東方軌跡録   作:1103

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今回は鈴奈庵の話しです。
先日二巻を買い、テンションが上がった状態でこの話を書きました。


鈴奈庵の付喪神騒動

秋半ば、この日は寺子屋で使う教材探しに慧音と共に鈴奈庵に訪れていた。

 

「いらっしゃいませ、今日は何をお求めで?」

 

「今日は音楽に関しての教材を探している。近々寺子屋で音楽の授業をするからな」

 

「え? 慧音先生って、音楽に詳しいかったんですか?」

 

「いや、私はそこまで詳しく無いから、ジンに頼もうと思っている」

 

「まあ、出来る範囲でならな」

 

「わかりました。少し待って下さい」

 

そう言って、小鈴は店の奥へと入って行った。

二人は店内で待っていたが、店中で怪音が鳴り響いていた。

 

「・・・・・・鈴奈庵って、こんなにうるさかったか?」

 

「いや、私が知る限りではここまでの怪音はしなかった筈だが・・・」

 

二人は不安を感じていると、小鈴が幾つかの教材を持って来た。

 

「うちの店ではこれ位ですね。ん? どうかしましたか?」

 

「いや、あちらこちらで怪音が聞こえて来るんだが・・・」

 

「ああ、最近本が勝手に動くんですよ」

 

「本が勝手に?」

 

「ええ、でも大した実害も無いですし、あまり気にしないで下さい」

 

「気にしないって・・・・・・」

 

「それに、ペットと思えば意外と可愛い物ですよ」

 

そう言って小鈴は、本に置かれた重石を退ける。すると何冊もの本がまるで蝶のように羽ばたいた。

 

―――――――――――

 

神社に戻って来たジンは、鈴奈庵の事を霊夢と魔理沙に話していた。

 

「鈴奈庵がそんな事になっているなんて・・・・・・」

 

「これは十中八九、小槌の影響だな。そうだよな針妙丸?」

 

魔理沙は妖狐の肩に乗っかっている針妙丸に聞く。針妙丸は少し悩みながらも、魔理沙に返事をする。

 

「たぶん間違いないと思うけど・・・」

 

「何だよ歯切れ悪いな」

 

「でも異変から一ヶ月以上立っているから、魔力の殆どが回収されているし、動けていても、飛ぶなんて事も出来ないと思うんだけど・・・」

 

「でも実際にこの目で見たぞ、しかも一冊や二冊程度じゃない」

 

「う~ん・・・後考えられるとしたら、雷鼓達みたいに小槌とは別の魔力に置き換えられつつあるか・・・」

 

「別の魔力か・・・確かに前例があるから考えられない事ではないな」

 

「あの・・・少しいいですか?」

 

今まで会話に参加していなかった妖狐が、おもむろに口を開いた。

 

「どうした妖狐?」

 

「さっきの話を聞く限り、小槌の魔力を別の魔力に置き換えられば、道具に戻らず付喪神としていられるんですよね?」

 

「ああ、実際に雷鼓や九十九姉妹は付喪神として今も活動しているからな」

 

「それで、鈴奈庵の小鈴さんは妖魔本コレクターなんですよね?」

 

「「「・・・・・・あ」」」

 

そこで三人は気づいた。

あそこには妖魔がたくさんある事に。

 

「こうしちゃいられないわ! 直ぐに鈴奈庵に行くわよ!」

 

「おお!」

 

「俺も行くぞ!」

 

霊夢、魔理沙、ジンの三人は、直ぐ様鈴奈庵に向かうのであった。

 

―――――――――――

 

鈴奈庵に到着した三人、直ぐ様小鈴に妖魔本を出すように言うのだが―――。

 

「大丈夫ですって、大した事じゃ無いですし」

 

「あんたね! これの何処が大した事が無いのよ!?」

 

店の中ではあちらこちらに本が舞い、ガタガタと音を鳴らしており、最早幽霊本屋である。

 

「慧音と一緒に来た時はここまで酷くはなかった筈だが・・・」

 

「霊夢が来たせいじゃないか? 妖怪退治の鬼だし」

 

「ほらそこ! 私語を慎む!

小鈴ちゃんいい? このまま放っておくと、一大事になるわよ。だから妖魔本を渡して」

 

「ええ~、別に本が動く位いいじゃないですか、この子達もじっとしているばかりじゃ可哀想ですよ」

 

そう言って小鈴は、飛んでいる一冊の本を撫でた。彼女からしてみれば、付喪神化した本はペットと同意義であるらしい。

それを見た霊夢は、頭を抱えた。

 

「ダメだこりゃ・・・完全に感化されているわ」

 

「どうする? 力づくで奪うか?」

 

「いやそれはダメでしょ、私達は強盗じゃないのよ」

 

「だけどよ、このまま放っておく訳にはいかないぜ」

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

霊夢と魔理沙はどうしようと考えていると、ジンはある事に気がついた。

 

「なあ小鈴、鈴奈庵の回りに人が寄りつかないようになっていたが、客は来ているのか?」

 

そう聞くと、小鈴はあっけらんと言った。

 

「いえ、まったく来ていませんね。だからジンさん達が久々の客です」

 

「・・・・・・一応聞くが、いつから客足が途絶えた?」

 

「そうですね・・・一ヶ月以上ですかね?」

 

それを聞いた三人は絶句した。それは誰が聞いても潰れる間近の状態であるのは明白である。

霊夢はため息をつきながら、小鈴に言う。

 

「あのね小鈴ちゃん、このままだとここ潰れるわよ」

 

「・・・・・・え?」

 

「そりゃそうだろうな、これじゃ一昔の博麗神社だぜ」

 

「え、え?」

 

「しかも危険な妖魔本があるからな、下手に問題を起こせば最悪里から追放されるかも知れないな」

 

「――――」

 

三人の脅しめいた言葉に、小鈴は青ざめて行った。

ようやく危機感を感じたのか、慌てて立ち上がる。

 

「い、今から持って来ます!」

 

小鈴はそう言うと店の奥へと行き、大急ぎで妖魔本を持って来た。

 

「これが特に暴れている奴です!」

 

「結構あるわね・・・・・・取り合えず全部に封印を施すから、しばらくは様子を見るわよ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

こうして鈴奈庵の妖魔本に封印を施す事が出来た。

これで事件は終わりに向かうと思われたが、この時一体の付喪神が逃げた事に、誰も気づかなかった。

 

―――――――――――

 

翌日、鈴奈庵の様子を見に来たジンと霊夢は、その途中で魔理沙とばったりと出くわした。

 

「ん? 魔理沙じゃないか、奇遇だな」

 

「あんたも鈴奈庵の様子を見に?」

 

「ああ、ちょっと胸騒ぎがしたもんでな」

 

「あら奇遇ね、私もよ。

何か重大な見落としをしたような気がするのよね・・・」

 

何とも言えない不安を、霊夢と魔理沙は感じていた。

そんな話をしている時、霊夢は小鈴らしき影が通り過ぎるのを目撃した。

 

「え? 小鈴ちゃん?」

 

「ん? どうしたんだ霊夢?」

 

「今さっき、小鈴ちゃん通らなかった?」

 

「小鈴が?」

 

ジンと魔理沙は霊夢の視線の先を見るが、そこには誰もいなかった。

 

「気のせいじゃないか? もし本当に小鈴なら、私達に挨拶するだろ」

 

「それもそうねぇ・・・気のせいかしら」

 

「いや、そうでも無さそうだ」

 

二人が納得仕掛けていようとした時、ジンは言った。

 

「ジン? それは一体どういう事?」

 

「ちょっと気になって、軌跡を見たんだ。霊夢の言う通り誰が通った軌跡が残っていた。ただ、それは小鈴じゃない」

 

「なら、やっぱり霊夢の気のせいじゃないか」

 

「普通はな、だが靴だけが通った軌跡しか無いんだ」

 

「それって―――」

 

「恐らく霊夢が見たのは残留思念だろう。何かが小鈴の靴に取りつき、何処かへ行ったんだ」

 

「でもよ、それが小鈴の靴だって証拠は無いだろう?」

 

「そうだな・・・ここは二手に別れよう。小鈴の靴の所在の確認と鈴奈庵の様子を見る組と、靴の追跡する組に。俺は追跡組だな」

 

「それじゃ私は小鈴ちゃんのところに行くわ。他にもおかしなところがないか調べておくわ」

 

「私はジンと一緒に行くぜ、多分付喪神関連だと思うし、ジンだけじゃ心細いだろ?」

 

「助かる。頼りにしているぞ魔理沙」

 

「それじゃ、行動開始ね。ジンの事を任せたわよ魔理沙」

 

「おう、任せてけ」

 

こうして霊夢は鈴奈庵に、ジンと魔理沙は靴の軌跡を辿る事になった。

 

―――――――――――

 

二人が軌跡を辿ると、瓜畑に辿り着いた。

その一ヶ所には靴が一足だけが置かれていた。

 

「やっぱり、どうも普通じゃないぜ」

 

「ああ、靴が一足・・・しかもその場所から瓜が盗まれているな」

 

「犯人が分かるか?」

 

「ああ、黒いモヤみたいな妖だ。それにしても何で瓜なんか盗んだんだ?」

 

「瓜・・・もしかして!」

 

魔理沙は何かを思い出したかのように、一冊の本を取り出した。それには“百鬼徒然袋”と書かれていた。

 

「ちょっと気になってな、鈴奈庵から借りたんだ。

確かこれに瓜に関する付喪神が載っていだぜ」

 

そう言って、ページをパラパラとめくり、一つの付喪神が書かれているページを見つける。

 

「“沓頬、中国の諺から生まれた靴と冠の付喪神”」

 

「なるほど、それで小鈴の靴に取り憑いた訳か・・・しかし何故瓜を?」

 

「それは生まれた諺によるもんだぜ。

“瓜田に靴を納れず、李下に冠を正さず”詳しい意味は省くが、要は瓜畑で靴を履き直すな、李の木の下で冠を被り直すな、有らぬ疑いが掛けられるぞって事だ」

 

「有らぬ疑い・・・盗みの事か?」

 

「ああ、つまり次に奴が行く場所は一つしかないな」

 

「李の木か!」

 

「ああ、それじゃ行くぞジン! モタモタしていると沓頬が実体化する!」

 

「分かった!」

 

二人は急いで、李畑に向かうのであった。

 

 

―――――――――――

 

李畑に到着した二人が目にしたのは、食い荒らされた李が地面に落ちている光景であった。

 

「遅かったか!」

 

「いや、どうやらまだ実体化はしていないようだな」

 

魔理沙の視線の先には、李を食っている黒いモヤ――沓頬の姿があった。

沓頬は二人の姿を確認すると、食べるのを止め、臨戦体勢に入る。

 

「行くぜジン、足を引っ張るなよ」

 

「ああ、善処する」

 

魔理沙はミニ八卦炉を構え、ジンは博麗札を取り出す。

しばらく睨みあった後、沓頬が最初に動き出した。

 

「くらえ!」

 

魔理沙は直ぐ様弾幕を放つ。しかし沓頬の動きは思った以上に素早く、弾幕をかわされてしまった。

 

「ちぃ、思った以上に素早いな」

 

「俺が足を止める、魔理沙はとどめを」

 

「わかった!」

 

ジンは動きを読みながら博麗札を放つ、徐々に沓頬を追い詰めていく。

 

「今だ魔理沙!」

 

「おう! くらえ!」

 

魔理沙が放ったマジックミサイルは見事に命中、沓頬は四散した。

 

「よっしゃ!」

 

「やったな」

 

沓頬を無事に退治した魔理沙とジンは、互いの手でハンドタッチをした。

 

―――――――――――

 

鈴奈庵に戻って来た二人は、事の顛末を霊夢と小鈴に伝えた。

 

「そんな事になっていたんですか・・・」

 

「ああ、私達がいなかったら小鈴は瓜と李泥棒にされていたぜ」

 

「本当にありがとうございます」

 

「それとこれ、小鈴の靴だろ?」

 

「はい」

 

ジンは小鈴に、落ちていた二足の靴を手渡す。それを受け取った小鈴は、どこか嬉しそうであった。

 

「ところで、鈴奈庵の方は大丈夫だったか?」

 

「まあ、妖魔本をあらかた封印しておいたから、こっちは大した事は起きなかったわよ」

 

「そうか、それじゃこれで一件落着か?」

 

「まだまだ、本の魔力が完全に抜けるまで油断は出来ないわ」

 

「そうだな・・・しばらく鈴奈庵の様子をちょくちょく見なきゃな、また今回みたいに、付喪神が逃げ出すかも知れないし」

 

「まあ、妖怪退治の専門家が三人も居ればうちも安心です。これからも頼りにしていますね」

 

小鈴は満面の笑顔で、三人に言った。

こうして、鈴奈庵の付喪神騒動は終わりを迎えるのであった。


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