東方軌跡録   作:1103

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今回は輝針城のキャラが出ます。
一応、輝針城はイージーはクリアしましたが、未だにノーマルをクリアしていません。
どうしても四面でつまずきます。
紅魔郷と輝針城をプレイして思ったんですが、東方は三、四面辺りから難しくなると感じます。


ジンと天邪鬼と小人

人里のど真ん中で、一人の青年と、一人の妖怪がいた。

青年の名はジン、一年前に外から来た外来人。現在は博麗神社で居候の身である。

彼は基本的に人が嫌がる事を好まない。故に人を傷つける嘘や騙しを嫌う青年である。

一方、妖怪の名は鬼人正邪、天邪鬼の妖怪である。

彼女は人が嫌がる事を好み、自身の利の為なら平気で他者を騙し利用する。そして、それを生きがいとしているので達が悪い妖怪である。

そんな二人が、人里でばったりと出会ってしまった。

 

「やあやあ、これはこれはジンじゃないか♪ 今日は買い物で?」

 

「・・・・・・」

 

「もしもーし、聞こえているかー?」

 

「・・・聞こえている」

 

ジンはうんざりしながらも、正邪の言葉に応えた。

すると正邪は、ニヤリをと悪辣な笑みを浮かべる。

 

「聞こえているならちゃんと返事をするもんだぞ、親に習わなかったか?」

 

「習ったさ。だが、嫌いな相手に返事をする気は無い」

 

「酷いな~私の硝子の心が傷ついたじゃないか」

 

「その程度で傷つくなら、俺がとっくのとう粉々に砕いている。この天の邪鬼」

 

「そりゃ、私は天邪鬼の妖怪だよ。なに当たり前の事を言ってのさ」

 

正邪はニヤニヤと笑いながら、ジンに言った。

これ以上付き合いきれないと判断したジンは、さっさと行こうと足を歩めるのだが―――。

 

「・・・・・・どいてくれ」

 

「嫌だ」

 

ジンが右に行こうとすれば正邪も右に行き、ジンが左に行こうとすれば正邪も左にと、まるで通せん坊するかのように正邪は動いた。

 

「・・・・・・」

 

「~♪」

 

ここを通るのを諦めたジンは、迂回して別の道に行こうと踵返す。しかし、その後を正邪が追う。

 

「ついてくるな」

 

「ついてきてないよ?

私もこっちに用事があるの♪」

 

正邪は満面の笑顔でそう言った。

それからずっとジンについていき、各所で嫌がらせをし続けるのであった。

 

―――――――――――

 

神社に帰って来たジンは、もの凄く憔悴仕切っていた。

それはもう、顔をテーブルにうつ伏せにするほどである。

霊夢は心配そうに、ジンに声をかける。

 

「大丈夫?」

 

「・・・・・・大丈夫じゃない」

ジンはうつ伏せの状態で返事をする。

一年足らずの付き合いだが、今までこんな状態のジンを見たこと無かった霊夢は、ますます心配になった。

するとそこに、魔理沙が遊びにやって来た。

 

「遊びに来たぜ霊夢。ん? ジンの奴どうしたんだ?」

 

「いやそれが・・・帰って来てからずっとこうなのよ」

 

「ふーん・・・わかった! 恋煩いだ――」

「それはない!!」

 

魔理沙の声を遮るように、ジンは大声を出した。彼が怒鳴る姿を初めて見た二人は、思わず固まってしまった。

 

「・・・・・・悪い、怒鳴ってしまって」

 

「べ、別に気にしていないぜ」

 

「ち、ちょっと驚いただけだから」

 

「そうか・・・・・・」

 

そう呟くと、ジンは再び黙ってしまった。

これはただ事では無いと感じた霊夢と魔理沙は、事情を聞く事にした。

 

「一体どうしたのよ? あんたらしく無いわね」

 

「何か悩み事があるなら、相談に乗るぜ」

 

「・・・実は―――」

 

ジンは人里での出来事を話始めた。

最近天邪鬼の正邪に絡まれて、ほとほと困っている事を二人に伝える。

 

「あの天邪鬼がね・・・・・・」

 

「最近、人里で会う多くてな、会う度に邪魔をして来るんだ」

 

「天邪鬼だからな。なんなら、私が懲らしめてやるか?」

 

魔理沙は自信満々に言ったが、ジンは首を横に振らる。

 

「いや、単純な力業じゃ懲りないだろ。それに、こうゆうのは自分の力で解決しないとな」

 

「はあ・・・あんたって底無しの御人好しね。私だったら有無言わさず退治するけど」

 

「それにしても珍しいな、お前がそこまで嫌うなんて」

 

「・・・昔っから、天邪鬼な奴は苦手なんだよ。なんて言うか、反りが合わない」

 

ジンはうんざりとしながらそう言った。

過去に、天邪鬼な知人がいたのだろうと、霊夢と魔理沙は思った。

すると、妖弧がやって来た。

 

「ジンさん、頼んでいた奴が―――ど、どうしたんです?」

 

妖弧に声を掛けられ、ジンはようやく普段の表情に戻るが、やや疲れを感じさせた。

 

「いや、何でもない。それよりも、頼んだ奴が出来たのか?」

 

「はい、これだよ」

 

すると妖弧の肩に乗っている小さい小人が、ハンカチを出す。それには立派な刺繍がされていた。

 

「おお、これは凄いな」

 

「へぇ~あんたって、こんな事が出来たのね」

 

「こう見えても、針仕事は得意中の得意なんだよ」

 

小人――少名針妙丸は胸を張って言った。

彼女は少し前に異変を起こしたのだが、霊夢達に破れてしまい、その後神社に厄介になっている経緯がある。

 

「確かに見事な刺繍だよな・・・これを一体どうするんだ?」

 

「もちろん、神社で販売するんだ。これだけ立派な物なら、十分売れるだろ」

 

「なるほどな」

 

「新しい目玉商品ね! 早速文を呼んで、宣伝してもらわなくちゃ!」

 

「その必要はありません」

 

いつから居たのか分からないが、魔理沙のすぐ側に文は立っていた。

 

「うお!? いつの間に居たんだ!」

 

「ネタがあるところには何処にでもいますよ♪」

 

「そんな事言って、どうせまた盗撮でもしてたんだろ?」

 

「む、それは心外ですよジンさん。そんな事を言うと、新聞の記事にはしませんよ?」

 

「それなら、他の天狗に頼むし、今後は文々新聞を取らないからな」

 

「あややや! 冗談ですって! ちゃんと記事にさせて貰いますから!」

 

「そうして貰えると助かる」

 

「ゴホン、それでは一枚撮らせて貰いますね」

 

文は針妙丸と一緒に、刺繍がされたハンカチを写真に取るのであった。

 

―――――――――――

 

人里近くの野原、そこにある岩の上に正邪が座っていた。そして、その手には文々新聞があった。

 

「“博麗神社の新商品、輝針の刺繍が本日発売。

その職人は、かの一寸法師の末裔”けっ、」

 

見出しをみた正邪は、新聞を丸くし、そのまま遠くに投げ捨てた。

 

「ふん、いい身分になったもんだなあいつは」

 

彼女が言う“あいつ”とは針妙丸の事である。

正邪は弱者が頂点に立つ世界を創るという野望があったが、彼女にはそれを成すだけの力はなかった。

そこで、小人の一族の秘宝に目をつけ、針妙丸をたぶらかし異変を起こさせたのである。もちろん、秘宝の代償を教えず。

その後、異変を解決にしに来た霊夢達に敗北。針妙丸を置いて逃げ、今日にまで至る。

 

(ま、あいつが何をしようが、どうなろうが私の知ったこっちゃ無いけどね)

 

そう思い、岩の上で仰向けになり、雲を眺める。

しかし、いっこうにモヤモヤした気持ちが収まらなかった。

 

「あー! イライラする! こうなったらあいつで憂さ晴らししに行こう!」

 

そう言い、正邪は人里に向かうのであった。

 

―――――――――――

 

人里についた正邪は、早速目当ての人物を探し始める。

 

「さーて、あいつは・・・お、いたいた♪」

 

正邪は人込みのなか、ジンの姿を見つける。彼女の目当ての人物は、ジンの事であった。

正邪がジンに嫌がらせするのは単に、やり易いからである。

他の者とは違い、ジンは暴力で解決しようとはしないので、弱い妖怪である正邪でも、安心して嫌がらせが出来る。まさに、格好の獲物である。

 

「さ~て♪ 今日もやらせて―――ん?」

 

すると正邪はようやく気づく、彼の肩に針妙丸がいる事に。

 

(これはちょうど良い、ついでに挨拶していくか)

 

正邪は悪辣な笑みを浮かべながら、二人の前に現れた。

 

「やあやあ、ご機嫌麗しゅう。お二人さん♪」

 

「げっ、」

 

「あ、正邪!」

 

ジンは露骨に嫌な顔をして、針妙丸は正邪との突然の再会に驚いた。しかし、直ぐ様笑顔になった。まるで親友と再会したかのように。

 

「久し振りだね正邪、元気だった?」

 

「・・・・・・はあ?」

 

「あれから姿を見ないから、少し心配だったんだよ。」

 

予想外の言葉に、正邪は呆然とした。そして直ぐ様気を取り直し、針妙丸に悪意を持って言う。

 

「お前馬鹿か? なに友人みたいな事を言ってんだよ?」

 

「だって、私と正邪は友達じゃない」

 

友達という言葉で、正邪はますます困惑する。罵倒を期待したのだが、針妙丸はその反対の言葉を次々と言って来たのだ。

 

「友達? ハハハハ! 誰がお前なんかと友達なもんか!」

 

「え?」

 

「私がお前に近づいたのはな、お前の能力と秘宝が目当てだったからだよ! その為にお前に嘘っぱちの歴史を教え、秘宝の代償を教えなかった! そうすれば、私は秘宝代償を受けずに済むからな」

 

正邪は以前の異変の真相を針妙丸に暴露した。そうする事により、彼女が抱く自分への信頼を壊せると思ったからである。

しかし、針妙丸は違った。彼女は小さく首を振り。

 

「・・・知っていたよ」

 

「・・・・・・え?」

 

「異変の後、鬼の萃香さんに秘宝の代償と小人の本当の歴史を教えて貰ったんだ」

 

「だったら何で!」

 

「それはね、自分で決めたからだよ。

それが騙されていたとしても、自分で決めてやった事だから、正邪は全然悪くない。寧ろ――――」

 

「うるさい!」

 

針妙丸の言葉を遮るように、正邪は大きく叫んだ。その表情は嫌悪にまみれていた。

 

「さっきから黙って聞いていれば、調子付きやがって・・・知っていた? 自分で決めたから? ふざけるのも大概にしろ!」

 

「わ、私はふざけてなんか―――」

 

「てめぇの面なんか二度と見たくないね。じゃあな」

 

そう吐き捨てるように、正邪はその場を去って行った。

それを見送った針妙丸は、何処か寂しそうである。

 

「私・・・何か怒らせる事を言ったかな・・・・・・?」

 

「さあな・・・少なくとも、俺は立派だと思うぞ針妙丸」

 

そう言って、泣きそうな針妙丸の頭をそっと撫でた。

 

―――――――――――

 

「あー! くそ! 余計にイライラする!」

 

人里を出た正邪は、イラついていた。本来はジンで憂さ晴らししようとしたのだが、針妙丸の存在で失敗、更にストレスが貯まってしまったのだ。

 

「くそっ!」

 

正邪は落ちていた石を広い、思いっきり遠くに投げた。すると―――。

 

「ギャウン!」

 

「・・・・・・え?」

 

その石は寝ていた妖に当たってしまった。

すると妖は起き上がり、正邪を睨み付ける。

 

「グルルッ・・・」

 

「え、いや、ちょっと・・・」

 

「ガウッ!」

 

「ヒャアアア!!」

 

妖は正邪に向かって走り出した。正邪は慌てて逃げ始める。

 

「な、なんで私がこんな目に!?」

 

泣きながらも、正邪は逃げ続けた。

異変の最中だったら未しも、秘宝の力が無い今の正邪では、追い掛けて来る妖を撃退することは叶わない。

そうしている間にも距離が詰まって来る。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

そして遂に、妖の爪が正邪に届くまでの距離まで迫って来た。

 

「ガウッ!」

 

「あっ!」

 

正邪はなんとかかわすことが出来たが、体勢を崩して転んでしまった。

再び爪が正邪に迫るその時―――。

 

「喰らえ!」

 

声と共に御札が飛んで来た。

御札は見事に妖の顔に命中、妖は悶え苦しみ始める。

 

「ほら立て!」

 

「え?」

 

倒れていた正邪を起こしたのはジンであった。彼は正邪の腕を掴んだまま、その場を走り去って行った。

 

 

二人はしばらく走しり続けると、妖が追って来なくなっている事に気がついた。

 

「ふう、ここまで来ればもう大丈夫だな」

 

「・・・・・・なんで私を助けた?」

 

正邪はジンの腕を振りほどき、彼を睨み付ける。

ジンはやれやれとため息をついた。

 

「別に、襲われていたから助けようと思っただけだ」

 

「ふん、そんなの嘘だね」

 

「そう思うのなら勝手にすれば良い。俺は帰るぞ」

 

「礼は言わないよ」

 

「期待なんかしていない」

 

それだけ言うと、ジンはその場を後にした。

 

 

しばらく歩き、正邪の姿がいないのを確認したジンは、ポケットに隠れていた針妙丸に声を掛ける。

 

「これで良いのか?」

 

「うん、正邪を助けてくれてありがとう」

 

「俺は別に良いが・・・どうして正邪を助けようと思ったんだ? あんな酷い事を言ったのに?」

 

そう質問すると、針妙丸は照れくさそうに答える。

 

「どんなに嫌われても、騙されても、正邪は私の親友なんだ。それだけは変わらない」

 

「・・・・・・本当、お前は凄いな。俺だったら―――」

 

「ジン?」

 

「裏切った奴は許さない。例えそれが、親友だとしても」

 

それだけ呟くと、ジンは黙ってしまった。

 

―――――――――――

 

次の日、朝の掃除をしに境内出ると、賽銭箱の前に風呂敷が置かれていた。

 

「なんだこれ?」

 

ジンは恐る恐る風呂敷を開けると、山の幸が一杯入っていた。そして、一枚の手紙が入っていた。

 

“これでも食ってろバーカ“

 

その一文で、誰が置いたのか直ぐにわかった。

 

「まったく、素直に礼を言えば良いのに・・・本当に天邪鬼だな」

 

ジンはそう小さく呟いた。

その後、山の幸は美味しく頂いたのだが、中に毒キノコが入っており、何故かジンだけが食中毒なってしまった。

魔理沙の話によると、そのキノコは男性に対してだけ、毒性を放つキノコだったらしい。

最後の最後まで、天邪鬼な彼女であった。


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