はっきり言って、書きやすいです。
二月の半ば、ジンと霊夢が雪掻きをしていると、魔理沙が気になる噂を話して来た。
「狐火?」
「そう、里では噂になっているぜ」
「鬼火の間違いじゃないの?」
「いや、鬼火は青色だが、目撃されているのは赤い火なんだ」
「もし、狐火なら・・・不穏ね」
「ああ、不穏だな」
「そんなに不穏なのか?」
「不穏よ、古来より狐の妖怪は強力で厄介なものが多いのよ。
あんたも知っての通り、九尾の狐とかが有名よ」
「九尾の狐・・・?
あの藍が何かを企んでいると言うのか?」
「藍じゃなくても、別の狐妖怪が企んでいるかも。
早速調査に向かうわよジン」
「ちょ、ちょっと待てよ霊夢!」
「気を付けてなー」
霊夢はジンを連れて調査に向かい、魔理沙はそれを見送った。
―――――――――――
人里についた二人は、手分けして聞き込みを開始した。
すると、あちらこちらに目撃情報が出て来た。
(この様子だと、噂は本当だな。
しかし、本当に狐火なのか?)
そんな疑問を抱いていると、丁度よく里に来ている藍を見つけた。
(そうだ、藍なら何か知っているかも)
「おーい、藍」
「ん? おや、ジンじゃないか。一体どうした?」
「実は聞きたい事があるんだ」
ジンは狐火の噂を藍に話した。
「なるほど、そんな事が・・・」
「同じ狐妖怪の藍なら、何かを知っているかと思って」
「いや、残念だが何も知らない。
そんな噂は、初めて知ったからな」
「そうか・・・」
「一応、他の狐仲間に聞いてみよう。何かわかったら知らせるよ」
「それは助かる。ありがとう藍」
藍に礼を言って、その場を後にするジン。
そして、霊夢と合流するのであった。
―――――――――――
その日の聞き込みを終えた霊夢とジンは、神社で聞き込みで得た情報を交換していた。
「藍と会ったの?」
「ああ、本人は今回の件はあまり知らないみたいだ。
一応、狐仲間に聞いてみるとは言ってくれたが・・・。
そっちはどうなんだ?」
「こっちはマミゾウにあったわ」
「マミゾウって・・・あの二ツ岩マミゾウか?」
二ツ岩マミゾウ、幻想郷では珍しい外来の狸妖怪である。
狸でありながら人柄の良く、ジンの友人でもある。
「最近姿を見せないと思ったら、外に帰省してたみたい」
「そうなのか、今度会ったら挨拶するか」
「そのマミゾウの話によると、鈴奈庵は黒だって言っていたわ」
「鈴奈庵が?」
「気になって、小鈴ちゃんにマミゾウの事を聞いてみたけど、“お客様のプライバシーに関することは話せません”って」
「まあ、普通はそうだろうな」
「でも、気になる事があるの」
「気になる事?」
「鈴奈庵の中・・・食器が多く置かれていたのよ」
「食器が?」
「しかも、夜な夜な増えてるって」
「・・・霊夢、今夜は鈴奈庵を見張ってみよう。何かわかるかも知れない」
二人は、夜の鈴奈庵を見張ることに決めたのであった。
―――――――――――
深夜、人が寝静まった里でジンと霊夢は鈴奈庵を見張っていた。
「さ、寒いわね・・・」
「そりゃ寒いだろ、腋なんか出していれば」
霊夢の防寒着は、マフラーで露出している腋をカバーしているだけなのだ。
「う、うるさいわね、これしか無いんだからしょうがないじゃない」
「はあ、しょうがないな・・・」
そう呟くと、ジンは自分のコートを霊夢に着せた。
「ジン?」
「これなら、寒くは無いだろ?」
「でも、それじゃあんたが・・・」
「俺なら大丈・・・くしゅん!」
「痩せ我慢しない、ほら―――」
霊夢はジンをコートの半分に入れた。
「これなら、お互い寒く無いでしょ?」
「あ、ああ・・・」
「「・・・・・・」」
それから二人は何も喋らなかった。
それは、お互いが密着している事に恥ずかしいと思っていたからである。
しかし、それを止めようとは思わなかった。
それから時間が経つと、鈴奈庵から食器の類いが大量に出て来た。
「食器が・・・一人でに!?」
「恐らく、あの食器達は付喪神よ」
「付喪神って・・・あの付喪神か?」
「ええ、でも妙ね・・・・・」
「そうだな、付喪神だけの百鬼夜行は異常だぜ」
「そうね、先導者がいれば話は別だけど・・・って、魔理沙!?」
いつからそこに居たのか、いつの間にか魔理沙がそこにいた。
「魔理沙? いつからそこに?」
「さっきから居たんだが・・・邪魔しちゃ悪いと思ってな」
「な、何を言っていんのよ!
馬鹿な事を言っていないで、さっさとあの付喪神を追いかけるわよ!」
「お、おい! 引っ張るな霊夢! うわぁ!?」
「きゃあ!」
慌てていたのか、一緒にコートを羽織っていた事を忘れ、そのまま動いてしまった。
その結果、二人は転んでしまい、まるでジンが霊夢を押し倒すような形となってしまう。
「~~~~!!?」
「わ、悪い霊――ぶぼぉ!?」
霊夢は顔を真っ赤にしながら、ジンを殴り飛ばした。
「やれやれ、何をやってんだが」
そんな様子を見て、魔理沙はため息を吐く。
―――――――――――
三人は付喪神の後を追い、林の中に入って行った。
すると、なにかしらの音が聞こえて来た。
「一体何の音かしら・・・?」
「音って言うより、音楽だな」
「見てみろよ、あそこに薪の火があるぜ」
「見てみましょう」
三人は木の影から様子を見る事にした。
そこにあった光景は、付喪神と化け狸の宴会であった。
「これは・・・宴会場?」
「どうやら、付喪神林ここを目指していたようね」
しばらく宴会の様子を見ていると、魅入っていた魔理沙が思わず木の枝を折ってしまった。
「し、しまった!」
音に気づいたのか、狸達は森に逃げ、付喪神達は元の食器に戻ってしまう。
「あーあ、付喪神が戻っちゃったじゃないか」
すると薪の火から二ツ岩マミゾウが現れた。
「マミゾウ? 一体どうしてここに?」
「それはこっちの台詞じゃ、お前さん達はどうしてここに?」
三人は、これまでの経緯をマミゾウに話した。
「なるほど、これは迂闊じゃったな」
「もしかして、この付喪神はお前の仕業か?」
「いや? 儂は生まれたばかりの付喪神を拾っただけじゃよ」
「拾っただけ? それじゃこの付喪神は一体・・・」
「マミゾウ、何か知っているなら教えてくれ」
「う~ん・・・まあ、いずれは知られるだろうし、話してやっても良いかのう」
そう言って、付喪神が生まれる理由を話してくれた。
―――――――――――
翌日。ジン、霊夢、魔理沙は人間に化けたマミゾウと共に鈴奈庵に訪れた。
「おーい店員、この前の本はあるかい?」
「あ、この前の・・・あれ? 霊夢さん達?」
「こんにちは小鈴ちゃん」
「邪魔するぜ」
「皆さんお揃いで、珍しいですね。お知り合いなんですか?」
「まあな・・・それでマミゾウ、お前が言う本はどれだ?」
「そんなに慌てたせんな。店員、この前の絵巻を――」
「はい!」
そう言って、一本の巻物を取り出す。
中身を見ると、それは禍々しい絵が描かれていた。
「こ、これは・・・」
「これは“私家版百鬼夜行絵巻、最終章補遺”あの百鬼夜行絵巻の続きがこれなんです」
「なんつう禍々しい絵なんだ・・・」
「これが付喪神を生み出している原因ね・・・」
「それで、お買い上げになります?」
「どれ、買い取ろうかのう」
「ちょっと待ったー! 何勝手に買おうとしてるのよ!」
マミゾウがこの絵巻を買おうとすると、霊夢は慌ててそれを止める。
「別に良いじゃろう、儂が何を買おうが」
「普通はね、だけどこれは見逃せないわ」
「どうしてですか霊夢さん?」
「良い小鈴ちゃん、この絵巻はね――――」
霊夢は小鈴に、この絵巻の危険性を話始めた。
話を聞いた小鈴は、みるみると青ざめていく。
「どう? これでも売ろうとするの?」
そう聞くと、小鈴は首を横に振った。
「だそうよ。悪いけど、この絵巻は諦めて貰うわよマミゾウ」
「儂が有効活用しようと思ったが、仕方ないのう・・・」
マミゾウはとても残念そうに呟いた。
「それじゃ小鈴ちゃん、その絵巻を寄越して」
「何をするんですか?」
「決まっているじゃない。そんな危ない物は処分よ処分」
「え!? そんなの駄目です!」
そう言って、絵巻を大事に抱える小鈴。
「あのね・・・この前の双六の時みたいな事が起きるかも知れないのよ? こんな危険な物は処分するのが一番よ」
「それはそうですけど・・・やっぱり処分するのは駄目です! どうしても処分するなら、買い取って下さい!」
「わかったわよ・・・それでいくら?」
「これくらいです」
小鈴は絵巻の値札を霊夢に見せる。すると霊夢は―――。
「ぶぼぉ!?」
卒倒した。
「霊夢が倒れた!?」
「一体いくらなんだ・・・?」
ジンと魔理沙は、絵巻の値札を見る。その値段は途方も無く高く、数十年真面目に働いて、ようやく買えるような額であった。
「いくらなんでも法外だろ! 値段変えてんじゃないのか?」
「いや、最初からこの値段じゃよ」
「こんなのは流石に買えないな・・・」
「それじゃ、儂が買い取ろう」
「それは駄目って言っているでしょうが!」
結局絵巻は処分出来ず、封印する事にとどまった。
―――――――――――
それから数日が経過した。
あの後、小鈴に絵巻を売らないのと、封印を絶対に解かないようにと言いつけたのだ。
それからというもの、狐火の噂は全く聞かなくなった。
「小鈴ちゃんも、言いつけを守っているみたいね」
霊夢は炬燵の上に置かれたみかんを剥きながら呟く。
「そうだな、これで一件落着か?」
「そうね、出来れば処分したかったけどね・・・」
「それは仕方がない。あんな大金、払えるわけ無い。
それに、あの巻物はしっかり封印したんだろ?」
「それはそうだけど・・・封印は一時的なものよ。いずれは解かれてしまうわ」
「それなら、こつこつ貯めて買えば良いじゃないか。
直ぐに封印が解ける訳でもないんだろ?」
「あんたって、そういう地味な作業好きよね・・・」
「そうだな、割りと好きだな」
そう言って、炬燵のみかんを手に取る。
外には、静かに雪が舞い落ちていた。