前回の異変から一ヶ月以上が経った。
燃えてしまった神社はすっかりと元通りに建て直され、いつもの日常を過ごすジンと霊夢。
そこに、旧都に行っている筈の萃香がやって来ていた。
「え? 旧都の復興を手伝ってくれだって?」
「ああ、地霊殿の主からの頼みなんだよ」
「地霊殿?」
「ああそう言えば、ジンはあまり旧地獄の事は知らなかったんだった。
簡単に言えば、旧地獄を管理している奴等が住んでいる屋敷の事さ」
「要するに、旧地獄のトップが呼んでいるって事か・・・。しかし、何でまた?」
ジンがそう聞くと、萃香はやや言いづらそうに答えた。
「まぁ・・・その・・・あそこは元来はぐれ者が集まっているから、統率が全然取れていないんだよね」
「それなら尚更、俺が行っても仕方が無いんじゃないか?」
「そこは、あの河童達を統率した実績があるからじゃないか?」
「何でそんな事を知っているんだ?」
「あそこの主――古明地さとりは、守矢の神様と交流があるからね。
それで知ったんじゃない?」
「意外な人脈だな・・・」
「それで? どうするんだい?」
「そうだな・・・。何が出来るか分からないが、頼られているなら応えるのが男だろ」
「そうこなくちゃ! ジンは話がわかる奴で助かるよ」
「ちょっと、私抜きで話を進めないでよ」
すると、今まで黙っていた霊夢が口を開く。
その声は、若干不機嫌そうであった。
「何さ霊夢、もしかしてジンが行くのを反対するのかい?」
「当たり前でしょ、去年の時に酷い目にあったんだから」
去年の温泉旅館一泊旅行の時に、旧都の鬼に絡まれた事があり、ジンはその時に怪我を負ってしまった事がある。
その為、霊夢はジンを旧都に行かせたくはなかった。
「随分と、過保護になったね~霊夢は」
「うるさいわね。死んだら色々と困るのよ」
「そこは素直に、行かせたく無いって言えばいいじゃないか」
「ど、どっちでも良いでしょ!
ともかく、ジンは行かせないから!」
「う~ん・・・困ったな・・・」
萃香が悩んでいると、助け船を出すようにジンが霊夢に言った。
「霊夢、俺は行こうと思う」
「ちょっとジン! 私の話を聞いていたの!?」
「霊夢の心配も分かるが、やっぱり友人が困っているのを、放ってはおけない」
「あのね・・・いつもとは訳が違うのよ?
地上の妖怪と違って、地底の妖怪達は荒くれ者だって、前に言わなかった?」
「確かに、それは身をもって体験した。それでも、俺は行く」
「・・・はあ、わかったわよ。
ただし、危なくなったら直ぐに帰って来る事。良いわね?」
「わかった」
「萃香、ジンの事をお願いね」
「がってん承知」
こうしてジンは、旧都の復興作業を手伝う事になった。
―――――――――――
「何か悪いね、無理に来てもらって」
萃香は旧都の道程を歩きながら、ジンに今回の事で謝罪した。
「萃香が謝る事じゃない。
自分で決めて、ここに来たんだから」
「そう言ってもらえると助かる。
ほら、ついたよ」
旧都の中央にある建物、地霊殿にジンと萃香は辿り着いた。
「ここが地霊殿さ」
「・・・言って悪いが、何か場違いな建物だな」
旧都の一般の建物は和風式であるが、地霊殿は唯一の洋式の建物であった。
その光景が、何とも違和感を感じる物であった。
「悪かったわね、場違いで」
すると、一人の少女が地霊殿から出て来た。
「お燐か、出迎えて来たのかい?」
「まあね、貴方がジン? あたいは火焔猫燐。お燐って呼んでおくれ」
「お燐か、よろしくな」
そう言って、ジンは手を差し出し握手を交わす。
「何か意外だな、あの巫女の下で働いてるって聞いたから、もっと粗暴な人だと思ってた」
「巫女って・・・霊夢の事か?」
「うんそうだよ。
以前の異変の時は、そりゃもう大暴れしてたよ・・・」
「ははは・・・」
「それはさておき、さとり様に会いに来たのよね? 案内するよ」
お燐が地霊殿に案内しようとした時、突然萃香が言ってきた。
「それじゃ、私はここいらで失礼させてもらうよ」
「あれ? 萃香は一緒に来ないのか?」
「ん~・・・正直言って、苦手なんだよ・・・悪い奴じゃないのは分かるんだけど・・・」
「?」
「まあ、会ってみればわかるさ。
それじゃ、また後でジン」
そう言って、萃香は旧都の方に戻って行った。
残されたジンは、お燐の案内のもと、地霊殿に入って行った。
―――――――――――
地霊殿の中は予想通り、洋風な作りになっていた。
そして驚いた事に、地霊殿は動物が多くいた。
「動物が多いな・・・」
「ここにいる動物は皆、さとり様のペットなんだ」
「ペット? こんなにたくさん?」
「もちろん、あたいもペットの一人だよ。
強い妖力や霊力を長年受けて、動物から妖に、妖から妖怪になったんだ」
「それじゃ、ここにいる動物達も、いずれは妖怪になるって事か?」
「そうだよ。
でも、それにはまだまだ時間は必要だけどね」
「お燐みたいな、動物から妖怪になった奴はいないのか?」
「一人いるよ。
あたいの親友で、名前は―――」
「おりーん!」
すると一人の少女が、お燐の名前を呼んで走って来た。
「いたいた! 探したよお燐!」
「どうしたのお空? そんなに慌てて?」
「えっと・・・何だっけ?」
その言葉に、お燐はずっこけた。
「駄目じゃないそれじゃ・・・」
「ちょっと待って! 今思い出すから・・・・・・そうだ!」
「思い出した?」
「今日、地霊殿にお客様が来るから、出迎えるようにって、さとり様が言ってた!」
「それは今朝聞いたよ・・・」
「うにゅ?」
「えっと・・・彼女は?」
「この子は霊烏路空。あたいと同じ、動物から妖怪になった子だよ」
「霊烏路空だよ、皆からはお空って呼ばれているよ。
貴方がさとり様が言っていたお客様?」
「あ、ああ、俺はジンって言うんだ。よろしくな」
「よろしくねジン!
それじゃ、さとり様のところまで案内するよ」
「え? お、おい!」
「ちょ、ちょっとお空! 待ちなさいよ!」
お空はジンの手を掴み、ぐいぐいと引っ張って行き、お燐は直ぐに後を追った。
ジンはお空とお燐の案内で、館の主の部屋の前に辿り着いた。
「さとり様ー、お客様連れてきたよー」
「どうぞ、お入り下さい」
「失礼する」
部屋に入ると、そこに一人の少女が椅子に座っていた。
「初めまして、地霊殿の主、古明地さとりです」
「初めまして、俺は―――」
「ジンですね。
色々と話を聞いています」
「そうか、それでも一応自己紹介はさせてくれ。
俺はジン、よろしくなさとり」
「本当に律儀な人なんですね」
「それは守矢の神様達に聞いたからか? それとも―――」
「両方です。
貴方が考えているように、私は“心を読む程度の能力”があるんです」
「やっぱりな・・・」
ジンは、さとりという名前から、相手が心を読む妖怪―――覚である事を予想していた。
「驚かないんですね。
それに、心を読まれている恐怖心も無い」
「ある程度予想出来れば、心構えが出来るだろう」
「まるで、守矢の神様みたいな考えですね」
「俺はそんな大した者じゃない」
「謙虚・・・いいえ、自分を卑下しているのですね」
さとりの言葉に、ジンは心臓を鷲掴みされた感覚を受けた。
「随分と動揺していますね」
「・・・・・・」
ジンは何も言い返せなかった。
さとりは、そんなジンに気にもせずに言葉を続けた。
「貴方は自分を蔑ろにし過ぎです。もう少し、大切にしたらどうです?」
「・・・善処する」
「言っておきますが、私に嘘は無意味ですよ?」
そう言われてしまい、ジンは何も言えなくなってしまった。
そんなジンを見て、さとりは少し申し訳なさそうに謝罪した。
「すみません、こんな事を言うつもりはなかったのですが・・・」
「・・・いや、さとりは悪くない。どれも本当の事だからな」
「貴方は優しい人ですね。
だからこそ、もっと自分を大切にして下さい。
そして、自信を持って下さい」
「・・・ありがとう」
ジンがそう言うと、さとりは微笑んだ。
―――――――――――
旧都の広場で、妖怪達は集まっていた。
ジンの紹介をしていたのだが、歓迎しているような空気ではなかった。
「新参者のうえに、人間が俺達を仕切るっていうのか? ふざけるな!」
「そうだ! そうだ! 引っ込めー!」
このように、いきなり来た人間に指図を受ける事に、旧都の妖怪達は不満を感じていた。
その光景を見ていられなかったのか、萃香が口を出した。
「ちょい待ちな」
「す、萃香の姉さん・・・」
「こいつは私のダチだよ。
あんま悪く言うなら、私が相手になるよ」
「「「・・・・・・」」」
萃香が出てくると、妖怪達は黙るが、その表情は不満に満ち溢れていた。
そこでジンは―――。
「どうしたら、俺を認めてくれる?」
そう聞くと、妖怪の一人がこう言った。
「俺達と勝負して、勝てたら認めてやる」
「わかった」
「ちょっとジン! そんな勝負受けなくたって―――」
「萃香には悪いが、こうでもしないと誰も納得しないだろ?
認めて貰わなければ、俺の言葉に誰も耳を貸してくれない」
「そうだけど・・・」
「大丈夫、何とかなるさ」
そう言って、ジンは旧都の妖怪達と勝負する事になった。
勝負方法は酒の飲みくらべ、誰が多く飲めるか競い合う勝負となった。
「人間には、少し酷な勝負だったか?」
「・・・・・・」
ジンは内心不安だった。
彼はお酒に弱く、僅か数杯で酔い潰れてしまうからである。しかも、酔っている間の記憶は必ずと言って、飛んでしまうからである。
そんな不安を感じたのか、萃香が励ましの言葉をジンに送る。
「大丈夫、ジンならいけるよ。
私といつも飲んでいるだろ?」
「萃香・・・」
(その記憶がまったく無いのだが・・・)
「ジン?」
「いや、何でもない、ありがとう萃香」
こうして、旧都の妖怪達と飲み比べ勝負が始まった。
―――――――――――
「・・・ん」
ジンは何処かの民家の中で目を覚ます。
「確か・・・飲み比べをしていて・・・」
角が生えた頭を触りながら、何とか思い出そうとする。
しかし、まったく思い出せなかった。
(勝負は一体どうなった・・・?)
勝負の行方が気になるジン。すると、萃香が民家に入って来た。
「おや、起きたのかいジン」
「萃香か・・・ここは?」
「ここは、私の借宿さ。
その様子だと、昨日の事は覚えていないみたいだね」
萃香の話によると、飲み比べ勝負は途中で宴会騒ぎに変わり、勝負はうやむやになってしまったらしい。
「それじゃ、認められたかどうかわからないじゃないか」
「いや、そうでも無いと思うよ。
結構仲良く酒を飲んでいたみたいだし」
「そうなのか?」
「まあ、皆に会いに行けばわかるよ」
そう言って萃香はジンの手を引っ張り、外へと連れ出し広場に向かう。そしてそこには、昨夜飲み比べ勝負をした妖怪達がいた。
「お、ジンじゃないか」
「よう兄弟! 随分と遅い目覚めじゃないか!」
「え? え?」
妖怪達は昨日とは打って変わって、友好的な態度を取って来た。
流石のジンも、これには戸惑ってしまう。
「昨日は悪かったな、あんな態度を取っちまって」
「い、いや、皆の言い分は当然だし、突然来た奴の下で働きたくは無いって思うのは当たり前だと思う・・・」
「まったくお前は、器がデカイ人間だな!」
そう言って、ジンの背を叩く。
その力が強かったのか、思わずむせてしまう。
「ちょっとあんた、今は鬼になっているから良いけど、少しは手加減しなさいよ」
「おおっと、すまんすまん。大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「それは良かった。それじゃ、早速始めようぜ」
「始める?」
「決まってんだろ? 旧都の復興作業だよ」
「昨日は何やかんやで、宴会になったからね。
遅れた分を取り戻さないと」
「そう言う訳だ。よろしくな大将」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
こうしてジンは、旧都の妖怪達と共に、復興作業に取り掛かるのであった。
―――――――――――
それから数日後、ジンは旧都から戻って来た。
思いの外早い帰還に、霊夢は驚いた。
「ちょっとジン! あんた大丈夫だったの!?」
「え? 何が?」
「だって・・・こんなに早く帰って来たって事は・・・」
「違う違う、危険な目にあってないし、ちゃんと復興作業を終わらせて来た」
「それにしたって早すぎよ」
「まあ・・・元々鬼が結構いる所だからな、一人で数十人分の働きをする奴らが多くいたんだ」
「ふーん・・・それなら、何で復興に一ヶ月以上掛かったの? 里だって、それくらいで復興出来たのに?」
「原因は人材じゃなくて、気質に問題があったんだ・・・」
「どういう事?」
ジンは霊夢に、復興作業の様子を語りだした。
旧都の妖怪達は気性が荒く、些細な事でトラブルを起こす事が多かった。
さらに、作業中に酒を飲んで酔っぱらったりと中々進まなかった。
「それじゃ、進まない訳ね・・・」
「ああ・・・なかなか苦労した。
まあ、それでもまとめれば、作業は早く終わった」
「御苦労様」
「ああ・・・。そうだ、お土産を持ってきたんだ」
そう言って、一瓶の酒を取り出す。
「お酒?」
「ああ、旧都の皆がくれた物なんだ。
折角だから、一緒に飲まないか?」
「良いけど・・・酔い潰れないでよ?」
「気をつければ大丈夫。
それに、一人で飲むのはつまらないだろ?」
「まあ、そうね・・・」
「それじゃ、準備をするな」
ジンはコップを用意して、霊夢に渡す。
そして二人は、静かに酒を飲むのであった。
今回は展開がグダグダなような感じです。
正直言って、地霊殿のメンバーを絡ませるのは難しいです・・・。