東方軌跡録   作:1103

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今回は鈴奈庵の話しですが、漫画に頼ってしまっていいんだろうかと思うこの頃です。
はっきり言って、書きやすいです。


夜の百鬼夜行

二月の半ば、ジンと霊夢が雪掻きをしていると、魔理沙が気になる噂を話して来た。

 

「狐火?」

 

「そう、里では噂になっているぜ」

 

「鬼火の間違いじゃないの?」

 

「いや、鬼火は青色だが、目撃されているのは赤い火なんだ」

 

「もし、狐火なら・・・不穏ね」

 

「ああ、不穏だな」

 

「そんなに不穏なのか?」

 

「不穏よ、古来より狐の妖怪は強力で厄介なものが多いのよ。

あんたも知っての通り、九尾の狐とかが有名よ」

 

「九尾の狐・・・?

あの藍が何かを企んでいると言うのか?」

 

「藍じゃなくても、別の狐妖怪が企んでいるかも。

早速調査に向かうわよジン」

 

「ちょ、ちょっと待てよ霊夢!」

 

「気を付けてなー」

 

霊夢はジンを連れて調査に向かい、魔理沙はそれを見送った。

 

―――――――――――

 

人里についた二人は、手分けして聞き込みを開始した。

すると、あちらこちらに目撃情報が出て来た。

 

(この様子だと、噂は本当だな。

しかし、本当に狐火なのか?)

 

そんな疑問を抱いていると、丁度よく里に来ている藍を見つけた。

 

(そうだ、藍なら何か知っているかも)

 

「おーい、藍」

 

「ん? おや、ジンじゃないか。一体どうした?」

 

「実は聞きたい事があるんだ」

 

ジンは狐火の噂を藍に話した。

 

「なるほど、そんな事が・・・」

 

「同じ狐妖怪の藍なら、何かを知っているかと思って」

 

「いや、残念だが何も知らない。

そんな噂は、初めて知ったからな」

 

「そうか・・・」

 

「一応、他の狐仲間に聞いてみよう。何かわかったら知らせるよ」

 

「それは助かる。ありがとう藍」

 

藍に礼を言って、その場を後にするジン。

そして、霊夢と合流するのであった。

 

―――――――――――

 

その日の聞き込みを終えた霊夢とジンは、神社で聞き込みで得た情報を交換していた。

 

「藍と会ったの?」

 

「ああ、本人は今回の件はあまり知らないみたいだ。

一応、狐仲間に聞いてみるとは言ってくれたが・・・。

そっちはどうなんだ?」

 

「こっちはマミゾウにあったわ」

 

「マミゾウって・・・あの二ツ岩マミゾウか?」

 

二ツ岩マミゾウ、幻想郷では珍しい外来の狸妖怪である。

狸でありながら人柄の良く、ジンの友人でもある。

 

「最近姿を見せないと思ったら、外に帰省してたみたい」

 

「そうなのか、今度会ったら挨拶するか」

 

「そのマミゾウの話によると、鈴奈庵は黒だって言っていたわ」

 

「鈴奈庵が?」

 

「気になって、小鈴ちゃんにマミゾウの事を聞いてみたけど、“お客様のプライバシーに関することは話せません”って」

 

「まあ、普通はそうだろうな」

 

「でも、気になる事があるの」

 

「気になる事?」

 

「鈴奈庵の中・・・食器が多く置かれていたのよ」

 

「食器が?」

 

「しかも、夜な夜な増えてるって」

 

「・・・霊夢、今夜は鈴奈庵を見張ってみよう。何かわかるかも知れない」

 

二人は、夜の鈴奈庵を見張ることに決めたのであった。

 

―――――――――――

 

深夜、人が寝静まった里でジンと霊夢は鈴奈庵を見張っていた。

 

「さ、寒いわね・・・」

 

「そりゃ寒いだろ、腋なんか出していれば」

 

霊夢の防寒着は、マフラーで露出している腋をカバーしているだけなのだ。

 

「う、うるさいわね、これしか無いんだからしょうがないじゃない」

 

「はあ、しょうがないな・・・」

 

そう呟くと、ジンは自分のコートを霊夢に着せた。

 

「ジン?」

 

「これなら、寒くは無いだろ?」

 

「でも、それじゃあんたが・・・」

 

「俺なら大丈・・・くしゅん!」

 

「痩せ我慢しない、ほら―――」

 

霊夢はジンをコートの半分に入れた。

 

「これなら、お互い寒く無いでしょ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

それから二人は何も喋らなかった。

それは、お互いが密着している事に恥ずかしいと思っていたからである。

しかし、それを止めようとは思わなかった。

 

 

それから時間が経つと、鈴奈庵から食器の類いが大量に出て来た。

 

「食器が・・・一人でに!?」

 

「恐らく、あの食器達は付喪神よ」

 

「付喪神って・・・あの付喪神か?」

 

「ええ、でも妙ね・・・・・」

 

「そうだな、付喪神だけの百鬼夜行は異常だぜ」

 

「そうね、先導者がいれば話は別だけど・・・って、魔理沙!?」

 

いつからそこに居たのか、いつの間にか魔理沙がそこにいた。

 

「魔理沙? いつからそこに?」

 

「さっきから居たんだが・・・邪魔しちゃ悪いと思ってな」

 

「な、何を言っていんのよ!

馬鹿な事を言っていないで、さっさとあの付喪神を追いかけるわよ!」

 

「お、おい! 引っ張るな霊夢! うわぁ!?」

 

「きゃあ!」

 

慌てていたのか、一緒にコートを羽織っていた事を忘れ、そのまま動いてしまった。

その結果、二人は転んでしまい、まるでジンが霊夢を押し倒すような形となってしまう。

 

「~~~~!!?」

 

「わ、悪い霊――ぶぼぉ!?」

 

霊夢は顔を真っ赤にしながら、ジンを殴り飛ばした。

 

「やれやれ、何をやってんだが」

 

そんな様子を見て、魔理沙はため息を吐く。

 

―――――――――――

 

三人は付喪神の後を追い、林の中に入って行った。

すると、なにかしらの音が聞こえて来た。

 

「一体何の音かしら・・・?」

 

「音って言うより、音楽だな」

 

「見てみろよ、あそこに薪の火があるぜ」

 

「見てみましょう」

 

三人は木の影から様子を見る事にした。

そこにあった光景は、付喪神と化け狸の宴会であった。

 

「これは・・・宴会場?」

 

「どうやら、付喪神林ここを目指していたようね」

 

しばらく宴会の様子を見ていると、魅入っていた魔理沙が思わず木の枝を折ってしまった。

 

「し、しまった!」

 

音に気づいたのか、狸達は森に逃げ、付喪神達は元の食器に戻ってしまう。

 

「あーあ、付喪神が戻っちゃったじゃないか」

 

すると薪の火から二ツ岩マミゾウが現れた。

 

「マミゾウ? 一体どうしてここに?」

 

「それはこっちの台詞じゃ、お前さん達はどうしてここに?」

 

三人は、これまでの経緯をマミゾウに話した。

 

「なるほど、これは迂闊じゃったな」

 

「もしかして、この付喪神はお前の仕業か?」

 

「いや? 儂は生まれたばかりの付喪神を拾っただけじゃよ」

 

「拾っただけ? それじゃこの付喪神は一体・・・」

 

「マミゾウ、何か知っているなら教えてくれ」

 

「う~ん・・・まあ、いずれは知られるだろうし、話してやっても良いかのう」

 

そう言って、付喪神が生まれる理由を話してくれた。

 

―――――――――――

 

翌日。ジン、霊夢、魔理沙は人間に化けたマミゾウと共に鈴奈庵に訪れた。

 

「おーい店員、この前の本はあるかい?」

 

「あ、この前の・・・あれ? 霊夢さん達?」

 

「こんにちは小鈴ちゃん」

 

「邪魔するぜ」

 

「皆さんお揃いで、珍しいですね。お知り合いなんですか?」

 

「まあな・・・それでマミゾウ、お前が言う本はどれだ?」

 

「そんなに慌てたせんな。店員、この前の絵巻を――」

 

「はい!」

 

そう言って、一本の巻物を取り出す。

中身を見ると、それは禍々しい絵が描かれていた。

 

「こ、これは・・・」

 

「これは“私家版百鬼夜行絵巻、最終章補遺”あの百鬼夜行絵巻の続きがこれなんです」

 

「なんつう禍々しい絵なんだ・・・」

 

「これが付喪神を生み出している原因ね・・・」

 

「それで、お買い上げになります?」

 

「どれ、買い取ろうかのう」

 

「ちょっと待ったー! 何勝手に買おうとしてるのよ!」

 

マミゾウがこの絵巻を買おうとすると、霊夢は慌ててそれを止める。

 

「別に良いじゃろう、儂が何を買おうが」

 

「普通はね、だけどこれは見逃せないわ」

 

「どうしてですか霊夢さん?」

 

「良い小鈴ちゃん、この絵巻はね――――」

 

霊夢は小鈴に、この絵巻の危険性を話始めた。

話を聞いた小鈴は、みるみると青ざめていく。

 

「どう? これでも売ろうとするの?」

 

そう聞くと、小鈴は首を横に振った。

 

「だそうよ。悪いけど、この絵巻は諦めて貰うわよマミゾウ」

 

「儂が有効活用しようと思ったが、仕方ないのう・・・」

 

マミゾウはとても残念そうに呟いた。

 

「それじゃ小鈴ちゃん、その絵巻を寄越して」

 

「何をするんですか?」

 

「決まっているじゃない。そんな危ない物は処分よ処分」

 

「え!? そんなの駄目です!」

 

そう言って、絵巻を大事に抱える小鈴。

 

「あのね・・・この前の双六の時みたいな事が起きるかも知れないのよ? こんな危険な物は処分するのが一番よ」

 

「それはそうですけど・・・やっぱり処分するのは駄目です! どうしても処分するなら、買い取って下さい!」

 

「わかったわよ・・・それでいくら?」

 

「これくらいです」

 

小鈴は絵巻の値札を霊夢に見せる。すると霊夢は―――。

 

「ぶぼぉ!?」

 

卒倒した。

 

「霊夢が倒れた!?」

 

「一体いくらなんだ・・・?」

 

ジンと魔理沙は、絵巻の値札を見る。その値段は途方も無く高く、数十年真面目に働いて、ようやく買えるような額であった。

 

「いくらなんでも法外だろ! 値段変えてんじゃないのか?」

 

「いや、最初からこの値段じゃよ」

 

「こんなのは流石に買えないな・・・」

 

「それじゃ、儂が買い取ろう」

 

「それは駄目って言っているでしょうが!」

 

結局絵巻は処分出来ず、封印する事にとどまった。

 

―――――――――――

 

それから数日が経過した。

あの後、小鈴に絵巻を売らないのと、封印を絶対に解かないようにと言いつけたのだ。

それからというもの、狐火の噂は全く聞かなくなった。

 

「小鈴ちゃんも、言いつけを守っているみたいね」

 

霊夢は炬燵の上に置かれたみかんを剥きながら呟く。

 

「そうだな、これで一件落着か?」

 

「そうね、出来れば処分したかったけどね・・・」

 

「それは仕方がない。あんな大金、払えるわけ無い。

それに、あの巻物はしっかり封印したんだろ?」

 

「それはそうだけど・・・封印は一時的なものよ。いずれは解かれてしまうわ」

 

「それなら、こつこつ貯めて買えば良いじゃないか。

直ぐに封印が解ける訳でもないんだろ?」

 

「あんたって、そういう地味な作業好きよね・・・」

 

「そうだな、割りと好きだな」

 

そう言って、炬燵のみかんを手に取る。

外には、静かに雪が舞い落ちていた。


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