東方軌跡録   作:1103

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茨歌仙の話しなんですが、九割がオリジナルになってしまいました。
他にも、東方文花帖を読んで思いついた事も書きました。
独自解釈なので、少し間違っているかも知れません。


妖弧とジン

博麗神社の居間では、ジンが昨夜の宴会の後片づけをしていた。

 

「やれやれ・・・宴会をするのは良いんだが、後片づけもして欲しいものだ」

 

ジンはそう呟きながらも、手を休まず、テキパキと片付けをしていく。

すると、縁側に奇妙なものを見つける。

 

「ん? なんだこれ・・・狐か?」

 

そこには酔い潰れていた小さな狐がいた。

触れようとしたら、狐は目を覚まし、慌てて逃げていった。

 

「あ、おい待て!」

 

ジンはその後を追い掛けた。

縁側の角を曲がると、そこにはいつの間にか魔理沙が立っていた。

 

「よ、よおジン、昨夜の宴会は楽しかったな」

 

「・・・・・・」

 

「な、何だよそんなにジロジロ見て、顔に何か付いてるか?」

 

「お前・・・誰だ?」

 

ジンの言葉に、魔理沙?は動揺してしまう。

 

「な、何を言っているんだ!」

 

「魔理沙はいつも、左髪を編んでいるが、お前は右髪を編んでいるじゃないか」

 

「き、今日は右の気分なんだぜ!」

 

魔理沙?は往生際が悪く言うが、ジンは既に決定的な証拠を掴んでいた。

 

「それじゃ、その尻尾はなんだ?」

 

「あっ・・・・・・」

 

偽魔理沙の腰には、狐の尻尾が生えていた。

それで観念したのか、魔理沙に化けた狐は色々と白状をした。

 

「なるほど・・・昨日の宴会の時からいた訳か」

 

「はい・・・お酒には目がなくて、巷で噂の博麗酒をどうしても飲みたくてつい・・・」

 

魔理沙に化けた妖怪狐こと妖弧は、やや申し訳なさそうに呟いていた。

本来、宴会に参加する際には宴会費を払うか、食べ物や酒を持参するのが博麗神社での決まりである。

これを破ると、霊夢が黙っていないので、大抵は従っているのだ。

 

「ただ飲みは感心しないが、初犯ってこともあるから、今回は見逃しおく」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ただ、次からは気をつけること。霊夢にバレたら、ただじゃすまないからな」

 

「何がすまないの?」

 

「うわぁ!?」

 

突然の霊夢の声に、ジンは驚いて声を上げてしまう。そんなジンに、霊夢は怪訝そうな顔をする。

 

「なに変な声出してんのよ?」

 

「いきなり声をかけるから、ビックリしたんだよ!」

 

「そんなに驚く事かしら?

それよりも、誰と話してたの?」

 

「え?」

 

ジンは妖弧がいた方を向くと、そこに妖弧の姿はなかった。恐らく、霊夢に気を取られている隙に、隠れたのだろう。

ジンは、その事に少し安堵した。

 

「どうしたのジン?」

 

「あ、ああ・・・なんでもない、少し考え事をしただけだ」

 

「そう、なら良いけど。それじゃ、朝御飯を作るから、その間に後片づけ済ましといてね」

 

「わかった」

 

霊夢はそのまま台所に向かっていった。

霊夢がいなくなったのを確認すると、ジンは隠れている妖弧に声をかける。

 

「出てきて大丈夫だぞ」

 

その言葉に、狐姿の妖弧が姿を表し、再び魔理沙の姿をとる。

 

「いや~、おかげで助かりました」

 

「別にいいが・・・なんで魔理沙の姿をとる?」

 

「私は若輩者でして、人間の姿が上手く出来ないですよ。

だから、こうして他人の姿に化けるんです」

 

「ふーん・・・」

 

「ところで・・・ジンさんと言いましたね。見逃してくれた御礼がしたいんですけど・・・」

 

妖弧はジンにそう言うが、実際は別の目的があった。

彼女は狐の中でも、管狐と呼ばれる妖怪である。

取り憑いた人間に、一時的な富を与え、後に全てを奪う悪質な妖怪である。

もちろん、彼女はジンに取り憑き、博麗神社の富を全て奪おうと画策していた。

 

(ふっふっふ、人間なんて、ちょっと富を与えたら、ころっと騙されるもんよね。楽勝よ♪)

 

妖弧は内心ケタケタと笑う。しかしジンは、彼女の期待と裏腹の言葉を言った。

 

「それじゃ、宴会の後片づけを手伝ってくれないか?」

 

「え・・・? ええ! お安いご用ですよ!」

(期待していたのとは違うけど・・・きっと次に富が欲しいと言うはず!)

 

妖弧はそう思いながら、ジンの後片づけを手伝う。

二人でやる分、片付けはスムーズに終わり、汚かった広間は綺麗に片付けられた。

 

「ありがとう、おかげで助かった」

 

「いえいえ、他に何かありますか?」

 

「いや、もう十分だ」

 

「え?」

 

「後片づけを手伝うだけで十分だ」

 

「い、いや、他にもありますよね?」

 

妖弧は慌ててそう聞いた。

相手に取り憑くには幾つか条件があり、その一つが相手が自ら望む事である。

それが出来なければ、取り憑く事など出来ないのだ。

しかしジンは、またしても彼女の期待とは正反対の言葉を出した。

 

「いや、本当に何にも無いぞ」

 

「いえ! 絶対あるはずです!」

 

「例えば?」

 

「例えば・・・富が欲しいとか・・・」

 

「富? どういう事だ?」

 

「私は、富を与える管狐なのです。ですから、貴方が望めば、いくらでも巨万の富を与えますよ」

(もっとも、後で全部いただきますけど♪)

 

妖弧はそう言って、ジンが富を欲しがるような言葉を投げ掛ける。しかし、妖弧は最大の間違いを犯していた。

それは単に、選ぶ相手を間違えたという事である。

 

「申し出はありがたいが、遠慮しておく」

 

「え!? どうしてですか! 巨万の富が得られるんですよ!」

 

「いや、そんなのは要らない。俺は今のままで十分だ」

 

「そ、そんな~」

 

妖弧はがっくりと肩を落とす。

そんな妖弧を見て、少し悪いことをしたかなと思ったジンは、まだ開けていなかった博麗酒を彼女に手渡した。

 

「はいこれ、お土産に持って行って良いぞ」

 

「へ?」

 

「あと、今度からはちゃんと宴会の参加費を出すように」

 

それだけ言うと、ジンは奥へと行ってしまった。

残された妖弧は、ただ呆然と立ち尽くした。

 

―――――――――――

 

それから数日後、里へ続く道を歩いているジンを密かに見ている妖弧がいた。

彼女はまだ諦めてはいなかったのだ。

 

(前回は失敗しましたが、今回は別の方向から攻めましょう!)

 

そう意気込み、妖弧はジンの前に飛び出し、魔理沙の姿に化けた。

 

「こんにちはジンさん」

 

「お前は・・・妖弧か?」

 

「もちろんですよ。本物と思いましたか?」

 

「いや、また魔理沙の姿なんだなって思っただけだ。気に入ったのか?」

 

「ええ、どうも相性が良くて、変化しやすいんですよ」

 

「相性か・・・確かに、魔理沙は誰とでも仲良くなれるからな」

 

「ところで、ジンさんは里で買い物を?」

 

「ああ、茶葉と夕飯の買い出しだ」

 

「でしたら、お手伝いしますよ♪」

 

「いや・・・何もそこまでしなくとも」

 

「いいですから、いいですから、さあ行きましょう♪」

 

「お、おい・・・」

 

妖弧は有無言わさず、ジンと共に人里に入って行った。

 

―――――――――――

 

人里の市場を訪れた二人。

妖弧は物珍しそうに、辺りを見回していた。

 

「ふへ~ここは凄いですね~」

 

「市場は初めてか?」

 

「はい、というより、人里に入ってのが初めてですね」

 

「そうか、それなら案内がてら市場を見て回るか?」

 

「え? いいんですか?」

 

「ああ、買い物ついでだ」

 

「ありがとうございます!」

 

ジンの言葉に、妖弧は嬉しそうに笑顔で言った。

こうしてジンは、買い物ついでに妖弧に市場を案内する事にした。

 

 

二人が市場を回っていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

「あら? ジンに・・・魔理沙?」

 

振り向くと、そこにはジン達と同じ様に買い物に来ていた華仙がそこに立っていた。

 

「華仙か、お前も買い物か?」

 

「ええ、そうだけど・・・・・・」

 

華仙は妖弧の方をじっと見ていた。どうやら、彼女を怪しんでいるようだ。

妖弧はどうにか誤魔化そうとしたが、その前にジンが―――。

 

「ん? ああ、そういえばこいつの事を言っていなかったな。

魔理沙の姿をしているが、こいつは妖弧だ」

 

「え?」

 

「なぁ!?」

 

あっさりとバラしてしまった。これには妖弧は大激怒した。

 

「なんでバラすんですか!?」

 

「な、何を怒っているんだ?」

 

「怒りますよ! いいですか、狐や狸の変化を無闇矢鱈に教えないでください!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「もちろんです! 手品師からみれば、手品のタネをバラされたようなものなんですよ!」

 

「そ、それは悪かった・・・すまない」

 

ジンは頭を下げて、妖弧に謝るが、それでも彼女の怒りは収まらなかった。

一連のやり取りを見ていた華仙というと――――。

 

「ええっと・・・どうやらお邪魔みたいだから、私は失礼するわ」

 

そう言って、そそくさと立ち去ってしまった。

残されたジンは、どうにか妖弧をなだめようとする。

 

「悪かった。お詫びに油揚げを買ってやるから」

 

苦肉の策として、彼女に油揚げを買うことを伝える。

これは同じ妖怪狐である藍が、油揚げが大好物だから、同じ狐である彼女も好物ではないかと考えたからである。

 

(流石に浅はかだったか・・・?)

 

そう思いながらも、妖弧の様子を見る。すると彼女は、目を輝かしていた。

 

「え! いいんですか!?」

 

「あ、ああ、もちろんだ」

 

「ありがとうございますジンさん!」

 

妖弧は先程の事をすっかり忘れ、油揚げの事で頭が一杯であった。

 

「さあさあ、早く買いに行きましょうよ♪」

 

「わかったから、そんなに引っ張るな」

 

妖弧に手を引かれながら、ジンは市場の奥へと歩いて行った。

 

―――――――――――

 

買い物を終えた二人は、神社への道を歩いていた。

ジンは両手に買い物袋を持って歩いて、妖弧は油揚げが入った袋を抱え、歩きながら食べていた。

 

「う~ん♪ この油揚げは最高です♪」

 

「はは、それは良かった」

 

妖弧は当初の目的をすっかり忘れてしまい、油揚げに夢中であった。

そんな妖弧をジンは、微笑ましく思った。

 

「あ、そうだ。せっかくだから夕飯も一緒にどうだ?」

 

「え? いいんですか?」

 

「ああ、今日は鍋にしたし、大勢の方が良いだろ?」

 

「ええっと・・・・・・」

 

「まあ、無理強いはするつもりはない。嫌だったら、断ってもいい」

 

「・・・お酒もつきますか?」

 

妖弧は上目づかいで、ジンに恐る恐る聞いた。

ジンは、やれやれと微笑みながら―――。

 

「そんなには出せないが、一瓶くらいなら出せるだろう」

 

「行きます! ぜひ行かせて下さい!」

 

妖弧は酒が出ると聞いて、すっかりとノリ気でいた。

そんな楽しそうな妖弧を見て、誘って良かったとジンは思った。

 

――――――――――――

 

それからというもの、妖弧は当初の目的である富の奪取を完全に忘れ、博麗神社に遊びに来るようになっていた。

 

「こんにちわ~ジンさんいますか?」

 

「また性懲りもなく来たのね・・・・・・」

 

出迎えた霊夢はやや呆れ果てていたが、特に害も無く、むしろ神社の仕事等を手伝うので、無理に追い返そうとはしなかった。

 

「残念だけど、ジンはいないわ」

 

「あれ? お出かけですか?」

 

妖弧がそう聞くと、霊夢は首を横に振った。

 

「違うわ・・・ジンは今、永遠亭で入院しているのよ」

 

「え!?」

 

これには妖弧は驚いて声を上げた。

彼女は、霊夢から詳しく聞こうとする。

 

「昨日の夜、突然倒れたのよ。永琳の診断だと、過労らしいわ」

 

「? それっておかしいじゃないですか?

私や妖精達、時々来る天人で、仕事を分担しているのですから、負担はそれなりに減っているはずですよ?」

 

「そうなんだけど・・・あいつの事だから、私達が知らない所で頑張り過ぎたのかも・・・・・・」

 

「霊夢さん・・・・・・」

 

「取り合えず、しばらくジンは神社にいないから」

 

「そうですか・・・・・・でも、せっかくですから、境内の掃除はしておきますね」

 

「そうして貰えると助かるわ」

 

妖弧は境内の掃除を行い、綺麗にしてから、その日は帰って行った。

 

―――――――――――

 

数日後、いつものように神社に遊びに来た妖弧であるが、境内での話し声が聞こえて来た。それは霊夢と華仙の声だった。

 

(ん? 何の話をしているですかね?)

 

妖弧は鳥居に隠れ、興味本意で二人の会話に聞き耳を立てた。

 

「それじゃ・・・ジンが倒れたのは――――」

 

「その管狐のせいね」

 

「でも・・・富を奪われた感じはしなかったわよ?」

 

「富を奪うには条件があるけど、気力はまた別問題よ。

恐らく、あの子が無意識にジンの気力を奪ってしまっていたのね」

 

「どうすれば良いの?」

 

「その狐をジンに会わせなければいいんだけど・・・難しい問題ね。

真実を伝えれば、その子は傷つくし、かと言って誤魔化して伝えても、真意がわからなければ、彼女はジンに会いに来てしまうわ。そうなったら―――」

 

その後の事は容易に想像出来た。霊夢は迷わず、妖弧をジンに遠ざけることを選ぶ。

 

「わかったわ、妖弧を追い払えば良いんでしょ? 私の得意分野ね」

 

「ちょっと霊夢、あの子は悪さをしていないのよ? それなのに―――」

 

「このままじゃ、ジンは気力を奪われ続けて死ぬわ。そうなる前に、妖弧に真実を伝える。それでも会おうとするなら容赦はしない」

 

「霊夢・・・それでジンが納得するの?」

 

「ジンに伝える気は毛頭ないわ。知ったらきっと、あいつから妖弧に会いに行くに決まってる。そう言う奴だから・・・・・・」

 

「でも、だからって―――」

 

華仙は言葉を区切る。そこで二人は、鳥居の陰に妖弧がいた事に気づく。

 

「・・・・・・聞いていたのね?」

 

霊夢の言葉に、妖弧は静かに頷く。

 

「それなら話が早いわ。今日限って、ジンには会わないでちょうだい」

 

霊夢は淡々とそう告げた。

妖弧は何も言わず、神社を去って行った。

 

「霊夢・・・・・・これで本当に良かったの?」

 

「・・・・・・良いのよ。これで」

 

華仙の問いに、霊夢はそう答えた。

しかし、その声はどこか寂しそうであった。

 

―――――――――――

 

妖弧が神社を訪れなくなってから数日が経過していた。

その間、ジンはすっかり回復し、いつも通り境内の掃除をしていた。

 

「・・・・・・あいつ来ないな」

 

いつもだったら神社に訪れる妖弧が来ないことに、ジンは不審に思いながらも、ジンは掃除を続けた。

そこで、魔理沙がやって来た。

 

「よお、遊びに来たぜ」

 

「妖――魔理沙か・・・」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「いや・・・妖弧が来たのかと思っただけだ」

 

「ああ、私に化けた見所のある化け狐のことか。あいつなら、さっきそこで見かけたぜ」

 

「なに!? 本当か!」

 

「ああ、いま行けば会えるんじゃ――――」

 

ジンは魔理沙の言葉を聞かず、掃除を放り出して走り出した。

 

「・・・・・・一体なんなんだ?」

 

残された魔理沙は、ただ呆然とした。

 

―――――――――――

 

妖弧は野道を歩いていた。

先程まで、博麗神社の近くまで来ていたが、ジンの様子を一目見た後、すぐ去ったのだ。

 

(良かった・・・ジンさん、元気なって)

 

妖弧はホッと一安心するも、何処か寂しそうであった。

僅かな時間であっても、あそこでは楽しい思い出が一杯溢れていた。思い出そうとすると、涙が溢れた。

 

(ダメだよ・・・これ以上は迷惑はかけれない)

 

涙を拭いながら、歩き出す妖弧。

そんな彼女の後ろから、声が聞こえた。

 

「妖弧!」

 

「え・・・ジンさん・・・?」

 

そこには息切れ切れのジンの姿があった。

 

「どうしてここに・・・・・・?」

 

「お前こそ、どうしたんだ一体? 最近神社に来ないんだ?」

 

「それは・・・・・・」

 

「理由があるなら教えてほしい」

 

「・・・・・・」

 

妖弧は戸惑ったが、静かに口を開き、ジンに理由を告げた。

 

「そうか・・・そんなことが」

 

「はい・・・私もそんな事になるとは思わなかったのです。本当に、ご迷惑をおかけしました。二度と姿を見せませんので・・・」

 

そう言って妖弧はペコリと頭を下げて、その場を去ろうとしたが、ジンに腕を掴まれた。

 

「待て、なに勝手に解決しているんだ」

 

「え?」

 

「誰が迷惑をしたと言った? 少なくとも、俺は迷惑していない」

 

「で、でも・・・私が側にいたら、ジンさんが・・・・・・」

 

「それなら、居られる方法を考えればいい。たとえ無くても、やりようはいくらでもあるだろ?」

 

「だ、だけど・・・」

 

「妖弧は、博麗神社が嫌いになったのか?」

 

ジンの言葉に、妖弧は堪えきれず涙を溢した。

 

「き、嫌いじゃありません・・・凄く心地よくて・・・大好きです」

 

「だったら、遠慮なくいつでも来い。俺はいつでも歓迎するぞ」

 

「うん・・・ありがとう」

 

妖弧は涙を拭いながら、微笑んで言った。

 

―――――――――――

 

数日後、神社の境内では、巫女衣装を着た妖弧の姿があった。

彼女は楽しそうに境内を掃除していた。

 

「~♪」

 

鼻唄混じりで掃除をしていると、別の場所を掃除していたジンがやって来た。

 

「妖弧、そっちの掃除は終わったか?」

 

「もちろん、ご覧の通りです」

 

妖弧は掃除し終わった境内をジンに見せる。

それはもう、落ち葉一つ見当たらない程、完璧に出来ていた。

 

「これは凄いな・・・流石は妖弧だな」

 

「えへへ♪」

 

ジンが誉めると、妖弧は嬉しそうに尻尾を振る。

何故、彼女が神社にいるかと言うと、あの後霊夢とは揉めに揉めたが、華仙や藍の助力を経て、妖弧を式神にし、能力を制限することで落ち着いた。

式神にするにあたって、妖弧に組み込む方程式を作らなければならなかったが、霊夢はその方程式が作れなかった為、代わりにジンが藍から教わりながら、その式を作り、霊夢が術を行使したのである。

今では、ジンと霊夢の式神として博麗神社に住み込みで働いている。

 

「ちょっといいかしら妖弧?」

 

すると神社から霊夢がやって来た。その手にはメモがあった。

 

「買い物を頼みたいんだけど、良いかしら?」

 

「お任せ下さい! ひとっ走りで行って来ます!」

 

妖弧は霊夢からメモ受けとると、一目散に走って行った。

 

「元気があるな妖弧は」

 

「ありすぎると思うんだけど」

 

「でも、彼女が式神になってからは大助かりだ」

 

「そうね・・・」

 

霊夢の心境は微妙だった。

彼女を式神にすることで、管狐の特性を抑える事が出来るのなら、わざわざあんな事を言わなくとも良かったのでは無いかと、思っていたからである。

 

(まったくもう・・・これじゃ、私が馬鹿みたいじゃない)

 

そんな自己嫌悪に陥っていると、ジンが口を開いた。

 

「なあ霊夢」

 

「・・・何よ?」

 

「悪かったな、お前の気持ちを無駄にして」

 

「・・・・・・」

 

「でも、俺はどうしても妖弧を放っては置けなかったんだ。だから―――」

 

「はいはい、あんたはそういう奴だってわかっているわよ。だからこそ、ああゆう弱い妖怪に好かれるんでしょ」

 

「そう言って貰えると助かる。俺の我が儘を聞いてくれてありがとう」

 

ジンは霊夢を見据えて、感謝の言葉を言った。

霊夢はか照れくさそうに、そっぽを向く。

こうして、博麗神社に新しい住人が出来たのである。




今回出てきた妖狐は、茨歌仙二巻で出てきたモブです。人間に化けるのが不得意なのか、常に魔理沙の姿で、耳と尻尾が出ている状態でいる事が多いです。
化け狐という以外正体がわかりませんが、一応管狐の妖怪としています。
その姿は個人的に好みなので、興味がある方は読んでもらいたいです。


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