東方軌跡録   作:1103

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旧都の復興

前回の異変から一ヶ月以上が経った。

燃えてしまった神社はすっかりと元通りに建て直され、いつもの日常を過ごすジンと霊夢。

そこに、旧都に行っている筈の萃香がやって来ていた。

 

「え? 旧都の復興を手伝ってくれだって?」

 

「ああ、地霊殿の主からの頼みなんだよ」

 

「地霊殿?」

 

「ああそう言えば、ジンはあまり旧地獄の事は知らなかったんだった。

簡単に言えば、旧地獄を管理している奴等が住んでいる屋敷の事さ」

 

「要するに、旧地獄のトップが呼んでいるって事か・・・。しかし、何でまた?」

 

ジンがそう聞くと、萃香はやや言いづらそうに答えた。

 

「まぁ・・・その・・・あそこは元来はぐれ者が集まっているから、統率が全然取れていないんだよね」

 

「それなら尚更、俺が行っても仕方が無いんじゃないか?」

 

「そこは、あの河童達を統率した実績があるからじゃないか?」

 

「何でそんな事を知っているんだ?」

 

「あそこの主――古明地さとりは、守矢の神様と交流があるからね。

それで知ったんじゃない?」

 

「意外な人脈だな・・・」

 

「それで? どうするんだい?」

 

「そうだな・・・。何が出来るか分からないが、頼られているなら応えるのが男だろ」

 

「そうこなくちゃ! ジンは話がわかる奴で助かるよ」

 

「ちょっと、私抜きで話を進めないでよ」

 

すると、今まで黙っていた霊夢が口を開く。

その声は、若干不機嫌そうであった。

 

「何さ霊夢、もしかしてジンが行くのを反対するのかい?」

 

「当たり前でしょ、去年の時に酷い目にあったんだから」

 

去年の温泉旅館一泊旅行の時に、旧都の鬼に絡まれた事があり、ジンはその時に怪我を負ってしまった事がある。

その為、霊夢はジンを旧都に行かせたくはなかった。

 

「随分と、過保護になったね~霊夢は」

 

「うるさいわね。死んだら色々と困るのよ」

 

「そこは素直に、行かせたく無いって言えばいいじゃないか」

 

「ど、どっちでも良いでしょ!

ともかく、ジンは行かせないから!」

 

「う~ん・・・困ったな・・・」

 

萃香が悩んでいると、助け船を出すようにジンが霊夢に言った。

 

「霊夢、俺は行こうと思う」

 

「ちょっとジン! 私の話を聞いていたの!?」

 

「霊夢の心配も分かるが、やっぱり友人が困っているのを、放ってはおけない」

 

「あのね・・・いつもとは訳が違うのよ?

地上の妖怪と違って、地底の妖怪達は荒くれ者だって、前に言わなかった?」

 

「確かに、それは身をもって体験した。それでも、俺は行く」

 

「・・・はあ、わかったわよ。

ただし、危なくなったら直ぐに帰って来る事。良いわね?」

 

「わかった」

 

「萃香、ジンの事をお願いね」

 

「がってん承知」

 

こうしてジンは、旧都の復興作業を手伝う事になった。

 

―――――――――――

 

「何か悪いね、無理に来てもらって」

 

萃香は旧都の道程を歩きながら、ジンに今回の事で謝罪した。

 

「萃香が謝る事じゃない。

自分で決めて、ここに来たんだから」

 

「そう言ってもらえると助かる。

ほら、ついたよ」

 

旧都の中央にある建物、地霊殿にジンと萃香は辿り着いた。

 

「ここが地霊殿さ」

 

「・・・言って悪いが、何か場違いな建物だな」

 

旧都の一般の建物は和風式であるが、地霊殿は唯一の洋式の建物であった。

その光景が、何とも違和感を感じる物であった。

 

「悪かったわね、場違いで」

 

すると、一人の少女が地霊殿から出て来た。

 

「お燐か、出迎えて来たのかい?」

 

「まあね、貴方がジン? あたいは火焔猫燐。お燐って呼んでおくれ」

 

「お燐か、よろしくな」

 

そう言って、ジンは手を差し出し握手を交わす。

 

「何か意外だな、あの巫女の下で働いてるって聞いたから、もっと粗暴な人だと思ってた」

 

「巫女って・・・霊夢の事か?」

 

「うんそうだよ。

以前の異変の時は、そりゃもう大暴れしてたよ・・・」

 

「ははは・・・」

 

「それはさておき、さとり様に会いに来たのよね? 案内するよ」

 

お燐が地霊殿に案内しようとした時、突然萃香が言ってきた。

 

「それじゃ、私はここいらで失礼させてもらうよ」

 

「あれ? 萃香は一緒に来ないのか?」

 

「ん~・・・正直言って、苦手なんだよ・・・悪い奴じゃないのは分かるんだけど・・・」

 

「?」

 

「まあ、会ってみればわかるさ。

それじゃ、また後でジン」

 

そう言って、萃香は旧都の方に戻って行った。

残されたジンは、お燐の案内のもと、地霊殿に入って行った。

 

―――――――――――

 

地霊殿の中は予想通り、洋風な作りになっていた。

そして驚いた事に、地霊殿は動物が多くいた。

 

「動物が多いな・・・」

 

「ここにいる動物は皆、さとり様のペットなんだ」

 

「ペット? こんなにたくさん?」

 

「もちろん、あたいもペットの一人だよ。

強い妖力や霊力を長年受けて、動物から妖に、妖から妖怪になったんだ」

 

「それじゃ、ここにいる動物達も、いずれは妖怪になるって事か?」

 

「そうだよ。

でも、それにはまだまだ時間は必要だけどね」

 

「お燐みたいな、動物から妖怪になった奴はいないのか?」

 

「一人いるよ。

あたいの親友で、名前は―――」

 

「おりーん!」

 

すると一人の少女が、お燐の名前を呼んで走って来た。

 

「いたいた! 探したよお燐!」

 

「どうしたのお空? そんなに慌てて?」

 

「えっと・・・何だっけ?」

 

その言葉に、お燐はずっこけた。

 

「駄目じゃないそれじゃ・・・」

 

「ちょっと待って! 今思い出すから・・・・・・そうだ!」

 

「思い出した?」

 

「今日、地霊殿にお客様が来るから、出迎えるようにって、さとり様が言ってた!」

 

「それは今朝聞いたよ・・・」

 

「うにゅ?」

 

「えっと・・・彼女は?」

 

「この子は霊烏路空。あたいと同じ、動物から妖怪になった子だよ」

 

「霊烏路空だよ、皆からはお空って呼ばれているよ。

貴方がさとり様が言っていたお客様?」

 

「あ、ああ、俺はジンって言うんだ。よろしくな」

 

「よろしくねジン!

それじゃ、さとり様のところまで案内するよ」

 

「え? お、おい!」

 

「ちょ、ちょっとお空! 待ちなさいよ!」

 

お空はジンの手を掴み、ぐいぐいと引っ張って行き、お燐は直ぐに後を追った。

 

 

ジンはお空とお燐の案内で、館の主の部屋の前に辿り着いた。

 

「さとり様ー、お客様連れてきたよー」

 

「どうぞ、お入り下さい」

 

「失礼する」

 

部屋に入ると、そこに一人の少女が椅子に座っていた。

 

「初めまして、地霊殿の主、古明地さとりです」

 

「初めまして、俺は―――」

 

「ジンですね。

色々と話を聞いています」

 

「そうか、それでも一応自己紹介はさせてくれ。

俺はジン、よろしくなさとり」

 

「本当に律儀な人なんですね」

 

「それは守矢の神様達に聞いたからか? それとも―――」

 

「両方です。

貴方が考えているように、私は“心を読む程度の能力”があるんです」

 

「やっぱりな・・・」

 

ジンは、さとりという名前から、相手が心を読む妖怪―――覚である事を予想していた。

 

「驚かないんですね。

それに、心を読まれている恐怖心も無い」

 

「ある程度予想出来れば、心構えが出来るだろう」

 

「まるで、守矢の神様みたいな考えですね」

 

「俺はそんな大した者じゃない」

 

「謙虚・・・いいえ、自分を卑下しているのですね」

 

さとりの言葉に、ジンは心臓を鷲掴みされた感覚を受けた。

 

「随分と動揺していますね」

 

「・・・・・・」

 

ジンは何も言い返せなかった。

さとりは、そんなジンに気にもせずに言葉を続けた。

 

「貴方は自分を蔑ろにし過ぎです。もう少し、大切にしたらどうです?」

 

「・・・善処する」

 

「言っておきますが、私に嘘は無意味ですよ?」

 

そう言われてしまい、ジンは何も言えなくなってしまった。

そんなジンを見て、さとりは少し申し訳なさそうに謝罪した。

 

「すみません、こんな事を言うつもりはなかったのですが・・・」

 

「・・・いや、さとりは悪くない。どれも本当の事だからな」

 

「貴方は優しい人ですね。

だからこそ、もっと自分を大切にして下さい。

そして、自信を持って下さい」

 

「・・・ありがとう」

 

ジンがそう言うと、さとりは微笑んだ。

 

―――――――――――

 

旧都の広場で、妖怪達は集まっていた。

ジンの紹介をしていたのだが、歓迎しているような空気ではなかった。

 

「新参者のうえに、人間が俺達を仕切るっていうのか? ふざけるな!」

 

「そうだ! そうだ! 引っ込めー!」

 

このように、いきなり来た人間に指図を受ける事に、旧都の妖怪達は不満を感じていた。

その光景を見ていられなかったのか、萃香が口を出した。

「ちょい待ちな」

 

「す、萃香の姉さん・・・」

 

「こいつは私のダチだよ。

あんま悪く言うなら、私が相手になるよ」

 

「「「・・・・・・」」」

 

萃香が出てくると、妖怪達は黙るが、その表情は不満に満ち溢れていた。

そこでジンは―――。

 

「どうしたら、俺を認めてくれる?」

 

そう聞くと、妖怪の一人がこう言った。

 

「俺達と勝負して、勝てたら認めてやる」

 

「わかった」

 

「ちょっとジン! そんな勝負受けなくたって―――」

 

「萃香には悪いが、こうでもしないと誰も納得しないだろ?

認めて貰わなければ、俺の言葉に誰も耳を貸してくれない」

 

「そうだけど・・・」

 

「大丈夫、何とかなるさ」

 

そう言って、ジンは旧都の妖怪達と勝負する事になった。

 

 

勝負方法は酒の飲みくらべ、誰が多く飲めるか競い合う勝負となった。

 

「人間には、少し酷な勝負だったか?」

 

「・・・・・・」

 

ジンは内心不安だった。

彼はお酒に弱く、僅か数杯で酔い潰れてしまうからである。しかも、酔っている間の記憶は必ずと言って、飛んでしまうからである。

そんな不安を感じたのか、萃香が励ましの言葉をジンに送る。

 

「大丈夫、ジンならいけるよ。

私といつも飲んでいるだろ?」

 

 

「萃香・・・」

(その記憶がまったく無いのだが・・・)

 

「ジン?」

 

「いや、何でもない、ありがとう萃香」

 

こうして、旧都の妖怪達と飲み比べ勝負が始まった。

 

―――――――――――

 

「・・・ん」

 

ジンは何処かの民家の中で目を覚ます。

 

「確か・・・飲み比べをしていて・・・」

 

角が生えた頭を触りながら、何とか思い出そうとする。

しかし、まったく思い出せなかった。

 

(勝負は一体どうなった・・・?)

 

勝負の行方が気になるジン。すると、萃香が民家に入って来た。

 

「おや、起きたのかいジン」

 

「萃香か・・・ここは?」

 

「ここは、私の借宿さ。

その様子だと、昨日の事は覚えていないみたいだね」

 

萃香の話によると、飲み比べ勝負は途中で宴会騒ぎに変わり、勝負はうやむやになってしまったらしい。

 

「それじゃ、認められたかどうかわからないじゃないか」

 

「いや、そうでも無いと思うよ。

結構仲良く酒を飲んでいたみたいだし」

 

「そうなのか?」

 

「まあ、皆に会いに行けばわかるよ」

 

そう言って萃香はジンの手を引っ張り、外へと連れ出し広場に向かう。そしてそこには、昨夜飲み比べ勝負をした妖怪達がいた。

 

「お、ジンじゃないか」

 

「よう兄弟! 随分と遅い目覚めじゃないか!」

 

「え? え?」

 

妖怪達は昨日とは打って変わって、友好的な態度を取って来た。

流石のジンも、これには戸惑ってしまう。

 

「昨日は悪かったな、あんな態度を取っちまって」

 

「い、いや、皆の言い分は当然だし、突然来た奴の下で働きたくは無いって思うのは当たり前だと思う・・・」

 

「まったくお前は、器がデカイ人間だな!」

 

そう言って、ジンの背を叩く。

その力が強かったのか、思わずむせてしまう。

 

「ちょっとあんた、今は鬼になっているから良いけど、少しは手加減しなさいよ」

 

「おおっと、すまんすまん。大丈夫か?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

「それは良かった。それじゃ、早速始めようぜ」

 

「始める?」

 

「決まってんだろ? 旧都の復興作業だよ」

 

「昨日は何やかんやで、宴会になったからね。

遅れた分を取り戻さないと」

 

「そう言う訳だ。よろしくな大将」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

こうしてジンは、旧都の妖怪達と共に、復興作業に取り掛かるのであった。

 

―――――――――――

 

それから数日後、ジンは旧都から戻って来た。

思いの外早い帰還に、霊夢は驚いた。

 

「ちょっとジン! あんた大丈夫だったの!?」

 

「え? 何が?」

 

「だって・・・こんなに早く帰って来たって事は・・・」

 

「違う違う、危険な目にあってないし、ちゃんと復興作業を終わらせて来た」

 

「それにしたって早すぎよ」

 

「まあ・・・元々鬼が結構いる所だからな、一人で数十人分の働きをする奴らが多くいたんだ」

 

「ふーん・・・それなら、何で復興に一ヶ月以上掛かったの? 里だって、それくらいで復興出来たのに?」

 

「原因は人材じゃなくて、気質に問題があったんだ・・・」

 

「どういう事?」

 

ジンは霊夢に、復興作業の様子を語りだした。

旧都の妖怪達は気性が荒く、些細な事でトラブルを起こす事が多かった。

さらに、作業中に酒を飲んで酔っぱらったりと中々進まなかった。

 

「それじゃ、進まない訳ね・・・」

 

「ああ・・・なかなか苦労した。

まあ、それでもまとめれば、作業は早く終わった」

 

「御苦労様」

 

「ああ・・・。そうだ、お土産を持ってきたんだ」

 

そう言って、一瓶の酒を取り出す。

 

「お酒?」

 

「ああ、旧都の皆がくれた物なんだ。

折角だから、一緒に飲まないか?」

 

「良いけど・・・酔い潰れないでよ?」

 

「気をつければ大丈夫。

それに、一人で飲むのはつまらないだろ?」

 

「まあ、そうね・・・」

 

「それじゃ、準備をするな」

 

ジンはコップを用意して、霊夢に渡す。

そして二人は、静かに酒を飲むのであった。




今回は展開がグダグダなような感じです。
正直言って、地霊殿のメンバーを絡ませるのは難しいです・・・。

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