東方軌跡録   作:1103

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この話は鈴奈庵完結記念として書いていたものです。ただ、時間が結構経ってしまったので、お蔵入りしていました。
 でもせっかくなので、投稿することにしました。


鈴奈庵の妖魔本

年が明け、新たな一年が始まりを迎えた幻想郷。そんな中、鈴奈庵では新たな試みが行われようとしていた。

 

「妖魔本を本格的に取り扱う?」

 

「はい。今までは人相手が殆どだったので、非公式にでしたけど、今年からは大体的に妖怪相手にも商売しようと思ってまして」

 

小鈴の言葉を聞いたジンは、驚きを隠せなかった。確かに、ここ人里でも妖怪相手に商売している者は確かにいる。だがその一方で、妖怪を恐れている人も確かに存在する。そういった意味では、小鈴の試みは一歩二歩、大きく踏み込んだ試みといえよう。

 

「よく親が許しを出したな」

 

「説得に苦労しましたよ。でも、決めてはやっぱり後ろ楯の存在でしたね」

 

「後ろ楯?」

 

「妖怪相手に商売をするとなると、やはりそれ相応の後ろ楯があった方が、こちらとしてはやり易く、安心して商売が出来るじゃないですか。だから、マミさんにうちのスポンサーになって貰ったんです」

 

なるほどとジンは思った。マミゾウ組は幻想郷の中でも大きな勢力であり、その頭であるマミゾウはかなり力を持った大妖怪である。彼女が後ろ楯になってくれれば、かなり安全に商売が出来るだろう。

 

「まあなんにしても、新しい試みに挑戦するのは良い事だ。俺は応援しているよ」

 

「はい、ありがとうございます。あ、そうだ。折角ですから、御試しに一冊借りませんか? ジンさんなら、特別価格でお貸ししますよ」

 

「折角の御厚意だが、遠慮しておく。神社に妖魔本なんか持ち出したら、霊夢に叱られると思うし。俺は普通の本で十分」

 

「そうですか…それなら、アガサクリスQと鈴本織子の新巻がありますけど、どちらを借ります?」

 

「両方借りよう」

 

鈴奈庵が妖魔本を取り扱うようになっても、ジンはいつものように好きな本を借りるのであった。

 

――――――――――――――――

 

ここはマミゾウ組の屋敷。その頭であるマミゾウは、とある妖魔本を手にニヤニヤと笑っていた。

 

「一時はどうなるかと思ったが、上手くいってなりよりじゃ」

 

そう言って妖魔本を懐にしまい、煙草を一服吸う。

 

「しかし、棚からぼた餅というのはまさにこの事じゃな」

 

マミゾウは昨年の冬の出来事を思い出す。

実はジンの知らない所で、とある事件が起きていた。小鈴が持っていた妖魔本“百鬼夜行絵巻”が暴走し、小鈴にとりついてしまったのである。それにいち早く気づいたマミゾウと霊夢と魔理沙が強力し、これを祓い、騒動は治まった。そのどさくさ紛れて、マミゾウは百鬼夜行絵巻を手に入れたのである。

 

「まっ、いずれは手に入れようとは思っていたのじゃが、まさかあそこまで力を得てしまうとは、儂も見誤ってしまったのう」

 

本来なら、百鬼夜行絵巻が暴走する事はまだ先になる筈だったのだが、小鈴の持つ魔力によってそれが早まってしまったと、紅魔館の魔女は言う。しかし、何も悪い事だけではなく、とりつかれた事により、彼女の潜在能力が引き出され、今では多少の怪異ではびくともしない、高い耐性に目覚めたのである。これが、妖魔本を本格的に取り扱うようになった要因の一つである。

 

「それでも、監視を含めて後ろ楯にはなっておこうかのう。またあのような事が起きたら、あの巫女が怒るじゃろうて」

 

今回の一件で、霊夢は鈴奈庵にあった比較的ヤバイ妖魔本は封印した。とは言っても、それは微々たる物であり、まだまだ多くの妖魔本が眠ってはいる。今後の事を考え、マミゾウに小鈴と鈴奈庵の監視を依頼した。

 

「儂とて、小鈴が危険な目に合うのはいただけんからのう。監視はしっかりやるつもりじゃ。最も、良い妖魔本が入荷したのなら、買い上げるつもりじゃがな。ハッハッハッ」

 

そうケタケタ笑うマミゾウ。

鈴奈庵がこの先どうなって行くのかは誰にも分からないが、ただ分かる事は、小鈴の頑張り次第という事である。

そして今日も、鈴奈庵は本の貸し出しのであった。


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