東方軌跡録   作:1103

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今回は長くなったので、前編後編と分けました。
試行錯誤をしながら書いていますが、中々難しいものです。

追記 少し修正しました。


紅魔館に行こう 前編

ここは何時もの博麗神社。

今日は珍しく、ジンは部屋で読書をしていた。

これは数少ないジンの趣味である。

 

「・・・・・・・・ふむ、中々面白かったな」

 

そう言って本を閉じ、部屋に積まれた本を鞄にしまい始めた。

 

「さて、本を返しに行くか」

 

今日は、紅魔館の図書館に本を返却する日なのだ。

 

 

境内に出ると、霊夢が心配そうに声を掛けてきた。

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「霊夢は心配性だな。あそこに本を返しに何度も行っているから、大丈夫だ」

 

「そうなんだけど・・・・・私の勘が、妙な事に巻き込まれるって告げているのよね・・・・・」

 

「怖いことを言うなよ・・・・・お前の勘が外れた事なんて無いからな・・・・・」

 

「ともかく、行くなら気を付けて行きなさいよ」

 

「ああ、わかった」

 

「何かあったら、浮游玉ですぐ呼ぶこと。良いわね」

 

「了解。それじゃ行って来る」

 

「行ってらっしゃい」

 

霊夢に見送られながら、ジンは紅魔館に向けて飛び立った。

 

―――――――――――

 

ジンは空を飛んでいた。

速くは無いが、遅くは無いくらいのスピードである。

以前は、真っ直ぐ飛ぶ事すら危うかったが、半年も経てばそれなり飛べるようにはなった。

 

(あの時は、空を飛べるようになるなんて考えもしなかったな・・・・・)

 

そんな事を考えていると、急に辺りが暗くなって行く。

 

「な、何だ!? まだ日が昇っているのに!?」

 

そして等々、夜と変わらない暗さとなった。

そして、幼い少女の声が聞こえる。

 

「たべものくれないと、た~べ~ちゃ~う~ぞ~」

 

「・・・・・何だ、ルーミアか」

 

この少女の名はルーミア。食人妖怪である。

食人と聞けば、危険を感じるが、ジンは既に対処方を心得ていた。

 

「ほら、おにぎりやるから見逃してくれ」

 

「わーい♪」

 

ジンから差し出されたおにぎりを、ルーミアは嬉しそうに受け取り、それを食べ始めた。

 

「最近どうだルーミア? ご飯に困っていないか?」

 

「うん♪ ジンが教えてくれた方法をやったら、ご飯に困らなくなった♪

でも・・・・・たまには人を食べたいなー」

 

「それは辞めておけ、下手すれば霊夢に退治されるぞ」

 

「そーなのかー、じゃあ我慢する」

 

「そうしておけ、大人しくしている分、霊夢も手を出さないだろ」

 

「そーするよ」

 

「それじゃ、俺は行くぞ。またなルーミア」

 

「おー」

 

ルーミアと別れ、ジンは再び紅魔館へと向かった。

 

―――――――――――

 

それから何事も無く、霧の湖に到着した。

ここまで来れば、紅魔館は目前なのだが―――――。

 

「・・・・・そう簡単に行くわけ無いか」

 

そう呟いて、これから来る氷柱の軌跡を視て、体を動かす。

数秒後、軌跡になぞるように氷柱が飛んで来た。

 

「む、流石はあたいのライバル!今の攻撃、よくかわしたな!」

 

「やっぱりチルノか・・・・・」

 

彼女は氷の妖精チルノ。

この湖に住む妖精である。

因みに、何故ジンをライバルと見なしているかというと。

以前、弾幕勝負で負け、それ以降ライバルと勝手に見なしているのだ。

 

「ここであったが百年目! 決着をつけてやる!」

 

「わかった。わかったから、一先ず荷物を降ろさせてくれ」

 

そう言って、荷物を降ろしてからチルノと対峙する。

 

「それじゃルールを確認するぞ。今回使うスペカは何枚だ?」

 

「今回は五枚で行く!」

 

「五枚な。それじゃ、時間は十分間。スペルカードを全てブレイク又は、十分間避け続けられたら俺の勝ち。

その間に、俺に三回被弾させたらチルノ勝ち。それで良いか?」

 

「それで良い! あたいの力を見せてやる!」

 

「それじゃ、ゲームスタート!」

 

こうしてチルノと弾幕勝負が始まった。

 

 

そして勝負の結果は、ジンのの勝利に終わった。

 

「あー! 負けたー!」

 

「ふう、どうにか勝ったな・・・・・。

チルノ、また強くなったんじゃないのか?」

 

「え? そう思う?」

 

「ああ、以前よりかわしづらくなっていたし、スペカの使い方も上手くなっている。

実際、何回か当たりそうだったからな」

 

「へっへーん♪ あたいは日々しんかしているからね。

これぐらいは当然!」

 

「いや、そこは成長の方が適切だと思うぞ」

 

「そうなの? ま、どっちでも良いや。

それじゃジン。次こそ、あたいが勝つから!」

 

そう言って、チルノはその場から飛び去って行った。

 

「次こそはか・・・・・俺も負けないようにしないとな・・・・・」

 

ジンは荷物を拾い上げ、再び紅魔館を目指した。

 

―――――――――――

 

ようやく紅魔館に到着すると、そこには居眠りしている門番が立っていた。

 

「ぐぅー・・・ぐぅー・・・」

 

「・・・・・・・・やれやれ」

 

ジンはその辺の石を拾い上げ、門番に目掛けて投げた。

 

「――――っ! はぁ!」

 

門番は突然目覚め、飛んでくる石を叩きおとした。

 

「起きたか美鈴?」

 

「あれ? ジンさん? いつからそこに?」

 

彼女の名前は紅美鈴。

紅魔館の門番をしている妖怪であり、中国拳法の達人でもあるのだ。

 

「ついさっきだ。今日は借りた本を返しに来たんだ」

 

「そうなんですか、それではどうぞお通り下さい」

 

「ああ、通らせて貰うが、居眠りは程々にな」

 

「ははは・・・・・善処します」

 

ジンは美鈴の許可を貰い、門から堂々と紅魔館に入って行った。

 

―――――――――――

 

紅魔館の地下には、広大に広がる大図書館が存在していた。

ジンはそこから本を何冊か借りたりしている。勿論、魔導書以外の本ではあるが。

 

「小悪魔ー、いるかー?」

 

「はーい。

あらジンさん、今日は返却ですか?」

 

ジンを出迎えて来れたのは、この図書館の主―――パチェリー・ノーレッジの使い魔。小悪魔である。

彼女はここの司書をやっている。

 

「ああ、これが借りていた分だ」

 

「承りました」

 

「ところでパチェリーはいるか? また本を借りたいんだが?」

 

「それがですね・・・・・今朝から姿が見えないんです。

探そうにも、これだけ広いと苦労します・・・・・」

 

「ふむ、今朝なら過去の軌跡が残っているかも知れないな。視てみるか」

 

そう言ってジンは、過去の軌跡を視始める。

そこには、いつものテーブルで本を読んでいるパチェリーの残像が視えた。

 

「どうやらパチェリーは、いつものテーブルで本を読んでいたらしい。

そして読み終えて、本を戻しに行った」

 

ジンは残像の後を追った。

するとそこには、本の山がそびえ立っていた。

 

「そして、本を戻そうとした瞬間。

床に置かれた本に足を取られ転び、その衝撃で上の棚から落ちて来た本の下敷きになったようだ」

 

「ええ!? それじゃ、この本の山に生き埋めになっているって事ですか!!」

 

「そうなるな」

 

「冷静に言って無いで、掘り起こしましょうよ!」

 

「待て、こういう時は冷静に対処しないと二次災害が―――」

 

「待ってて下さいパチェリー様! 今お助け―――キャウン!」

 

小悪魔も、残像のパチェリー同様に、足を取られて転んでしまった。

その衝撃で、上の棚から本が落ちて来る。

 

「・・・・・こうして過去は繰り返されるって事か」

 

そんな事を呟きながら、ジンは落ちて来る本をかわし続けた。

 

 

それからしばらくして、ジンはようやくパチェリーと小悪魔の救出に成功するのであった。

 

「本当に助かったわ。ありがとうジン」

 

「ありがとうございます」

 

「お礼は良いって、こっちも本を無償で貸し出して来れて感謝しているしな」

 

「あら? 別に無償でやっているつもりは無いわよ」

 

「え?」

 

「いつも本の整理を手伝ってくれているじゃない。本の貸し出しは、それの報酬なの。

等価交換は魔法使いの基本よ」

 

「別にそういうつもりで本の整理をしている訳じゃない。

単に散らかったり、していると無性に気になる質なんだ」

 

「・・・・・それって、私の図書館が散らかって汚いって事?」

 

「ん? 反論出来るのか?」

 

ジンに言われ、周囲を見渡すパチェリー。

目に写ったのは、床に置かれた無数の本であった。

 

「・・・・・反論出来ないわね」

 

「わかったなら、先ずは本の片付けだ。早速やるぞ」

 

こうして、図書館の大掃除が始まった。

 

 

 

「えっと、この本は・・・・・」

 

「その本はそこよ。

あと、そこにある本は全部魔導書だから、開かないように」

 

「了解。

それにしても、以前来た時に片付けた筈なんだが・・・・・どうして散らかっているんだ?」

 

「そ、それは・・・・・・・・」

 

「そうなんですよ。パチェリー様は読んだ本を元に戻さず、そのままにするんですよ」

 

「こあ! 余計な事は言わないで頂戴!」

 

「だって、事実じゃないですか」

 

「――――――」

 

「こあーーーー!!?」

 

小悪魔はパチェリーが放った魔法で黒焦げになり、そのまま地面に倒れてしまった。

 

「やれやれ、魔法使いってのは片付けが苦手なのか?」

 

「そんな訳ないでしょ、私の場合は直ぐに本を取れるように置いといているだけよ」

 

「そんな事言って、実際は戻すのが面倒くさいって思っているんだろ?」

 

「うっ・・・・・し、仕方ないじゃない! ここは広いし、いちいち戻しに行ったら、それだけで一日が終わるわよ!」

 

「開き直りか、どっちにしても、このまま散らかって行けば、魔理沙の家と同レベルになるぞ」

 

「あの子の家がどう散らかっているかは知らないけど、同じ扱いは嫌ね」

 

「それなら日頃、本を整理しておけよ」

 

「善処するわ」

 

「やれやれ・・・・・」

 

そして二人は片付けを再開させる。

 

 

あらかた片付け終わろうとした時、一人のメイドが突然現れた。

 

「ご機嫌ようジン様」

 

「ん? 咲夜か」

 

メイドの名は、十六夜咲夜。

この紅魔館唯一の人間で、メイド長を勤めている女性である。

 

「お嬢様と妹様が、ジン様に会いたいと仰せられまして、お向かいに上がりました」

 

「あー・・・・・本を返してから顔を出そうと考えていたんだが・・・・・片付けに夢中になっていた・・・・・」

 

「お嬢様は大変御立腹です。

“館の主に挨拶に来ないなんて、いい度胸だわ!”との事です」

 

「・・・・・・・・逃げていいか?」

 

「私から逃げられます?」

 

「・・・・・無理だな。仕方ない、腹を括るか。

パチェリー、小悪魔。悪いが後を頼んだ」

 

「頼むも何も、元々私の場所よ。

寧ろ、いつも感謝しているわ」

 

「ジンさん。ご武運を」

 

パチェリーと小悪魔に見送られ、ジンはこの館の主。レミリア・スカーレットに会いに行くのであった。


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