自分の中では、家出しそうなキャラは鈴仙と天子と思っています。
博霊神社には、新しい目玉商品があった。
その名は博麗酒、ジンが捕まえて来た黄金酒虫から出る酒である。
希少種なので、他の酒虫や酒とは比べられない味であり、それを求めて連日連夜、神社を訪れる者が後を絶たなかった。
「どうぞー博霊酒です」
「押さないで、まだあるから」
「ほら、ルナ! 次の早く持って来て!」
「う、うん! わかっ――キャア!」
「もう、何を転んでるのよ・・・」
「みんな大変ね・・・」
「スター! サボっていないで手伝って!」
今日も博麗神社の面々は、忙しく働くのであった。
―――――――――――
今日の営業も無事に終わると、霊夢は楽しそうに札束を数えていた。
「一枚、二枚、三枚・・・ふふふふふ♪」
「霊夢さん・・・不気味に笑っているよ・・・」
「もの凄い怖い・・・」
「まるで般若みたい・・・」
「ちょっとあんた達、聞こえているわよ」
「「「キャアアア!!」」」
サニー達は霊夢に睨まれると、その場から逃げ、ジンの後ろに隠れた。
「おい霊夢、あまりサニー達をいじめるな」
「別に、いじめていないわよ」
「それなら良いが・・・。ところで、話があるんだが」
「なになに! また新しいアイディア!?」
「えらい食い付きだな・・・。博麗酒を人里の酒場に進出させようと思う。
今のままだと、ここまで買いに行くのはつらいと思うんだ」
「なるほど・・・これで更に収入が増えるわね! 流石ジンね!」
「いや・・・その、それほどでもない」
「それじゃ、前祝いとして、盛大にやるわよ!」
霊夢は張り切って、台所に向かった。
その姿は、とても楽しそうであった。
―――――――――――
人里の酒屋に、ジンは博麗酒を届けていた。
「取り合えず、今回はこれだけだ。売り行きを見ながら、徐々に増やして行こうと思っている」
「そんな事をしなくても売って、皆美味いって評判だよ」
「それでも、様子見は大事だ。それに、生産量が限られているからな・・・酒蔵でも作ろうかな・・・」
「もし作るなら相談に乗るよ。俺はこう見ても、酒に関して人里一番だからな」
「ありがとう、もしそうなったら色々頼む」
「任せておきな!」
ジンは酒屋の店主に頭を下げ、店を出た。
「さて、団子でも買って帰るか」
ジンは団子屋に足を運び、霊夢達の土産として団子を買おうとしたその時―――。
「なに? 金がない?」
「ん?」
ジンは声の方を見ると、団子の店員と一人の少女が何か言い争っていた。
「しょうがないじゃない、無いものは無いんだから」
「あのねお客さん。金が無いから、はいそうですかって訳にはいかないよ」
「うるさいわね、私は天人の比那名居天子よ!」
少女―――天子は高らかに自分の名前を叫んだ。
それを聞いたジンは、頭を抱えた。
「あいつ・・・何をやってんだ・・・」
ジンは呆れながらも、天子の方に近づいていった。
「あのね・・・天人だろうが何だろうが、食い逃げは許さないよ!」
「やるって言うの? 良いわよ、私の力を見せてあげるわ!」
「見せんで良い」
「アイタ!」
ジンは臨戦態勢の天子に対して、その辺の石で頭を殴った。
天子は殴られた部分を擦りながら、殴った来た人物を睨み付けた。
「いたたた・・・誰よ! この私を殴る馬鹿は!」
「悪かったな、馬鹿で」
「あら、ジンじゃない。女性を殴るなんて男としてどうなのよ? しかも石で!」
「お前が馬鹿な事をするからだろ?」
「私を馬鹿って言ったわね!」
「ああ言った。それがどうした?」
「私は天人なのよ! 馬鹿な訳無いじゃない!」
「・・・なら、金を忘れて、あまつさえ食い逃げしようとするのは馬鹿じゃないなのか?」
「まだ食い逃げしていないわよ!」
「それじゃ、どうするつもりなんだ?」
「そ、それは・・・」
「はあ・・・やれやれ、そこの店員」
「は、はい!」
「この子は俺の知り合いなんだ。建て替えるから、今回は見逃して欲しい」
ジンのその言葉に、天子は再び偉そうな態度を取った。
「あら、払ってくれるの?」
「払わないと、この店を潰すつもりだろ」
「そんな事しないわよ!」
「あーはいはい、わかったから。それでいくら?」
「お会計はこれぐらいになるよ」
「・・・マジ?」
「マジ」
ジンは天子のお代を建て替えるが、霊夢達の土産を買えなくなってしまった。
団子屋を後にし、帰路につこうとするジンに、天子が呼び止める。
「ちょっと待ちなさい!」
「・・・なんだ? 金なら後日返してくれれば良い」
「そうじゃなくて! その・・・しばらく泊めてくれない?」
「・・・・・・へ?」
「だから! しばらく泊めて欲しいのよ!」
「何でまた?」
「実は今、家出をしてて・・・」
天子の話によると、彼女の両親と喧嘩してしまい、そのまま家出をしたらしい。
「なるほど、それで金もなく、行く当てもないって訳か・・・何でまたそんな事に?」
「べ、別に良いじゃないそんな事! 良いから泊めて頂戴」
「断る」
「何でよ!? あの兎は泊めて、私は駄目なのよ!?」
「何処から聞いたんだそんな事・・・。まあともかく、鈴仙とお前じゃ、決定的に違う所がある」
「もしかして・・・ウサミミ?」
ジンは無言で、天子の頭を石で殴った。
「違うわアホ」
「痛い~いちいち殴らないでよ馬鹿!」
「お前がアホな事を言うからだろ。良いか、お前に足りていないのは礼儀だ。
俺も、人の事はあまり言えないが、その目の上目線は止めろ」
「私は天人なのよ! どうしてそんな―――」
「なら諦めろ」
「うっ・・・わ、わかったわよ」
天子は渋々、ジンに頭を下げて頼んだ。
「どうか、貴方の所に泊めて下さい」
「・・・わかった。ただし、泊まる間は神社の仕事を手伝って貰うからな」
「はあ!? そんなの聞いていないわよ!」
「それくらいして貰わないと、霊夢を説得出来ん。嫌なら諦めてくれ」
「ううっ・・・わかったわよ」
ジンの条件に、天子は不服そうに承諾した。
―――――――――――
「帰れ」
神社に帰って来て、事情を聞いた霊夢の最初の言葉だった。
「待てよ霊夢、いきなりそれは無いだろ」
「あのねジン。いくら神社が裕福になっていると言っても、ただ飯食らいの居候なんてお断りよ」
「それは俺も賛成だが、ここにいる間は神社の仕事を手伝うって言ってるぞ」
「あんたが?」
「そ、そうよ! 天人である私が手伝うんだから、ありがたく思いなさいよね!」
「・・・ジン、ちょっと」
霊夢は天子に聞こえないように、ジンに耳打ちをする。
「大丈夫なの?」
「うーん・・・正直不安だが、こうでもしないと反対するだろ?」
「それはそうだけど・・・」
「しばらく俺が面倒見るから、頼むよ霊夢」
「う~ん・・・わかったわよ。言ったからには、ちゃんと責任持ちなさいよ」
「ああ、もちろんだ」
こうして、天子は博麗神社に居座る事になった。
―――――――――――
次の日から、ジンは天子に仕事を教え始めた。
彼女がこれからやるのは、黄金酒虫の壺から酒を取り出し、瓶に入れる作業である。
「へぇー、これが博麗酒なのね」
「正確には、黄金酒虫酒だ。でも、販売するなら神社の名前にした方が知名が上がるからな」
「あんたって、商売上手よね・・・」
「これぐらい、誰だって思いつく。それよりも、やるぞ」
ジンは天子にじょーごを手渡す。
「え? まさかこれで移すの?」
「当たり前だろ、それ以外に方法が無いからな」
そう言って、黙々と瓶に酒を入れていくジン。
天子も、見よう見まねで作業を始めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
十分後―――。
「・・・・・・」
「・・・・・っ」
三十分後――。
「・・・・・・」
「っ~~!」
四十―――。
「やってられるか!」
天子は我慢の限界を越え、じょーごを放り出した。
「おい天子、まだ一時間も経っていないぞ」
「はっきり言って! 地味み過ぎるのよ! 他に無いの! 私に相応しい仕事は!?」
「やれやれ、じゃあ売店をやってみるか? 商品を売ったり、参拝客の相手をしたり」
「最初からそれにしなさいよ。良いわ、やって上げるわ」
「・・・先行きが不安だ」
ジンは不安を抱きながらも、天子に売店員を任せた。
売店には、神社の様々な道具を売っていた。
霊夢の退魔道具や土産物、最近出来た博麗酒などが売られてあった。
特に、博霊酒は人気あり、これを求めて人や妖怪が毎日行列をなしていた。
それに応対しているのは天子とサニー達であった。
「な、何でこんなに人が来るのよー!?」
「喋っていないで、応対しなさいよ!」
「妖精の癖に! 私に指図しないで!」
「ほらそこ、喧嘩しないで、まだまだ客は来るんだから」
「ええ!? まだ来るの!?」
「少なくとも、売り切れるまでは来るわよ」
「ひえぇぇ~~~」
天子の悲鳴が、博麗神社に木霊した。
昼頃になると、博麗酒はようやく売り切れになり、客足もようやく落ち着いて来た。
「ふう・・・疲れた・・・」
「お疲れ様」
疲れて座り込んでいる天子に、ジンは冷たい水を差し出す。
「ありがと・・・んぐ、んぐ・・・ぷはぁ、生き返る~」
「売店員の感想は?」
「しんどいわ・・・もう少しハードルを下げて・・・」
「うーん・・・そうだな・・・」
ジンが次に何をやらせようと考えていると、霊夢が何処かに出掛ける準備をしていた。
「霊夢、何処かに出掛けるのか?」
「ええ、退治依頼が来たから出掛けるわ。夕方には戻るから」
その話を聞いた天子は、突然立ち上がった。
「それよ!」
「うわ!? いきなりなんだ?」
「私のピッタリの仕事があるじゃない」
「もしかして・・・妖怪退治を手伝うって言うんじゃ・・・」
「その通り! 私の力なら、その辺の妖怪なんてイチコロよ!」
「いらないわよ、私一人で十分よ」
「そんな遠慮しないで良いわよ。それじゃ行くわよ!」
「何であんたが仕切るのよ! ああもう!」
ずかずかと先に行く天子の後を霊夢は急いで追った。
「本当に大丈夫か・・・?」
ジンは一抹の不安を抱きながら、二人を見送るのであった。
―――――――――――
それから時間が進み、夕方になる頃に霊夢が帰って来た。
「お帰り・・・あれ? 天子は?」
「知らないわよ! あのバカの事なんて!」
「一体何があった?」
霊夢を落ち着かせて事情を聞くと、妖怪退治の時に天子が力を出しすぎて、依頼主の土地に被害を出してしまったらしい。
「そんな事が・・・」
「それだけならまだしも、自分の非を一切認めようとしないんだもの。嫌になっちゃうわよ」
「それで天子は?」
「知らない。何処かに飛んで行ったわよ」
それを聞いたジンは、境内を飛び出した。
「・・・まったく、お人好しなんだから」
飛び出したジンの背中を見て、霊夢は小さく呟いた。
―――――――――――
とある川原に天子は両足を抱えて座っていた。
「何よ・・・みんなして・・・私だって頑張っているのに・・・」
天子は涙を拭きながら、小さく呟いていた。
そんな時、一人の青年がやって来た。
「こんな所にいたのか、探したぞ」
「ジン・・・・・・」
ジンがここに来たのに少し驚く天子だったが、すぐにそっぽを向く。
「何よ・・・あんたまで私を悪く言いに来たの・・・?」
「いや、そんなつもりはない」
そう言って、天子の隣に座るジン。
そして、ある話をし始める。
「昔、俺は勉強が嫌いだったんだ。楽しければ良い、毎日そう思っていた」
「・・・・・・」
「だけど、それは社会に出て通用しなくなった。
失敗の連続、上司の叱責、それは毎日のように振り掛かって来た」
それはあまり語らないジンの外での話であった。
天子は黙って、ジンの話に耳を傾けた。
「そんな中で一番嫌だったのは、不甲斐ない自分だったんだ」
「え?」
「何をしても失敗する情けない自分。次第に俺は、自分は何も出来ないクズだと思うようになったんだ」
「ジン・・・」
「それでも支えてくれた人達がいたから、今の俺がいる」
「・・・何が言いたいのよあんた?」
「簡単に言うと、お前が頑張る限り、お前を支えてやるって言うことだよ。かつて、俺がされたようにな」
「・・・ぷっ」
「何だよ、そんなにおかしい事言ったか?」
「おかしいわよ。
押し掛けて来た迷惑娘を追い出すチャンスなのに、こうして追いかけて、慰めてくれるんだもの」
「迷惑だったか?」
「ううん、ありがと」
「礼は良いが、霊夢にはちゃんと謝れよ」
「わかってるわよ。でも、フォローはしてよね」
「ああ、御安いごよう」
二人はそのまま川原を後にし、博霊神社に戻って行った。
―――――――――――
それからの天子は、仕事を真面目に取り組み、徐々に慣れていった。
「はい、どうぞ。あ、切れちゃった。ちょっと在庫から出して来るわ」
「お願いね」
天子は、博麗酒を瓶に入れているジンの元に赴く。
「ジン、博麗酒切れちゃったんだけど」
「ああ、そこに入れたやつあるから、持って行ってくれ」
「わかったわ。それと、ついでに他の商品も持って行くから」
「そんなにいっぱい持てるのか?」
「私を誰だと思っているの? 天人なのよ、これくらい余裕よ」
そう言って、天子は酒瓶と商品を一緒に持って行った。
昼過ぎ、霊夢と天子が退治依頼受け、出掛けていた時の頃。一人の女性が訪れた。
「こんにちはジンさん」
「ああ、衣玖か」
「どうです? 総領娘様のご様子は?」
「ああ、最初は不安だったが、今はちゃんとやってくれている」
「それは良かったです。一時はどうなるかと・・・」
衣玖数日前から、度々天子の様子を見に来ていた。
連れ戻そうとはしないは、彼女なりの配慮である。
「それで、今日も様子を見に来ただけか?」
「はい、彼女の意思に反する事は、極力しない事にしておりますので。
もっとも、無理に連れ戻そうとすれば、貴方が立ちはだかりますから」
「まあ、本人の意思を無視して連れ戻そうとするならばな」
「そうなったら、他の方々も黙りませんから、しばらくは様子見をします。ですが――」
「ん?」
「総領様は、総領娘様の事を心配しておりましたよ」
「わかった、天子に一応話しておく。教えてれてありがとう」
「いえ、それでは」
そう言って、衣玖はその場を去って行った。
それからジンは、衣玖が訪れた事を天子に伝えた。
ただし、すでに居場所がばれている事は伏せ、探しに来ていたと伝えた。
「衣玖が来たのね・・・」
「適当に言って、追い返しておいた」
「何か言っていた?」
「そうだな、お前の両親が心配していたとも言っていたな」
「そう・・・」
「話はそれだけだ。どうするかはお前次第だが―――」
「?」
「あまり親を困らせるな。死んだ後じゃ、親孝行なんて出来ないからな」
「え? それってどういう意味よ?」
「・・・俺の親はもう死んでいるんだ。俺は親孝行もろくに出来なかった親不孝者なんだよ」
そう言って、ジンはその場を後にした。
―――――――――――
その夜、ジンは黄金酒虫の坪を掃除していると、天子がやって来た。
「ねぇジン、少し良――――」
「何だ?」
「・・・何で鬼になっているのよ?」
「ああ、こいつを桶に移しにはどうしても鬼の腕力が必要だからな、壷を掃除する時はいつも鬼人になるんだ」
「そんなに重いの?」
「試しに持ち上げてみるか?」
「良いわよ、やってやろうじゃない」
そう言って、天子は酒虫を持ち上げようとする。しかし、持ち上がる事はなかった。
「何この重さ・・・」
「萃香の話によると、そのぐらいのサイズじゃ、鬼じゃないと持ち上がらないって言っていたぞ」
「な、なるほど・・・酒虫は鬼の御供って言われる訳ね」
「ところで、俺に何か用か?」
「えっとね・・・一度天界に帰ろうと思って」
「そうか」
「・・・止めないのね」
「止めてほしいのか?」
「そ、そんな訳無いでしょ!」
「冗談だ」
「あんたね!」
「そう怒るなよ。お前が決めた事に、どうこう言うつもりは無い」
「あんたって、こういう時は淡白よね・・・」
「人が決めた事に口を出すつもりは無いからな。
ただし、あまりにも非常識や間違っていると思ったら遠慮なく口を出すが」
「あれ? 私の時は手を出したような・・・」
「・・・たまに手も出すかも」
「あんたね・・・」
「まあ、それはさておき、いつ頃に帰るんだ?」
「明日には帰ろうと思って」
「そうか」
「だから、その前に礼が言いたくて」
「俺は大した事はしていない。せいぜい、後押しした程度だ」
「それでも、ここまで頑張れたのはジンのおかげよ。
本当に、ありがとう」
そう言って、天子はスカートの裾を少し持ち上げ頭を下げた。それはまるで淑女のようだった。
―――――――――――
次の日、天界に帰る天子を見送くろうと、ジン達は境内に集まっていた。
「それじゃ、世話になったわね皆」
「まったくよ、今度からは家出以外で来なさいよ」
「あら、家出以外なら良いのかしら?」
「来たら来たで、手伝わせるつもりよ」
「良いわよ、特別に手伝ってあげる」
そんな話をしていると、衣玖が境内に降りて来た。
「総領娘様、お迎えに上がりました」
「あら? 衣玖じゃない。どうしてここに?」
「これでも空気を読めますから」
「それ、ぜんぜん答えになっていないけど・・・まあ、良いか。
それじゃ、私は行くわ」
「待てよ天子」
ジンは天子を呼び止め、一瓶の博麗酒を手渡す。
「餞別だ。親と一緒に飲みな」
「・・・うん、ありがとう」
こうして、天子は衣玖と共に天界に帰って行ったのである。
その後も、天子はたびたび博霊神社に赴き、手伝いをしてるという。
今回、少しジンの過去を書きましたが、案の定グダりました。
やはり、あんまり書かない方がいいですね。
追記、誤字があったので直しました。