話が思い浮かばず、先に大晦日の話しにしました。
晦日まであと数日。
霊夢とジンは、この日に向けて準備をしていた。
「破魔の矢良し、御守りも良し、御札も良し、おみくじも良し。
我ながら、良い仕事をしたわ」
霊夢は自分で作った品の数々を見て、満足そうに言った。
「なあ霊夢、大晦日には出店を出さないか?
流石に神社の品だけじゃ、参拝客は直ぐに帰ってしまうんじゃないか?」
「それもそうね。でも、当てはあるの?」
「それは、サニー達に頼んでみる。
ああみえて、結構顔が広いみたいだからな」
「それじゃ、そっちの方はお願いするわ」
「ああ、任せろ」
こうして二人は、大晦日に向けて着実に準備を行うのであった。
―――――――――――
大晦日当日、博麗神社は例年まれに見る程の、人と妖怪が訪れていた。
「やっぱり大晦日となると、結構人が集まるな霊夢。・・・・・霊夢?」
「・・・・・・・・・・ぐすっ」
霊夢は何故か泣いていた。
どうして泣いているのか分からないジンは、慌ててしまう。
「れ、霊夢? 一体どうした?」
「だって・・・・・大晦日の日に、こんなにたくさんの人が来てくれたのよ・・・・・。
毎年毎年、妖怪しか来ないこの神社に・・・・・こんな嬉しい事は無いわ・・・・・」
「そ、そうか・・・・・」
霊夢はしみじみと泣いた。
もっとも、出店関係は全て妖怪や妖精が出しているものである。
(まあ、霊夢も里の人達も気にして無さそうだし、良いか)
「感傷に浸るのはここまでよ。
今日は、博麗神社最高の一日にするわ!」
「ああ!」
霊夢とジンは張り切って、大晦日の行事を行うのであった。
さて、大晦日の行事を行うにあたって、いくつか役割分担があった。
まず霊夢は、持ち前の霊力を持って御払いをする事になった。
彼女の実力は、この一年で瞬く間に里に広がっているため、神社に来て御払いして貰う人ばかりであった。
次にジンは、御札や御守り、破魔の矢、おみくじ等の販売である。
これら道具には、一つ一つ霊夢の霊力が込められており、妖怪なら触るだけで火傷する程である。
ジンは人妖だが、今は人の身なので、これらに触っても大丈夫である。
最後に出店についてだが、これはサニー達が担当しており、彼女達と彼女達の知り合いが出店を出しているのだ。
よって、妖怪出店と化しているが、人や妖怪関係無く楽しんでいた。
「随分と、繁盛しているみたいね」
ジンが品を売っていると、珍しく紫とその式である八雲藍とその式である燈がやって来た。
「今晩わジン。元気そうでなりよりだ」
「こんばんわー!」
「紫に藍、それに燈か。
珍しいな、八雲一家が揃って来るなんて」
「そりゃ来るわよ。
博麗神社にこんなたくさんの人や妖怪が集まるんですもの。
これは、立派な異変なのよ?」
「紫様。流石にそれは言い過ぎでは?
まあ、確かにこれだけ集まるのは異常だと思いますが?」
「そんなに異常なのか?」
「ええ。
元々、博麗の巫女は妖怪退治を生業にしていたのよ。そして、神社の御利益は退魔。
霊夢の代までは、妖怪なんて近づくすら出来ない場所だったのよ」
「そうなのか? それにしては妖怪の皆は、頻繁に来ているが?」
「それは、霊夢の運営が下手のせいだよ。
彼女は確かに巫女としての力はあるけど、運営面がからっきしだからね。
そのせいで、神社の信仰が集まらなくなってしまい。最終的には、妖怪を追い払えなくなったんだ」
「そうだったのか・・・・・いや、待てよ。
それは前の話だろ? 今は結構参拝客は来ているから、信仰はかなり集まっているんじゃないのか?」
「そうね。確かに貴方のおかげで、信仰は集まって来ているわ。
けど、それは果たして誰の信仰かしら?」
「? 神社の神様だろ?」
「不正解。
正解は、貴方―――いえ、貴方と霊夢の物よ」
「俺と霊夢? 一体どういう事だ?」
「信仰というのは、信じてうやまう事。
今、人々にうやまれているのは間違いなく、君達二人だからね」
「霊夢ともかく、俺は大した事はしていない」
「そうかしら?
里の人をこの神社に呼び寄せたのは、紛れもなく貴方の力だと思うけど?」
「確かに宣伝や呼び込み、その他諸々はしたが、結局霊夢の力が本物だからこそ、人が来るようになった。
俺は切っ掛けを作っただけだ」
「・・・・・なるほど、博麗の福の神と呼ばれる訳ね」
「ん? 何か言ったか?」
「何でも無いわ。それより、話は戻すけど。
貴方が何と言おうと、貴方と霊夢に信仰が集まっているのは事実。
貴方も知っての通り、どんなものでも信仰が集まれば、神になる。
ここまで言えば、貴方でもわかるでしょ?」
「まさか・・・・・」
「そう、貴方達二人は正にその道を進んでいるわ。
もっとも、本物になるのはまだまだ先だけどね」
「・・・・・」
「どうなるかは、貴方達次第よ。
それじゃ、邪魔したわね」
「失礼。行くよ燈」
「はーい♪」
用を済ましたのか、八雲一家は出店の方に向かって行った。
その後ジンは、紫の言葉を気にしながらも、品々を売りさばいて行った。
既に日付が変わり、新年を迎えた博麗神社。
それでも、神社に来る参拝客は後を絶えない。
そんな時に、問題が起きた。
「なに? 霊夢が出てこない?」
「そうなのよ。
もうじき、儀式の時間なのに・・・・・」
儀式とは、天香香背男命討伐の儀式の事である。
天香香背男命こと金星が輝くと、その年は妖怪の力が増す闇の年となってしまう。
そうならないように儀式を行い、天香香背男命の力を弱める必要がある。
これは、霊夢が毎年行っている重要な儀式なのだ。
「わかった、様子を見てくる。
その間頼むぞサニー」
「わかった。任せて頂戴!」
参拝客の事をサニー達に任せたジンは、霊夢がいる本殿に向かう。
そして、本殿の戸を叩く。
「霊夢、そろそろ儀式の時間だぞ?」
「・・・・・」
ジンの呼び掛けに、霊夢は返事をしなかった。
「霊夢、入るぞ」
ジンは戸を開け、本殿に足を踏み入れる。
そこには、小刻みに震えている霊夢の姿があった。
「霊夢? お前大丈夫か?」
「だ、だだだだ大丈夫よ」
霊夢はそう言ったが、誰の目から見ても、強がっているのが分かった。
「お前まさか・・・・・緊張しているのか?」
「だだだだ誰が、ききき緊張してるって、いい言うのよ!」
「そこまで強がれれば、立派なものだが、無理するな」
そう言ってジンは、震えている霊夢の手を握りしめた。
「ジン・・・・・?」
「そんなに震えてじゃ、失敗するぞ?」
「う、うるさいわね、仕方ないじゃない。
こんな大勢の前で儀式を行うのは、生まれて初めてなのよ。それに―――」
「それに?」
「・・・・・前の時、失敗しちゃったのよ。だから―――」
「・・・・・失敗を気にするなんて、霊夢らしくないな。
失敗したって、その時は妖怪退治に力を入れれば良いじゃないか。そうだろ?」
「でも評判が・・・・・」
「評判が少し落ちたぐらい気にするな。
霊夢の実力は本物なんだから、直ぐに取り戻せる。俺が保証する」
「ジン・・・・・」
「どうだ? 少しは落ち着いたか?」
「うん・・・・・ありがとう」
「それじゃ行くぞ。皆を待たせているからな」
ジンは、霊夢の手を引きながら、境内へと向かう。
その手はもう、震えてはいなかった。
博麗神社はかつて無い緊張に包まれていた。
誰もが、霊夢の儀式を静かに見守る。
その姿は、いつもの霊夢からは想像出来ない程、真剣であった。
「――――はい、これで儀式は終わりよ」
その言葉に、参拝客は拍手を送った。しかし――――。
「儀式を終えたと言っても、成功したかはまだわからないわ。
あの明星が、太陽の光で消えれば、儀式は成功よ」
「もし失敗したら?」
参拝客の一人が、不安そうに霊夢に聞いた。
「儀式が失敗すれば、その年は闇の年となり、妖怪の力が増す一年になるわ」
その言葉に、人間の参拝客達はますます不安になり、逆に妖怪の参拝客は喜んだ。しかし―――。
「でも大丈夫。
仮に失敗しても、その時は博麗の巫女である私が責任もって、例年以上に妖怪退治に専念するから、安心して」
霊夢の言葉に、人達は安心するが、逆に妖怪達は不安がる。
誰しもが、霊夢の実力を知っているための反応であった。
そして時間が経ち、朝日が昇る。
誰もが見守るなか、明星の光は、朝日に消えていった。
「―――これで、天香香背男命討伐の儀式は成功よ」
その言葉に、大きな歓声が上がる。
儀式は無事に終わり、参拝客達が帰った後。
ジン達は、後片づけを始めていた。
「今年も無事に新年を迎えたな」
「そうね。
あ、そう言えば、言い忘れていた事があったわ」
「ん?」
「明けましておめでとう。
今年もよろしくね、ジン」
霊夢は笑顔を浮かべながら、新年の挨拶をした。
日の出のせいなのか、その笑顔はいつも以上に輝いて見えた。
「・・・・・ああ、明けましておめでとう。
今年もよろしくな、霊夢」
こうして、博麗神社は無事に新年を迎えたのであった。
軌跡録での博麗神社の設定ですが、霊夢の実力が里中に知れ渡っているのと神社の道のりが整備されている為、人が来ている設定です。
個人的な考えですが、霊夢は巫女としての力がずば抜けているので、それなりに参拝客を呼ぶ努力をすれば、すんなりと来るんでは無いかと思えます。
軌跡録では、その努力をジンが肩代わりしているおかげで、人が来るようになった事にしています。