それでも、月一の投稿を心がけています。
ここは妖怪山の中にある、華仙の屋敷
屋敷周辺は結界に覆われており、夏だろうが冬だろうが、快適に過ごせるようになっている。
最近では、不良天人である天子が転がり込んで来たり、死神の小町が遊びに来たり、弟子のジンが修行しに来たりと、賑やかである。
そして今日は、華仙、天子、小町、ジンの四人で酒盛りをしていた。
「まあまあな酒ね、四十点くらいかしら」
「すみませんね、天人様のお口にあう酒しか用意出来なくて」
「そんな文句を言うなら飲まなくて良いぞ、せっかく華仙が用意してくれたのに」
「そうだねぇ、あたい達だけで酒盛りを楽しもうか」
「文句なんか言ってないわよ、まあまあな酒ねって褒めたじゃない」
「それなら、素直に美味しいって言えば良いじゃないか」
「天界のお酒と比べたら、四十点くらいなの。地上の酒で四十点は、かなり高いんだから」
「そもそも、人様が用意したお酒を採点するものじゃないって」
ジンは天子に容赦なく物言いをする。端から見ると、説教臭く見えるが、天子はそれを不愉快とは感じなかった。
彼はあくまで、自分と対等の友人として接してくれる。それが天子にとって心地よいものであった。
「というか、華仙も言われてばかりじゃなくて、少し言い返さないのか? いつもだったら説教する筈じゃあ」
「そ、それは……」
ジンの問いに、華仙は何ともバツ悪そうな顔をしていた。その様子を見て、小町は笑いを必死に堪えていた。
「くっぷぷっ、無理だよジン。この仙人様は天人には逆らえないのさ」
「どういう事?」
「天人になる方法は色々とあるのさ。試練を受けて合格するか、閻魔である映姫様の判断か、功績を認められるか。そのいずれかで天人になれるんだよ。肉体を持つか持たない差異はあるけどね。まあ、どっかの半人半霊が持つ刀に切られれば強制的に成仏して天界に行けるけど、それは違法だから」
何処かで半人半霊の少女がくしゃみをしたようであったが、今回の話にはまったく関係無い。
「まあ何が言いたいかというと、天人様の心証が悪いと試練に不利になるから、逆らえないって訳よ」
「ふうん、そんなに天人になりたいのか華仙は」
「当たり前でしょ、その為に仙人になって修行をしているんだから。貴方は違うの?」
「正直に言って、あまり興味は無いかな」
ジンのその言葉に、驚愕する華仙、感心する小町、興味を抱く天子と、三者三様の反応を見せた。
「天人に興味無いの? ならどうして修行を続けているの?」
驚愕していた華仙は、思わずジンにそう尋ねた。するとジンは、華仙の問いにこう答えた。
「単純に健康で長生きしたいだけ。華仙だって、仙人は長生きの秘訣だって思ってたんだろ?」
「ま、まあそんな時期もあったけど、長生きしたいのなら仙人や天人を目指すものじゃない?」
「長生きはしたいが、不老不死にはなりたくは無いからな」
「へえ、不老不死は多くの人間が思い描く夢の一つだけど、ジンは違うのかい?」
今度は小町が、まるで試すように尋ねた。その問いに、ジンはある人物に聞いた時、感じた事を話した。
「不老不死である妹紅の事を見ていると、不老不死は夢というより、呪いに思えてきてならない。妹紅自身も、蓬莱の薬を飲んで後悔している節があるしな」
「まあそうだねぇ、不老不死を求めて破滅した人間なんて腐るほどいるからねぇ」
「ならジンは、老いて死ぬのが一番だと思うの?」
最後に天子がそう尋ねた。人間である以上、老いて死ぬのは逆らえない定めである。それが嫌で、不老不死を求めた者達は多く存在する。それは紛れもない事実だ。それに対してジンは、こう答えた。
「そうだなぁ…好きな女性と結婚して、子供を産んで貰って、それを健やかに育て、その子供が一人前になるのを見届けて、その子供の子、孫の顔が見られたら満足だな。そういう人生を送られるなら、不老不死なんかいらないさ」
それはありふれたごく普通の人間の一生。たが、ジンはそれを一番に望んでいた。
永遠の生よりも、ありふれた人間の一生をジンは何よりも尊いと思ったのである。
「とは言っても、理想でしかないけどな。そんなに上手く事が運ぶとは限らない。でも、そんな一生を送りたいとは思っている」
「うん、あたいは良いと思うよ。長く生きる事が必ずしも幸せとは言わない、ジンが納得出来る人生を歩めばいいと思うさ」
小町はジンの答えを聞いて、満足そうに笑った。それに対して天子は、やや呆れた様子だった。
「なんていうか、平凡な一生ね。普通だったらもっと何か求める物じゃないの?」
「俺にはこれがちょうど良いさ。とはいえ、幻想郷で暮らしていれば、嫌でも刺激的な人生になるけどな」
「そうね、年がら年中異変が起きるものね。そうだ、次は私が何か起こそうかしら♪」
「あまり大規模なのはやめてくれ。依神姉妹の話によると、幻想郷を滅ぼそうとしたとか」
「それは夢の私の事でしょ、そこまでしないわよ。せいぜい神社を壊す程度よ」
「本当にやめてくれ」
「冗談よ冗談よ♪」
そう言って笑う天子であったが、本気でやり兼ねないと、ジンは内心不安でたまらなかった。
そんなこんなで、談笑は続いていたが、華仙はただ一人何かを考え込んでいた。
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日がすっかり落ち、酒盛りは終わりを告げた。
ジンは博麗神社へと帰り、天子は酒を飲み過ぎたのか、既に就寝していた。残っているのは華仙と小町の二人だけである。
「どうしたんだい、そんな辛気くさい顔をして」
「ちょっとね……」
「何か、思うことがあるのかい?」
小町がそう尋ねると、華仙がゆっくりと頷いた。
「私は人になるために仙人になったけど、ジンの話を聞いていると、本当に人になれたのかな?って」
「そうさねぇ…私から見れば、仙人も天人も人の道から外れた存在さ。だからこそ、私達があの世へとお迎えするんだよ。とはいえ、天人の場合は試験の意味合いが強いけどね」
「もしそうなら、どうしたら人になれるのかしら?」
華仙は静かにそう呟いた。それに対して、小町はこう答えた。
「それはかなり難しい話だねえ。でも、人が鬼になるっていうなら、鬼が人になってもおかしくは無いさ」
その小町の言葉に、華仙は少しだけ気持ちが楽になった。
この先どうなるか分からないが、自分は人を目指そうと改めて心に誓う華仙であった。