ここは人里の自警団の駐屯所。例年になると。彼女達は異様に殺気立っていた。それは何故かというと――――――――。
「いい皆! 今年こそ、あのサンタを扮した邪仙を捕まえるのよ!」
「「「「おおー!!!」」」」
自警団のリーダーである小兎姫がそう叫ぶと、自警団員を声を張り上げて応えた。今年も後僅かとなったこの時期に出没するという“青娥サンタ”。彼女を捕まえる為、一段と気合いを入れる自警団であった。
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ところ変わってここは紅魔館。今日はここでレミリア主催のクリスマスパーティーが行われていた。
そこには博麗神社の一同も参加をしといた。
「毎年毎年、派手にやるわよねぇレミリアは」
霊夢はパーティー会場を眺めながら、ワインを飲んでいた。クリスマスとはキリスト教の祭なのだが、タダ飯とタダ酒が飲めるという事で、頻繁に参加しているのである。その隣には、ジンの姿もあった。
「そうだな。でも、せっかくのクリスマスなんだし、派手でも良いだろ? 皆楽しんでいるみたいだし」
そう言った彼の視線の先には、各々楽しんでいる博麗神社のメンバーの姿があった。
「あと一週間もすれば大晦日で忙しくなる。英気を養うっていう意味では、うってつけだろ?」
「まあ、それもそうね。昔と違って、今は人が来るんだし。稼がないと」
「まっ、今はその事は置いといて、パーティーを楽しもう霊夢」
「ええ、そうね」
二人はお互いのグラスをカチンと当て、乾杯をするのであった。
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一方その頃、人里では自警団が提灯を手にある人物を追いかけていた。
「居たぞー! 青娥サンタだー!」
「ご用改めであるー!」
「毎年毎年、御苦労様ね」
その人物こそが、この時期になると巷を騒がす青娥サンタである。いつもと違う赤い衣を身に纏い、その手には白い大きな風呂敷が握られていた。
得意の壁抜けを利用し、追っ手を軽くあしらっていた。たが、そんな彼女に立ちはだかる者がいた。
「こんばんわ。貴女が青蛾という仙人ね」
「あ、貴女は!?」
青蛾の目の前には、純狐が立っていた。その後ろには禍々しいオーラを漂わせて。
「なるほど、似ても似つかないのは知ってはいたけど、やはり気に入らないわね」
「え? な、何の事?」
「青蛾、言葉だけならまだしも、字にすると嫦娥を思い浮かんでしまうのよ。不思議よね、たかが一字しか合っていないのに、まったく関係の無い人なのに」
「え、ええ?」
「安心なさい。これはただの八つ当たりよ、死にはしないけど憂さ晴らしになって貰うわ!」
「ちょ、ちょっとー!?」
青蛾の無情の叫びが人里に木霊した。
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ところ変わって紅魔館。霊夢が会場を見回すと、ふとある人物がいない事に気がつく。
「あれ? そう言えば純狐の奴はどうしたの? 誘わなかった?」
霊夢の質問に、ジンは不思議そうな顔をして答えた。
「誘ったんだが、何でも“名前がむかつく奴をしばくから、今回は遠慮するわ”とかなんとか」
「名前がむかつく? 何よそれ?」
「さあ? 余程嫌な人と名前が似てたんだろう。そうじゃなきゃ、あそこまで不快な顔をしないと思う」
「っていうか、止めないで良いの? あんたの性格なら、止めると思うんだけど」
「話によると、その人は泥棒なんだとさ。やり過ぎ無いように注意しておいたから、多分大丈夫だろう」
「……それって魔理沙の事じゃあ」
「魔理沙なら、菫子と一緒に楽しんでいたよ。多分違うんじゃないか? それに、相手は人間じゃないらしいし」
「なら大丈夫か。名前だけで、あの純狐に目の敵にされるなんて、そいつは運がわるいわねぇ」
「まったくだ。まあ、悪さをしているようだから、これを期に泥棒から、足を洗えば良いのに」
「それは当人次第ね。死ぬ思いをしたら、足を洗うんじゃない?」
「……少しだけ不安なってきた」
見知らぬ泥棒の身を案じながら、ジンはパーティーを楽しむのであった。
それから数日後、“青蛾サンタ成敗”という見出しの文々。新聞が発行され、そこにはボロボロになった青蛾と、満面の笑みを浮かべる純狐の姿があった。