東方軌跡録   作:1103

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 今回は三月精に関する話です。
漫画の方は、クラウンピースがすっかり三妖精と仲良しになっていて、とても面白いです。そのうち保護者のヘカーティアを出したいと考えています。


夏の日常

夏に入り、日差しの強い日が続いている今日この頃。

博麗神社では、その強い日差しに、ある対策をしていた。

 

「しっかり持っててねジン」

 

「わかってる」

 

「霊夢さーん、こっちは終わりましたー」

 

「おーい、こっちも立て掛けて置いたぞー」

 

「ありがと妖狐、魔理沙。これで少しはマシになるかしら」

 

霊夢達が縁側に立て掛けているのは、“葦簀(よしず)”と呼ばれる葦の茎で作られた簾である。

屋根に立て掛ける事により日差しを遮り、尚且つ風を通すので、古くから暑さ対策として使われた物である。

 

「ふぅ、ようやく落ち着けるな」

 

そう言って、葦簀の影にいち早く入ったのは、何もしていない正邪であった。

 

 

「おいこら正邪、何もしていないお前が先にくつろぐな」

 

ジンがそう注意すると、正邪は日影を独占するかのように寝転び始める。

 

「へっへーん、何においても、早い者勝ちさ」

 

勝ち誇ったように言う正邪に対して、ジンは葦簀に手を掛ける。

 

「よし、葦簀をずらすか」

 

「おいバカやめろ!」

 

葦簀をずらそうとするジンに、それを阻止しようとする正邪。

二人のしょうもないやり取りに、呆れながらも止めに入る霊夢であった。

 

「あーもう、せっかく設置したんだから動かさないでよ。それに、スペースならまだ空いているでしょ」

 

「それはそうだが・・・・・・」

 

「ほら、水桶に水汲んで来て頂戴。こっちは風鈴と麦茶を用意するから」

 

「わかった」

 

ジンは言われた通りに、人数分の水桶を用意し、そこに水獸の力で冷たい水を注いだ。もちろん、正邪の分は抜かして。

 

 

それから暫くして、葦簀の影と水桶の水に足を漬かりながら、風鈴の音色で涼しむジン達の姿があった。

 

「これだけでも、少しは涼しくなるんだな。昔の人の知恵は偉大だ」

 

「外の世界では、えあこんっていうのがあるのよね?」

 

「ああ、空調の管理が出来るから、夏には冷たい空気を、冬には暖かい空気を出して、いつも家の中を快適にしてくれる道具だ。後は湿気なんかも何とかしてくれるぞ」

 

「なんだよその便利なもの、うちにも欲しいぞ」

 

「魔理沙さんの家は、魔法の森にありましたから、湿気が凄そうですよね」

 

「凄い、何てものじゃないって、油断しているとカビとか生えてくるんだから、大変なんだよ」

 

「あー、下手したら食料や他諸々が駄目になりそうだよな」

 

夏の日の魔法の森は湿気が大変高く、カビ対策をしないといろんな物が駄目になってしまうと、魔理沙は愚痴っていた。

 

「そう言えば、針妙丸とクランピースの姿が見えないけど、どうした?」

 

「二人はサニー達の所に泊まりに行っている。サニー達の家って、意外と涼しいからな」

 

「それ初耳だぞ! あーくそ、知っていたらついて行ってやったのに」

 

正邪は悔しそうに呟いた。

一応彼女も、お泊まり会に誘われたのだが、天邪鬼如くキッパリ断っていたのである。だが、サニー達の家の方が快適だと知ると、自分も素直に行けば良かったと、少し後悔していた。

そんな他愛の無い話をしていると、何処からか紙飛行機が飛んで来た。

 

「なんだ?」

 

「紙飛行機?」

 

「“ひらけ”って書かれてありますね」

 

紙飛行機に書かれていた文字に従い、紙飛行機を開いてみると、そこにはサニー達のSOSが書かれていた。

 

――――――――――――――――

 

ここはサニー達が住んでいるミズナラの御神木。ジンは手紙のSOSに従い、やって来た。

他の人達は、あまり乗り気ではなかったので、彼一人である。

かつてこの木に雷が落ち、真っ二つに割れてしまったが、今ではすっかり元通り―――――いや、今は蔦に覆われていて、すっかり変わっていた。

 

「なんだこりゃ? ツチノコにでも占領されたか?」

 

以前見た、ツチノコに占領された大妖精の大樹に状況が似ていた。

ともかくジンは、サニー達を呼び掛ける事にした。

 

「おーいサニー! 無事かー!」

 

そう呼び掛けると、窓からサニー達が顔を出して、呼び掛けに応じた。

 

「「「「ジーン! 助けてー!」」」」

 

「おっ、どうやら無事のようだな。待っていろよ、直ぐに出してやるからな」

 

そう言ってジンは、小太刀で蔦を切り始める

蔦は再生する事なく、出入口を覆っていた蔦を全て切り落とすと、中からサニー達が飛び出した。

 

「あー、やっと出れた」

 

「一時はどうなるかと思ったよ」

 

「頑張って、紙飛行機を飛ばした甲斐があったわ」

 

「割った窓、後で直さないと」

 

「ともかく、出してくれてありがとうジン」

 

「これぐらい御安い御用だ。それよりも、これは一体どうなっているんだ?」

 

ジンは改めて、ミズナラの御神木を見る。大きな大樹に、蔦がびっしり巻き付いている姿は、端から見て異様であった。

 

「多分、昨日の豊穣祈願ごっこが原因だと思う」

 

「豊穣祈願ごっこって、ごっこ遊びでこうなるのか?」

 

ジンは妖精についてあまり詳しくはなかったのだが、妖精自体が自然の権化なので、ごっこ遊びであったとしても、豊穣祈願をすれば、絶大な効果を表すのである。

 

「それよりも、早く中に戻りましょ。外は何だかんだで暑いから」

 

「それもそうだね。サニー達の家は、何故か涼しいし」

 

「だらしないなぁ、あたいがいた地獄は、もっと狂ったような暑さなんだぜ」

 

「地獄育ちの貴女と一緒にしないで頂戴」

 

「せっかくだし、ジンもおいでよ。助けてくれた御礼もあるし」

 

「おっ、それならお邪魔しようかな」

 

こうしてジンは、サニー達の家に招かれたのである。

 

――――――――――――――――

 

家に招かれて暫くすると、快適であった筈の家の中は、とても蒸し暑くなっていった。

 

「あ~つ~い~」

 

「さっきまで涼しかったのに・・・・・・」

 

先程までは快適な空間であったが、今では蒸し風呂のような空間に成り下がっていた。

 

「一体どうしてこんな事に・・・・・・」

 

「もしかして、蔦を切ったのが原因じゃあ・・・・・・」

 

「どういうことルナ?」

 

「ほら、蔦が断熱材と働いていたんだと思う。だからそれを切っちゃったから・・・・・・」

 

「ええー!? それじゃあこれからもっと暑くなるの!?」

 

「多分・・・・・・」

 

それを聞いたサニー達はげんなりした。快適だと思っていた家が、これから暑くなる事に。

そんな時ジンは、ある事を提案した。

 

「なあ、皆でかき氷を食べないか?」

 

――――――――――――――――

 

博麗神社の裏庭で、皆でかき氷を美味しく食べていた。

 

「う~ん♪ やっぱり夏はかき氷よね」

 

「おいジン! 早く次のかき氷を作れよ!」

 

霊夢はかき氷をしゃくしゃく食べ、正邪はジンにおかわりを要求していた。

 

「ちょっと待て。チルノ、頼む」

 

「任せとけー」

 

ジンの隣にいるチルノが、元気良く答える。

サニー達を救出した後、ジンはチルノの元に向かい、かき氷を作ってくれないかと頼みに行ったのである。そして今に至る。

 

「こんな感じかチルノ?」

 

「うん良い感じ! よし、凍らせるぞー」

 

ジンの水獸が水を集め、チルノがそれを凍らす事により氷を作り、それを削ってかき氷にしていた。

 

「ほら、出来たぞ」

 

「おお! 待ってま―――――って、何も掛かってねぇぞ!」

 

正邪に出されたのは、シロップが掛けられていないかき氷であった。それについて、チルノは自慢気に話始めた。

 

「ふふん、それはあたい特性のかき氷水味だよ」

 

「そうか、水味かーって、ふざけんなー! そんなもの誰が食うかー!」

 

「俺は食っているが?」

 

ジンは正邪の目の前で、チルノ特性水味かき氷を食べていた。

 

「喰うなよ! どんだけ感性貧しいんだよ!」

 

「よく聞け正邪。確かにシロップ無しは味気無いが、カロリーを気にせず食べれるメリットがある。それに、意外と良いものだぞこういのも」

 

「あっ、本当です。味が無い分、食感が楽しめますね」

 

妖狐が試し、感想を述べると、興味を抱いたのか、他の皆も試し始めた。

 

「本当だ! すごくシャリシャリしている!」

 

「おもしろーい♪」

 

「これはこれで、良いかも知れないわね」

 

「シロップを掛けると、どうしても溶けてしまうからな。食感を楽しむには、何も掛けない方が良いぞ」

 

「・・・・・・納得いかねー」

 

皆が水味かき氷を楽しんでいる一方、正邪はその様子を不服そうに見ながら、自分のかき氷にシロップを掛けた。

夏の季節、今日も博麗神社は平和である。


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