東方軌跡録   作:1103

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白状しますと、自分は裁判に詳しくありません。
よって、おかしな点が目立つと思います。



妖怪裁判 法廷編

ここは命連寺。

そこで、連続発砲事件の真相を知るための妖怪裁判が行われようとしていた。

弁護側にジン、検察側に霊夢、そして裁判長は映姫がついており、見物客もとい傍聴人が多数訪れていた。

 

「これより、妖怪山連続発砲事件の裁判を始めます。

弁護側、検察側、準備はよろしいですか?」

 

「弁護側、準備完了している」

 

「さっさと始めなさいよ」

 

「それでは検察側、冒頭弁論をお願いします」

 

「話は簡単よ。

サバイバルゲームをしていた山童の流れ弾が、里の人に当たってしまった。

それなのに、山童は断固としてこれを否定している。

証拠もあるのに、往生際が悪い程があるわ」

 

「証拠というのは?」

 

「もちろん、この詫び文」

 

そう言って霊夢が取り出した一枚の紙に、こう書かれていた。

 

“御迷惑をお掛けして申し訳ありません。

山童一同”

 

「これが山童達が犯人だって、何よりの証拠よ!」

 

そう言って、指を突き刺す霊夢。

しかし、ジンは呆れながらも反論をする。

 

「あのな霊夢、そんなのは証拠にならないぞ」

 

「何よ? どうしてこれが証拠じゃないのよ?」

 

「じゃあ聞くが、それが山童達が書いたって証拠はあるのか?」

 

「え?」

 

「検察側、どうなのですか?」

 

「も、もちろん有るわよ!

ほら、ここに山童一同って――――」

 

「意義あり! そんなのは俺だって書ける!

裁判長! 弁護側はこう主張する!

その文は、真犯人の偽装工作だと!」

 

ジンの主張に、傍聴人は騒然とした。

 

「静粛に!」

 

映姫の木槌の音で、ようやく静かになった。

 

「弁護人、貴方の考えを聞かせて下さい」

 

「俺の考えは、この文や詫びの品等は、山童に罪を着せようとする真犯人の偽装工作だと思っている」

 

「真犯人って誰よ?」

 

「それはこれから明らかにする」

 

「何よ、分かっていないじゃない」

 

「うっ・・・・・」

 

「ふむ、どうやらこれは文の真偽を確かめる必要がありますね。

それでは、これらを受け取った人達の話を聞いてみましょう」

 

こうして里の被害者に話を聞く事になった。

 

「証人、名前と職業を」

 

「儂はよろず屋をやっている阪田散乍。

人呼んで、山菜爺さんは儂の事じゃ」

 

「では散乍さん、証言をどうぞ」

 

「あれは夜中の事じゃった。

何か物音がしたと思って見てみると、数多くの山菜とこの文証があったんじゃ」

 

「そうですか。

それでは弁護側、尋問をして下さい」

 

こうして始まるジンの尋問。

彼が最初に聞く事はただ一点、それは――――。

 

「散乍の爺さん。一つ聞くが、それを置いた人物は見ていないんだな?」

 

「おお、儂が見た時には既に品と文が置かれていたな」

 

「つまり、それが置いたのが山童とは言い切れないって事だな」

 

「意義あり! 偶々、阪田のお爺さんが見てないだけで、他の人は見ている筈よ!」

 

「なるほど。

では、他の被害者の方にも聞いてみましょう」

 

映姫の提案により、他の被害者の話を聞く事になった。

その結果、誰も詫びの品と文を置いたところを見た者がいなかった事がわかった。

 

「裁判長、山童が置いたという目撃が無い以上、山童達が犯人とは断言出来ない筈」

 

「ふむ・・・・・確かに弁護側に一理ありますね」

 

「意義あり! そもそも被害者は全員鉄砲で撃たれたのよ!

山童以外で、鉄砲を扱う妖怪はいないわ!」

 

「検察側の主張も最もです。

この幻想郷で、道具の扱いに長けている妖怪は河童と山童のみです」

 

(そうなんだよな・・・・・他の妖怪なら、道具なんか使わず襲うからな・・・・・)

 

「裁判長、それならもう一度被害者に証言させて貰えないか?」

 

「良いですが・・・・・一体何を聞くのです?」

 

「襲われた時の事を。

そして、猟師の遼太郎に証言させて欲しい」

 

「なるほど、では証人は前に―――」

 

次の証人は、猟師である高田遼太郎。

猟師歴二十年のベテラン猟師である。

 

「狩りをしている時に撃たれたのは間違いない?」

 

「ああ、物音がしたから動物だと思って狙いを定めたら、逆に撃たれたんだ」

 

「それは確かに鉄砲だったのか?」

 

「うーん・・・・・音はしたんだが・・・・・」

 

「音? 音しか聞いていないのか?」

 

「ああ、間違いなく発砲音だったんだが・・・・・よく見ていなかったんだ」

 

「ちょっと! 何で肝心な所を見ていないのよ!」

 

「そうは言われてもな・・・・・音と共に目潰しを食らってな」

 

「音と共に? それは発砲音と同時に?」

 

「ああ、その後肩に痛みが走ったんだ」

 

「良ければ、傷を見せてくれないか?」

 

「ああ、良いぜ」

 

そう言って遼太郎が見せた肩には、確かに傷があった。

しかし、それは銃創というより噛み傷であった。

 

「裁判長! これは決定的な証拠だ!

この傷は銃創じゃない、動物の噛んだ後だ!

つまり、被害者達は鉄砲で撃たれていない!」

 

ジンの言葉に、傍聴人は騒ぎ出す。

 

「静粛に! 静粛に!」

 

映姫は何度も木槌を叩き、場を静めた。

 

「弁護側、貴方の考えを聞かせて下さい」

 

「検察側は、今まで鉄砲を使用されていると主張していた。

しかし、このように傷は銃創では無く、噛み傷。

これにより、被害者は鉄砲で撃たれたのではなく、何かに噛まれたという事になる。つまり―――――」

 

ジンは指を突き刺し、叫んだ。

 

「道具の扱いに長けている山童なら、噛みついたりする必要は無い。

よって、今回の犯人は山童ではないという事だ!」

 

「意義あり! あいつらだって妖怪よ! 噛みついたりするに決まっているわ!」

 

「なら、歯形を調べれば良い。

それが山童なのかどうかハッキリ分かる」

 

「ふむ、弁護側の主張を認めます。

調査結果が出るまで、一時休廷します」

 

こうして歯形を調べる為、裁判は一時休廷する事になった。

 

 

それからしばらく経ち、歯形を調査していた永淋から、調査結果が発表された。

 

「調査結果についてだけど、これは動物類の歯形よ」

 

その結果に、辺りは騒然となる。

 

「静粛に! 静粛に!」

 

「これでハッキリとしたな。

山童達は犯人では無いと」

 

「くっ、だったら一体犯人は誰よ!?

被害者全員が、襲われた時に発砲音を聞いているのよ!」

 

「うーん・・・・・それなんだよな・・・・・霊夢は何か心当たりは無いのか?」

 

「そんなの知る訳―――待って、そう言えば・・・・・」

 

「何か心当たりが?」

 

「発砲音と同じ音を出せる妖なら、一つだけいるわ。

野鉄砲よ」

 

野鉄砲、年老いた狸に似た動物―――マミが希になる妖である。

出会い頭に、目潰しを鉄砲のように放つので、野鉄砲と呼ばれるようになった。

 

「裁判長、これでハッキリした。

被害者は、野鉄砲の目潰し攻撃を発砲音と聞き違いをしていた。

つまりは、被害者を襲ったのは山童では無く、野鉄砲だ!」

 

明かされた真実に、回りの傍聴人は納得しかけていた。

しかし、ただ一人だけ、不適な笑みを浮かべていた。

 

「ふっふっふっ・・・・・」

 

「な、何だよ霊夢?」

 

「ジン、あんたの主張は決定的な矛盾があるわ」

 

「む、矛盾?」

 

「あんたが真犯人と主張した野鉄砲だけどね。

もし真犯人なら、この文は存在しないのよ!」

 

それは、最初に出てきた詫びの文であった。

 

「それがどうした?

それはさっき、真犯人の擬装工――――あ!」

 

「気づいたようね。

そう、妖怪ならともかく、妖の野鉄砲に字なんか書けないのよ!」

 

「し、しまった!」

 

ここに来てまさかの逆転。

優勢は一気に霊夢に傾いた。

 

「裁判長! 検察側はこう主張するわ!

山童達は鉄砲代わりに、野鉄砲をサバイバルゲームで使用したという事を!」

 

「意義あり! 証拠はあるのか霊夢!」

 

「あら? この前自分が言った事を忘れたのジン?」

 

「え?」

 

「あんた言っていたわよね。

“動物達は別に山童に怯えていた訳じゃない。

むしろ、一緒にサバイバルゲームを楽しんでいた”ってね」

 

「うぐぅ・・・・・」

 

「弁護人、今の話は本当ですか?」

 

「・・・・・事実だ」

 

「つまり、野鉄砲達もサバイバルゲームに参加していた可能性は極めて高いわ!」

 

「だ、だが、山童達にだって被害者が出ている!

これはどう説明するんだ!」

 

「それこそが、山童達の偽装工作よ。

自分達に被害者が出れば、容疑者から外される。

現に私達だって、そうしてしまったのだから!」

 

「むむむ・・・・・なら、この文はどう説明する!」

 

「それはきっと、良心の呵責に耐え切れなかった一部の山童の独断よ」

 

「証拠はあるのか?」

 

「なら聞くけど、一体誰が書けるのかしら?」

 

「それは真犯人が―――」

 

「一体誰の事よ?」

 

「うっ・・・・・」

 

「答えられないわよね。

真犯人は他ならぬ、山童達何だから」

 

「・・・・・」

 

ジンは何も言い返せなかった。

さっきまでは証拠としての力がなかった詫び文だが、ここに来て、驚異となってジンに立ち塞がる。

 

(一番の問題は、あの文体誰が書いたかという事だ。

それを証明出来なければ、霊夢に勝てない。

だが、一体誰が―――いや待てよ・・・・・)

 

「弁護側、これ以上反論が無ければ、判決を言い渡しますが、よろしいですか?」

 

(こうなったら、一か八か!)

 

「弁護側は新たに主張する・・・・。

これは共犯者が書いた物だと」

 

「懲りないわねあんたも。

それじゃ聞くけど、共犯者は一体誰なのよ?」

 

「・・・・・一人、一人だけ、真犯人の野鉄砲に協力する可能性がある人物がいる」

 

「だから、誰なのよそれは!

勿体振らずに言いなさいよ!」

 

「・・・・・山に住んでいる仙人―――茨華仙だ」

 

「何ですって!」

 

ジンの告発に、傍聴人―――特に里の人達は動揺した。

 

「静粛に! 静粛に! これ以上騒ぐなら退廷させますよ!」

 

「ちょっと! どうしてここで華仙が出てくるのよ!?」

 

「華仙なら、動物の言葉が分かる。

それに、彼女なら野鉄砲を庇う可能性は十分ある。

裁判長! 弁護側は茨華仙に証言を要求します!」

 

「分かりました。茨華仙をここに」

 

 

 

ジンの要求通り、華仙は証言台に立った。

しかし、その表情はまるで死刑台に立たされた囚人のように青ざめていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「ちょっと華仙、あんた大丈夫なの?」

 

「証人、気分が優れないのであれば、日を改めますが?」

 

「いえ・・・・・大丈夫です」

 

「そうですか・・・・・それでは弁護人、尋問をお願いします。

ただし、あまり長引かさないように」

 

「分かった。

華仙、今までの話は聞いているな?」

 

「え、ええ・・・・・」

 

「正直に言って、お前が共犯者だという証拠は無い。

これはただの言い掛かりだ」

 

「・・・・・」

 

「だから、正直に答えて欲しい。

これを、お前が書いたかどうかを」

 

そう言ってジンは、詫び文を華仙に見せる。

それを見た華仙は、みるみる青くなる。

 

「そ、それは・・・・・」

 

「どんな答えだろうと、お前を信じる」

 

それがきっかけであった。

華仙は涙を流しながら、真実を告げた。

 

「それを書いたのは・・・・・・・・・・私です」

 

その言葉に、法廷は静寂に包まれた。

 

真相というと、実は華仙はいち早く犯人は野鉄砲だと突き止めた。

そして、野鉄砲達を諭し、里の人に詫びの品を出すように指示をした。

そこまでは良かったのだが、いらぬ事に山童の仕業にしようとしてしまったのだ。

 

「何故、野鉄砲の仕業にしようとしたのですか?」

 

「野鉄砲――マミ達が妖になったのは、山童達がいらぬ闘争心を掻き立てたせいでもあるのよ。

だから、その責任を負わせるのと全てを丸く収める為にしたの」

 

「しかし、事態は貴女の思惑とは正反対に動いてしまった」

 

「まさかこんな事になるなんて思わなかった・・・・・本当に申し訳ありません」

 

「まったくよ! 余計な事をするから余計に話がこじれちゃったじゃない!」

 

「まあ霊夢、華仙も悪気があった訳じゃないんだから」

 

「あんたが良くても、私が良くない!」

 

「検察側の意見も最もです。

貴女が偽装工作した事によって、罪無き山童達が冤罪になるところだったのです。

今後、このような事が無いように」

 

「はい・・・・・・・」

 

「山童達もそうです。

華仙の言う通り、貴方達の遊戯が、動物達にいらぬ闘争掻き立てて、このような事件を引き起こしてしまった。

今後は自粛するように」

 

「はい・・・・・分かりました」

 

「それでは、今回の判決を言い渡します」

 

“無罪”

 

こうして、妖怪裁判は幕を閉じるのであった。

 

―――――――――――

 

妖怪裁判から数週間後、華仙は自分の屋敷にいた。

正確には籠っていた。

 

「はあ・・・・・まさかあんな事になるなんて・・・・・」

 

華仙は大鷲の竿打が持って来た文々新聞を見て、溜め息をつく。

新聞には妖怪裁判について色々書かれていた。

特にジンと霊夢に関しては、良く書かれており、有名になっているのは容易に想像ついた。

しかし、華仙は裁判以降、一度も山を降りていなかった。

 

「あんな事をしてしまったもの・・・・・もう里や神社に顔を出せないわ・・・・・」

 

そう、彼女は自責の念を感じており、二度と山を降りないと考えている程である。

 

「良かれと思ってやったんだけどな・・・・・・・・・・」

 

そう呟くと、華仙は睡魔に襲われ、やがて眠りについた。

 

 

それからしばらく経つと、戸を叩く音で目を覚ます。

 

(おかしいわね・・・・・ここは法術で隠されているから、普通は辿り着け無い筈だけど・・・・・)

 

疑問に思いながらも、玄関に向かい、戸を開けると、そこには意外な人物達が居た。

 

「こんにちは華仙、その様子だと元気そうだな」

 

「え・・・・・ジン・・・・・?」

 

「私も居るんだけど?」

 

「私もだぜ!」

 

「私もです!」

 

「霊夢に、魔理沙、それに早苗まで・・・・・どうしてここに? いえ、それよりもどうやってここに辿り着けたの?」

 

「俺の能力を使えば造作も無い。

魔理沙から聞いた話によると、以前大鷲を追ってついたらしいじゃないか。

それなら、大鷲の軌跡を辿れば良いだけだからな」

 

「そんな方法が・・・・・」

 

「それと、里の人達からの贈り物だ」

 

「え?」

 

「皆、心配していたわよ。

あの一件以降、姿を見せて無いんだから」

 

「でも私は、皆に迷惑を――――」

 

「それだったら、皆気にしてないようだぜ」

 

「え?」

 

「華仙さんは人望ありますから、里の皆さんはこれぐらいの事で嫌ったりしませんよ」

 

「皆・・・・・」

 

「まあそもそも、何処かの巫女達が凶暴だから、野鉄砲を守る為に仕方なくやったって、皆思っているからな」

 

「本当に、迷惑な巫女さんですね」

 

「何で私を見るのよ!? あんたの事でしょうが!」

 

「どっちもどっちだぜ」

 

「・・・・・ふふ、ありがとう皆。

せっかく来たのだから、お茶でもどう?」

 

「そうだな、せっかくだから上がらせて貰おう」

 

ジン達は、華仙の言葉に甘え、彼女の屋敷でお茶を飲んでから帰って行った。

そして次の日から、華仙は再び里や神社に顔を出すようになった。


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