秋が過ぎ去り、冬の季節がやって来た。山奥に存在する幻想郷では、一度雪が降れば、瞬く間に積もってしまう。
そういった場所で暮らしているせいか、幻想郷の住民は雪の対処を難なくこなしている。そんな中、人里のあちらこちらを歩き回っている人物がいた。
「やっぱり、ここも埋もれてましたか」
早苗は雪に埋もれている守矢の分社の回りを雪かきし、参拝出来るように整えた。
守矢神社直通の索道(ロープウェイ)が出来る以前に、人里のあちらこちらに守矢分社が建てられており、早苗はその清掃に人里を回っていたのである。
「必要な事とは言え、冬は大変ですね・・・・・・」
早苗はぼやきながらも、分社の雪かきと清掃を行った。他の季節では、それほど手間では無いのだが、冬は雪が降る為、その分の労力が増えてしまうのだ。
「これで良し。さて、次に行きましょうか」
早苗は分社の清掃を終わらせ、そしてまた次の分社へと足を進めた。
次の分社に到着すると、そこにはジンと綺麗になった分社の姿があった。
「あれ? ジンさん?」
「ん? ああ早苗か、こっちの分社の雪かきと掃除を終わらせておいたぞ」
どうやらジンは、分社の雪かきと掃除をしていてくれたようである。早苗は頭を下げて、ジンに礼を伝える。
「ありがとうございますジンさん。でも無理に里の分社の掃除しなくても、守矢の風祝である私に任せておいても良かったんですよ?」
「別に無理はしてないさ。たまたま手が空いたから、やっただけだ。それに、一人でやるのは結構大変だと思うが?」
「ええまぁ・・・ちょっと大変ですね」
「守矢には色々と世話になっているんだし、これくらいはやっておかないと。持ちつ持たれつって言うだろ?」
「ジンさん・・・・・・」
「それで? あと清掃していない分社は残っているか? 折角だし、最後まで付き合う」
「ええと、それじゃあ御言葉に甘えて」
そうして二人は一緒に、分社の清掃と雪かきして回った。
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分社の掃除を終わらせた二人は、休憩がてら最近人気のある喫茶店に訪れていた。
「はあ~、仕事終わりの一杯は格別ですねえ~」
暖かい紅茶を飲み、至福の一時を味わう早苗。ジンもまた、紅茶を飲んで冷えた体を温めていた。
「それにしても、守矢の分社の数は多いな。やっぱ手入れとか大変じゃないか?」
「そうですね。でも、その辺りはしっかりやらないと信仰が集まりませんから」
「早苗は偉いな。言っちゃ悪いけど、霊夢だったら面倒くさがってやらないからな」
「ああ、確かに。霊夢さんはそういった方面はズボラですから」
本来分社の清掃等は神職の霊夢がやるのだが、霊夢はサボリ癖がある為、そういったのはジンが代わりに請け負っている。
最も、そういったこまめ事から、霊夢はジンに任せてしまいがちになっているのだが。
「少し前に、里に博麗神社の分社を作ろうって話が持ち上がったけど、管理出来ないから却下させてもらった。せっかく生まれた神様に申し訳無いのだがからな」
「そうですね。生まれたばかりの神様は力が弱いですから、こまめにケアをしないと直ぐに消えてしまいますから」
「神様であっても、世知辛い世って訳か」
人間、妖怪、神であっても、生きていくのにそれ相応の苦労があるという事を、ジンは深く噛み締めるのであった。
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一時のお茶を楽しんだジンと早苗。その後一緒に買い物をし、早苗をロープウェイ乗り場まで送り届けた。
たが、ロープウェイ乗り場に到着すると、人混みとそれに対応する河童達の姿があった。
「何かあったでしょうか?」
「ちょっと聞いてみよう」
ジンは近くの人に事情を聞く事にした。
「なあ、一体何があったんだ?」
「ん? ああ、ロープウェイの故障だよ。詳しい事はわからんが、何処か凍結したらしいって」
「ええええ!?」
それを聞いて一番驚いたのは早苗であった。
このロープウェイ、冬でも凍結せずに動かせるように作られた、と言われている。それなのに凍結してしまったとなると、話が違うという物だ。
「ちょっと関係者と話して来ます!」
「あっ、ちょっと待てよ早苗!」
足早に河童達の所に向かう早苗を、ジンは急いで後を追った。
ロープウェイの責任者であり、河童達のリーダーであるにとり。ジンと早苗は彼女に、ロープウェイ凍結について事情を問いただしていた。
「凍結って、一体どういう事ですかにとりさん!」
少し怖い顔でにとりを問い詰める早苗。そんな早苗を、ジンは諭した。
「落ち着け早苗、そんなんじゃ話せるものも話せなくなるぞ。にとり、一体何があったんだ?」
にとりに尋ねると、彼女は困った顔をして答えた。
「ロープウェイの一部が凍結しているんだよ。一応対策はしていたんだけど、どうも甘かったみたい」
「甘かった。じゃないですよ! こういう事を含めていろいろお金を出しているんですから!」
ロープウェイの建設とその維持には、莫大なコストが掛かっている。それだけロープウェイに期待を寄せるだけあって、早苗は今回の件は許せなかった。
「それで? 復旧にはどれくらい掛かるんですか?」
「あー、今日は無理そうだね」
にとりのその言葉を聞いた早苗は笑顔を見せたが、それは明らかに攻撃的な笑顔であった。
「今日中に復旧させて下さい。お願いしますね♪」
「は、はい・・・・・・」
早苗の威圧感に負けたにとりは、急いでロープウェイの修復作業に乗り出した。
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復旧作業から数時間後、ロープウェイが復旧され、運行が再開された。
「はあ、運行は再開されましたけど、まだまだ課題はある物ですね。これは帰って対策案をしっかり練らないと」
「あまり根を詰め込めないように、何か力になれる事があれば遠慮無く言ってくれよ」
「はい、その時は遠慮無く相談させて貰いますね」
そう言って、ロープウェイに乗る早苗を見送ったジンは、そのまま帰路につくのであった。