本編でわけわからん説教が出ていますが、あまり気にしないでください。
冬が訪れ、幻想郷に雪が降る始めたある日。ジンは寺子屋の帰りで、雪の中を歩いていた。
「ふぅ~寒いな~、これは明日は積もるか?」
そんな事を呟きながら歩いていると、一体の幽霊を見掛ける。
何やらもの凄く慌てているようだった。
「ん? あれって・・・妖夢の半霊じゃないか、こんなところで何をしているんだ?」
半霊はジンの姿を見ると、腕を掴み、何処かへと連れて行こうとする。
「お、おい! 何処に連れて行くんだ!? 妖夢はどうしたんだ!?」
無意味だと思ったが、思わず半霊にそう呼び掛けるジン。
やがて、小さい雪山の前に連れて来られた。
「一体何なんだ? この不自然な雪山に何があるんだ?」
ジンの言葉を肯定するかのように、半霊は頷く。どうやら雪山を掘って欲しいようだった。
「やれやれ、一体何があるんだ?」
そう呟き、雪山を掻き分ける。すると、衣服の一部が雪山から現れた。
「まさか!」
ジンは急いで雪山を退かすと、そこには雪に埋もれていた妖夢がいた。
―――――――――――
博麗神社の居間では、ジンが霊夢達にこれまでの経緯を話していた。
「それで、雪に埋もれた妖夢を連れて来たわけ?」
「仕方ないだろ、あのまま放っておくわけにはいかない」
「まあ、ジンならそうするよね」
「そうですね、ジンさんの親切心は今に始まったことじゃないですから」
そんな話をしていると、巫女服の妖夢が居間にやって来た。
「どうもすみません。温泉だけでなく、服も貸してもらって・・・」
「別に良いわよ。それよりも、何で雪になんか埋もれていたの?」
「そ、それは・・・・・・」
妖夢は何処となく口をごもった。どうやら、あまり事情を言いたく無いらしい。
「言いたく無いなら、無理に言う必要は無いぞ。今日は雪が酷いから泊まっていけば良い。良いだろ霊夢?」
「まあ、一泊ぐらいならね」
「あ、ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」
霊夢に許しを得て、妖夢は博麗神社に一晩泊める事になった。
―――――――――――
翌日、妖夢はその後ジン達に礼を言って博麗神社を後にした。
それを見送ったジンと霊夢は一抹の不安を感じていた。
「大丈夫かな妖夢の奴・・・」
「あんたもそう思う?」
「ああ、何か思い詰めたような感じだったな」
「まあ、私達がとやかく言っても仕方が無いわよ」
「まあ、そうだが・・・・・・ん?」
すると一体の幽霊が神社にやって来た。
一瞬、妖夢の半霊かと思ったが、まったく別の幽霊であった。
「一体何だ?」
幽霊は一枚のメモを渡す。そこに書かれていたのは―――。
“霊夢へ、香霖堂に来てくれ。霖之助より”
そう簡潔に書かれていた。
「霖之助からだ」
「一体何なのかしら? 幽霊を使ってまで」
「何か困った事があったんじゃないか?」
「面倒だけど、行ってくるわ」
「珍しいな、てっきり無視するかと思った」
「霖之助さんに貸しを作っておけば、ツケが減るじゃない。
それじゃ、行って来るわ」
「行ってらっしゃい」
ジンは霊夢を見送って、いつも通り仕事を始めるのであった。
―――――――――――
その日の夕方、ジンは買い物から帰るところ、途方にくれている妖夢の姿があった。
不振に思ったジンは、彼女に声をかける事にした。
「 妖夢、こんなところでどうしたんだ?」
「あ、ジンさん・・・・・・」
「もうすぐ日が暮れるぞ、屋敷に帰らないのか?」
「・・・・・・ぐす」
すると突然、妖夢は泣き始めてしまった。
突然の事に、ジンは慌ててしまう。
「お、おい! 一体どうしたんだ!?」
「ううっ・・・・・・屋敷に帰れないんです・・・・・・」
「屋敷に帰えれない? 一体どういう事だ?」
「実は―――」
妖夢はジンに事情を話始めた。彼女の話によると、人魂灯と呼ばれる道具を探しているらしい。
人魂灯とは、幽霊を誘導する冥界の道具で、幽々子から預かった大切な道具らしい。
しかし、それを彼女が何処かで落としてしまい、最初は探していたのだが、やがてそれすらも忘れてしまって、何と一年以上も放置してしまったのだ。
その後、無くしてしまった事がバレてしまい、幽々子に『見つかるまで、帰って来なくていい』と、厳しく言われてしまったらしい。
「そりゃ、自業自得だな」
事情を聞いたジンの一言に、妖夢はますます涙目になった。
「酷い! 私だって、必死に探したんですよ!」
「だけどな妖夢。“ほうれんそう”をしなかったお前が悪い」
「ほうれんそう・・・? って、いくら何でもホウレン草ごときで、幽々子様の機嫌が取れる訳無いじゃないですか!」
「そっちのホウレン草じゃなくて! 社会用語のほうれんそうだ!」
「???」
いまいち意味がわかっていない妖夢に、ジンは丁寧に教えた。
「いいか、ほうれんそうは、“報告”“連絡”“相談”という三つの事を指す社会用語だ。
状況を説明し、事実を伝え、今後を話し合う。これらをそれぞれの頭文字を取って“ほうれんそう”と呼ばれている」
「ほほう、外にはそんな用語があったんですね」
「感心するのは良いが、今回お前はこの“ほうれんそう”をしなかった上、無くしたことさえ忘れ、しかも一年以上放置していたんだ。
幽々子じゃなくても、そりゃ怒るだろうな」
「ううっ・・・・・・返す言葉もありません・・・・・・」
「良いか、失敗は誰にだってある。どんな人間も、どんな妖怪にも、全てを完璧にこなせる奴なんていない。これは仕方ない事だ。
だが、問題事を隠す事だけはするな。問題が発生したのなら、先ずはその事をちゃんと話せ。問題を隠したって、大抵バレてしまうもんだからな」
「はい・・・・・・身を持って感じました・・・・・・」
妖夢は深々と反省しているようだった。
そんな妖夢にジンはこう言った。
「さて、うるさい説教はこれまでにして、帰るぞ妖夢」
「え?」
「どうせ行くところ無いんだろ? 今夜も神社に泊まって行けよ」
「い、良いんですか?」
「ああ、霊夢の事なら心配するな。俺がちゃんと話をつけておいてやるから」
「あ、ありがとうございます!」
先程沈んでいた表情とは裏腹に、妖夢の表情は一気に明るくなった。
―――――――――――
再び神社に戻って来たジンと妖夢は、霊夢達に妖夢の現状について説明していた。
「つまり、あんたはドジって白玉楼から追い出された訳ね」
「お、追い出されていません! 人魂灯を見つかるまで帰るなと言われただけです!」
「それを世間一般的には追い出されたって言うのよ」
「あう・・・・・・」
「霊夢、もうその辺にしておいてくれないか?」
「だって事実じゃない。加えて言うならば、人魂灯を見つかるまで、妖夢を神社に居させてくれって思っているでしょ?」
「うっ・・・」
霊夢に考えを見透かされたジンは、思わず言葉が詰まった。
霊夢はというと、何処か諦めたようなため息を放ちながら言う。
「はあ・・・あんたのお節介焼きは今に始まった事じゃないからね。半ば諦めているわよ」
「それじゃ―――」
「ただし! ただ飯食らいはご法度!
ここにいる間はちゃんと働いて貰うから、その辺は文句無いわよね?」
「はい! もちろんです!」
こうして、妖夢は博麗神社に厄介になる事になった。
―――――――――――
その後も妖夢は、博麗神社の仕事を手伝いながら、人魂灯の捜索をしていた。
しかし、以前手かがりを掴めず、数日が経過していた。
そして今日も、大した収穫も無く、妖夢は神社に戻って来た。
「今日も駄目だったか・・・・・・」
「すみません・・・・・・」
「まあ、手かがり無しで探しているんだ。早々に見つからないだろう」
「手かがり・・・・・・あ、そう言えば―――」
「何かあるのか?」
「探しに行く前に、幽々子様が人魂灯を灯したんです。だから、幽霊がたくさん集まっている場所にあるかも知れません」
「なるほど、それじゃ明日から幽霊を集まっている場所を探してみよう。今日はもう日が暮れるからな」
「わかりました・・・・・・」
二人が神社に入ろうとすると、ちょうど霊夢も帰って来た。
「ただいまー」
「お帰り霊夢、香霖堂の様子はどうだった?」
「全然駄目ね、幽霊がどんどん集まって来ちゃって、もうお手上げ状態よ」
「そうか・・・・・・ん? 幽霊?」
「霊夢さん! 香霖堂ってところに、幽霊が集まっているんですか!?」
「え、ええ・・・そうだけど・・・・・・」
それを聞いた妖夢は、直ぐ様走って行ってしまった。
「あ、おい! 妖夢!」
「何なの一体?」
「実は――――」
ジンは霊夢に、人魂灯の事について説明した。
「なるほどね、確かに霖之助さんなら拾っているかも知れないわね」
「ああ、色々と物を拾って商品にしているからな・・・」
「そうね・・・・・・ところで、妖夢は香霖堂の場所を知っているのかしら?」
「・・・・・・あ」
その後ジンは、香霖堂を探しにあちらこちら赴いた妖夢を探しに行き、二人が神社に帰って来たのは夜遅くだったのは言うまでもない。
―――――――――――
翌日、ジンと妖夢は朝早く香霖堂を目指して歩いていた。
「おい妖夢、いくら何でも早すぎるだろ。この時間店は開いていないぞ」
ジンの腕時計では、午前七時を指していた。恐らくこの時間帯で店を開いているのは、外の世界のコンビニ位であろう。
一方妖夢は、逸る気持ちを抑えきれずにいた。
「何を言っているんですか! せっかく手にいれた手かがり何ですよ! グズグズしていたら他の人に買われてしまいます!」
「いや、それは考え過ぎじゃないか?」
そんなこんなで、二人は香霖堂に到着した。そして案の定、店はまだ開いてはいなかった。
「まだ開店に時間はあるな・・・・・・」
「そんなに待っていられません! ごめんくださーい!」
妖夢はそう叫び、ドアを叩く。ハッキリ言って、妖夢の行動は店の人に多大な迷惑をかける行為である。ジンはそれを止める事にした。
「おい妖夢、いくら何でもそれは迷―――」
ジンは言葉を切り、妖夢を後から抱き、そのまま後方に跳んだ。その数秒後、二人がいた場所から屋根の雪が落ちて来た。恐らく、妖夢が扉を叩いたせいで雪が落ちて来たのだろう。
「ふう、危ないところだったな妖夢」
「―――――」
「妖夢?」
「キ、キャァァ!!」
妖夢は悲鳴を上げながら、ジンにアッパーカットを放つ。妖夢の拳は楽々とジンの顎を捉えた。
「ぐぼっ!」
ジンはそのまま気を失ってしまった。
それからしばらくして、ジンは香霖堂で目を覚まし、妖夢はジンに頭を下げていた。
「本当に申し訳ないありません! 助けていただいたのに、殴ってしまって・・・・・・」
「いやこっちこそ、不可抗力とはいえ、胸を触ってしまったんだ。殴られて仕方ない」
ジンが妖夢を抱え時、偶然にも彼女の胸を触っていて、それが原因で、妖夢に殴られてしまったのだ。
そんな二人のやり取りを見ていた霖之助は、軽く咳を出す。
「こほん、どっちが悪いかなんてのは後で決めてくれないか? それよりも、君達の目的の品はこれだろ?」
そう言って霖之助は、手のひらサイズの行灯をカウンターに置いた。
「あ、それです! 良かったー」
妖夢は安堵しながら、人魂灯を手に取ろうとしたが、霖之助はそれを取り上げる。
「おっと、これはうちの商品だ。タダでは渡せないよ」
「え!? そんなー!」
霖之助の言葉に、妖夢は落胆する。流石のジンも、擁護は出来なかった。今回はどう見ても、彼女に非があるのだから。
「・・・・・・霖之助、その人魂灯はいくらだ?」
「そうだね、話に聞く限り、これは冥界にしか無い道具らしいから、値段はかなり張るよ」
それを聞いたジンは頭を抱えた。
妖夢は無一文で、ジンも持ち合わせがあまり無い。神社に戻れば、あるのだろうが、流石に霊夢がそれを許してくれないだろう。
そこで、ジンがとった行動とは――――。
「おーい、遊びに来たぜ香霖」
香霖堂にやって来た魔理沙。そこで、ストーブで暖まっているジンと妖夢の姿があった。
「ん? ジンに妖夢じゃないか」
「ああ・・・・・・魔理沙か・・・・・・」
「こ、こんにちは・・・・・・」
二人はガタガタと震えながら、ストーブで暖まっていた。
「珍しいなこんな朝から香霖堂に来ているなんて、何をしていたんだ?」
「二人には雪かきをしてもらっていたんだ」
奥から霖之助が現れた。その手には御茶があり、それをジンと妖夢に手渡す。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
「た、助かる・・・・・・」
「ふーん、通りで屋根や店の周りに雪が無いわけだな。それにしても、何で雪かきなんか?」
「ちょっと欲しい物があってな・・・・・・霖之助と交渉して、雪かきをするから譲って欲しいと頼んだんだ」
「二人とも頑張ってくれたからね。おかげで、屋根と店の周り雪が無い訳だ」
そう、ジンの提案とは香霖堂の雪かきを受け持つ事であった。
こうして二人は香霖堂の雪かきを朝から開店までやり続けたのだ。
「ジンさんすみません・・・・・・こんな事まで手伝ってもらって・・・・・・」
「困った時は御互い様だろ・・・・・・」
「ジンさん・・・・・・」
「今度俺が困った時は、助けてくれよ」
「はい! もちろんです!」
妖夢は、満面の笑顔で答えた。
こうして妖夢は無事に人魂灯を回収し、白玉楼に帰って行った。
問題を隠したって、いずれバレてしまう。自分はそう考えています。
バレないようにするには、問題を密かに解決し、問題を隠していた事実を無かった事にする以外に無いと考えています。
でも、やはり一番の解決策は、人に相談することだと思います。