東方軌跡録   作:1103

28 / 194
おそらく、これが今年最後の投稿になると思います。



春を探して

三月末となり、博麗神社の桜の木には蕾が出て来て、今にも咲きそうになっていた。

ジンは掃除の手を止め、桜の木を見上げる。

 

「今年の花見は楽しみだな」

 

桜の蕾を見ながら、ジンは期待で胸を踊らせていた。

すると、霊夢がジンを呼びに来た。

 

「ジーン、お昼にするわよ」

 

「ああ、わかった」

 

ジンは掃除を中断し、神社にはいって行った。

居間に入ると、既に料理が置かれていた。

 

「お、タラの芽か」

 

「紫からの差し入れよ、せっかくだからてんぷらにしてみたの」

 

「タラの芽のてんぷらか、それは美味そうだな。

それじゃ、いただきます」

 

ジンはタラの芽のてんぷらを口にする。

 

「美味い! やっぱり霊夢の料理は最高だ!」

 

「お、お世辞を言っても、何にも無いわよ」

 

「お世辞じゃなくて、素直な感想。俺は霊夢の手料理好きだけど」

 

「ば、馬鹿な事を言っていないで、さっさと食べなさい!」

 

霊夢は顔を真っ赤にして、ジンから顔を逸らす。

ジンは、何か怒らせる要因があったのか?と疑問を抱きながらも、タラの芽のてんぷらを食べるのであった。

 

 

食事も終わり、掃除を再開しようとした時、来訪者が訪れた。

 

「ジン、こんにちは」

 

「こんにちはジン!」

 

「咲夜にフラン、どうしたんだ?」

 

「ちょっと霊夢に聞きたい事があって」

 

「霊夢に? わかった。

おーい霊夢! お前にお客だ!」

 

ジンがそう叫ぶと、やや迷惑そうな表情で霊夢がやって来た。

 

「そんな大声で叫ばないでよ、恥ずかしいじゃない・・・。

あれ? 咲夜にフランじゃない、どうしたの?」

 

「ちょっと貴女に聞きたい事があってね。

春告精って知っているわよね」

 

「春告精・・・リリーホワイトの事ね」

 

「リリーホワイト? 一体何なんだ霊夢?」

 

「春を告げる妖精よ、リリーホワイトが通った場所は、一瞬で春になるのよ」

 

「一瞬で!? それまた凄いな・・・」

 

「それで? リリーホワイトがどうかしたの?」

 

霊夢がそう聞くと、咲夜はやや困った表情を取る。

 

「例年通り、お嬢様がリリーホワイトをご所望されて・・・」

 

「やれやれ、懲りないわねレミリアは・・・それで、私に何が聞きたいの?」

 

「あのね、闇雲に探しても見つからないから、リリーホワイトの住処を見つけて待ち伏せしようと思っているんだけど、肝心な住処が分からなくって・・・。

霊夢なら何か知っているんじゃないかな?」

 

フランは期待の眼差しで霊夢を見つめるが、彼女の期待に応える返答は返って来なかった。

 

「そんなの知らないわよ」

 

「ええ・・・」

 

「仕方ないじゃない。

妖精の住処ってのは見つけづらい物なのよ」

 

「それはそうだけど・・・」

 

「なら、同じ妖精に聞いてみれば良いじゃないのか?」

 

「同じ妖精? 当てはあるのジン?」

 

「ああ、ついて来てくれ」

 

そう言ってジンは、ミズナラの木に向かって行った。

 

―――――――――――

 

ミズナラの木には、いつも通りのサニー達と、遊びに来ていた魔理沙の姿があった。

 

「おーい、サニー」

 

「あ、ジンに霊夢さんじゃない。あれ・・・?」

 

「珍しいな。咲夜はともかく、フランまで来ているなんて」

 

「ちょっとね。それよりも、そこの妖精達に聞きたいんだけど」

 

「な、何でしょうか・・・?」

 

フランの気迫に、サニー達は圧されていた。

当のフランは気にせずに言葉を続けた。

 

「リリーホワイトの住処、知ってる?」

 

「リリーホワイトって、春告精の事ね」

 

「ルナ、何か知っているのか?」

 

ジンがそう尋ねると、ルナは首を横に振る。

 

「私は知らないけど・・・サニーなら何か知ってるんじゃない?」

 

「そうね、この時期になるとリリーホワイトの事を恐がるもの」

 

ルナとスターの言葉に、一同の視線がサニーに集まる。

 

「サニー、何か知っているのか? 」

 

「え、えっと・・・リリーホワイトに関わるのはやめた方が・・・・・・」

 

「知ってんなら、さっさと教えなさいよね」

 

「ううっ・・・」

 

霊夢に迫られ、サニーは渋々知っている事を話した。

彼女の話によると、春のリリーホワイトは興奮状態で、普段温厚な彼女でも、この時はかなり攻撃的になるらしい。

 

「なるほど、それでリリーホワイトを恐れていたのか・・・」

 

「けどよ、いくら攻撃的って言っても妖精は妖精だろ?

大したこと無いんじゃないか?」

 

「甘いわ魔理沙さん! この時期のリリーホワイトは攻撃的になるだけじゃなくて、力も凄いのよ!

春の彼女に敵う奴なんていないんだから!」

 

「―――と言っておりますけど?」

 

「でも、それは妖精の中の話だよね?」

 

「そうだぜ、妖精と私達を一緒にしないで欲しいぜ」

 

サニーの言葉を、まったく信じない咲夜、フラン、魔理沙であった。

一方、霊夢は今の話が気になったのか、何かを考えていた。

 

「ん? どうした霊夢?」

 

「ちょっと気になるだけど、攻撃的になるって事は、人を襲うかもしれないのよね?」

 

「おい霊夢・・・まさか・・・」

 

「退治なんかしないわよ、ただ、一応監視した方が良いと思って。

サニー、リリーホワイトの居場所を教えて」

 

「う~ん・・・霊夢さん達なら大丈夫かな・・・? えっとですね・・・」

 

サニーはリリーホワイトの住処を、ジン達に話し始めた。

 

―――――――――――

 

妖怪山の麓、そこにジン、霊夢、咲夜、フランと新たに同行した魔理沙の五人が訪れていた。

 

「ここだな、サニーがリリーホワイトと遭遇した場所は」

 

「これは意外な場所ね、大抵の妖精は魔法の森か霧の湖近くに住んでいるのに」

 

「細かい事は後よ。

ジン、早速だけど、リリーホワイトの軌跡があるか調べて頂戴」

 

「ああ、わかった」

 

ジンは能力を使い、過去の軌跡を視始める。

すると、中腹辺りに飛んで行くのが見えた。

 

「中腹辺り・・・彼処は天狗達の縄張りじゃないか?」

 

「また面倒な所に居るわね・・・」

 

「どうして? 襲って来たらやっつければ良いじゃない」

 

「妹様、天狗という妖怪は仲間意識が強く。味方がやられると、必ず報復行動を取るのです。

今後の捜索を視野に入れると、敵対しない方がよろしいかと」

 

「そっかー・・・」

 

「うーん・・・ここは早苗達に協力して貰うか?

一緒に居れば、少なくとも襲われる事も無いだろうし」

 

「どうやって連絡を取るの?」

 

「まあ、そこは運次第になるが・・・取り合えず中腹に向かおう」

 

ジンの提案により、中腹に向かうことにした霊夢達。

五人は山へと足を踏み入れるのであった。

 

―――――――――――

 

五人が山に入ってしばらく経過した。

そろそろ山の中腹に差し掛かろうとしたその時――――。

 

「そこの五人! 止まりなさい!」

 

一人の白狼天狗の少女が五人の前に現れた。

彼女の名前は犬走椛。妖怪山を哨戒する白狼天狗の一人であり、ジンの将棋仲間でもある。

 

「椛か、ちょうど良かった」

 

「ちょうど良かった。じゃありませんよ! あまり天狗の縄張りに入らないで下さいって、いつも言ってるじゃないですか!

将棋なら後日でお願いします!」

 

「いや、そうじゃなくて、早苗を呼んで来て欲しいんだ」

 

「守矢の巫女ですか? 何でまた?」

 

「ちょっと、山の中腹を捜索したいんだ。早苗と一緒なら、他の天狗も襲っては来ないだろ?」

 

それを聞いた椛は、ニコやかな笑顔を作った。

しかし、この笑顔は友好的な物では無く、とてつもなく攻撃的な物であった。

 

「ジン・・・? 私の話を聞いていましたか?」

 

「ああ、聞いていた。だから、他の天狗に襲われないように、早苗に来てもらおうと――――」

 

「それなら―――今すぐに山から降りなさーい!」

 

椛は、火山の噴火の如く叫んだ。

普段の彼女からは、考えられない姿であった。

 

「むー、ちょっとぐらい良いじゃない」

 

「ダメです、早く山から降りて下さい。

特にジン、貴方は他の天狗に只でさえ目をつけられているのですから」

 

「ちょっと、それってどういう事よジン?」

 

「あー・・・話せば長くなるんだが・・・」

 

ジンは事の経緯を話始めた。

彼が幻想郷に来て間もない頃、守矢神社に遊びに行った時に哨戒中の天狗に絡まれた事があった。

その時は能力を駆使し、撃退したのだが、それ以来天狗達に目をつけられてしまったのだ。

もっとも、文や椛のように友好的な天狗もいる。

 

「あんたね・・・そういう大事なことを何で今まで話さなかったの!」

 

「いや、その・・・中腹まで入らなければ、特に大丈夫だったし、仮に守矢神社に用があれば早苗と一緒に居れば、基本的に襲っては来なかったからな・・・」

 

それを聞いた霊夢は、呆れてため息を吐いた。

そんな中、魔理沙はある疑問を抱いた。

 

「ところで、ジンは鬼の血を引いているんだろ? だったらフリーパスじゃないのか?」

 

「まあ・・・そこの所は意見が別れていまして・・・。

鬼の一人として見ている天狗や。所詮は人間、鬼モドキ程度にしか見ていない天狗に別れているんです」

 

「あー・・・確かに、難しい判断だぜ・・・因みにお前は?」

 

「私ですか? 私も文先輩同様、ジンは大切な友人ですよ」

 

椛は親愛を込めて、そう言った。

 

―――――――――――

 

結局、中腹の捜索を断念した五人は帰路に着く事にした。

咲夜とフランは山の麓で別れ、魔理沙とは魔法の森付近で別れた。

そしてジンと霊夢は、神社に続く街道を歩いていた。

「結局、骨折り損のくたびれ儲けね・・・」

 

「まあ、こんな日があっても良いじゃないか」

 

「良くないわよ、あちらこちら動いて、結局無駄骨よ」

 

「はは・・・そうだな、でも―――」

 

「ん?」

 

「俺は楽しかった。

皆で何処か行って、何かを探す事が。

結局、リリーホワイトに会えなかったけど、満足している」

 

「・・・その前向きな性格が羨ましいわ」

 

「ちょっと違うな、前向きなったんだ。

霊夢も、前向きに生きてみないか?」

 

「考えとくは・・・・・・ん?」

 

「どうした?」

 

「あれって・・・」

 

霊夢が指した方を見ると、そこには一人の妖精が飛んでいた。

そして、神社を通り過ぎると、桜の木が満開になって行く。

 

「凄い・・・あれがリリーホワイトか?」

 

「そうよ、あれが春を告げる妖精。リリーホワイトよ」

 

「あれがリリーホワイト・・・」

 

二人はリリーホワイトが去った後も、ここから見える神社の桜の木をしばらく眺めていた。

この日をもって、幻想郷に春が訪れた。




今回出てきた椛ですが、軌跡録では文の後輩という設定にしています。
一応、コンセプトとしては、ほのぼのを目指しているので、あまり不仲な描写は書きません。
よって、原作だと仲が悪いキャラでも、多少は良かったりとしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。