東方軌跡録   作:1103

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 今回、執筆中の文章データが破損してしまい、一から書き直す事態が発生してしまいました。
 面倒でも、バックアップは取っておいた方良いですね。


わらしべ長者は無欲人?

わらしべ長者という話を知っているだろうか? ある一人の貧乏人が最初に持っていたワラを物々交換を経ていくにつれて、最後には大金持ちになる日本のおとぎ話である。今回の話は、そんなおとぎ話に沿ったものである。

 

――――――――――――――――

 

ある日の事、ジンが人里に向かっている最中に、道端で古びた鍵を拾った。

 

「鍵? 誰か落としたのか?」

 

そう思ったジンは、能力を使い落とした人物が誰なのかを視る。霖之助が落とす瞬間の軌跡がくっきりと残っていた。

 

「霖之助のか、少し寄り道になるが、先に届けに行ってやるか」

 

ジンは人里による前に、香霖堂に向かう事にした。

 

 

 

 

香霖堂に到着すると、店の前で立ち往生している霖之助の姿があった。

 

「しまったなぁ・・・まさか鍵を落としてしまうとは・・・・・・」

 

「鍵って、これの事か?」

 

霖之助が振り返るのと同時に、ジンは鍵を投げ渡した。

 

「ジン? これは・・・僕の店の鍵だ」

 

「落ちていたのを拾ったんだ」

 

「ありがとうジン、これで店に入れる。せっかくだし寄ってかないかい? 鍵の御礼もしたいし」

 

「ありがたいが、それはまた今度に。まだ人里の用事が終わっていないんだ」

 

「そうか、それなら仕方ない。御礼はまたの機会に――――――」

 

そんな時である、霖之助の懐から、命蓮寺の星が持っている筈の宝塔がポロリと落ちた。

 

「おっと、大事な商品が―――――――」

 

落ちた宝塔を拾うとする霖之助。だがそれよりも、ジンが先に拾った。

 

「悪いが霖之助、鍵の御礼にこれは貰っておく」

 

「ええ!? そんなせっかく拾ったのに・・・・・・」

 

「御礼はするって、自分から言ったんだろ? それに、猫ババした物なんだから、損はしていないだろ?」

 

「人聞きの悪い事は言わないでくれ。落ちていた物を有効利用しているだけなんだから」

 

「身元不明の品ならともかく、持ち主が分かっている物を売るのはどうかと思うが・・・・・・」

 

「そんなの、落とした方が悪い」

 

ハッキリそう言う霖之助。ジンはこういった考えを受け入れられなかったが、全面的に否定はしなかった。ここは外の世界では無いのだから。

 

「ともかく、これは貰っておく。ナズーリンか星の奴が困っているかも知れないからな」

 

「やれやれ、君は御人好しだな。まっ、鍵の件もあるし、今回は諦めるよ」

 

こうしてジンは、拾った鍵の代わりに宝塔を手にしたのであった。

 

――――――――――――――――

 

宝塔を手にいれたジンは、それを持って命蓮寺に向かっていると、タイミングが良くナズーリンと出合う事が出来た。

 

「あっ、ナズーリン。ちょうど良かった」

 

「ん? ジンか、悪いが今は探し物を―――――おや?」

 

「探し物はこれだろ? はい」

 

ナズーリンに宝塔を手渡すジン。受け取った彼女の顔は、安堵していた。

 

「拾ってくれたのが君で助かった。またあの古道具の店主に拾われていたら、また吹っ掛けられていただろう」

 

実際は拾われていたのだが、敢えて必要が無いと思ったジンは、その事を黙っている事にした。

 

「そうだ、御礼にこれをやろう」

 

そう言ってナズーリンは、小さな笛をジンに手渡した。

 

「これは?」

 

「鼠笛だ、吹けば鼠達に簡単な命令を出す事が出来るマジックアイテムだ。だがなにぶん古いものでな、恐らく一、二回の使用が限度であろう。すまないが、今はこれくらいの物しか出せない」

 

「別にいいって、俺は拾っただけだから。それに、これだって何かの役に立つかも知れないし」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

その後ナズーリンと別れたジンは、ようやく人里へと向かった。

 

――――――――――――――――

 

頼まれた用事で稗田の屋敷を訪れたジン。用事を済ませ、帰ろうとすると、阿求とバッタリ出合う。

だが、彼女は何だが元気が無さそうであった。

 

「阿求? 何だが暗い顔をしているみたいだが、どうした?」

 

「あっ、ジンさん。その・・・実はですね。鼠避けの置物が壊れてしまって、新しいのが届くのが暫く先で、その間の鼠対策をどうしょうか、頭を悩ませているんです」

 

「なるほど、それは災難だな。鼠か・・・・・・」

 

小鈴の話を聞いて、ふと、ナズーリンから貰った鼠笛の事を思い出し、それを取り出した。

 

「なあ阿求、これを使えばどうにかなるんじゃないか?」

 

「それは鼠笛? ジンさんこれを何処で?」

 

「ナズーリンから貰った。宝塔を拾った御礼にって」

 

「なるほど、あの鼠妖怪の物なら、確かな効力があるかもしれませんね。ジンさん、不躾ですが、その笛を譲っていただけませんか?」

 

「ああ、別に構わない。ただ、古い物だから、一、二回ぐらいしか使えないって言っていたが・・・・・・」

 

「その辺りは大丈夫です。置物が直るまでの間ですから」

 

「そうか、なら大丈夫か」

 

ジンは鼠笛を阿求に差し出した。阿求はそれを受け取り、礼を言った。

 

「ありがとうございますジンさん。何か御礼を――――――あっ、そうだ!」

 

阿求はバタバタと走り、そして一冊の本を持って戻って来た。

 

「ジンさんに、これを差し上げます」

 

そう言って渡したのは一冊の本、まだ市販に出回っていない、アガサクリスQの新作本であった。

 

「え!? 良いのか貰って?」

 

「はい。笛の御礼です、特別に差し上げます」

 

こうしてジンは、まだ市販に出回っていないレア本、アガサクリスQの新作本を手にいれた。

 

――――――――――――――――

 

その夜、ジンは今日の出来事を正邪に話していた。

 

「まさか拾った鍵から一連して、アガサクリスQの新作本を手に入るとは思わなかった。まさにわらしべ長者だな」

 

「いや、その何処がわらしべ長者だよ。明らかに宝塔からグレードダウンしているだろ」

 

ジンの話を聞いていた正邪がそう指摘した。確かに、鍵から宝塔までは良かったが、その次の笛から明らかに質が落ちている。いくら市場に出回っていないかと言って、本は所詮本である。妖魔本や魔道書の方がまだ価値があるという。

しかしジンは、それを否定した。

 

「俺にとって、莫大な財産より、好きな本の方が価値があると思うが」

 

ジンは、わらしべ長者のような富を得る事よりも、好きな本一冊の方が何よりも価値がある。それがジンの価値観であった。

 

「ふーん・・・まっ、お前が何を欲しがろうが、私に関係ないが、欲が無さすぎだよお前は」

 

何度も言われている言葉を、また言われたジンは苦笑いを浮かべる。

だがその一方で、ある考えがよぎった。

 

(現状で満足している人間は、欲が薄くなるのかな?)

 

今の生活に何の不満を感じていないジン。果たしてそれが良い事か? 悪い事か? 考えたが、結論は出ないままであった。


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