先日二巻を買い、テンションが上がった状態でこの話を書きました。
秋半ば、この日は寺子屋で使う教材探しに慧音と共に鈴奈庵に訪れていた。
「いらっしゃいませ、今日は何をお求めで?」
「今日は音楽に関しての教材を探している。近々寺子屋で音楽の授業をするからな」
「え? 慧音先生って、音楽に詳しいかったんですか?」
「いや、私はそこまで詳しく無いから、ジンに頼もうと思っている」
「まあ、出来る範囲でならな」
「わかりました。少し待って下さい」
そう言って、小鈴は店の奥へと入って行った。
二人は店内で待っていたが、店中で怪音が鳴り響いていた。
「・・・・・・鈴奈庵って、こんなにうるさかったか?」
「いや、私が知る限りではここまでの怪音はしなかった筈だが・・・」
二人は不安を感じていると、小鈴が幾つかの教材を持って来た。
「うちの店ではこれ位ですね。ん? どうかしましたか?」
「いや、あちらこちらで怪音が聞こえて来るんだが・・・」
「ああ、最近本が勝手に動くんですよ」
「本が勝手に?」
「ええ、でも大した実害も無いですし、あまり気にしないで下さい」
「気にしないって・・・・・・」
「それに、ペットと思えば意外と可愛い物ですよ」
そう言って小鈴は、本に置かれた重石を退ける。すると何冊もの本がまるで蝶のように羽ばたいた。
―――――――――――
神社に戻って来たジンは、鈴奈庵の事を霊夢と魔理沙に話していた。
「鈴奈庵がそんな事になっているなんて・・・・・・」
「これは十中八九、小槌の影響だな。そうだよな針妙丸?」
魔理沙は妖狐の肩に乗っかっている針妙丸に聞く。針妙丸は少し悩みながらも、魔理沙に返事をする。
「たぶん間違いないと思うけど・・・」
「何だよ歯切れ悪いな」
「でも異変から一ヶ月以上立っているから、魔力の殆どが回収されているし、動けていても、飛ぶなんて事も出来ないと思うんだけど・・・」
「でも実際にこの目で見たぞ、しかも一冊や二冊程度じゃない」
「う~ん・・・後考えられるとしたら、雷鼓達みたいに小槌とは別の魔力に置き換えられつつあるか・・・」
「別の魔力か・・・確かに前例があるから考えられない事ではないな」
「あの・・・少しいいですか?」
今まで会話に参加していなかった妖狐が、おもむろに口を開いた。
「どうした妖狐?」
「さっきの話を聞く限り、小槌の魔力を別の魔力に置き換えられば、道具に戻らず付喪神としていられるんですよね?」
「ああ、実際に雷鼓や九十九姉妹は付喪神として今も活動しているからな」
「それで、鈴奈庵の小鈴さんは妖魔本コレクターなんですよね?」
「「「・・・・・・あ」」」
そこで三人は気づいた。
あそこには妖魔がたくさんある事に。
「こうしちゃいられないわ! 直ぐに鈴奈庵に行くわよ!」
「おお!」
「俺も行くぞ!」
霊夢、魔理沙、ジンの三人は、直ぐ様鈴奈庵に向かうのであった。
―――――――――――
鈴奈庵に到着した三人、直ぐ様小鈴に妖魔本を出すように言うのだが―――。
「大丈夫ですって、大した事じゃ無いですし」
「あんたね! これの何処が大した事が無いのよ!?」
店の中ではあちらこちらに本が舞い、ガタガタと音を鳴らしており、最早幽霊本屋である。
「慧音と一緒に来た時はここまで酷くはなかった筈だが・・・」
「霊夢が来たせいじゃないか? 妖怪退治の鬼だし」
「ほらそこ! 私語を慎む!
小鈴ちゃんいい? このまま放っておくと、一大事になるわよ。だから妖魔本を渡して」
「ええ~、別に本が動く位いいじゃないですか、この子達もじっとしているばかりじゃ可哀想ですよ」
そう言って小鈴は、飛んでいる一冊の本を撫でた。彼女からしてみれば、付喪神化した本はペットと同意義であるらしい。
それを見た霊夢は、頭を抱えた。
「ダメだこりゃ・・・完全に感化されているわ」
「どうする? 力づくで奪うか?」
「いやそれはダメでしょ、私達は強盗じゃないのよ」
「だけどよ、このまま放っておく訳にはいかないぜ」
「それはそうだけど・・・・・・」
霊夢と魔理沙はどうしようと考えていると、ジンはある事に気がついた。
「なあ小鈴、鈴奈庵の回りに人が寄りつかないようになっていたが、客は来ているのか?」
そう聞くと、小鈴はあっけらんと言った。
「いえ、まったく来ていませんね。だからジンさん達が久々の客です」
「・・・・・・一応聞くが、いつから客足が途絶えた?」
「そうですね・・・一ヶ月以上ですかね?」
それを聞いた三人は絶句した。それは誰が聞いても潰れる間近の状態であるのは明白である。
霊夢はため息をつきながら、小鈴に言う。
「あのね小鈴ちゃん、このままだとここ潰れるわよ」
「・・・・・・え?」
「そりゃそうだろうな、これじゃ一昔の博麗神社だぜ」
「え、え?」
「しかも危険な妖魔本があるからな、下手に問題を起こせば最悪里から追放されるかも知れないな」
「――――」
三人の脅しめいた言葉に、小鈴は青ざめて行った。
ようやく危機感を感じたのか、慌てて立ち上がる。
「い、今から持って来ます!」
小鈴はそう言うと店の奥へと行き、大急ぎで妖魔本を持って来た。
「これが特に暴れている奴です!」
「結構あるわね・・・・・・取り合えず全部に封印を施すから、しばらくは様子を見るわよ」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして鈴奈庵の妖魔本に封印を施す事が出来た。
これで事件は終わりに向かうと思われたが、この時一体の付喪神が逃げた事に、誰も気づかなかった。
―――――――――――
翌日、鈴奈庵の様子を見に来たジンと霊夢は、その途中で魔理沙とばったりと出くわした。
「ん? 魔理沙じゃないか、奇遇だな」
「あんたも鈴奈庵の様子を見に?」
「ああ、ちょっと胸騒ぎがしたもんでな」
「あら奇遇ね、私もよ。
何か重大な見落としをしたような気がするのよね・・・」
何とも言えない不安を、霊夢と魔理沙は感じていた。
そんな話をしている時、霊夢は小鈴らしき影が通り過ぎるのを目撃した。
「え? 小鈴ちゃん?」
「ん? どうしたんだ霊夢?」
「今さっき、小鈴ちゃん通らなかった?」
「小鈴が?」
ジンと魔理沙は霊夢の視線の先を見るが、そこには誰もいなかった。
「気のせいじゃないか? もし本当に小鈴なら、私達に挨拶するだろ」
「それもそうねぇ・・・気のせいかしら」
「いや、そうでも無さそうだ」
二人が納得仕掛けていようとした時、ジンは言った。
「ジン? それは一体どういう事?」
「ちょっと気になって、軌跡を見たんだ。霊夢の言う通り誰が通った軌跡が残っていた。ただ、それは小鈴じゃない」
「なら、やっぱり霊夢の気のせいじゃないか」
「普通はな、だが靴だけが通った軌跡しか無いんだ」
「それって―――」
「恐らく霊夢が見たのは残留思念だろう。何かが小鈴の靴に取りつき、何処かへ行ったんだ」
「でもよ、それが小鈴の靴だって証拠は無いだろう?」
「そうだな・・・ここは二手に別れよう。小鈴の靴の所在の確認と鈴奈庵の様子を見る組と、靴の追跡する組に。俺は追跡組だな」
「それじゃ私は小鈴ちゃんのところに行くわ。他にもおかしなところがないか調べておくわ」
「私はジンと一緒に行くぜ、多分付喪神関連だと思うし、ジンだけじゃ心細いだろ?」
「助かる。頼りにしているぞ魔理沙」
「それじゃ、行動開始ね。ジンの事を任せたわよ魔理沙」
「おう、任せてけ」
こうして霊夢は鈴奈庵に、ジンと魔理沙は靴の軌跡を辿る事になった。
―――――――――――
二人が軌跡を辿ると、瓜畑に辿り着いた。
その一ヶ所には靴が一足だけが置かれていた。
「やっぱり、どうも普通じゃないぜ」
「ああ、靴が一足・・・しかもその場所から瓜が盗まれているな」
「犯人が分かるか?」
「ああ、黒いモヤみたいな妖だ。それにしても何で瓜なんか盗んだんだ?」
「瓜・・・もしかして!」
魔理沙は何かを思い出したかのように、一冊の本を取り出した。それには“百鬼徒然袋”と書かれていた。
「ちょっと気になってな、鈴奈庵から借りたんだ。
確かこれに瓜に関する付喪神が載っていだぜ」
そう言って、ページをパラパラとめくり、一つの付喪神が書かれているページを見つける。
「“沓頬、中国の諺から生まれた靴と冠の付喪神”」
「なるほど、それで小鈴の靴に取り憑いた訳か・・・しかし何故瓜を?」
「それは生まれた諺によるもんだぜ。
“瓜田に靴を納れず、李下に冠を正さず”詳しい意味は省くが、要は瓜畑で靴を履き直すな、李の木の下で冠を被り直すな、有らぬ疑いが掛けられるぞって事だ」
「有らぬ疑い・・・盗みの事か?」
「ああ、つまり次に奴が行く場所は一つしかないな」
「李の木か!」
「ああ、それじゃ行くぞジン! モタモタしていると沓頬が実体化する!」
「分かった!」
二人は急いで、李畑に向かうのであった。
―――――――――――
李畑に到着した二人が目にしたのは、食い荒らされた李が地面に落ちている光景であった。
「遅かったか!」
「いや、どうやらまだ実体化はしていないようだな」
魔理沙の視線の先には、李を食っている黒いモヤ――沓頬の姿があった。
沓頬は二人の姿を確認すると、食べるのを止め、臨戦体勢に入る。
「行くぜジン、足を引っ張るなよ」
「ああ、善処する」
魔理沙はミニ八卦炉を構え、ジンは博麗札を取り出す。
しばらく睨みあった後、沓頬が最初に動き出した。
「くらえ!」
魔理沙は直ぐ様弾幕を放つ。しかし沓頬の動きは思った以上に素早く、弾幕をかわされてしまった。
「ちぃ、思った以上に素早いな」
「俺が足を止める、魔理沙はとどめを」
「わかった!」
ジンは動きを読みながら博麗札を放つ、徐々に沓頬を追い詰めていく。
「今だ魔理沙!」
「おう! くらえ!」
魔理沙が放ったマジックミサイルは見事に命中、沓頬は四散した。
「よっしゃ!」
「やったな」
沓頬を無事に退治した魔理沙とジンは、互いの手でハンドタッチをした。
―――――――――――
鈴奈庵に戻って来た二人は、事の顛末を霊夢と小鈴に伝えた。
「そんな事になっていたんですか・・・」
「ああ、私達がいなかったら小鈴は瓜と李泥棒にされていたぜ」
「本当にありがとうございます」
「それとこれ、小鈴の靴だろ?」
「はい」
ジンは小鈴に、落ちていた二足の靴を手渡す。それを受け取った小鈴は、どこか嬉しそうであった。
「ところで、鈴奈庵の方は大丈夫だったか?」
「まあ、妖魔本をあらかた封印しておいたから、こっちは大した事は起きなかったわよ」
「そうか、それじゃこれで一件落着か?」
「まだまだ、本の魔力が完全に抜けるまで油断は出来ないわ」
「そうだな・・・しばらく鈴奈庵の様子をちょくちょく見なきゃな、また今回みたいに、付喪神が逃げ出すかも知れないし」
「まあ、妖怪退治の専門家が三人も居ればうちも安心です。これからも頼りにしていますね」
小鈴は満面の笑顔で、三人に言った。
こうして、鈴奈庵の付喪神騒動は終わりを迎えるのであった。