麗の秘宝を手に入れようとしたんだけど――――」

 

「したんだけど?」

 

「あっさり返り討ちにあったんだよ」

 

「返り討ちにって・・・霊夢に?」

 

「いや、あの子の母親である先代の博麗に。そりゃもうコテンパンにされたよ」

 

「霊夢の母親も、強かったのか」

 

「強いってもんじゃ無いよ。あれは人の皮を被った鬼だよ」

 

魅魔の話によると、霊夢の母親は生半可の強さでは無く、一部の妖怪や人からは鬼巫女として恐れられていたようだ。

 

「再度封印されたんだけど、どうも先代は封印術が苦手みたいで、簡単に抜け出せたんだ。

その後も敗けては封印され、抜け出し、もう一度戦いを挑む。そんなのを何度も繰り返しうちに、目的がすり変わったんだ」

 

「すり変わった?」

 

「博麗の巫女を倒す。そう想っていくうちに、いつの間にか邪気もすっかり抜けてしまったね。今じゃ、自分が悪霊だった事を忘れてしまう時もあるよ」

 

そう言う魅魔の表情はとても穏やかな物であった。

ジンは霊夢の母親について何も知らないが、魅魔とっては親友のような物であると感じ取れた。

 

「まあ、私と博麗神社の関係はそんなところだ」

 

「ああ、よく分かった。ありがとう魅魔」

 

「おや? もっと聞いて来ると思ったんだが」

 

「今の話だけで、十分わかったから」

 

「そうかい、それじゃ料金を貰おうか」

 

「え?」

 

「ただで、なんか一言も言っていないよ。払うものは払って貰おうか」

 

そう言って、魅魔は金の催促をし始める。

 

「そ、そう言われても、今は持ち合わせが―――」

 

「―――ぷっ」

 

ジンがあたふたしていると、魅魔が突然笑いだした。

「あははは! 冗談! 冗談だよ! あんた本当におもしろいねえ!」

 

「なあ!? からかったのか!」

 

「そんな怒らなくても良いじゃないか、ちょっとした茶目っ気だよ」

 

「まったく・・・とんだ悪霊だな」

 

ジンは愚痴りながらも、魅魔と共に神社へと帰って行った。

 

―――――――――――

 

神社に帰って来ると、境内には霊夢が待ち構えていた。

そしてジンは、霊夢がとても不機嫌な状態だと感じ取った。

 

「ようやく来たわね悪霊。ジンを連れて何をしていたのよ?」

 

「いきなりの挨拶だね霊夢、久々の再会なのに連れないねぇ」

 

「うっさい、さっさとジンから離れて何処かへと行きなさい。見逃して上げるから」

 

「待てよ霊夢、魅魔は何もしていな―――」

 

「あんたは黙っていなさい!」

 

「あ、はい」

 

霊夢の睨みに圧倒され、ジンは畏縮してしまった。

それを見た魅魔は、二人がどんな関係か何となく理解した。

 

「ふーん、なるほどね」

 

 

「それじゃ、さっさと魔理沙の所にでも行きなさい」

 

霊夢は魅魔に対して強く言う。すると魅魔は、悪戯な笑み浮かべながらジンの頬を擦った。

 

「嫌だ♪」

 

「は?」

「え?」

 

「この子気に入ってね、私の依り代にしようと思って♪」

 

その発言に、霊夢はぶちキレた。

 

「な~ん~で~す~って~」

 

魅魔の言葉を聞いた霊夢は、怒りを現した。

それを見て、魅魔は嬉しそうに笑っていた。

 

「もう許さない! 二度と悪さ出来ないように封印してやるわ!」

 

「ほう? やるっていうのかい。良いだろう、久々に相手になってあげるわ!」

 

二人は空へと飛び上がり、上空で弾幕勝負を始める。

ジンが見上げた空には、鮮やかな弾幕が広がっていた。




前書きで書いたように、魅魔と博麗神社の過去は独自設定です。詳しく書くとこうなります。

幻想郷が出来る前 霊夢の先祖と戦い封印される。

数百年後(東方靈異伝) 封印が解かれるが力を失う。力を取り戻そうとするが、霊夢の前の代の博麗(先代)に倒され、その後も勝負を挑み続けた。

先代引退(東方封魔録) 霊夢の代になったが、当時の彼女はまだ半人前、その彼女を鍛える為わざと異変を起こす。

その後、幾多の異変(東方夢時空、東方幻想郷、東方怪綺談)を解決し、一人前になった霊夢と魔理沙を見届けた後、旅に出る。

こんな設定にしています。
おかしな所もあると思いますが、これでいこうと思います。

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