ところで、不思議の幻想郷はどういった立ち位置で考えればいいんでしょうか? 公式? 外伝? 非公式? 二次創作ゲーの商業展開なんて、前代未聞すぎてよくわからないです。
それと、今回はサグメが出ますが、彼女の能力の使い方は独自解釈です。
「えー! 約束が違うじゃない!」
博麗神社の境内で、大きな声で叫ぶ菫子。それに対してジンは、頑(かたく)なな態度を取っていた。
「この前の埋め合わせはちゃんとする。だが、今の提案は却下だ」
「なんでよー?」
「場所が悪いんだよ。よりにもよって、“月の都”に行きたいなんて」
ジンは困った表情をしながらそう呟いた。
事の発端は、地底の石花見に行った時、菫子を仲間外れにされた事に、彼女自身が大層御立腹だったので、ジンがその埋め合わせに、彼女のご要望の場所に連れて行く約束したのである。
だが、彼女はジンの予想を越える場所を希望した。それが、月の都である。
「何処でも好きな場所に連れてってくれる約束でしょ?」
「いいか菫子、月の都は幻想郷じゃない。しかも、仲が悪い。例えるなら、冷戦状態の某二か国だ。そんな場所に行けると思うのか?」
「約束は約束でしょ」
「危険すぎる、駄目なものは駄――――――」
「こんにちは、正邪いるかしら?」
突然二人の間に割って入ったのは、月の都の重役の一人であるサグメであった。
彼女のタイミングの悪い登場に、ジンは頭を抱えた。
「なんてタイミングの悪さだ・・・・・・」
「?」
実はサグメは、時々正邪に会いに博麗神社に遊びに来ていたのだ。
立場を考えれば、あまりこういう事は良くはないのだが、この神社が唯一、彼女の一人娘である正邪と会う事が出来る場所。なのでジンは、彼女が遊びに来る事を今まで黙認していたのだが――――――。
(まさかここに来て、厄介になるとは・・・何とか誤魔化さなければ!)
幸いにも、菫子はサグメの事を知らない。知らぬ存ぜぬを押し通せば。そう思っていたのだが―――――。
「あっ、サグメさんだ。やっほー」
「あら菫子じゃない」
「へ? ふ、二人は知り合いなのか?」
「当たり前じゃない。月の都のオカルトボールの制作者でしょ?」
どうやら知り合いのようである。ジンの作戦は、僅か数秒で崩れ去った。
「い、いつの間に・・・・・・」
「まあそれが縁でね。それより、何かあったの?」
「あっ、そうだ! サグメさんに頼めば良いじゃない」
「何の話?」
「実は――――――」
菫子はこれまでの経緯を話始めた。
「なるほど、月の都に行ってみたいのね」
「そうなんですよ。でも、ジンさんが駄目だって」
「そう・・・・・・」
するとサグメは、何か深く考え始めた。
ジンは、彼女の口からハッキリと駄目と言えば、菫子も諦めるであろうと考え、あまり口を出さず、見守る事にした。
そうしてしばらくして、サグメが口を開く。
「良いわよ」
彼女の口からとんでもない言葉が発せられた。
「いやちょっと待ってくれ! そんな簡単に決めて大丈夫なのか!?」
「大丈夫、きっと今夜は楽しい夢が見れるわ」
サグメは何処か楽しそうに、二人にそう言った。
――――――――――――――――
その日の夜、ジンはふと目が覚める。
そこは自分の自室では無く、広大な宇宙空間のような場所だった。だが、ジンはその場所を知っていた。
「ここは・・・月への連絡通路?」
「そう、ここは地上と月、現実と夢の狭間の世界よジン」
そこに、夢の番人であるドレミーがいた。彼女は心底迷惑そうな顔をしていた。
「まったく、サグメも面倒な事を押し付けるものね・・・・・・」
「サグメが?」
「ええ、貴方と菫子がここに来るから、月まで案内して欲しいって」
「菫子もここに来ているのか?」
「ええ、あそこではしゃいでいるわ」
「スッゴーイ! まるで宇宙にいるみたーい!」
ドレミーが指差した先には、子供のようにはしゃいでいる菫子の姿があった。
「凄いはしゃぎようだな」
「さっきからずっとあの調子ですよ」
「あっ、ジンさん! ジンさんも来ていたのね」
菫子がジンの姿を確認すると、こちらに向かって走って来た。
「凄いわねここ! 本当に宇宙に来てるみたいだわ!」
「まあ、ここは月と地上の狭間の世界だからな、宇宙空間みたいな場所なんだろう」
「夢の世界でもありますからね」
「それで、どう行けば月に行けるの? 案内してくれるんでしょ?」
「・・・・・・本来なら、追い返して夢オチにするのですが、今回はサグメの頼みなので、特別に彼女の元へ案内します。ついてきてください」
そう言って、ドレミーは歩き出した。ジンと菫子は、彼女の後をついていった。
――――――――――――――――
ドレミーの案内で、とある屋敷前にたどり着いたジンと菫子。
その屋敷から、サグメが出迎えた。
「いらっしゃい二人とも。案内してくれてありがとうドレミー」
「貴女の頼みだからやったけど、あまりこういう頼みはやめてよね」
「悪るいと思っているわ。わがままに付き合ってくれて、ありがとう。御礼に食事でもいかが?」
「・・・・・・そうね、たまには夢以外の物を食べるのもいいわね」
「決まりね、貴方達もどうぞ。月の料理を堪能させてあげるわ」
「やったー♪」
「えっとそれじゃあ、御言葉に甘えて」
サグメ案内され、三人は彼女の屋敷に入って行った。
――――――――――――――――
「美味しいー! こんな美味しいもの、初めて食べた!」
「ふふっ、気に入ってくれてなによりだわ」
サグメのもてなしに、菫子は大層御満喫であった。
一方ジンは、何か気になる事があるようで、あまり箸が進んでいなかった。
「ジン? どうしたの? あまり箸が進んでいないようだけど・・・もしかして、口に合わなかった?」
サグメが心配そうにそう尋ねて来た。
どうやら、勘違いさせてしまったようである。
ジンは直ぐに、誤解を解くことにした。
「いや、料理は美味しい。ただちょっと、心配事があって」
「心配事?」
「俺達がここにいる事がバレたら、サグメの立場が悪くなるんじゃないかって。月の民ってたしか、地上の人を嫌っているんだろ?」
ジンがそう言うと、サグメは特に気にしていない様子であった。
「主に嫌っているのは、一部の上層部だけ、一般の民はそれほどでも無いわ。それに、バレる心配は無いわ」
「どういう事だ?」
「だって、既に“地上の人を迎え入れる”って、報告してあるから」
それを聞いてジンは卒倒し、椅子ごと倒れた。
「ジ、ジンさん!」
「大丈夫ですか?」
「な、なんとか・・・・・・」
菫子とドレミーに心配されながらも、何とか起き上がるジン。
するとサグメが、先程の話の続きをする。
「ああ、別に心配しなくても良いわよ。報告したのは“能力を使う下準備”みたいなものだから」
「下準備?」
「私の能力は、“口に出すと事態を逆転させる能力”。その性質を利用したのよ」
彼女の言い分はこうである。事態が暗転に進むように、あえて情報をばら蒔き、能力を発動させる。そうすることで、暗転から好転に反転する確率を高めたのだ。
「おかげで、私も今日一日休日になったわ。まさに、能力は使いようね」
サグメは楽しそうにそう言っていたが、それは案に、“サグメ様、貴女は疲れているのですね”と、勘違いされたのではないか? とジンは思ったが、口には出さなかった。
「まぁ、大丈夫ならそれでいい。それよりも、この後はどうするんだ?」
「そうね、せっかくだから、最近オープンした遊園地にでも行かない? 部下に無料チケットを貰ったのよ」
そう言ってサグメは、四枚のチケットを取り出す。
月の遊園地には興味はあるが――――――。
「そんな場所に、俺達が大手を振って歩いて大丈夫なのか?」
「心配性ね貴方は、でも大丈夫よ。“今の貴方達なら”」
「どういう事だ?」
「私が説明しましょう」
サグメの言葉の意味を、イマイチ理解できていないジンと菫子に、ドレミーが説明をしてくれた。
「貴方達は今、肉体を持って来ている訳では無く、私の能力と夢幻病の性質を利用して来ているのよ。
だから、今の貴方達は生き霊、穢れが殆ど無い状態なのよ」
「なるほど、つまり地上人とバレる心配は無いわけなんだな」
「そういう事。それに、変装もすれば、完璧よ」
「変装! なんだかスパイみたい!」
「変装って、具体的には?」
「ふっふっふっ、私に任せなさい」
サグメは悪戯な笑みを浮かべ、ウサミミを取り出した。
――――――――――――――――
ここは月の都で今話題の遊園地。大勢の月人と玉兎で溢れていた。
その場所に、ジン、菫子、サグメ、ドレミーは遊びに来ていた。
「へぇー、ここが月の遊園地なのね。見たことも無いものばかりだわ」
菫子がはしゃぎながら、辺りを見回すと、彼女の頭についているウサミミも一緒に右へ左へと揺れていた。
「あまり振り回していると、つけ耳がとれるわよ」
「おっと、そうだった。気を付けないと」
現在菫子とジンは、玉兎の格好をしており、サグメもまた、バレないように変装をしていた。ドレミーだけが普段の格好である。
菫子自体は、このウサミミを気に入っている様子だが、一方ジンはというと―――――。
「なぁ、このウサミミ、着けなきゃ駄目なのか?」
あまり気に入ってはいない様子であった。
「文句は言わないことですよ。それは一種の身分証明のようなので、あるのと無いのでは、えらい違いです」
「たがなぁ・・・男のウサミミなんて、誰も喜ばないし、似合わないだろ」
「そうかしら? 似合ってると思うけど」
(月の民のセンスが良くわからん・・・・・・)
「そんな事よりも、早く遊びに行こうよ!」
「わかったわかった。はしゃぐのは良いが、はぐれないようにしろよ」
こうして四人は一緒に、月の遊園地を楽しむ事にした。
――――――――――――――――
それからというもの、ジン達は様々なアトラクションにチャレンジした。
宝探しアトラクション、調合体験が出来るアトリエ、超絶叫コースターなど、様々なアトラクションを遊び尽くした四人は、遊園地内のレストランで休憩をしていた。
「いやー、楽しんだ楽しんだ♪ こんなに楽しめたのは生まれて初めてだわ♪」
「そうですね。たまにはこういう休日は悪くないですね」
とても御満喫の菫子に、満更でもないドレミー。二人はこの場所を大層気に入っていた。
一方でサグメは、窓の外をぼんやり眺めていた。その視線の先には、親子連れ家族がいた。
「・・・・・・本当は、正邪と一緒に来たかったんじゃないのか?」
ジンがそう尋ねると、サグメは振り返らずに答えた。
「今でも時々思うのよ。親として、もっと何かしてやれなかったかって。本当に、駄目な親よね私は」
自嘲するサグメ。それに対して、ジンはこう言った。
「俺は子を持っていないから、何とも言えないが。後悔しているのなら、その分だけ正邪と一緒に過ごせば良い。うちの神社で良ければ、いつだって場所を貸してやる」
「迷惑じゃないかしら?」
「迷惑だったら最初から言わない。それに、口では出さないけど、正邪もサグメと会うのを楽しみにしているから」
もし、この場で正邪が居たのなら、ジンのこの発言を口で否定していただろう。だが、長い時間彼女と暮らしていると、何が建前で、何が本音が分かる。彼女は彼女なり、サグメの事を気にかけていた。
「だから遠慮しないで、いつでも来れば良い。うちはいつでも歓迎さ」
「・・・・・・ええ、ありがとうジン」
サグメはジンの方へ顔を向いて、感謝の言葉を述べた。
その表情は、とても明るい物であった。
だがその時――――――。
「あれ? もしかしてジン?」
不意に声を掛けられ、振り返ると、そこにはレイセンとその同僚の玉兎達がいた。
「・・・・・・兎違いです」
「嘘つけ! 貴方ジンでしょ!」
「どうしてここに? それにその格好は――――――」
「“この子は私の玉兎よ。ジンという名前では無いわ”」
サグメがそう言うと、レイセン達は不思議そうに頭を傾げた。
「そう言われてみると、ちょっと違うような・・・・・・」
「それにしても似てるような・・・・・・」
「やっぱり本人じゃない?」
「でも、そう簡単に月にこれるのかしら?」
レイセン達は半信半疑になっていた。
どうにも、サグメの能力が好転に作用していないようで、バレそうでバレない、五分五分の状態になっているらしい。
だが、乱入者は彼女達だけではなかった。
「みつけた!」
そこに、鬼の形相をした依姫が現れた。その様子からジンは、レイセン達は依姫の訓練をさぼって遊びに来ているのだなと推測した。
「わわっ!? 依姫様だ!」
「やばいバレた!」
「逃げよう!」
依姫の姿を見たレイセン達は、脱兎の如く逃げ出した。だが依姫はすぐに追い掛けず、ジンに対してポツリと言う。
「何故ここにいるかは不問にしておくけど、なるべく早く帰る事をオススメするわ。もちろんそこのお嬢さんもね」
そう言って、依姫はレイセン達の後を追い出す。
彼女の姿が消えてから、ジンはポツリと言う。
「どうやらバレていたみたいだな」
「そのようね、どうやら知らない所で能力を使っていたみたい。やれやれ、使いづらい能力だわ」
サグメため息をついて呟いた。
これ以上の滞在は危険と判断され、ジンと菫子は地上に戻る事になった。
菫子は少々物足りない様子であったが、ジンが有無を言わさなかった。こうして短い月の観光は終わりを告げた。
――――――――――――――――
それから数日後の事である。ジンがいつもの日課の境内の掃除をしていると、早苗が慌ただしくやって来た。
「ちょっとジンさん! 菫子ちゃんから聞きましたよ!月の遊園地に行って遊んで来たそうじゃないですか!」
「菫子の奴、喋りやがったな・・・・・・」
「何で私も連れて行ってくれなかったんですか!?」
「連れて行く約束をしていなかったし、その場にもいなかったからな」
「それじゃあ、もし次に行く機会があったなら、私も連れて行ってくださいよ?」
「ああ、機会があったならな。機会があったなら」
そんな機会、そうそうに無いと思ったジンは、早苗と約束をする。
この約束がいつ果たされる事になるやら、それは誰も知らない事である。