東方軌跡録   作:1103

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今回はリクエストがあったので、三月精の話しにしました。
最近ネタ不足に陥っているので、あまりリクエストに応えられるかどうかわかりませんが、可能な限り応えたいと思います。


季節外れの蛇のいくち

ある日の事、ジンはサニー達と共に茸狩りをしに魔法の森に訪れていた。

 

「よーし、誰が多くの茸を見つけるか勝負よ!」

 

「違うでしょ、誰が珍しい茸を見つけるかよ」

 

「いーえ、美味しい茸の方が良いわよ」

 

「いきなり勝負方法が別れたな・・・」

 

「まあまあ、勝負の判定は、このキノコマスターの魔理沙様が判定してやるぜ」

 

茸の専門家として同行してもらっている魔理沙が、自身を持って言った。本当にこういう時は頼りになるなと、ジンは思った。

 

「よーしやるわよ! 一番ビリは罰ゲームだからね」

 

「皆頑張れよー」

 

「何を言ってるのジン? 貴方も参加するのよ」

 

「え? 俺も?」

 

「もちろんでしょ、皆でやるから意味があるのよ」

 

「・・・わかった。やるからには手加減しないからな」

 

「それじゃ、私がスタートの合図を出すぜ。

よーい・・・スタート!」

 

魔理沙の合図で始まった茸狩り競争、はたしてジンは勝利する事が出来るのか?

 

茸狩りが始まってしばらく経過した。

ジンは取り合えず、茸を手当たり次第集める事にした。

 

(美味いかどうかは知らんが、数があれば当たるだろう)

 

そう思い、明らかにヤバそうな茸であっても篭に入れるようにしていた。

そんな時に、サニーの呼ぶ声がした。

 

「みんなー! こっちに来てー!」

 

「何だ一体?」

 

不思議に思いながらも、サニーの元へ行くジン。

他の皆も同様に、サニーのところに集まった。

 

「一体どうしたんだ?」

 

「いくちを見つけたのよ!」

 

「いくち? 別に珍しい物じゃ―――」

 

「凄い数のいくちなのよ! ちょっと見てよ!」

 

サニーが指を差す先には、螺旋状に群生していたいくちがあった。

 

「これは・・・・・・」

 

「凄ーい! こんなたくさんのいくちなんて初めてみた!」

 

「悔しいけど、今回はサニーの勝ちね」

 

「えっへん」

 

サニーは勝ち誇った表情をしたが、魔理沙は何とも微妙な表情をしていた。

 

「うーん・・・このいくちは止めておいた方が良いな」

 

「え? 何で?」

 

「季節外れのいくちは、ろくなもんじゃないのが多いんだ」

 

「それじゃ、食べれないんですか?」

 

「いや、食べれない事は無いとは思うが・・・うーん」

 

どうした物かと魔理沙が考えていると、ジンはいくちを一つ摘み上げ、それを口にする。

 

「お、おい!」

 

「――――うん、かなり美味いぞ」

 

「え、本当?」

 

「ああ、これを鍋にすればもっと美味くなるんじゃないか?」

 

「よーし、みんなで採るわよー」

 

サニー達は次々といくちを取り始める。

一方魔理沙は、いくちを食べたジンの身を案じていた。

 

「ジン、本当に何とも無いのか?」

 

「ん? 特に何とも無いが?」

 

「そうか・・・でもなぁ」

 

「このいくちに何があるのか?」

 

「いや、私の思い過ごしなのかも知れない。あまり気にするな」

 

「?」

 

ジンは少し疑問を抱いたが、あまり深く追求する事はしなかった。

その後、いくちを採れるだけ採り、その日の茸狩りは終了した。

 

―――――――――――

 

その夜、博麗神社ではジンとサニー達が採ったいくちとその他食べれる茸で茸鍋を食べていた。

 

「うーん♪ 美味しいじゃないこのいくち」

 

「そうですね、この歯応えがたまりません♪」

 

「おかわり!」

 

「はいどうぞ」

 

とても好評のようで、霊夢、妖狐、針妙丸は美味しいそうに食べていた。

 

「それにしても、魔理沙も一緒に食べれば良かったのに」

 

茸狩りのあと、魔理沙も食事に誘ったのだが、珍しく誘いを断ったのだ。

そんな話をしていると、ルナがポツリと言う。

 

「そう言えば・・・魔理沙さん、このいくちに対してあまり良くない事を言っていたな」

 

その一言で、全員の箸が思わず止まる。誰もが一抹の不安を感じた。

 

「・・・だ、大丈夫だろ、食べても何ともなかったんだ」

 

「遅効性の毒かも知れないよ?」

 

その一言で、再び箸が止まる。既に全員がそれなりの数を食べてしまったからである。

 

「もうこうなったら、食べれるだけ食べてやる!」

 

「そうね! 毒と言っても、体を少し壊す程度の筈よ!」

 

「あ、おい! そんなに自分達だけで食べるな!」

 

ジンの制止を聞かず、サニーとスターは鍋を食べ尽くしてしまった。

 

―――――――――――

 

翌日、特に体の異変は起きず、ジン達はいつも通りに過ごしていた。

 

「特に異常はなかったみたいね。それだったらもっと食べておけば良かった」

 

「サニー達が残ったいくちを採りに行ったから、また直ぐに食べれるだろう」

 

「そうね、今度は揚げてみようかしら」

 

そんな話をしていると、魔理沙が箒を乗って神社にやって来た。

 

「よう二人とも」

 

「あら魔理沙、いくちなら残っていないわよ」

 

「いや、ただの様子を見に来ただけだ。もっともその様子だと大丈夫そうだな」

 

「やっぱり、あのいくちには何かあったのか?」

 

「そうだな・・・三すくみを知っているか?」

 

「三すくみ? 確か蛙と蛇と蛞蝓の事か?」

 

「ああ、不思議に思わなかったか? どうして蛇は蛞蝓に弱いか」

 

「そうよね・・・蛇は蛙を食べ、蛙は蛞蝓を食べるのは知っているけど・・・・・・」

 

「蛞蝓が蛇に勝つなんて想像出来ないよな」

 

「ああ、そこであのいくちが出てくるんだ」

 

「どうしていくちなんだ?」

 

「昨日見た季節外れのいくちの群生があっただろ? あれは蛞蝓が蛇を溶かし、いくちにした跡なんだ」

 

「え? それじゃ昨日のいくちは―――」

 

「蛇の成れの果てって訳」

 

それを聞いた二人は驚きを隠せなかった。魔理沙は言葉を続ける。

 

「それと文献で読んだんだが、そのいくちは溶かされた蛇によって美味しかったり不味かったり、毒を持っていたりとするから、みだりに食べない方が良いって」

 

「なるほど、それであんな微妙な表情をしていたのか」

 

「まあ、今回のいくちは当たりみたいだったな。食べておけば良かったぜ」

 

「それなら心配ないぞ、今サニー達が残ったいくちを採りに行ったからな」

 

「残念ながらそれは無理な話だ。恐らくいくちはもう残っていない」

 

「ん? どういう事よ?」

 

「蛞蝓は蛇を一晩でいくちにした後、次の晩で残さず全部食べてしまうから、恐らく食いつくされているだろう」

 

「え、そうなの?」

 

「それじゃ、あのいくちはもう食べられないのか・・・・・・」

 

魔理沙の話を聞いた二人は、何処か残念そうであった。

 

 

夕方、何も採れずに帰って来たサニー達に、ジンは魔理沙の話を伝えた。

 

「そうだったんだ・・・それじゃ何処にも残っていないわけね」

 

「そう言う事だ。それに、次のいくちが美味いとも限らないから、新しい群生を見つけても食べない方が良いって言ってた」

 

「うーん・・・こんな事ならもっと採っておけば良かった」

 

サニーとルナは非常に残念そうにしていた。しかしスターだけは違っていた。

 

「それなら、蛇を捕まえて蛞蝓に溶かしてもらえば、美味しいいくちが手に入るって事よね」

 

「おお!」

 

「流石スターね!」

 

サニーとルナは、スターの案に賛成していた。しかしジンは、その考えに不安を感じていた。

 

「お、おい、そんな安直に決めて――――」

 

「それじゃ、明日から蛇を捕まえに行くわよ!」

 

「「おおー」」

 

そう言って三人は、ミズナラの木へと帰って行ってしまった。

ジンはますます不安をかんじるのであった。

 

―――――――――――

 

次の日、サニー達は蛇を捕まえようと魔法の森を訪れていた。その中には、心配で同行を申し出たジンの姿もあった。

 

「それで、探すあてはあるのか?」

 

「こういう時こそ、スターの出番よ」

 

「そういうこと、ちょっと待ってて」

 

スターは能力を使い、周囲の動物の位置を探る。すると――――。

 

「あ、向こうに大きい反応があるわ」

 

「もしかして大蛇かしら!」

 

「行ってみよう!」

 

「へ? 大蛇?」

 

ジンは耳を疑った、確か自分達は蛇を捕まえに来た筈。するとサニーが得意気に言う。

 

「大蛇を捕まえて蛞蝓に溶かせば、もの凄い量のいくちが手に入るじゃない」

 

「いや、その前にどうやって捕まえ―――」

 

「皆行くわよ!」

 

「おおー!」

 

ジンの言葉を最後まで聞かず、三人は先へと行ってしまう。残されたジンはいうと―――。

 

(・・・いつでも逃げれるようにしておこう)

 

そう思いながら、サニー達の後を追うジンであった。

 

スターの能力頼りに森の奥へと進んで行くと、一匹の大蛇を見つける。

 

「うわ~大きいわね・・・」

 

「これよこれよ、私達が探し求めたのは」

 

「よーし、早速捕まえるわよー」

 

「「おおー」」

 

サニー達は、持って来た虫網を手に、大蛇に近付こうとした。

流石に黙っている訳にはいかないと思ったジンは、三人に根本的な事を告げる。

 

「三人とも、意気込むのは良いが・・・どうやって捕まえるんだ?」

 

「え? 網でこう―――」

 

「そんな小さい網で捕まえられるのか?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

三人は持って来た網と大蛇を見比べる。明らかに大蛇の方が大きかった。

 

「ま、まあ、こんな日もあるわよ」

 

「こんな日も?」

 

「大抵いつもの事な気がする。サニーは何処か抜けているのよね」

 

「何よ! 二人だって気付かなかったじゃない!」

 

「お、おい、大きな声を出すな! 大蛇に気づかれるだろ!」

 

「大丈夫よ、ルナが音を消しているから」

 

「え? 私、能力使っていないわよ」

 

「え?」

 

すると背後から気配がした。サニーは恐る恐る振り向くと、そこには自分達を睨み付けている大蛇の姿があった。

 

「あ・・・・・・」

 

サニーは大蛇に睨まれ、動けなくなっていた。その間も、大蛇はゆっくりと口を開いていた。

 

「サニー!」

 

ジンは叫ぶと同時に、石を大蛇に投げつける。

 

「キッシャー!?」

 

大蛇が怯んだ隙に、サニーを抱え走り出す。

 

「皆逃げるぞ!」

 

ジンの言葉と同時にルナとスターも走り出した。

 

「キッシャー!!」

 

石を投げられた事に怒りを感じたのか、大蛇はもの凄いスピードでジン達に迫る。

 

「ジン! もっと早く! 追いつかれるわよ!」

 

「これが精一杯だ!」

 

「サニーだけずるいじゃない! 私もおぶって!」

 

そう言ってスターは、ジンの背中に飛び乗る。その反動で、ジンは危うく転びそうになった。

 

「のわぁ!? 急に飛び乗るなスター!」

 

「みんな待ってよ~キャア!?」

 

「ルナ!? くっ、サニーとスターは先に行け!」

 

ジンはサニーとスターを降ろすと、転んでしまったルナの元へ駆け寄ろうとする。

しかし、大蛇の方もルナに近づきつつあった。

 

(くっ、間に合うか!?)

 

ジンは全速力でルナの元へと走った。どうにか大蛇より先に彼女の元へと駆けつけた。

 

「ルナ! 立てるか!?」

 

「う、うん・・・・・・」

 

ルナを助け起こすジンだったが、既に大蛇が目の前に来ていた。

 

「ジ、ジン!」

 

「くっ、」

 

ジンはルナを庇うように抱きかかえる。それが彼が出来る精一杯の行動であった。

そんな行動を嘲笑うように、大蛇は二人に牙を向ける。

 

「シャアー!!」

 

「マスタースパーク!」

 

魔理沙の声と共に、マスタースパークが大蛇に放たれた。

大蛇は黒焦げになり、地面に倒れた。

 

「ふう、危ないところだったなジン」

 

「魔理沙か・・・・・・助かった」

 

ジンは危険が去った事に、安堵した。

すると向こうから、サニーとスターが駆け寄って来た。

 

「「ルナー!」」

 

「サニー! スター!」

 

それを見たルナも、二人の元へ駆け寄る。三人はお互いの無事を噛み締めあった。

 

「ところで、どうしてこんな所に?」

 

「実は―――」

 

その後、ジンは魔理沙にこれまでの事情を説明した。

 

「なるほどな、確かにその方法なら安全かつ美味しいいくちを手に入るな。だが、いくらなんでも大蛇はハードル高すぎるだろ。私が来なかったら、喰われていたぞ」

 

「面目ない・・・・・・」

 

「まあ、無事だったから良いさ。もうこんな無茶をするんじゃないぞ」

 

「ああ、わかった」

 

「よろしい、それじゃ私は帰るからな。ジンも気をつけて帰れよ」

 

そう言って魔理沙は、その場を去って行った。

ジンもサニー達を呼び、帰る事にした。

 

―――――――――――

 

後日、魔理沙がいつものように博麗神社を訪れる。しかし、境内には誰もいなかった。

 

「おかしいな・・・裏手か?」

 

気になって裏手に回ると、そこには何やら準備をしているジンの姿があった。

 

「何をしているだジン?」

 

「お、来たか魔理沙、見ての通りいくちを焼こうとしているんだ」

 

そう言ったジンの側に、いくちが置かれていた。

 

「そのいくち・・・もしや」

 

「ああ、蛇のいくちだ」

 

「こりないなお前らも、今度は毒に当たるかも知れないのに」

 

「これは大丈夫だ。捕まえた蛇を蛞蝓で溶かした物だから」

 

ジンの話によると、サニー達は諦めきれず、再度蛇を捕まえに行ったらしい。

今度は大蛇ではなく、小さめの蛇を幾つか捕まえて、それを蛞蝓に溶かしたのだ。

こうして出来たのが、今ジンの手元にあるいくちである。

 

「ふーん、意外とやるもんだなあの三人」

 

そんな話をしていると、薪を持って来たサニー達がやって来た。

 

「ジーン、薪持って来たよー。あ、魔理沙さん」

 

「よお、邪魔してるぜ」

 

「魔理沙さんも、いくちを食べに来たんですか?」

 

「え、あー、私は―――」

 

どうしたものかと悩んでいると、ジンが魔理沙に言う。

 

「せっかくだし、食べて行けよ。ついでに酒もでるしな」

 

「本当か!? よし! その話のったぜ!」

 

魔理沙がそう言うと、ちょうど酒の用意をして来た霊夢、妖狐、そして霊夢の肩に乗っている針妙丸がやって来た。

 

「ジン、そっちの準備は出来た――って、魔理沙じゃない」

 

「あら、魔理沙さん。こんにちは」

 

「魔理沙も、いくちを食べに来たんだね」

 

「おう、美味しいって言うからには、期待しているぜ」

 

魔理沙はとても楽しそうに笑った。

こうして、いくちは皆で美味しく食べたのである。


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