東方軌跡録   作:1103

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 今年最後の投稿です。本当は特別話でも作ろうかと思ったのですが、ネタが思いつかず、いつも通りの普通の話しです。
 いつも読んでる読者様、ありがとうございます。来年もよろしくお願いいたします。


誤解から生まれた大事件

真夏の夜。博麗神社では、恒例の宴会が行われていた。

宴会は真夜中まで行われ、終わる頃には日時を過ぎていた。

 

「やれやれ、宴会をするのは良いが、後片づけが大変だな」

 

そう愚痴りながら、後片づけをするジン。そんな中、ある人物が酔い潰れているのを発見した。

 

「う、うむぅ・・・もう飲めん・・・・・・」

 

「あれ? マミゾウ?」

 

酔い潰れていたのはマミゾウと、その部下達であった。ジンは珍しいと思っていた、彼女もお酒にはかなり強く、今まで酔い潰れた事なんてなかったからである。

 

(余程強い酒を飲んだんだな)

 

ジンは彼女達を起こさず、そっと母屋まで運ぶのであった。

 

――――――――――――――――

 

朝日の射し込む光で、マミゾウは目を覚ました。

 

「むむ・・・? ここは一体・・・・・・」

 

辺りを見回すが、そこは見知らぬ部屋。そして近くには未だに寝ている部下の姿があった。

 

「はて? 儂は一体・・・昨夜はええっと・・・・・・」

 

思い出そうとするが、頭に霧が掛かったかのように、上手く思い出せない。しかも頭痛もする。

 

「いたたた・・・・・・。まさか二日酔い? 認めたくは無いが、儂も歳を取ったかのう・・・・・・」

 

妖怪の大半は不老である。だが、生物から妖怪になった者は、微々たるものではあるが、衰えというものが確かに存在する。

マミゾウもまた、全盛期に比べると多少の衰えを感じずにいられなかった。

そんな時、部屋の戸が開かれた。

 

「おっ、起きたかマミゾウ」

 

「ジン・・・そうか、ここは御主の部屋か」

 

マミゾウはようやくここがジンの部屋だと気づく。

いつもだったら、匂いで気づくものの、二日酔いの為、あまり本調子では無いようである。

 

「辛いなら、もう少し休んでも良いぞ」

 

「いや、流石にそこまで世話になるのは―――――」

 

「無理して倒れる方が迷惑だって。たまには若人に頼っても良いんじゃないか?」

 

「ふむ・・・・・・」

 

マミゾウは少し考えた。正直に言えば、二日酔いが酷い。この状態では、帰る途中に倒れるのが関の山であろう。ジンの言うとおり、ここは好意に甘える事にした。

 

「それでは、御主の好意に甘えるとしよう。恩に着るぞいジン」

 

「マミゾウには、色々と世話になったいるから、これくらい御安いごようさ」

 

こうしてマミゾウは、二日酔いが良くなるまで、ジンの部屋で休む事にした。だが、これが騒動の発端になろうとは、マミゾウは思いも寄らなかった。

 

――――――――――――――――

 

森奥深くの場所、そこにマミゾウ組の根城が存在する。普段は幹部やその下っ端達が、組の利益を増やそうと商いの算段や準備をしているのだが、今回は様子が違っていた。

 

「おかしい・・・親分が帰ってこない」

 

「いつもだったら、夜明け前に戻って来るのに・・・・・・」

 

「何かあったんだきっと!」

 

「何かって?」

 

「分からないけど、何かあったんだよ! そうでなければ今頃帰って来ている筈」

 

「もしかして・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「親分はきっと、何者かに襲われたんだ!」

 

「「「「な、なんだってー!?」」」」

 

子分達は驚きの声を上げるが、直ぐ様否定の声が出た。

 

「いや、いくなんでもあの親分が遅れを取るなんて――――――」

 

「いや分からんぞ、猿が木から落ちる如し。親分だってミスはする。きっと油断している所を襲われたんだ」

 

「油断している所を?」

 

「例えば、宴会中に一服盛るとか」

 

「流石に見破るでしょ」

 

「でも、酔っていて尚且つ心を許した奴なら?」

 

「盛られるな、親分はああ見えて人情派だからなぁ。心を許した相手なら、つけ入れられるかも」

 

「それじゃあ何か、博麗神社の連中が親分を?」

 

「馬鹿な! あそこは中立地帯だ。そもそもやる動機が―――――」

 

「確か、あそこに狐の娘が住んでいたな」

 

「巫女の式神だろ? それがどうした?

 

「風の噂で聞いたんだが。あの娘、実は飯綱組の頭領の娘なんだ!」

 

「「「「な、なんだってー!!」」」」

 

飯綱組とは、化け狐を中心とした組織で、化け狸を中心とするマミゾウ組とはあまり仲は良くは無い。だが、表だった争いはなく。大抵は商いに関する争いをしている。

因みに、妖狐が頭領の娘であるかどうかは噂でしかない。

 

「もしや、既に神社は飯綱組の手に?」

 

「ありうる。もしかしたら、あの狐娘が式神なったのも、この時の為の布石」

 

「それじゃあ親分は・・・・・・」

 

「既に飯綱組の手に落ちてしまったんだ!」

 

「「「「な、なんだってー!!」」」」

 

根拠の無い見解が、どんどんエスカレートしていき、まったく見当違いな“飯綱組陰謀論”に発展していった。

だが、これに反論する者も、僅かながらいたのだが―――――。

 

「お前ら落ち着けって! 幾らなんでも話が飛躍し過ぎだ!」

 

「そうだ! 頭を冷やせ!」

 

どうにか過激派を抑えようとする穏健派。もしこの場に、幹部の一人でもいたら、この暴走は直ぐ様鎮火していただろう。だが、残念ながら幹部達は出払っており、今いるのは下っ端の若い衆達だけである。

 

「飛躍なものか! 現に、親分が帰って来ていないじゃないか!」

 

このように、まったく話を聞かない。しかも、マミゾウを慕う彼らの思いが、あろう事か最悪の行動に走らせた。

 

「向こうが人質を取るなら、こっちも人質を取ろう! 」

 

「誰にする? ああ見えて、あの神社はガードが固いぞ」

 

「それなら、ジンという男にしよう。奴は頻繁に人里に訪れているらしいから、拉致するならこいつが簡単だろう」

 

「「「ぶほぉー!?」」」

 

穏健派が一気に吹き出した。穏健派達はジンがマミゾウの友人に値する人間だと知っていたからである。もし、彼に危害を加えてしまえば――――――。

 

『・・・・・・ケジメ、つけさせてもらうぞい?』

 

想像するだけでも恐ろしいケジメをさせられるだろうと、穏健派は容易に想像出来た。

 

「おい! 考え直せお前ら!」

 

「そうだ! せめて幹部の兄貴達が戻ってから――――――」

 

「それでは遅い! 事態は刻一刻と過ぎているんだ!」

 

「もたもたしたら手遅れになる! 野郎共! マミゾウ組魂を見せてやるぞ!」

 

「「「「おー!!!」」」」

 

もはや勢いは止まらず、過激派達はジンを捕まえに行ってしまった。

 

「ど、どうする?」

 

「どうもこうもじゃない! このままじゃ俺達全員、ただじゃあすまないぞ!」

 

「ともかく、兄貴達を急いで呼び戻すんだ! 手遅れになる前に!」

 

穏健派達は直ぐ様行動を開始した。自分達の未来を守る為に。

 

――――――――――――――――

 

そんな事を露知らず、ジンは普段通りの日常を送っていた。

 

「それじゃあ今日はここまで、宿題を忘れないように」

 

「「「はーい」」」

 

寺子屋の手伝いを終えるジン。そして、いつものように神社に帰ろうとする。

 

「・・・・・・ん?」

 

何やら視線を感じる、それも敵意を。後ろを振り向くが、そこには誰もいなかった。

 

「・・・・・・」

 

ジンは再び歩き出す。そしてその後をつける複数の影。

そしてそのまま、人里の外に出ると、ジンは立ち止まり言う。

 

「ここ辺りでいいか。姿を見せろ、つけているのはわかっている」

 

すると観念したのか、十人以上の若い男性達――――いや、正確には、若い男性に化けた狸達が現れた。

 

「それで、俺に一体何の用だ?」

 

化け狸達に問い掛けるが、彼等は聞く耳を持たず、武器を構えて一斉に襲い掛かった。

 

――――――――――――――――

 

「な、なんだとー!?」

 

幻想郷中に響きかねない叫び声。それを出したのは、マミゾウ組の幹部であった。彼は穏健派達から、過激派達の暴走を聞いて声を上げていたのだ。

 

「アホか!? 何がどうなったら、親分の御友人にお礼参りしに行く事になるんだよ!?」

 

「あ、あっしらも必死に止めたんですよ! ですが、あいつら聞く耳を持たなくて―――――」

 

「そういう時は、殴ってでも止めろ!」

 

幹部は頭を抱えた。ジンという人間は、個人的にもビジネス的にも友好的であり、更には親分であるマミゾウ自身の友人である。過激派がやっている事は、“社長の友人かつ会社の御得意様に襲撃しに行った”と同じ事である。正直、やっている事はデメリットしかない。

 

(下手したら、大損害だぞ・・・早く止めないと!)

 

「てめぇら、急ぐぞ!」

 

幹部は穏健派を連れて、ジンの元へ向かうのであった。

 

――――――――――――――――

 

一方でジンは、襲い掛かって来た過激派達を全員のめしていた。

 

「ううっ・・・・・・」

 

「つ、つえぇぇぇ・・・・・・」

 

痛みでうめき声を上げ、変化か解けて正体をあらわにした過激派達。彼等の誤算は、ジンがただの人間としか思っていなかった点である。

幻想入りした直後なら、彼等はジンに勝っていただろう。だがこの数年間、ジンは並みの妖怪では太刀打ち出来ない程強くなっていた。それもその筈、依姫の戦闘術と華仙の方術、仙術を身に付けているのだから。

 

「さて、一体どうしてこんな事をしたんだ?」

 

襲って来た過激派の一人に尋ねると、弱々しく答えた。

 

「う、うるさい! 親分を拐った不届き者に答えると思うのか!?」

 

「親分? まさかマミゾウの事か?」

 

「そうだ! 親分を返せ!」

 

「返せ返せ!」

 

「いや、ちょっと待ってくれ、お前ら勘違いしている! マミゾウは――――――」

 

「問答無用!」

 

再び切りかかる過激派であったが、簡単にジンに軽くあしらわれてしまう。

 

「だから話を聞いてくれ! マミゾウは――――――」

 

「こなくそー!」

 

こちらの言い分をまったく聞かない過激派達。彼等の攻撃を捌きながら、どうするか考えていると――――――。

 

「おーまーえーらー!」

 

一匹の化け狸がもの凄い形相でこちらにやって来るのが見えた。それを見て、過激派達が叫ぶ。

 

「兄貴!」

 

「兄貴が来てくれた!」

 

「勝った!」

 

幹部の兄貴が来てくれた。この事実に、過激派達は勝利を確信した。だが、彼等の思っているものとは、まったく違う言葉が飛び出た。

 

「このアホんだらがー!!」

 

幹部の兄貴は、ジンに襲い掛かる事無く、過激派達全員を殴り飛ばした。

 

――――――――――――――――

 

過激派達を殴り飛ばし、誤解を速やかに解いた幹部は過激派の子分達と共に、ジンに頭を擦るように土下座をしていた。

 

「申し訳なございません旦那! うちの若い衆がとんだ御無礼を!」

 

「え、あ、まあ、誤解は解けたんだし、そのくらいで――――――」

 

「それじゃあケジメがつきませんって! かくなる上は、腹かっ捌いて――――――」

 

「いやいやいや! そんな古風なケジメされても、こっちは困るって! どうしても言うなら、こちらの言う事を聞いてくれるか?」

 

「何なりと!」

 

「それじゃあ先ず、命を代償にするのは止めてくれ。そんな事をしても、こっちは喜ばないから」

 

「へい!」

 

「それと、今度の宴会の時に、侘び酒でも持って来てくれ。もちろん、うちの博麗酒に負けないくらいの名酒をね」

 

「だ、旦那・・・・・・ありがとうごぜぇます!」

 

「「「あ、ありがとうごぜぇます!」」」

 

「うむ、これにて一件落着!」

 

某時代劇のシメのセリフを満足そうに言うジン。

これでこの騒動は一件落着・・・・・・にはならなかった。

実は、この一部始終を見ていた天狗のAが新聞の記事にし、この騒動が幻想郷中にバラしたのである。

もちろんマミゾウにもそれが伝わり、その事で更なる騒動が引き起こるのだが、それはまた別の話である。


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