紅魔館を後にしたジン、魅魔、魔理沙三人は、次は何処に行くかを話し合っていた。
「魔理沙もついて来るのか?」
「当然、魅魔様の一番弟子だからな」
「それなら、次は何処へ行こうか?」
「その前に、もう一人連れて行きたい奴がいるんだが」
「ん? 一体誰だ?」
「私と同じ、魔法の森に住んでいる奴だ。魅魔様も知って奴だ」
「ん~、もしかして、あの可愛いメイドかい?」
「そう、あの元魅魔様のメイドだ」
「メイド? 魔法の森にメイドなんか住んでいたっけ?」
「行ってみればわかる」
こうして三人は、元メイド?が住んでいる場所へと足を運ぶのであった。
―――――――――――
三人が訪れたのは、何とアリスの家だった。
「アリスの家? あいつの所にメイドなんかいたっけ?」
「まあ、その内わかるさ。おーいアリスー」
魔理沙がドアを叩きながら、アリスを呼ぶ。
するとドアが開かれ、アリスが出てきた。
「何よ魔理沙? 言っておくけど、魔導書は貸さ―――」
不意にアリスの言葉が止まる。どうやら彼女は魅魔を見て固まってしまったらしい、そしてしばらくすると、勢いよくドアを閉めてしまった。
「お、おい、アリス?」
「帰って!」
普段の彼女には考えられない程、気性の荒い声がドアの向こうから発せられた。
何がどうなっているか分からないジンを尻目に、魅魔は悪辣な笑みを浮かべていた。
「酷いじゃないかアリス、元主人に対してそれは無いだろう?」
「誰が主人よ! 無理矢理させた癖に!」
「そもそも、喧嘩を売ったのはそっちで、負けたのもそっち、敗者は勝者の言うことを聞くもんさ」
「ともかく、貴女とは関わり合いたくないのよ! お願いだからさっさと帰って!」
「つれないな~アリスちゃん♪」
そう言って、魅魔は何でも無いように壁をすり抜け、家の中へと入って行った。
「ちょ!? 何で簡単に入れるのよ!」
「この程度の結界、造作もないさ。さーて、アリスちゃん♪」
「いやー!」
家の中からアリスの無情な悲鳴が上がる。
「あいつら、一体何をしているんだ?」
「いつもの事だから、あまり気にするな」
「そうか・・・それにしても――――」
(博麗神社の神にして悪霊で、魔理沙の師匠で、アリスの主人・・・・・・本当一体何者なんだ魅魔って)
ますます謎が深まる魅魔の存在であった。
―――――――――――
その後、アリスを巻き込み人里に訪れた魅魔一行。
アリスは泣きながら、自分の状況を嘆いていた。
「うう~、何でこんな事に・・・・・・」
「まあ、その・・・似合っているぞそのメイド服」
「全然慰めになっていないわよ~」
アリスは泣きながら言う。
今彼女は、いつもの洋服ではなく、魅魔が用意したメイド服を着用していた。
「さて、次は何処へ行こうか」
「確か命蓮寺が近いが―――」
「何か問題でも?」
「魅魔は悪霊なんだろ? 下手に白蓮に合わせたら、問答無用で成仏させるんじゃないかな?」
「良いじゃない別に。こんな悪霊、さっさと昇天させた方が世の為よ」
「聞こえてるぞアリス~、そんな口の聞き方がなっていないメイドお仕置きよ」
「痛い! 痛いから辞めて~」
魅魔はアリスのこめかみを拳でグリグリと回す。
余程痛いのか、アリスは既に涙目になっていた。
「おい、もうその辺にしておいてくれ」
「んー・・・やだ♪」
魅魔は悪戯な笑みを浮かべて言う。
どうやら彼女は幽香と同じ、弱い者いじめが好きなタイプらしい。
流石にこのままでは駄目だと思い、急遽話題を変える事にした。
「そうだ、命蓮寺の代わりに鈴奈庵に寄ろう。あそこなら魅魔も喜ぶだろうし」
「お、それは良いな。よし、そこに行く事にするか」
「鈴奈庵? なんだいそれは?」
「人里にある貸本屋で、あそこの一人娘の小鈴が妖魔本コレクターなんだ」
「ほう、それは面白そうじゃない、早速行ってみよう」
魅魔はアリスを解放すると、魔理沙と共に鈴奈庵に向かう。一方ジンは、アリスの側に駆け寄る。
「大丈夫かアリス?」
「ううっ・・・・・・酷い目にあった」
「一先ず、あまり魅魔の悪口を言わない方が良い。ああゆうのは、いじめる口実を探しているもんだからな」
「そうしておくわ・・・・・・」
フラフラのアリスを支えながら、ジンも魅魔達の後を追った。
―――――――――――
鈴奈庵に到着した四人は、早速中へと入って行った。
中には、いつもの通り小鈴が店番をしていた。
「いらっしゃいませー。本日はどのよう御用件で?」
「用って訳じゃないだが・・・・・・」
「はい?」
「私の師匠が帰って来てな、せっかくだから鈴奈庵を紹介しようと思って」
「ええっと、あそこにいる人ですか?」
小鈴は指した先には、既に本に熱中している魅魔とアリスの姿があった。
「なるほど、魔理沙が言うだけの事はあるわね」
「人里にこんな本があるなんて・・・完全にノーマークだったわ」
「そうでしょう♪ なんたって私は、人里一の妖魔本コレクター何ですから」
小鈴は自慢気に言うが、アリスはある懸念を抱く。
「だけど危険じゃない? 一般人がこんなのを所有して」
「私も言ったけど、本人は頑なに手放そうとしないんだよ」
「大丈夫なのそれ?」
「大丈夫です、何かあったら霊夢さんと魔理沙さんが何とかしてくれますから」
その何とも危機感の無い言葉に、魔理沙とアリスは呆れ果ててしまう。
すると魅魔は、何冊かの本を持ってカウンターにやって来た。
「これを貰おうか」
「はい、えーと・・・全部で九十六円になります」
「「「九十六円!?」」」
そのとんでもない値段に、三人は思わず声を上げる。
三人が驚くのも無理は無い、彼女が提示した値段は外の世界でいうと、九十万に匹敵するのだから。
「これで構わないかい?」
対する魅魔が出したのは、数枚の金色に輝くコインであった。
「ん? なんですかこれ?」
「ただの金貨だよ」
「そっか、金貨ですか・・・・・・え!?」
小鈴はマジマジと渡されたコインを見る。
それは確かに、本物の黄金の輝きを放っていた。
「魅魔様、その金は一体?」
「まさか、盗んだんじゃないでしょうね」
「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ! 外の世界の遺跡から持っていただけだよ」
「それって盗掘じゃ・・・・・・」
「トレジャーハントと言って欲しいね」
「あ、あの、御釣りは・・・・・・」
「ん? 釣りはいらない。取っておきな」
そう言って、魅魔は本を持って出ていった。
そんな魅魔の姿を見て、小鈴は――――。
「か、カッコイイ!」
「当然、なんたって私の師匠なんだからな」
こうしてまた一人、魅魔を慕う人物が増えたのであった。
―――――――――――
次に永遠亭に向かう事にした魅魔一行。
迷いの竹に足を踏み入れていた。
「はぐれないようについて来てくれ。下手したら迷うからな」
「道がわかるのかい?」
「俺の能力を使えば、迷わず永遠亭につける。安心してくれ」
「こういう時、ジンの能力は便利だよな」
一行はジンを先頭に、迷いの竹を歩き始める。
ジンは永遠亭へと向かった人々の軌跡を見ながら、進んでいく。
「・・・・・・待て」
不意にジンは足を止める。
そこは何の変哲の無い道だが、ジンには別に見えていた。
「どうしたんだジン?」
「・・・・・・この一帯にトラップが設置されている」
そう言って、ジンは地面をつつくと、落とし穴が現れた。
「あのうさぎの仕業だな・・・・・・」
「うさぎ?」
「永遠亭に住み込みで働いている妖怪兎だ。妖精みたいに悪戯好きで、こうして罠を作って人を嵌めるのが大好きな妖怪だ」
「何とも傍迷惑な妖怪だねえ」
「仕方ない、罠を潰しながら進むか」
こうしてジンは、道中仕掛けられた罠を潰しながら進む事になった。
しばらく歩いていると、助けを求める声が聞こえて来た。
「誰か~助けて~」
声の方を見てみると、足をロープに釣られ、逆さまになりながらも必死にスカートを抑えている鈴仙を見つける。
「おい鈴仙、大丈夫か?」
「あ、ジン! それに魔理沙にアリスにえっと・・・・・・」
「私は魅魔だよ。あんたが話に聞いていた悪戯妖怪兎かい?」
「それはていの事よ!」
「彼女は鈴仙、永遠亭の手伝いをしている妖怪兎だ」
「ふーん」
「何でも良いから降ろしてよ~」
「待ってろ、今すぐ降ろしてやる」
その後鈴仙は、ジンの手によって無事に地面に降りる事が出来た。
「ふう~助かった・・・ところで、皆は何しに来たの? 見たところ怪我も病気にもなっていないみたいだけど・・・・・・」
「この幽霊が、永遠亭を見てみたいらしくて、無理矢理付き合わされているのよ」
「アリス? 何でメイドの格好になっているの?」
「うっさいわね! 好きで着ている訳じゃないわよ!」
「そ、そんなに怒らなくても・・・」
「鈴仙、今のアリスは機嫌が悪いんだ。そっとしておいてくれないか?」
「まあ、良いけど。それよりも、永遠亭に行くんだのよね? なら一緒に行きましょう。私も帰る途中だったから」
「そうだな、他にも罠が仕掛けられているかも知れないし、一緒の方が安全だろう」
「よし決まりね。案内は任せなさい」
そう言って先導する鈴仙だが、数歩歩いた瞬間に落とし穴に落ちてしまった。
「・・・・・・ジンが先頭の方が安全だな」
「やれやれ・・・」
その後、鈴仙を救出し、改めて永遠亭に向かうジン達であった。
―――――――――――
永遠亭に到着したジン達は、そのまま客室に招待され、輝夜と談笑をしている最中であった。
「ふーん、博麗神社の神ねえ・・・あそこに神様がいたなんて初耳よ」
「長い間留守にしていたからね、あまり知られていないのさ」
魅魔と輝夜が楽しそうに話している時に、ジンは魔理沙に耳打ちをする。
「なあ魔理沙、魅魔は本当に博麗神社の神なのか?」
「ん? まあ、ある意味神だと思うな」
「嘘おっしゃい、彼女はただの悪霊よ。まあ、普通の悪霊より力は強いけどね・・・」
「それなら何で、神とか言っているんだ?」
「その昔、彼女は魔界ってところに攻め行って、魔界神を倒した事があるのよ。
そのせいで増長して、あれくらいなら自分も神になれるんじゃないかって思い上がっているのよ」
「詳しいなアリス」
「まあ・・・私も当事者だし、その辺の事情も知っているわ」
「つまり、魅魔は自称神って事か?」
「仮に神と言っても、祟り神類いだと思うわ」
「聞こえているわよアリスー♪」
「ひぃ!?」
「まったく、人を悪霊だとか、祟り神とか、縁起の悪い事を言うんじゃないよ」
「だって、本当の事――――」
「躾のなっていないメイドには、お仕置きが必要ね」
「か、勘弁して~」
こうして、魅魔によるアリスへのお仕置きが始まろうとした。
そんな様子を、輝夜はとても楽しいそうに見ていた。
「わー♪ まるで永琳と鈴仙みたいだわ♪」
「確かに、何となく配役が被っているな」
「なら魔理沙は、てい役だな」
「あんな兎詐欺と一緒にしないで欲しい」
「貴方達! 見ていないで助けなさいよ~!」
アリスの涙混じりの助けに応じたのは、ジンだけであった。
「魅魔、他にも寄る所があるから、アリスのお仕置きはまた今度にしてくれないか?」
「しょうがないねえ、保留にしておくよ」
「た、助かった・・・・・・」
「あら? もう行くの?」
「ああ、これから守矢神社に行く事になっているからねえ。悪いけど、失礼させて貰うよ」
「そう、名残惜しいけど、仕方ないわね。
楽しかったわよ魅魔」
「ああ、私もだ。また機会があったら、遊びに行くよ」
「ええ、いつでも歓迎するわ」
輝夜と別れを告げ、永遠亭を後にする魅魔一行。
その帰りの途中、自分の仕掛けた罠に引っ掛かった悪戯兎を見つけたが、スルーして守矢神社に向かうのであった。
「おいコラー! 私を無視するなー!」