詳しいことは本編と後書きで。
冬が近づくなか、博麗神社に新しい施設が出来た。
「冬になる前に完成して良かったな」
「ええ、これで参拝客が寄り付くわね。宣伝の方は?」
「抜かりなく、明日の朝刊に載ると思う」
「いよいよ博麗温泉始動ね」
「これから忙しくなりそうだ」
二人は新しい出来た温泉を見ながら、これからの事で胸を踊らせていた。
―――――――――――
数日後、文々新聞の宣伝が項を称したのか、温泉目当てで参拝客が訪れていた。
「うん、いい感じじゃない。流石の温泉効果ね」
「時期が良かったからな、それに無料効果も効いていると思うぞ」
そう温泉は無料で、誰でも気軽に入れるようになっている。
これは、遠くまで来てくれる参拝客への配慮であり、無料にする事で、多くの参拝客に来てもらおうとジンが考えた案である。
実際に効果があり、それも伴い賽銭と商品の売れ行きが良くなった。
「ふい~、さっぱりしたぜ」
魔理沙が温泉施設から出て来た。彼女もまた、博麗温泉の常連客である。
「いや~温泉がただで入れるなんて、もう最高だぜ♪」
「最高ついでに、御賽銭を入れたら?」
「それはまた今度な」
そう言って、魔理沙は箒に乗って飛んで帰っていった。
次にやって来たのは、道子の物部布都と亡霊の蘇我屠自子の二人がやって来た。
「こんにちはジン、霊夢」
「温泉が出来たと聞いてな、来てやったぞ」
「ああ、屠自子に布都か、いらっしゃい」
「あら? 貴女達二人だけ?」
霊夢がそう聞くと、屠自子と布都は何処か残念そうな表情をした。
「太子様はおられぬ」
「誘ったんだけど、断られた」
「断られた?」
「そうなのだ、折角三人で一緒に入れると思ったのだが・・・」
「何か用事があったんじゃないか? また今度誘えば良いんじゃないか」
「そうね・・・また日を改めて誘ってみるわ。それじゃ―――」
二人は一礼をして、温泉施設に入って行った。
その後、特に問題も起きず、博麗温泉は順調に参拝客を集めていった。
―――――――――――
その夜、参拝客がいなくなった後ジンは、温泉の清掃を行おうとしていた。
最初に男湯から始めようとしたのだが、誰もいない筈の温泉に人の気配があった。
(ん? 一体誰だこんな時間に入っているのは?)
こんな夜遅く来る人間はいない。ならば妖怪の類いが温泉に入っているのだろうと考えたジンは、その妖怪に注意をしようと思い、戸を開けた。
「悪いが閉店時間だ。今日はもう――――」
「え?」
そこには一人の女性、豊聡耳神子の姿があった。
ジンは思わず戸を閉めた。
「・・・・・・え?」
あり得ないような光景を見たジンは混乱していた。
(何で神子がこんな時間に? いや、疑問に思うのはそこじゃなくて、何故彼女が男湯に入っていたのかだ!)
ジンは考えが纏まらず、再び戸を開けて確認するが、やはりそこには神子の姿があった。
「ど、どうも・・・・・・」
「――――」
ジンは再び戸を閉め、彼女がいる事が幻ではない事を確認すると、戸を越しで声を上げた。
「何で男湯に居るんだー!?」
それから暫くして、落ち着きを取り戻したジンは、神子に事情を聞く事にした。
「それで? どうしてこんな時間に? しかも男湯なんか・・・・・・」
「それについては、私の境遇について話さなければなりません。聞いてくれますか?」
「ああ、別に構わないが」
「私は尸解仙で仙人になったのは知っていますね?」
「ああ、復活した時に霊夢達と一悶着あったんだろ?」
「まあ、その時の話は置いといて、その時私の体に異変が起きたのです」
「異変? 特におかしいようなところは無いが・・・」
「あったのですよ。術の影響で、私の体が女性になっていたんです」
「・・・・・・え?」
「私が仏教を広めた偉人だと、君だって知っていますね?」
「ああ、歴史の授業で習った」
「そこで疑問に思いませんでしか? 書物では私は男となっている筈なのに」
「まあ・・・歴史なんて時が経てば捻まがるからな。特には思わなかった」
それを聞いた神子は、残念そうにため息を吐く。
「・・・・・・ともかく、気がついたら私は女性になっていたのです」
「なるほど、それで屠自子達の誘いを断ったり、こんな夜遅くに温泉に入っていたわけか」
「そういう事です。いくら体が女性になってはいるとはいえ、元は男ですからか、女湯に入るのは抵抗ありますし、かと言ってこの姿で男湯に入るわけにもいかないので」
「そうだよな・・・よしわかった。この時間は神子が貸しきって良いぞ」
「え? いいのですか?」
「大丈夫だろう。この時間なら参拝客は来ないし、神社で男なのは俺だけだ。だから安心して入って構わない」
「ああ、君には感謝します」
神子はジンに頭を下げて礼を言う。
それを見たジンは思わず恐縮してしまう。
「いや、そんな頭を下げる事でも・・・・・・」
「迷惑ついでに一つ頼みがあります。この事を他言無用にしてもらいたい」
「え? 何でまた?」
「こういう事で悩んでいる事を世間には知られたく無いのですよ」
「まあ、そういうことなら黙っておく」
「恩に着ます」
こうして神子は夜遅くに、温泉に来るようになった。
しかしこれが、騒動の始まりであった。
―――――――――――
それから数日後、珍しく屠自子と布都の二人が霊夢に相談を持ち掛けていた。
「最近神子の様子がおかしい?」
「そうなのだ、最近太子様は夜な夜な一人で出掛けられておられる」
「しかも、理由を話してくれないのよ」
「なるほどね・・・でもどうして私に相談するのよ? こういうのはジンに相談すれば良いでしょ」
「そうなのだが・・・何故か相談に乗ってはくれなかったのだ」
「どういう事?」
「私にもわからないわよ・・・」
霊夢は奇妙に思った。ジンなら真っ先に相談に乗る性格の筈、乗らない訳がない。
これは何かあると、彼女の勘が告げた。
「・・・わかったわ、協力してあげる」
「おお! 恩に着るぞ!」
「それで? 一体どうするつもりなの?」
「気が引けるけど、やはり太子様を尾行するしかないと思います」
「尾行ねぇ・・・あ、うってつけの奴らがいたわ」
「うってつけ?」
「近くに住んでいる三妖精、あいつらの能力なら尾行なんて容易いわ」
「それは頼もしい、それじゃ今夜にでも」
「わかったわ」
こうして太子の尾行をする事になった霊夢であった。
―――――――――――
その夜、太子が出てきたのを確認すると、霊夢達は行動を開始した。
「行くわよ、三人ともお願いね」
「任せなさい! 二人とも良いわね」
「「おお!」」
サニーは光を屈折させ、全員の姿を消し、ルナは音を消し、スターは太子を見失わないように位置を常に把握していた。
「それじゃ、追跡を開始するわよ」
「「「「「おお!!」」」」」
こうして太子の尾行が開始された。
サニー達のおかげで、霊夢達は太子に気付かれずに尾行を続けられた。
太子は人目を気にしながら、徐々に博麗神社に近づいて行った。
「どうやら神社に用があるようだの」
「でも、こんな時間に何の用かしら?」
霊夢は不思議そうに思っていると、太子は神社の奥へと進む。そして博麗温泉の場所まで辿り着く。そしてそこには――――。
「なっ!?」
「そ、そんな・・・・・・」
そこにはジンの姿があった。まるで太子を待っていたかのように。
二人はとても親しそうに話していた。
「まさか・・・逢い引き!?」
「いや、太子様に限ってそんな―――あ、二人とも!」
霊夢と屠自子は、無意識にジンと神子の前に姿を現す。
「太子!」
「ジン!」
「「これは一体どういう事!?」」
二人の凄い剣幕に、ジンと神子は圧倒されてしまう。
「うわぁ!? 霊夢!?」
「屠自子!? どうしてここに!?」
「太子が夜な夜な一人で出歩かれるので、後をつけたのです! そしたら―――」
「どういう事か、説明して貰えるわよねジン」
屠自子は今にも泣きそうであり、一方霊夢はもの凄く怒っていた。
そこで神子は、現状の把握を試みる。
(彼女達の怒りと、私達の状況を第三者が見た場合の事を考慮すると・・・どうやら私とジンが逢い引きまたは不倫をしていると勘違いしているらしい)
状況を把握した神子は、直ぐ様誤解を解こうと口を開く。
しかし、この時神子は、重大な見落としをしていたのだ。
「待ってください、貴女達は何か勘違いを―――」
「待ってくれ霊夢、神子を誘ったのは俺だ」
「「「「え?」」」」
ジンを除く全員が、呆気に取られてしまった。
そんな事をお構いなしに、ジンは言葉を続ける。
「俺がこの時間に来るように提案したんだ。この時間帯なら誰も来ないと思ったから」
(な、何を言っているんですか君は!? そんな風に言ったら余計―――)
そこで神子は気づく、ジンは霊夢が怒っているのは、神子に温泉を無断で貸しきっている事だと本気で思っている事に。
(こ、これは不味い!)
神子はそう感じたが、既に手遅れであった。
霊夢と屠自子の怒りは頂点に達していた。
「ふーん・・・あんた私が知らない所で、そんな事をしてたんだ」
「私の夫をたぶらかすとは、覚悟は出来ているな?」
「ん? たぶらかす?」
ようやくジンは、会話が噛み合っていない事に気がつくが、二人は既にスペルカードを手にしていた。
「いっぺん地獄に落ちろ!」
「ぶっ飛ばしてやんよ!」
「え! ちょ――」
ジンは最後まで言葉を言えず、二人のスペルカードによって彼方に吹っ飛ばされた。
―――――――――――
翌日、永遠亭には両手両足にギプスを着け、包帯をあちらこちらと巻かれて入院しているジンの姿があった。
永琳はカルテを見ながら、ため息をつく。
「まったく、普通だったら死んでいるわよ。少しは加減をしたらどうなの霊夢?」
永琳は見舞いに来ていた霊夢に叱責する。
流石にやり過ぎたと自覚があるようで、霊夢は俯きながら呟く。
「面目ない・・・・・・」
「まあともかく、しばらくは絶対安静よ。良いわね」
そう言って、永琳は部屋を退室した。
残された霊夢とジンは、どこか気まずそうであった。
「・・・・・・何か、ごめんね。変に疑ちゃって」
「いや、こっちも誤解を招く言い方して悪かった」
「・・・あんたって、変な奴よね。被害者なのに、加害者に謝るなんて」
「そりゃ元をただせば、神子の事を話さず、無断で温泉を貸しきらせたんだ。完全に非が無いといえないだろ? それに―――」
「それに?」
「反省をしている人間に、責めるような事をしたくない」
「・・・本当に、お人好しなんだから」
そう言って、霊夢は御見舞いの林檎を食べやすいように切り分け、それを一つジンに差し出す。
「ほら、食べさせて上げるから口を開きなさい」
「え? いや、でも・・・・・・」
「私だって恥ずかしいんだから、人が来る前に食べなさい」
霊夢は顔を真っ赤にしながら言う。
ジンもまた顔を赤くしながら口を開き、霊夢はその口にリンゴを入れる。
「美味しい?」
「ん、美味い」
「もう一つどう?」
「えっと・・・食べる」
霊夢は再びジンにリンゴ食べさせる。
特に会話がなかったが、それでも二人は心地よく感じたのであった。
一方、扉越しでは、そんなジン達の様子を密かに覗いていた者達がいた。
「は、入りづらいぜ・・・・・・」
「これこれ、あまり盗み見はいけませんよ」
「そう言う太子だって、気になっているじゃありませんか」
「こ、これは、入るタイミングをうかがっているだけです!」
魔理沙、神子、屠自子の三人はジンの見舞いにやって来たのだが、何とも入りづらい雰囲気を感じ、こうして扉の隙間から盗み見ているのだった。
「どうします? 日を改めますか?」
「そうですね・・・今入ったら、間違いなく夢想封印なが放たれるでしょうね。ここは日を改めて―――」
「何をしておられるのだ太子?」
遅れて布都がやって来た。
いまいち状況が把握出来ていないようで、声も小さくしていなかった。
三人は少し慌てた。
「お、おい! 声を小さくしろ! 気づかれ―――」
「誰にかしら?」
声と共に扉が開かれ、そこには大層御立腹な霊夢の姿があった。
「おお、霊夢ではないか、そなたもジンの見舞いに来ていたのか」
布都は無邪気にそう言うが、霊夢の目には彼女は写っておらず、かわりに無粋な三人を睨み付けていた。
「れ、霊夢? わ、私達は別に覗いていた訳じゃ―――」
「そ、その通り! 病室の様子を見ていただけだから!」
「屠自子! それでは盗み見ていたのを認めるようなものですよ!」
「し、しまった!」
「あんたら・・・覚悟は出来ているんでしょうね!」
その言葉と同時に、永遠亭の一角が爆発した。
その後、ジンの入院費と永遠亭の修理代で、博麗神社の財政が再び悪くなってしまうのであった。
豊聡耳神子の設定ですが、元が男ということにしました。
これにはネット上の性転換疑惑もあって、元が男性にした方が面白いじゃないかな?と考え、このような設定にしました。
あくまで独自設定なので、実際は違うかもしれません。