十一月に入っても、未だに忙しいので、十二月は投稿できるかどうかは分かりませんが、出来たら上げたいと思います。
秋と言えば、読書の秋という言葉があるように、ここ人里では書文祭と呼ばれる祭りが存在する。
書文祭とは、様々な人や妖怪が自己出版をした本を売り出すという、外の世界でいうと、コミケのような催し物である。
そんな祭りに、ジンと霊夢の二人が買う側で参加していた。
「それにしても、霊夢が付き合ってくれるなんて驚きだな」
「別にいいでしょ、私だって本くらいは読むもの。それに、何か掘り出し物が見つかるかも知れないし」
「それは言えるな。さて、何処から回るか…ん?」
ふと、見覚えがある人物が本を出していたのを見つける。
「お前は!?」
「あんたは!?」
「ん? ジンじゃないか。その隣には…ゲェー!? 博麗の巫女!?」
その人物は、ジンの友人である易者であった。
かつて彼は、とある禁術を使い怨霊として復活したが、直ぐ様霊夢に退治され、地獄に叩き落とされた。その後はとある死神と結託。地獄を抜け出し、ジンを殺害しようとしたが、これまた失敗。危うく魂ごと消されるところを、ジンの温情でなんとか免れ、最終的には旧地獄で引き取られた。
とはいえ、彼が行った行為は決して許されるものではなく、旧地獄から出る事は無い筈なのだが――――。
「お前、いつ旧地獄から出たんだ?」
「また、禁術を使って抜け出したんじゃないでしょうね?」
「いえいえ! そんな滅相もない! さとり様と勇儀の姐さんから特別許可を貰ったんだよ! この書文祭に参加するために!」
「そんな事言って、また禁術発動させる為の触媒をバラ撒こうしているんじゃあ――――」
「誤解ですよぉ! 今度は真面目に、“誰でも出来る簡単占術指南本”を出しているだけなんですよぉ」
霊夢に対して、これでもかと腰が低い易者。どうやら、退治された時がかなりトラウマになってしまっているようである。
「悪いけど、読まさせて貰うわよ」
「どうぞどうぞ、何なら一冊差し上げます」
そうして、易者の占術本を読み始める霊夢。すると面白いのか、どんどんページを捲るペースが早くなり、あっという間に一冊読み終えてしまう。
「……ま、まあ、特に問題はなかったわ。ちゃんとした指南書だし、しかもかなり分かりやすい。っていうか、普通にこれで御飯食べていけるのに、何で妖怪になろうとしたの?」
「え? あ、いや、なんと申しますか、若さ故の過ちならず、生前故の過ちというか……」
「まあ過ぎた事だし、変な事をしないのなら大目に見るわ。それと、この本貰っていくわ」
「ありがとうございまーす!」
こうして難を逃れた易者。そしてこの一冊を期に、霊夢は占いに嵌まるのであった。
――――――――――――――――
書文祭から数週間後、人里ではとある人気占い師が現れるようになった。その名も――――。
「さあさあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい、幻想郷の母、博麗霊夢の良く当たる占いだよ~」
妖狐が高らかに声を上げ、看板を掲げて宣伝を行い。その傍らで霊夢が占い師の衣装を着て座っていた。
「さあ、何を占いましょうか?」
そう決まり文句を言いながら、霊夢は行列に並んでいる人を次々と占っていく。
霊夢の占いはとても良く当たると評判となり、連日多くの人々が霊夢に占って貰おうと、こうして列を並んでいた。
そんな様子を、遠巻きから見ている者達がいた。
「何だか複雑、あの人が書いた占術本なら、私の所にもあったのに……」
そう呟いたのは小鈴であった。彼女は以前、易者が仕掛けた禁術が仕掛けられた占術を使い、一時は占いを行っていた。だが、易者が妖怪として復活、後に霊夢に退治された一件で、本ごと焼却した。
当時は納得はしてはいたものの、破棄を促した霊夢本人がその占術で占い師として大成しているのを見ると、複雑な感情を抱かざる負えないものである。
「まああれは禁術が織り込んでいたものだからな。そのままっていう訳にはいかなかったし。もし欲しいなら、本人に言っておくが?」
「え? 良いんですか? ありがとうございますジンさん!」
小鈴的には、易者が生前書いた物より、妖怪になって書いた物の方が価値があるらしい。これは妖魔本コレクターの感性な為、ジンにはイマイチ理解出来ないが、本人が嬉しそうだったので、良しとした。
「それにしても、毎日のようにやってますよね? 神社の方は良いんですか?」
「その辺りは大丈夫だ。昔と違って人手はあるし、こうして占いをしていた方が神社の宣伝にもなるからな」
「まあ、ジンさんがそう言うんでしたら」
その日も、霊夢の占いは大人気絶賛中であった。
――――――――――――――――
霊夢が占いを初めてから数週間が経った。相も変わらず、霊夢の占いは人気である一方で、博麗神社の参拝客は徐々に少なく、また訪れる者も少なくなった。
なぜ、占いが成功しているのに、神社の参拝客が減っているかというと。わざわざ遠い神社に行かなくとも、人里に行けば霊夢に会える。そういった理由である。
霊夢は霊夢で、大盛況という事もあって、どっぷりはまっている。毎日嬉しそうに、稼ぎを持って帰って来てくれる。何一つ問題は無いのだが――――。
「……はあ、なんか寂しいな」
霊夢が占いをするようになってこの数週間、彼女との会話がめっきり減ってしまった事に、ジンは少しながら寂しさを感じていた。しかし、占いをしていること自体は悪い事では無い。寂しいと思うが、自分が我慢すればいいと、今日も寂しく神社で留守番をしているジンであった。
「……少し小腹が空いたな。たしか、饅頭が残ってたな」
霊夢と一緒に食べようと思って買った饅頭であったが、このまま駄目にするのは勿体ないと一人食べることにしたジン。
御茶を用意し、縁側で饅頭を口にした。
「……」
その姿は、とても寂しそうであった。それを影から心配そうに見守っているあうんがいた。
――――――――――――――――
ここは華仙の屋敷。そこには屋敷の主である華仙と、遊びに来ていた小町、居候の天子、最近天子と良くつるんでいる紫苑、そしてあうんの五人が何やら相談事をしていた。
「――――という訳なんです」
「たしかに、最近の霊夢の行動は目に余ると思うわ」
「あーまあ、ちょっとほったらかしにし過ぎているとは思うけど……」
「あの巫女の事だもの。占いが上手く行き過ぎて、視野が狭くなっているのね」
「うーん……」
五人が相談していたのは、最近霊夢が神社とジンの事をほったらかしにしている事についてである。
確かに、彼女のやっている事は悪い事では無い。だが、このまま行けば遠からずジンとの亀裂が生じる。いや、生じなくても、端から見てジンの元気の無さは、あまり容認出来る物では無い。
「人前ではそういった素振りは見せなかったので、気づくのが遅れましたけど、元気の無いジンさんを見ていると、心が痛みます……」
「そうなった発端は、明らかにあの占い熱ね。どうにかして占いをやめさせるか、占い熱を無くす必要があるわ」
「でもどうやって? ジンが寂しいがってるからやめなって言うのかい?」
「というか、本人自身がそう言えば一発じゃない」
「ああ、それが一番なんだろうけど、本人は言わないだろうねぇ」
「言わないでしょうね、性格的に」
「言いませんね、絶対に」
ジンは自分の事より、他人を優先する傾向があるため、余程の事が無い限りは自己主張はしないタイプである。今回の件も、霊夢が問題を起こさない限りは、何も言わないだろう。
「うわぁ、なんか面倒くさいわね。他の奴等なら、有無を言わさず自己主張するでしょうに」
「そこがジンの良いところで、欠点でもあるのよね。さて、どうするか……」
「あの、私にいい考えがあるんだけど……」
そう言ったのは、今まで黙っていた紫苑であった。彼女が言う考えというと――――。
――――――――――――――――
それから数日後、霊夢は人里で占いをする事をバッタリとやめてしまった。何故かというと、金運関係の占いがまったく当たらなくなり、評判が落ちてしまったからである。
元より飽き性な性格の為、一度冷めた熱は、なかなか再熱せず、たまーに金運以外の占いをする程度に収まったのだ。
「はぁ、何で金運だけの占いが当たらなくなったのかしら? 何か作為的なものを感じるわ」
そうため息をつきながら、縁側で御茶を飲む霊夢。その隣には、同じく御茶を飲むジンの姿があった。
「さぁ、もしかしたら紫苑の能力かも知れないな」
「紫苑? あの貧乏神が邪魔したって事?」
「そうじゃなくて。貧乏神って言うのは、ただ相手を貧乏にするだけじゃなくて、お金をたくさん持っている事でやってくる財禍という災いから、逆に守ってくれる守り神の一面があるだとか」
「あー、そう言えばそういった一面もあったわね」
「最近繁盛してたから、財禍が寄って来てたんじゃないか?」
ジンの予想は半分当たりであった。だが、財禍というのは何も金銭だけではなく、人の縁を壊すものでもあった。
例えば、富を稼ぐ事に夢中のあまり、人との縁を蔑ろにしてしまい、人間関係が壊れてしまう事例は世界中に存在する。あのまま霊夢が占いに熱中していたのなら、遠からずジンとの縁が破綻していただろう。金は無くては困る一方で、求め過ぎても不幸を呼ぶものなのである。
「やれやれ、せっかく上手くいっていたのに」
「世の中そんなものだ。でも、俺はお金よりもこうして霊夢と一緒にいる方が幸せだな」
「……ま、まあそうね、金目当ての連中がすり寄るよるも、こうしてあんたの相手をした方がマシね」
霊夢はジンの言葉を聞いて、赤らめた顔を隠すようにそっぽを向く。
こうして博麗神社は、いつもの風景へと戻っていった。