漫画の方は、クラウンピースがすっかり三妖精と仲良しになっていて、とても面白いです。そのうち保護者のヘカーティアを出したいと考えています。
夏に入り、日差しの強い日が続いている今日この頃。
博麗神社では、その強い日差しに、ある対策をしていた。
「しっかり持っててねジン」
「わかってる」
「霊夢さーん、こっちは終わりましたー」
「おーい、こっちも立て掛けて置いたぞー」
「ありがと妖狐、魔理沙。これで少しはマシになるかしら」
霊夢達が縁側に立て掛けているのは、“葦簀(よしず)”と呼ばれる葦の茎で作られた簾である。
屋根に立て掛ける事により日差しを遮り、尚且つ風を通すので、古くから暑さ対策として使われた物である。
「ふぅ、ようやく落ち着けるな」
そう言って、葦簀の影にいち早く入ったのは、何もしていない正邪であった。
「おいこら正邪、何もしていないお前が先にくつろぐな」
ジンがそう注意すると、正邪は日影を独占するかのように寝転び始める。
「へっへーん、何においても、早い者勝ちさ」
勝ち誇ったように言う正邪に対して、ジンは葦簀に手を掛ける。
「よし、葦簀をずらすか」
「おいバカやめろ!」
葦簀をずらそうとするジンに、それを阻止しようとする正邪。
二人のしょうもないやり取りに、呆れながらも止めに入る霊夢であった。
「あーもう、せっかく設置したんだから動かさないでよ。それに、スペースならまだ空いているでしょ」
「それはそうだが・・・・・・」
「ほら、水桶に水汲んで来て頂戴。こっちは風鈴と麦茶を用意するから」
「わかった」
ジンは言われた通りに、人数分の水桶を用意し、そこに水獸の力で冷たい水を注いだ。もちろん、正邪の分は抜かして。
それから暫くして、葦簀の影と水桶の水に足を漬かりながら、風鈴の音色で涼しむジン達の姿があった。
「これだけでも、少しは涼しくなるんだな。昔の人の知恵は偉大だ」
「外の世界では、えあこんっていうのがあるのよね?」
「ああ、空調の管理が出来るから、夏には冷たい空気を、冬には暖かい空気を出して、いつも家の中を快適にしてくれる道具だ。後は湿気なんかも何とかしてくれるぞ」
「なんだよその便利なもの、うちにも欲しいぞ」
「魔理沙さんの家は、魔法の森にありましたから、湿気が凄そうですよね」
「凄い、何てものじゃないって、油断しているとカビとか生えてくるんだから、大変なんだよ」
「あー、下手したら食料や他諸々が駄目になりそうだよな」
夏の日の魔法の森は湿気が大変高く、カビ対策をしないといろんな物が駄目になってしまうと、魔理沙は愚痴っていた。
「そう言えば、針妙丸とクランピースの姿が見えないけど、どうした?」
「二人はサニー達の所に泊まりに行っている。サニー達の家って、意外と涼しいからな」
「それ初耳だぞ! あーくそ、知っていたらついて行ってやったのに」
正邪は悔しそうに呟いた。
一応彼女も、お泊まり会に誘われたのだが、天邪鬼如くキッパリ断っていたのである。だが、サニー達の家の方が快適だと知ると、自分も素直に行けば良かったと、少し後悔していた。
そんな他愛の無い話をしていると、何処からか紙飛行機が飛んで来た。
「なんだ?」
「紙飛行機?」
「“ひらけ”って書かれてありますね」
紙飛行機に書かれていた文字に従い、紙飛行機を開いてみると、そこにはサニー達のSOSが書かれていた。
――――――――――――――――
ここはサニー達が住んでいるミズナラの御神木。ジンは手紙のSOSに従い、やって来た。
他の人達は、あまり乗り気ではなかったので、彼一人である。
かつてこの木に雷が落ち、真っ二つに割れてしまったが、今ではすっかり元通り―――――いや、今は蔦に覆われていて、すっかり変わっていた。
「なんだこりゃ? ツチノコにでも占領されたか?」
以前見た、ツチノコに占領された大妖精の大樹に状況が似ていた。
ともかくジンは、サニー達を呼び掛ける事にした。
「おーいサニー! 無事かー!」
そう呼び掛けると、窓からサニー達が顔を出して、呼び掛けに応じた。
「「「「ジーン! 助けてー!」」」」
「おっ、どうやら無事のようだな。待っていろよ、直ぐに出してやるからな」
そう言ってジンは、小太刀で蔦を切り始める
蔦は再生する事なく、出入口を覆っていた蔦を全て切り落とすと、中からサニー達が飛び出した。
「あー、やっと出れた」
「一時はどうなるかと思ったよ」
「頑張って、紙飛行機を飛ばした甲斐があったわ」
「割った窓、後で直さないと」
「ともかく、出してくれてありがとうジン」
「これぐらい御安い御用だ。それよりも、これは一体どうなっているんだ?」
ジンは改めて、ミズナラの御神木を見る。大きな大樹に、蔦がびっしり巻き付いている姿は、端から見て異様であった。
「多分、昨日の豊穣祈願ごっこが原因だと思う」
「豊穣祈願ごっこって、ごっこ遊びでこうなるのか?」
ジンは妖精についてあまり詳しくはなかったのだが、妖精自体が自然の権化なので、ごっこ遊びであったとしても、豊穣祈願をすれば、絶大な効果を表すのである。
「それよりも、早く中に戻りましょ。外は何だかんだで暑いから」
「それもそうだね。サニー達の家は、何故か涼しいし」
「だらしないなぁ、あたいがいた地獄は、もっと狂ったような暑さなんだぜ」
「地獄育ちの貴女と一緒にしないで頂戴」
「せっかくだし、ジンもおいでよ。助けてくれた御礼もあるし」
「おっ、それならお邪魔しようかな」
こうしてジンは、サニー達の家に招かれたのである。
――――――――――――――――
家に招かれて暫くすると、快適であった筈の家の中は、とても蒸し暑くなっていった。
「あ~つ~い~」
「さっきまで涼しかったのに・・・・・・」
先程までは快適な空間であったが、今では蒸し風呂のような空間に成り下がっていた。
「一体どうしてこんな事に・・・・・・」
「もしかして、蔦を切ったのが原因じゃあ・・・・・・」
「どういうことルナ?」
「ほら、蔦が断熱材と働いていたんだと思う。だからそれを切っちゃったから・・・・・・」
「ええー!? それじゃあこれからもっと暑くなるの!?」
「多分・・・・・・」
それを聞いたサニー達はげんなりした。快適だと思っていた家が、これから暑くなる事に。
そんな時ジンは、ある事を提案した。
「なあ、皆でかき氷を食べないか?」
――――――――――――――――
博麗神社の裏庭で、皆でかき氷を美味しく食べていた。
「う~ん♪ やっぱり夏はかき氷よね」
「おいジン! 早く次のかき氷を作れよ!」
霊夢はかき氷をしゃくしゃく食べ、正邪はジンにおかわりを要求していた。
「ちょっと待て。チルノ、頼む」
「任せとけー」
ジンの隣にいるチルノが、元気良く答える。
サニー達を救出した後、ジンはチルノの元に向かい、かき氷を作ってくれないかと頼みに行ったのである。そして今に至る。
「こんな感じかチルノ?」
「うん良い感じ! よし、凍らせるぞー」
ジンの水獸が水を集め、チルノがそれを凍らす事により氷を作り、それを削ってかき氷にしていた。
「ほら、出来たぞ」
「おお! 待ってま―――――って、何も掛かってねぇぞ!」
正邪に出されたのは、シロップが掛けられていないかき氷であった。それについて、チルノは自慢気に話始めた。
「ふふん、それはあたい特性のかき氷水味だよ」
「そうか、水味かーって、ふざけんなー! そんなもの誰が食うかー!」
「俺は食っているが?」
ジンは正邪の目の前で、チルノ特性水味かき氷を食べていた。
「喰うなよ! どんだけ感性貧しいんだよ!」
「よく聞け正邪。確かにシロップ無しは味気無いが、カロリーを気にせず食べれるメリットがある。それに、意外と良いものだぞこういのも」
「あっ、本当です。味が無い分、食感が楽しめますね」
妖狐が試し、感想を述べると、興味を抱いたのか、他の皆も試し始めた。
「本当だ! すごくシャリシャリしている!」
「おもしろーい♪」
「これはこれで、良いかも知れないわね」
「シロップを掛けると、どうしても溶けてしまうからな。食感を楽しむには、何も掛けない方が良いぞ」
「・・・・・・納得いかねー」
皆が水味かき氷を楽しんでいる一方、正邪はその様子を不服そうに見ながら、自分のかき氷にシロップを掛けた。
夏の季節、今日も博麗神社は平和である。