東方軌跡録   作:1103

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今回は茨歌仙の話しです。
実は最新話が節分の話しでしたので、それを参考にして書きました。



節分と鬼

新年が過ぎ去り、二月となった。

霊夢達はもうすぐ迫る節分に向けて、準備をしていた。

 

「~♪」

 

「霊夢さん、豆を持って来ましたよ」

 

「そこに置いてちょうだい」

 

妖狐は霊夢に言われた通り、豆が入った袋を置いた。

 

「しかし、凄い量の豆ですね・・・」

 

「そりゃそうよ、豆まき大会をするのだから、これぐらいは用意して置かないと」

 

そう言って霊夢は、煮たった大豆を桶に入れる。

桶の中には、大量の大豆が入っていた。

 

「たくさん来てくれると良いですね」

 

「来るわよ、その為に色々と準備をしているんだから」

 

霊夢は妖狐が持って来た豆を鍋に入れ、再び煮出し始めるのであった。

 

「ところで、ジンさんは?」

 

「ジンには、サニー達と針妙丸を連れて、材料の買い出しに行っているわ」

 

「え? サニー達はともかく、針妙丸がですか?」

 

「そうよ、小槌の魔力が戻ったから、体を大きくしてジンの買い物について行ったわ」

 

―――――――――――

 

人里の市場に、ジンはサニー、ルナ、スター、針妙丸を連れてやって来ていた。

 

「こんなものか。皆、買い物付き合ってくれてありがとう、御礼に好きな物を買って良いぞ」

 

「「「「やったー♪」」」」

 

ジンにそう言われ、四人ははしゃぎながら店を見て回った。

 

「どれにしようかしら?」

 

「何でも良いって言ってたんだから、遠慮する事無いわ」

 

「でも、持ち物があるんだがら、一杯買ったら持ちきれないわよ」

 

「そっか・・・ねえ、針妙丸はどうするの?」

 

「私はこれ、新しい裁縫セット♪」

 

針妙丸は嬉しそうに、新品の裁縫箱を見せた。

 

「え? そんなのが良いの?」

 

「うん、使っていたやつは古くなってたから、新しいのが欲しかったんだ」

 

四人は楽しそうに話していると、背後から近づく影があった。

 

「そんなよりお菓子の方が―――」

 

「ん? どうしたの皆?」

 

「う、後ろ・・・・・・」

 

「後ろ?」

 

針妙丸は不思議そうに後ろを振り向く、するとそこに巨大な大鷲が立っていた。

 

「「「「うわー!?」」」」

 

四人は大慌てで、ジンの後ろに隠れた。

ジンは四人に、落ち着かせるよう言い聞かせた。

 

「落ち着け四人とも、この大鷲は竿打と言ってな、華仙のペットだ。だから襲ったりしない」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ、そうだよな竿打?」

 

ジンの問いに応えるように、竿打は大きく頷いた。それを見て、四人は安堵する。

 

「ところで、どうしてこんな所に?」

 

ジンがそう訪ねると、竿打は手振り身ぶりで事情を説明し始めた。

 

「何々?“お使いを頼まれたのだけれど、何を買うのか忘れてしまった”って?」

 

ジンの理解が正しかったのか、竿打は嬉しそうに頷いた。

 

「ジン、大鷲の言っている事がわかるの?」

 

「まあ・・・何となく意志疎通が出来るぐらいだ。これも修行の成果だな」

 

「「「「おおー!」」」」

 

四人は尊敬の眼差しでをジンに向けた。ジンは照れくさそうに、そっぽ向く。

 

「と、ともかく、このままじゃ、華仙に怒られるんだな竿打?」

 

その言葉に、竿打は大きく頷く。余程困っているのか、その動きはとても激しかった。

 

「仕方ない・・・手伝ってやるよ」

 

その言葉が嬉しかったのか、竿打はジンに抱きついた。

 

「お、おい、そんな抱きつくなよ・・・」

 

「ねえ、私達は?」

 

「霊夢達が待っているから、先に帰ってくれ」

 

「え~、何でも買ってくれるんじゃないの?」

 

「また今度埋め合わせするから、頼むよ」

 

「しょうがないわね・・・一つ貸しだからね」

 

「ああ、頼む」

 

そう言ってジンは、荷物をサニーに達に渡し、先に帰らせた。

 

「さて、先ずはいつも買い物している店に行くか」

 

ジンは竿打と共に、市場を歩き出した。

 

 

店にたどり着いたジン達。幸いにも、店主が買い物の品を覚えていた為、華仙が頼んでいた品物はすんなりと買えた。

 

「鷲がいつも買い物に来るから、大体何を買うのか覚えてるよ」

 

「いや助かる。ダメもとだったんだが、聞いてみるもんだな」

 

「これくらい御安い御用だよ」

 

ジンは品物が入った袋を竿打に手渡した。

 

「ほら、次からは忘れずにしろよ」

 

竿打は受け取り、大きく頷いてから、空へと飛び去った。

すると、後ろから声を掛けられた。

 

「こんにちはジン」

 

ジンは後ろを振り返る。そこには買い物袋を携えた咲夜の姿があった。

 

「咲夜か、こんにちは」

 

「あの大鷲と知り合いなのかしら?」

 

「まあな、知り合いのペットなんだ。咲夜も、竿打の事を知っているのか?」

 

「ここでは有名よ、以前は年寄りの大鷲が来てみたいだけど」

 

「そうなのか・・・全然知らなかったな」

 

「ところで、貴方も節分の準備で?」

 

「ああ、神社主催の豆まきをするんだ。良かったらレミリア達と一緒に参加しないか?」

 

ジンがそう誘うと、咲夜は少し困った表情をする。

 

「気持ちはありがたいんだけど・・・御嬢様は豆まきが嫌いなのよ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、だからうちでは鬼門巻きを食べるだけなのよ」

 

「鬼門巻き? 恵方巻きじゃなくて?」

 

「そうよ、鬼門の方角である北東を向きながら食べるのよ。意味は無いけど」

 

「そ、そうか・・・・・・それにしても、豆まきが嫌いか・・・」

 

ジンは咲夜の言葉で、ある事を考えるようになった。

 

―――――――――――

 

その夜、ジンは昼間の咲夜の話を霊夢に話ていた。

 

「まあ、レミリアが豆まきが嫌いなのは知っていたけど、それがどうしたの?」

 

「何て言うか・・・ちょっと釈然としないんだよな。皆が楽しめないなんて」

 

「世の中そんなものでしょ、出来る事もあれば、出来ない事もあるんだから」

 

「まあ、それはそうなんだが・・・俺としては、皆が楽しめるような節分がしたいんだ」

 

「どうするのよ? まさか豆まきをしないって言わないでしょうね?」

 

「そこまで言うつもりはない。そんな事すれば、折角萃香に鬼役を頼んだのに、申し訳無い」

 

「それじゃどうするのよ?」

 

「それは・・・考え中だ」

 

その言葉を聞いた霊夢は、溜め息をつきながら立ち上がる。

 

「考えるのは良いけど、節分の日はもうすぐよ。早めに考えをまとめて頂戴ね。

それじゃ、おやすみ」

 

そう言って霊夢は、居間を出ていった。

霊夢が行った後、ジンは寝転がり、天井を見つめた。

 

「・・・妙案がまったく浮かばないんだよな・・・・・・一体どうしたものか」

 

ジンはその後も考え続けたが、結局その日は何も思い付かなかった。

 

―――――――――――

 

それから数日後、この日は華仙の修行を受ける日で、ジンは華仙の邸で修行を行っていた。

いつも通り、座禅をしているのだが――――。

 

「・・・・・・むっ」

 

華仙は手に持っている警策で、ジンの肩を叩く。バシンという音が、道場に鳴り響く。

 

「くっ・・・・・・」

 

「乱れているわよジン」

 

痛みに耐えながらも、ジンは座禅を続けるが、その後何回も、警策で叩かれるのであった。

 

 

それから座禅が終わり、次の修行を行おうとした時、華仙に呼び止められる。

 

「ジン、そこに座りなさい」

 

そう言われ、ジンは素直に座り、華仙もまたジンの目の前に座りだした。

 

「それで? 何を悩んでいるの?」

 

「え?」

 

「今日の様子を見れば直ぐにわかるわ。その状態では、修行を行っても身に入らないでしょう?」

 

「ま、まあ・・・・・・」

 

「迷える者を導くのも、仙人の仕事よ。遠慮せずに話して」

 

そう言われて、ジンは気が楽になり、悩み事を打ち明ける事にした。

 

「実は・・・神社で行う予定の節分についてなんだが・・・・・・」

 

「せ、節分!?」

 

節分――という言葉に、華仙は上擦った声をあげた。

 

「どうした?」

 

「い、いえ、何でもないわ・・・・・・」

 

「? そうか、話は戻すが―――」

 

ジンは華仙に、誰もが楽しめるような節分にするにはどうすればいいか訪ねた。

 

「なるほど、それで悩んでいたのね」

 

「そうなんだ、何かいい案はあるか?」

 

「う~ん、そうね・・・あ、これなら良いんじゃない」

 

華仙は思いついた案を、ジンに伝えるのであった。

 

―――――――――――

 

節分当日。博麗神社では、多くの参拝客で賑わっていた。

そして鳥井には、“節分、豆料理大会”という看板が掛かっていた。

 

「揚げ豆腐はいかがですかー? 油揚げもあるよー」

 

「田楽ー、田楽はいらんかねー」

 

神社の境内には、多種多様な屋台が出ており、それぞれが豆に関する料理を出していた。

 

「物凄い盛況だな、豆料理大会は」

 

「自分から提案しておいて何だけど、ここまで人が来るとは思わなかったわ」

 

魔理沙と華仙は、鬼門巻きと書かれた屋台の所で、境内の様子を眺めていた。

すると咲夜が、太巻きを持って来た。

 

「私としては大助かりよ。このイベントで、御嬢様の機嫌が良くなったから」

 

「それは良いが・・・これは豆料理なのか?」

 

「いいえ、普通の太巻きよ。それでこっちが豆料理」

 

咲夜が次に出したのは、淹れたてのコーヒーであった。

 

「コーヒーが豆料理・・・・・・」

 

「何でもありだな・・・・・・」

 

二人は太巻きを食べながら、コーヒーを飲んだ。すると魔理沙が、ある疑問を口にする。

 

「ところで、どうして豆料理大会になったんだ?」

 

すると華仙はカップを置き、話始めた。

 

「鬼の由来を知っている?」

 

「いや、あまり知らないぜ」

 

「鬼とは、隠など隠された物から来ていて、人間の内部から生まれてくる物なの。

だから、大半の鬼は元人間なのよ」

 

「確かに、ジンなんか鬼に変身出来るからな」

 

「だから、豆や豆料理を食べて、鬼を追い出すのが、この大会の趣旨なのよ」

 

「ふーん、それじゃ豆まきはしないのか、ちょっと面白くないな・・・・・・」

 

魔理沙はつまんなさそうに呟く。すると華仙は、悪戯な笑みを浮かべた。

 

「豆まきはしないけど、代わりの物を撒くのよ」

 

「へ? それってどういう――――」

 

「鬼が来たぞー!」

 

すると境内の方から声が上がる。するとそこには萃香と、鬼人になっているジンの姿があった。

二人が出てくるのと同時に、霊夢が声を上げる。

 

「みんなー! 鬼が来たわよー! さあ、雪をぶつけて追い払えー!」

 

霊夢はそう言いながら、ジンと萃香と目掛けて雪玉を投げる。他の者も、霊夢と同じように投げ始める。

 

「何だ一体?」

 

「豆まきならぬ、雪まきね」

 

「見れば分かるが・・・どうして雪なんだ?」

 

「雪には雪ぐという言葉があってね、清め祓うという意味があるから、豆の代わりにちょうど良いでしょ?」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものよ」

 

二人はしばらく雪まきの様子を眺めた。

楽しそうに雪を投げる子供達の姿を見て、魔理沙は我慢できず立ち上がる。

 

「私も混ざってくるぜ!」

 

「いってらっしゃい」

 

華仙は魔理沙を見送り、彼女はその様子を静かに眺めた。

 

―――――――――――

 

鬼役をしている萃香は、とても楽しそうにしている一方、ジンは戸惑いながらも、鬼の役をしていた。

 

「お、鬼だぞー、食べちゃうぞー」

 

「「「鬼は外ー」」」

 

「うわっぷ! ぺっ、ぺっ、口に入―――痛っ!」

 

すると頭に痛みが走る。投げつけられた雪の中に、石が入っていた。

 

「誰だ! 雪に石を入れて投げた奴は!?」

 

ジンは辺りを見回すと、いかにも悪辣な笑みを浮かべた正邪とていの姿があった。

 

「お前らかー!」

 

ジンは二人に向かって走り出す。しかし―――。

 

「今よ! 者共ー!」

 

「「「おおー」」」

 

するとレミリア、フランの二人が子供達を引き連れ、ジン目掛けて雪を投げ始めた。

 

「うわっ! ちょっと待っ―――」

 

「「「「鬼は外ー」」」」

 

大量の雪玉を投げられ、ジンはたまらず逃げ出す。その後を、全員に追いかける。

 

「「「「鬼は外ー」」」」

 

「ただで済むと思うなよー!」

 

ジンは叫びながら、逃げ続けるのであった。

博麗神社の節分は、人も妖怪も大いに楽しめるものとなった。


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