ある日の事。博麗神社にて、恒例の宴会が行われていた。
ある者は料理を、ある者は談笑を、そしてある者が酒を楽しんでいた。
そんな中、魔理沙何気ない一言で、この話が始まったのである。
「いやー、咲夜の料理は美味いなー。そう思うだろジン?」
絡むようにジンに尋ねる魔理沙。かなりの量を飲んでいたせいか、彼女は完全に酔っぱらっていた。
そんな彼女に、相槌をするジン。
「確かに、並の料理人より美味いんじゃないか?」
「ふふっ、そう言って貰えると嬉しいわ」
瀟洒な笑顔で答える咲夜。そんな彼女に、業を煮やした人物がいた。
「何よ! このくらいの料理、私だって作れるもん!
見てなさいよ! 次の宴会の料理、咲夜に負けないくらいのものを作ってやるわ!」
霊夢はそうはっきりくっきりと言ってのけた。
こうして霊夢は、次の宴会の料理番をする事になったのである。
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宴会の次の日、霊夢は案の定頭を悩ませていた。
「ああ言ったものの、何を作ろう・・・・・・」
料理には自信はあるのだが、レパートリーの豊富さには勝つ自信はなかった。
理由としては、紅魔館はマミゾウ組同様、外の世界の食材を調達するツテがあって、こちらにはまったく無いのである。
いや、あるにはあるのだが、頼むにしても量と金が問題になってしまうのである。
「はぁ、嘆いても仕方ないわ。今用意出来る物で頑張るしかないわね」
そう諦めかけたその時、華仙と魔理沙が尋ねて来た。
「話を聞いたわよ霊夢、次の宴会の料理貴方が用意するらしいわね」
「まぁ、成り行きっていうか、そうなっちゃったけど。魔理沙から聞いたのかしら?」
「いいや、私達はジンから頼まれただけだぜ」
「頼まれた?」
「貴方の御手伝いよ。“宴会で出す料理について悩んでいるから、手を貸して欲しい”って」
「まったく、相変わらずお節介焼きねあいつ。それで肝心の本人は?」
「宴会で使える食材を探しに、マミゾウ行ったぜ。あいつらも、外の食材を入手ルートを持って居るらしいからな」
「そう・・・ところで、前から思っていたんだけど、どうやって外の食材を入手しているのかしら?」
「それはあれじゃない? あのスキマ妖怪が1枚噛んでいるとか」
「ああそう言えば、そんな事をしているって話を聞いたわね・・・・・・」
「少しは私達庶民にも恵んで欲しいぜ」
そんな話をしている最中、サニー達三人が竹かごを持ってやって来た。
「霊夢さーん! 手伝いにきましたー!」
「あらサニー達じゃない。手伝いって、宴会の料理の事かしら?」
「はい、何でも霊夢さんが、作るって聞いたので、食材を持って来ました」
「一体誰から聞いたんだそれ?」
「えっと確か・・・・・・」
「スキマ妖怪から聞きました」
「紫から? 何を企んでいるのかしら・・・・・・」
賢者と呼ばれている紫ではあるが、それと同時に胡散臭さでも有名であるため、ついつい勘繰ってしまう霊夢達であった。
「それと、その紫さんからお裾分けです」
そう言ってサニーは、籠の中身を見せた。そこには、籠一杯のタンポポが積まれていたのである。
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その頃ジンは、マミゾウ組がいる。妖怪狸の森と呼ばれる場所に訪れていた。
「なるほどのう、あの霊夢がそんな事を・・・・・・」
「まあ、酔った事とは言え、一度引き受けてしまった以上、皆が満足する物を出さないとな」
「それで儂の所に来た訳じゃな」
「何か良いのがあるのか?」
「これなんてのはどうじゃ?」
そう言ってマミゾウが出した物は、一匹の鯛であった。
「鯛か、確かに鯛は祝いの席で良く出される食材だな」
「その通り、しかもこの時期は鯛の旬じゃから、一段と旨味が出ておるんじゃ」
「よし買った! それで御代は―――――」
「御主と儂の仲じゃ、今回は特別価格で安くしておこう」
「何やら何までありがとうマミゾウ」
「礼は次の宴会の時に、美味しい料理を出してくれればよい」
「ああ、期待していてくれ」
ジンはそう言って鯛を受け取り、その場を後にした。
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鯛を持って博麗神社に戻って来たジン。
さっそく皆に鯛を手に入れた事を伝えようと、台所へと向かった。
「ただいまー、みんな良いものが手に―――――」
「「「「うーん・・・・・・」」」」
ジンが台所で見たものは、頭を悩ませている霊夢や妖狐、サニー率いる三妖精、料理の手伝いを頼んだ華仙と魔理沙の姿であった。
「どうしたんだ皆して? 何を悩んでいるんだ?」
「ああ、おかえりジン。実はねぇ―――――」
霊夢はジンに、紫からタンポポの差し入れを貰い、それをどう調理するか頭を悩ませているとの事。
「タンポポって、食べれたのか?」
「昔は一般的な野菜の一つだったけど、量が少ないのとあまり美味しくない理由で、だんだんと食べなくなっていったのよ」
「量が少ない? それにしては大量にあるみたいだが・・・・・・」
「紫なら、何処へでも行けるから、外から持って来たんじゃない? それよりも、このタンポポの調理が、案外難しくて・・・・・・」
「どれどれ―――――」
ジンは作られたタンポポの天ぷらを一つ食べてみる。
「・・・苦いんだな」
「食用というより、実際は薬草として使われていたのよ。だから、あまり美味しくはないわ」
「薬草か・・・」
華仙の説明を聞いて、真っ先に思い浮かんだのは永遠亭の人達であった。
薬草ならば、薬学に詳しい永琳やその弟子である鈴仙なら、タンポポの美味しい調理の仕方を知っているかも知れない。
(いや待てよ・・・花なら彼女の方が詳しいかも知れない)
ジンは花に最も詳しい人物に、助力を頼む事にした。
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「なるほど、それで私に泣きついて来たわけね」
何とも楽しそうに喋る女性。ジンが連れて来たのは、花の事なら誰よりも詳しいフラワーマスター風見幽香であった。
「泣きついてはいないが、タンポポの美味しい調理の仕方を知っているなら教えてくれないか?」
「別に良いわよ。食べられるなら、美味しく食べられた方が、この花(こ)達も喜ぶでしょうし。それじゃあ早速―――――あら?」
幽香が食材のタンポポを手にした時、彼女はある違和感を感じた。
「これ、タンポポじゃないわね」
「え?」
幽香の言葉に、一同は改めてタンポポを見るが、どこからどう見ても普通のタンポポにしか見えなかった。
「いや、どう見てもタンポポみたいだが?」
「花のつけねにあるガクの部分を見てみなさい、反り返っているでしょ?」
幽香の指摘通り、タンポポのガクが反り返っていた。
「本物のタンポポはガクが反り返っていないのよ。だからこれは、本物のタンポポじゃないわ」
「それじゃあこれは一体―――――」
「それは西洋タンポポと呼ばれる物よ」
突然響く声、するといつの間にかそこに紫がいた。
「紫、いつから居たの?」
「幽香がタンポポ講座をしていた所からよ」
「西洋タンポポって?」
「西洋タンポポっていうのは、外来種のタンポポよ。日本の在来種に比べると繁殖力が高く、冬以外いつでも咲いているの。だから本来は幻想入りする筈の無い花なのよ」
「でも、現にこうしてあるわよ?」
華仙の指摘に対して、紫は悪戯な笑みを浮かべて答えた。
「何処かの誰かさんが、結界を揺るがす異変を起こしたせいで、種子が幻想郷に入り込んだんじゃないかしら?」
「「「「あー」」」」
紫の言葉で、一同は原因である人物が思い浮かんだ。
「まぁ、過ぎた事をとやかく言うつもりは無いけど、ちょっと数が増えてしまったのよねぇ。このままだと、幻想郷の生態系に悪影響を及ぼすかも知れないのよ」
「なるほど、だからタンポポを差し入れをしたのか」
「ええ、美味しいタンポポ料理を作って食べて貰えば、数も減るでしょう?」
「まどろっこしい事をするわねあんた」
「霊夢が気づくかどうか試していたんだけど、案の定気づかなかったわね」
「悪かったわね気づかなくて」
「まあ良いわ。お陰で良い案を思い浮かんだから」
そう言って紫は、妖しく微笑んだ。
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その後、幽香直伝のタンポポレシピは大好評であり、結果的に宴会は大成功した。
そのレシピは新聞を通して幻想郷中に広まり、タンポポブームが巻き起こった。
そして西洋タンポポはその数を減らし、幻想郷の生態系は守られたのである。
だが、そのタンポポブームのせいで、一部の所で問題が発生した。
その問題はというと――――――。
「出来たわよ、タンポポの根のキンピラ、タンポポのバター醤油炒め、タンポポのスープよ」
霊夢が作った数々のタンポポ料理。とても美味しいそうだが、何故かそれを見た正邪達は、げんなりした顔をしていた。
「いい加減にしろよ! この一週間タンポポ、タンポポ、タンポポ! タンポポ料理ばっかじゃねぇか」
正邪は机を叩いて叫んだ。この一週間の博麗神社の献立は、タンポポ一色であった。正邪も、我慢の限界を越えていた。
「しょうがないでしょ、タンポポがまだまだたくさんあるんだから」
「でも流石に一週間連続は・・・・・・」
「流石に飽きちゃうよ・・・・・・」
「たまには違うのが食べたーい」
「はいそこ、文句は言わない。まだまだ試していないレシピがあるんだから」
これはしばらくタンポポ料理は続くなと、ジンは内心そう思いながらも、目の前にあるタンポポ料理を食べるのであった。