少し、ご都合的や設定を改変して書いています。
セミの鳴き声が鳴り響き、すっかり夏となった幻想郷。
しかし、ある少女は重大な悩みを抱えていた。
「・・・・・・御賽銭が少ない」
博麗の巫女である霊夢は、賽銭箱の中身を見てがっくりしていた。
「これは緊急事態よ! 至急に対策を練らないと・・・そうでしょジン!」
霊夢は呑気に掃除をしているジンに問い掛けた。
ジンは。タメ息吐きながら、賽銭箱の中身を除き混む。
確かに、普段と比べれば少ないが、全く無いとはいえない。
「霊夢、確かに中身はいつもより少ないが・・・そんなに焦る必要あるのか?」
「何いってるのよ! 守矢に客が取られているのよ!」
参拝客が少ない理由はそこにあった。
守矢神社への架空索道が完成し、参拝客が安全に神社に行けるようになったのと、守矢が湖開きをし、更に参拝客が向こうに行ってしまったのだ。
「こうなったら、こっちも同じ湖開きをするのよ!」
「何処に湖があるんだ?」
「そんなの作れば良いじゃない」
「作っている間に夏が終わるぞ」
「じゃあどうするのよ?」
「そんなにすぐにアイディアは浮かばない。
とりあえず、今は辛抱だな」
「そんな呑気に―――ん?」
そんな話をしていると、紅魔館のメイドの咲夜がやって来るのに気か付いた。
咲夜は、二人に対してお辞儀をする。
「二人ともご機嫌よう」
「咲夜か、珍しいな」
「ちょっと霊夢に用があって」
「何よ? 言っておくけど、賽銭以外はお断りよ」
「まあまあ、話だけでも聞いてやれ。それで? 一体何の用なんだ?」
「お嬢様からの言伝を頼まれたの。“海に行くから、手を貸しなさい”とのことよ」
それを聞いた霊夢は、何故かげんなりしていた。
「はあ・・・、また“あそこ“に行くつもりなの?」
「その通りよ。既に例の物は完成しているわ」
「用意周到ね」
二人だけ話を進めて行くが、ジンだけは話について行けずにいた。
「・・・・・・悪いが、俺にも分かるように話してくれないか?」
「え? ああ、ごめんなさい。要は、海に行くから力を貸して欲しいのよ」
「海? 外に行くのか?」
幻想郷は山奥の場所に存在し、海という物は存在しない。その為、海に行くには幻想郷の外に出るしか無いのだ。
「まあ、ある意味外に行くわね」
「どういう事だ?」
「月に向かうのよ。そこに海があるわ」
咲夜と霊夢は、ジンに月の説明をし始めた。
月には幻想郷みたいな、結界で隔離された場所が存在する。かつて永淋、輝夜、鈴仙はそこに住んでいたという。
「月にそんな場所があったのか・・・」
「ええ、そこに海があるのよ」
「どうやって行くんだ?」
「パチェリー様が製作したロケットに乗るのよ。でも、その為には霊夢の力が必要なの」
「霊夢の?」
「私のと言うより、住吉三神の力ね」
「住吉三神?」
「航海の神様よ。その力をもって、月に向かうの」
「なるほど、その神様の力を借りるため、霊夢の力が必要なのか」
「そういうこと。悪い話ではないでしょ?」
「うーん・・・でも、月に行くには半月ぐらい掛かるんでしょ?」
「その辺は大丈夫よ。
パチェリー様が改良に改良を加え、一週間で着けるようになったわ」
「一週間ねぇ・・・」
「行ってみないか霊夢」
「ジン?」
「ここ最近、大した依頼も、参拝客も来ない感じだし、たまには羽でも伸ばしてもバチは当たらないだろ? それに―――」
「それに?」
「行ってみたいな。月の海に」
ジンの言葉を聞いた霊夢は、しばし考えてから口を開いた。
「・・・そうね、たまにはバカンスも悪く無いわね」
「それじゃあ―――」
「ええ、今回の月面旅行計画。協力してあげるわ」
「それは良かったわ、お嬢様も喜びになるわ」
「それで出発は?」
「今から三日後よ」
「なあ咲夜、他に人を呼んでもいいか?」
「別に構わないわ。でも、三人までよ」
「わかった」
「それじゃ、数日後に迎えに行くわ」
こうして、ジンと霊夢は月面旅行に行く事になった。
―――――――――――
数日後、ジンと霊夢は準備を終え、留守を萃香に任せる事にした。
「それじゃあ萃香、神社の事任せるわよ」
「おうよ。酒虫の世話は任せときな」
「出来れば、境内掃除も頼みたいのだが・・・」
「そっちは気が向いたらやっとくよ」
(大丈夫かな・・・?)
そんな話をしていると、準備を終えたサニー達が意気揚々と現れた。
「お待たせしましたー♪」
「来たか、これで全員か」
「あんた達、忘れ物は無いでしょうね?」
「大丈夫です♪」
「後は、咲夜が来るだけか・・・・・・」
「もう来ているわよ」
そこには、いつの間にか立っていた咲夜の姿があった。
「これで全員?」
「ああ」
「それじゃ、行きましょう」
「いってらっしゃ~い」
萃香に見送られ、ジン達は紅魔館へと向かうのであった。
―――――――――――
紅魔館の地下に向かうと、そこには魔理沙、チルノとその友人の大妖精がいた。
「魔理沙にチルノ、それに大か。お前らも呼ばれたのか」
「ああ。一応、今回のロケット製作を手伝ったからな」
「サイキョーのあたいが呼ばれるのは当然!」
「私はチルノちゃんに誘われました」
「全員揃ったわね」
奥からレミリア、パチェリー、フランドールの三人がやって来た。
月に行くメンバーは、紅魔館からはレミリア、フラン、咲夜の三人。
妖精組は、サニー、ルナ、スター、チルノ、大妖精の五人。
最後にジン、霊夢、魔理沙の三人で、合計十一人である。
「さて、みんな集まった事だし。これからロケットを見せてあげるわ」
レミリアは指をパチンと鳴らす。
すると、スポットライトが照らし出され、ロケットが姿を現す。
「どう? これが私達のロケットよ♪」
レミリアは自信満々に、ロケットを見せびらかした。
他の者も感心の声を上げるが、ただ一人だけは違っていた。
「・・・・・・なあレミリア、これは本当にロケットなのか?」
「それ以外の何に見えるの?」
「いやだって・・・・・・」
ジンは改めてロケットを見る。
ロケットは木製で出来ており、更には上部、中部、下部の部分がそれぞれズレていた。
(どう考えても、月まで行けるとは思えない・・・・・・)
そんな事を思っていると、パチェリーは不機嫌な口調になる。
「もしかしてジン。貴方は私達のロケットが月まで行けないと思ってる?」
「・・・・・・正直に言えば」
「そう・・・だったら、証明してあげるわ。私達のロケットは、月まで行けるって事を」
そう言って、ロケットの発射準備を始めるパチェリー。
悪い事をしたなと思いながらも、ロケットに乗り込むジンであった。
ロケットに乗り込んだジンは、ますます不安を感じた。
ロケットの内には家具が置かれ、宇宙ロケットと言うより、ロケットの形をした三階建ての家と言った方が正しく思える程である。
(これ・・・本当に大丈夫か?)
不安を抱いていると、次々と乗船していくメンバー達。その誰もが、不安の表情など浮かべていなかった。
(もしかして、俺が考え過ぎなのか?)
そうしていると、全員がロケットに乗り込んだ。
するとパチェリーの声が聞こえる。
《準備はいいかしら霊夢?》
「いつでも良いわよ」
霊夢はハチマキを額に巻き、祈祷を始める。すると、ロケットが動き始める。
「みんな、何かに捕まれ!」
魔理沙の声に従い、家具等にしがみつく。
揺れがどんどん激しくなり、そして――――。
「と、とんだ!?」
紅魔館から、ロケットは飛び立った。
―――――――――――
飛び立ったてから三日後、ロケットは未だに月に向かって飛んでいた。
「・・・・・・本当に月に着くのか?」
ジンは未だに不安を抱いていた。
彼が知る限りの知識では、宇宙空間に到達するには一日も掛からない筈。
しかし、三日経っても宇宙空間に出るおろか、切り離しすらしていないのだ。
そんなジンに、魔理沙は呆れながら声を掛けた。
「そんなビクビクしなくとも、ちゃんと月に着けるって」
「そうは言っても、いつまでも宇宙空間に出ないからな・・・・・・」
「やれやれ、妙なところで臆病だなジンは」
「悪かったな。ところで―――」
ふと、祈祷をし続けている霊夢に目をやる。
彼女はこの三日間ずっと祈祷をし続けているのだ。
「大丈夫なのか? もうかれこれ三日はああだぞ?」
「大丈夫、大丈夫。前の時は半月も祈祷していたからな、この程度は余裕だぜ」
「だが・・・」
そんな話をしていると、霊夢が祈祷を辞め、全員に言った。
「そろそろ一段目を切り離すから、みんな上に登ってちょうだい」
霊夢がそう言うと、全員が荷物をまとめて中部へ登る。
ジンは登る前に、霊夢に声を掛ける。
「霊夢大丈夫か? ずっと祈祷しているが・・・」
「大丈夫、大丈夫。むしろ前より楽だわ」
「・・・・・・そうか」
「そんな事よりも、さっさと上に登りなさい。ここにいると落ちるわよ?」
「あ、ああ・・・わかった」
霊夢に言われ、ジンは中部に昇る。
改めて、霊夢の凄さを再認識したジンであった。
―――――――――――
さらに二日後、空は段々と薄くはなるが、未だに宇宙には出ていなかった。
暇を持て余した乗客達は、一発芸大会をやっていた。
「タネも仕掛けもない布を大に被せる」
ジンは何の変哲の無い布を大妖精に被せる。
「一、二の・・・三!」
布を外すと、そこに大妖精の姿はなかった。
「大ちゃんが消えた!?」
「一体何処に!?」
「あそこにいるぞ」
ジンが指した方向に大妖精の姿があった。
「「「「おお!!」」」」
ジンと大妖精のマジックは成功し、二人に拍手が送られた。
もっとも、大妖精の瞬間移動能力を利用した、とても簡単なマジックであった。
「次は私ね」
続いてレミリアが前に出る。
「魔理沙、トランプを好きなようにシャッフルしなさい」
「良いぜ」
魔理沙はトランプを入念にシャッフルをする。
「上から順にカードを当てるわ。
スペードのエース、クラブのクイーン、ハートの九、ダイヤの三・・・」
レミリアは魔理沙が引くカードを次々と当てていった。
これには皆が驚き、賞賛の声が上がる。
こうして、一発芸大会は大いに盛り上がるなか、霊夢はやや不機嫌な口調で言う。
「もう、うるさいわね。そろそろ二段目を切り離すから、上に登りなさい」
「わかった。それじゃ、お開きにしよう」
やや不満の声が上がるが、取り残される訳にも行かず、やがて上へと登って行った。
―――――――――――
更に二日後、残る上部は他の部分より小さい為、とても窮屈な思いをしていた。
そこでジンは、気を紛らわす為にダウトをやる事を提案した。
「四」
「五ね」
「六よ」
「七♪」
「八です」
「九だぜ」
「ダウトだ」
「くそ~」
魔理沙は悔しそうに、カードを取る。
そんな中、外が突然明るくなり、霊夢が祈祷を止めた。
「みんな、着いたわよ」
「そうか、それじゃ・・・」
すると魔理沙達は荷物をまとめ始める。
ジンは事態がうまく把握出来ていなかったが、取り合えず荷物をまとめる事にした。
「それじゃ、ロケットが落ちる前に出るわよ」
「へ? どういう―――」
「いいから、さっさと出る!」
「ちょ―――」
ジンの疑問に答える前に、霊夢はジンの手を引き、窓からロケットの外へと出る。
そしてジンの目に写ったのは、墜落していくロケットと一面に広がる海、そして――――。
「――――地球?」
生まれて初めて見る、地球の姿であった。