東方軌跡録   作:1103

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 今回の話しは鈴奈庵の話しですが、元の話しがかなりシリアスだったので、書くのが大変でした。
 でも、内容はなかなか興味深いものでしたので、読むのをオススメします。


楽園の巫女の勤め

まだまだ冬真っ只中の幻想郷。雪景色に染まった里の中を、小鈴は大きな風呂敷を背負って歩いていた。

 

「う~重い~、相変わらず阿求のところは多いわね・・・・・・」

 

彼女は今、貸し本の回収サービスをしており、たった今お得意様である稗田家から、大量の本を回収したばかりである。

その量は、少女が持ち運ぶには些か多いものであった。

 

「今度パチュリーさんから、重量軽減の魔法を教えて貰おうかしら・・・・・・」

 

そんな事を呟きながら歩いていると、一人の青年が声を掛けて来た。

 

「大丈夫か小鈴?」

 

「そ、その声は、ジンさん?」

 

声を掛けて来たのはジンであった。彼の手には、鈴奈庵で借りた本があった。

 

「ほ、本の返却ですか?」

 

「ああ、鈴奈庵にこれを返そうと思ったが、なんだが小鈴が大変そうな様子だったから」

 

「わ、私は大丈夫です! これも仕事の内ですから・・・・・・」

 

そう言う小鈴だったが、明らかに強がりなのは明白である。

ジンは小鈴に対して、ある事を提案する。

 

「その荷物持とうか?」

 

「え!? いえいえ! お客様にそんな事させられませんよ!」

 

「どうせ鈴奈庵に行くついでだ。それに、女の子が大変そうなのを黙って見ている程、俺は人でなしではない」

 

「でも・・・・・・」

 

「なら、交換で。俺の本を小鈴が持つ代わりに、小鈴が持っている風呂敷が俺が持つ。それじゃ駄目か?」

 

そう言って来るジンに対して小鈴は、少し申し訳ないと思いつつ、やっぱり甘えてしまおうと思うのであった。

 

「・・・・・・それじゃ、お言葉に甘えて良いですか?」

 

「ああ」

 

二人は互いの荷物を交換し、歩き始めた。

荷物が軽やかになったせいか、小鈴は小気味良い気持ちになった。

 

「本当に助かりましたジンさん」

 

「良いって。それにしても、本の回収をしていたんだな」

 

「サービスの一環なんですよ。忙しくて期日に返せない人や、返す本が多い人に対して、こうして本を回収をしに行っているんです。まあ、里の中限定ですけど」

 

「そりゃそうだな。博麗神社も少し遠いし、守矢神社はかなり遠い。魔法の森なんてのは危険地帯だ。回収しに行くとしたら大変そうだ」

 

「一応、簡単な護身魔法をパチュリーさんから教えて貰っていますから、行けなくは無いですよ」

 

「そういった過信は禁物だぞ小鈴」

 

そんな他愛の無い話しをしながら歩いていると、とある屋敷の前に差し掛かると、小鈴は何かを思い出したかのように口を開く。

 

「あ、そうだ、そういえばこの屋敷の旦那様にも本を貸していたんだっけ」

 

「ならついでに回収しに行こう。せっかく通り掛かったんだ。今回収をして行った方が面倒無くて良いだろ」

 

「でも、こちらの仕事に付き合わせてしまうのは――――――」

 

「荷物を交換した時点で、今更だろ?」

 

「・・・・・・それもそうですね。それじゃあ、少しだけお付き合いしていただきますね。帰ったら、この御礼はちゃんとしますので」

 

「ああ、期待している」

 

そんなやり取りをして、二人は屋敷に向かい出した。

 

――――――――――――――――

 

屋敷の玄関に入った二人は、使用人に用件を伝え、本が来るまでその場で待っていた。

暫くすると、使用人が数冊の本を持って戻って来た。

 

「こちらが旦那様が借りていた本です」

 

そう言って、小鈴に手渡す。

小鈴は本の数と種類、状態を確認すると、笑顔で答える。

 

「ご利用ありがとうございました。今後も御贔屓にお願い致します」

 

そう言う小鈴だが、使用人には何処か浮かない顔をしていた。

気になったジンは、その事を尋ねてみる。

 

「何かあったのか?」

 

「い、いえ、そんな大した事ではありませんので。

それでは、仕事がありますので、失礼致します」

 

そう言って、使用人はそそくさと立ち去って行った。

 

「どうしたんでしょうかね?」

 

「さあな・・・まあ、部外者の俺達には話せない何かがあるんだろうな」

 

「話せない何か・・・これは何か事件のにおいがしますよジンさん!」

 

「勝手に事件と決めつけるな。人には人の事情があるものなんだ。それを土足で踏み込む行為は、あまり褒められたものでは無いぞ」

 

「でも、新聞記者はそういった物事の真実を明るみにするのが仕事だって、文さんは言ってましたよ?」

 

「新聞記者だからといって、取材に関しては節度を持つべきだ。小鈴だって、自分のプライベートを新聞に載せられたくはないだろ?」

 

「うっ、それは嫌かも・・・・・・」

 

「そういうことだ。親密でも無い限り、あまり踏み込まない方が良い」

 

「一応、お得意様なんですけどねここ」

 

そんな話をしながら、屋敷を出ると、屋敷の庭を眺めている魔理沙の姿があった。

 

「魔理沙さん?」

 

「魔理沙? 何をしているんだこんな所で?」

 

「ん? ああお前らか、ちょっと塩屋敷の庭を見ていたんだ」

 

「「塩屋敷?」」

 

「ここの旦那が、塩問屋の商いをしているから、周囲から塩屋敷って呼ばれているんだぜ」

 

「へぇ~、そうなんですか。初めて知りました」

 

「お前らはどうしてここに?」

 

「本の回収に寄っただけですよ」

 

「俺は付き添いだ。そういう魔理沙は、何しに来ているんだ?」

 

「ちょっと塩屋敷の噂を調べにな」

 

「噂?」

 

「ああ、この屋敷の旦那、最近奇行が目立つそうだ」

 

魔理沙の話によると、昔ら人柄が良かった旦那だったが、最近人が変わったようになり、滅多に人前に姿を見せなくなったり、可愛がっていた家畜を殺したり、長年仕えていた使用人を追い出したりと、とにかく奇行が目立つという。

 

「そして今、わざわざ庭に植えていたアセビの木を、使用人に伐らせたり。とにかく奇行目立つんだよな」

 

「確か、アセビっていうのは不吉、不幸でありますけど、魔除けや豊穣、繁栄のイメージがあるんですよね」

 

「おお、詳しいな小鈴は」

 

「こう見えても学がありますから」

(本当はパチュリーさんや阿求に教わったけどね)

 

「その話が本当なら、わざわざ伐る必要は無いと思うが・・・・・・」

 

「何か伐る必要があったのか、それとも気紛れか。どっちにしても、奇行に関する噂は本当らしいな」

 

「魔理沙さんは、その奇行の噂を確かめに?」

 

「まあそんな所だ。暫くはこの屋敷に近づかない方がいいぜ」

 

そう言って、魔理沙はその場を去って行った。

 

――――――――――――――――

 

それから鈴奈庵に到着した二人。そしてジンは、荷物を持ってくれた礼ということで、小鈴に紅茶と茶菓子をごちそうになっていた。

 

「いい香りだな。この菓子も美味い」

 

「阿求のお勧めの紅茶と菓子なんですよ」

 

二人だけのティータイムを楽しむジンと小鈴。そんな時、小鈴は店の入り口に奇妙な影が揺らいだのが見えた。

 

「あれ?」

 

「どうした小鈴?」

 

「今さっき、何かが揺らいだような」

 

小鈴は気になったのか、様子見に店の外へ出た。ジンもその後を追う。

外を出ると、辺りは霧に包まれていた。

 

「うわぁ・・・凄い霧」

 

「今日は晴れていたからな。放射霧が発生したんだろうな」

 

「放射霧って、晴れた冬の日に起きやすい霧でしたよね」

 

「ああ、盆地や谷で起きやすいから、盆地霧や谷霧とも呼ばれている。

人里の立地的にも、こういった霧が起きてもおかしくはないな」

 

「確かに、盆地に近いですからねここは。ところでジンさん」

 

「ん?」

 

「良かったなんですけど、霧が晴れるまでうちにいませんか? こんな深い霧中を歩くのは、かえって危険だと思います」

 

「そうだな・・・まあ、もう少しだけお邪魔させて貰おうか」

 

ジンの言葉に、小鈴は内心ガッツポーズをした。

そんな時である。霧の中から、馬の走る音が聞こえて来る。

 

「ん? こんな霧の中を馬を走らせているのか? 危な――――――」

 

次の瞬間、二人の目の前を、“首の無い馬”が横切った。

その異様な光景に、二人は馬が去った後で、ようやく我に返る。

 

「い、い、い、今の馬、く、首が・・・・・・」

 

「店の中に戻ろう」

 

恐怖で硬直している小鈴の手を引き、ジンは鈴奈庵へと引き返した。

 

――――――――――――――――

 

鈴奈庵に戻ったジンは、簡易的な結界を張り。直ぐ様浮遊玉で霊夢に連絡した。

 

「―――――――ってな事があったんだ。一体何の妖怪か分かるか?」

 

《多分それ、首なし馬だと思うわ》

 

「首無し馬?」

 

《見た目は不気味だけど、神様の乗り物なのよ。大方、年神様が乗っていたんじゃない?

害意は無いから安心して。寧ろ縁起物よ》

 

「そうか、それなら大丈夫か。小鈴にこの事を伝えておく」

 

《ああそれと、あんたが見た首無し馬の軌跡を視ておいてちょうだい》

 

「何でまた?」

 

《念の為。お願いねジン》

 

そう言って、霊夢との通信が切れる。

やや腑に落ちないながらも、先程の霊夢の言葉を小鈴に伝える。

 

「そうだったんですか。それならちゃんと拝んでおけば良かった」

 

「仕方ないさ。あんな見た目をしてたら、誰だって気味悪がられるからな」

 

「ジンさん、そんな事を言うと、バチが当たりますよ」

 

「事実だろ。実際に小鈴は怖がっていたじゃないか」

 

「うっ、それは・・・・・・」

 

「ははは、少し意地悪だったな」

 

ジンはそう笑いながら、店の外の様子を窺う。

先程あった霧は、跡形も無く消えていた。

 

「さてと、霧も晴れた事だし。そろそろ帰らせてもらう」

 

「あっ、またの御越しをお待ちしております」

 

小鈴に見送られ、ジンは鈴奈庵を出た。

 

「さて、あの馬は何処からやって来たのやら・・・・・・」

 

ジンは能力を使い、首無し馬の軌跡を視る。すると、ある事に気がつく。

 

「ん? 妙だな、人里の中心から軌跡が来ている」

 

不振に思ったジンは、軌跡を逆に辿ってみることにした。そして、ある屋敷に辿りつく。

 

「ここは・・・塩屋敷?」

 

軌跡を辿って先は、塩屋敷であった。

首無し馬の軌跡は、そこから始まっており、ここを通った軌跡は無かった。

 

「以前からこの屋敷に滞在していたのか・・・・・・」

 

塩屋敷の旦那の噂に、首無し馬の軌跡。この二つに何か接点があるのでは?と、ジンは一抹の不安を感じた。

 

――――――――――――――――

 

博麗神社に戻ったジンは、首無し馬の軌跡の事を話した。

それを聞いていた霊夢は、何故か憂いの表情をした。

 

「そっか・・・・・・」

 

「霊夢?」

 

「何でもない。ちょっと用事が出来たから、出掛けるわ。遅くなるかも知れないから」

 

そう言って霊夢は立ち上がり、祓い棒を持って出掛けようとする。

そんな彼女を、ジンは呼び止めた。

 

「ちょっと待て」

 

「・・・・・・何よ?」

 

「一体何処に出掛けるんだ? それに、首無し馬と塩屋敷の関係は――――――」

 

「貴方が知る必要は無いわ」

 

厳しい言葉と何処か殺気立った表情に、ジンはそれ以上追求出来なかった。

 

「・・・・・・ごめん。だけど、これだけは聞かないで欲しい」

 

それだけ言うと、霊夢は出掛けて行ってしまった。

霊夢がいなくなって直ぐに、正邪がひょっこり顔を出して来た。

 

「良いのかよ追求しないで」

 

「正邪か・・・・・・」

 

「気になるんだろ? あいつが何をしに出掛けたのかを」

 

「気になるが・・・聞けないだろ」

 

「しつこく聞いたら、霊夢に嫌われるからか?」

 

「・・・・・・」

 

「はぁ~、変な所でヘタレだなぁお前は」

 

「余計なお世話だ」

 

「まあいいさ、ああいう事は知られたくは無いだろうしな」

 

「何か知っているのか?」

 

「知りたいか?」

 

「・・・・・・知りたいが、お前が素直に教えてくれるとは思えないし、霊夢が頑なに教えなかったのには、それなりの理由があるのなら、知るべきではない」

 

「おまえなぁ、好きな女の事を知りたがれよ。だから進展しないんだろうが」

 

「踏み込みすぎて、嫌われるよりは、現状維持の方がいい」

 

「うわぁ・・・極度の恋愛ヘタレだなお前。そんなんじゃあ、他の奴等に取られ―――――るのかなあれ?」

 

正邪は首を傾げながら、そう呟いた。

霊夢が居たら、間違いなく夢想天生を喰らわせていただろうなぁと、ジンは内心思った。

 

「ともかく、好かれたいのなら、嫌われる覚悟でやらないと駄目なんだよ。

好きも嫌いも、突き詰めれば同じ物なんだからな。プラス(好き)かマイナス(嫌い)の違いはあるけどな」

 

正邪の言葉を、ジンは何となく理解した。

相手に好かれたいなら、

嫌われる事を恐れず、相手の心に一歩踏み出す勇気を持て、正邪が言いたい事はそういう事なのだと。

嫌われ者の天邪鬼が、そんなアドバイスを送るとは、なんともおかしな話だと、ジンは思った。

 

(いや、嫌われ者だからこそ、そういった事が言えるのかもな)

 

そんな事を考えていると、正邪は怪訝な顔をしていた。

 

「何だよ笑ったりして、気味がわるいな」

 

どうやら笑みが溢れていたようで、正邪はそれを気味悪がっていた。

そんな彼女を見て、ジンはささやかなお返しをすることにした。

 

「意外だなって思ってな。

嫌われる事を良しとしていたお前が、実は誰かに好かれたいって思っていることに」

 

「はぁ!? 今の会話で、どうしてそうなるんだよ!?」

 

「お前が自分で言っただろ。嫌いも好きも、突き詰めれば同じ物だって。それなら、お前が人に嫌がる事をするのは、自分を好きになって欲しいって事じゃないのか?」

 

「違うっつーの! 私は誰かが嫌がる事をするのが好きなだけだ!」

 

「それなら、さっきのアドバイスはする必要は無いだろ? どうしてしたんだ?」

 

「あ、あれは、お前がまた悪い癖が出たから仕方なくだな・・・って、違くて!」

 

「どう違うんだ?」

 

「ええっとそれはだな・・・自分の行動で相手を苦悩させたりするのは良いが、自分勝手に苦悩のするのは見ていて気持ち悪い、特に自己嫌悪ってのは最悪だ。そんな奴に嫌がらせをしてもつまらないからな。

だからさっさと立ち直らせてから、嫌がらせをした方がスッとする」

 

何ともお節介な天邪鬼だなと、ジンは思った。

これ以上は流石に可哀想だと思い、話を切り上げる事にした。

 

「そうか、お前はお前なりの美学があるんだな」

 

「そういう事だ。だから勘違いするんじゃない」

 

釘を刺すように言って、正邪はその場を立ち去った。

誰もいなくなった所で、ジンは――――――。

 

「・・・・・・ありがとう正邪」

 

誰にも聞こえない小さな声で、感謝の言葉を呟いた。

 

――――――――――――――――

 

時刻は牛の刻となった頃で、霊夢はようやく神社に帰って来た。

そんな彼女を、ジンは出迎えた。

 

「おかえり霊夢」

 

「ジン? 寝ていなかったの?」

 

「霊夢が心配て、ついな」

 

「そう・・・・・・」

 

「夕飯はどうした? 済ませたのか?」

 

「まだだけど・・・・・・」

 

「ならお粥を作ってやる。と言っても、それぐらいしか出来ないけど」

 

「別に良いわよ。たまには、あんたのお粥を食べたいと思っていたから」

 

「わかった。直ぐに作る」

 

ジンは直ぐ様台所に向かい、お粥の用意を始める。

霊夢はその間、居間でゆっくりしていた。

 

 

ジンの作ったお粥を食べた霊夢は、緑茶を飲んで一息ついた。

 

「ふぅ、相変わらずあんたのお粥は美味しいわね」

 

「料理に関しては、それだけが取り柄だからな。それよりも霊夢」

 

「ん?」

 

「塩屋敷と首無し馬についてだが、俺なりに考えてみたんだ」

 

「・・・・・・」

 

「霊夢はあの時、首無し馬は神様の乗り物って言ってたよな? それが塩屋敷から出た―――――いや、“出ていった”の方が適切か。

神様の乗り物が出て行ったのなら、当然神様も出ていったんだと思う。

何故出ていったのか、それは塩屋敷の旦那が豹変した事が関わっていて、霊夢はそれをどうにかしようと出掛けた。違うか?」

 

ジンの推理を聞いていた霊夢は、観念したかのようにため息をつく。

 

「はぁ、そうよね。あれだけのヒントがあったなら、答えに辿り着くわね・・・・・・」

 

「それじゃあ――――――」

 

「だけど、前提が間違っているわ。あれは首無し馬では無く、“馬憑き”という妖よ」

 

馬憑き、粗末に扱われた馬の怨霊。口から人間に取り憑き、成り代わるという、非常に危険な妖だと霊夢は話した。

 

「魔理沙に調べて貰ったんだけど、あの屋敷の主人。年明けに食べた馬の肉が気に入って、自分の馬を殺して食べていたらしいのよ。多分それが原因で、馬憑きに取り憑れたんだと思う」

 

「それじゃあ霊夢は、その馬憑きを退治しに行ってたって訳か」

 

「うんまあ・・・・・・」

 

そう尋ねると、霊夢は何処か歯切れが悪かった。

 

「霊夢?」

 

「・・・・・・黙っていても、明日には分かるから、ハッキリ言うわ。塩屋敷の旦那さん、死んだわ」

 

「え?」

 

霊夢のその言葉を、ジンは直ぐに理解出来なかった。

それでも霊夢は、言葉を続けた。

 

「馬憑きに完全に取り憑かれた人間は助からないの。もう少し発見が早ければ、助ける事が出来たと思うけど」

 

「そう、か・・・・・・」

 

ジンはそれ以上何も言えなかった。何を言えば良いのか分からず、黙ってしまった。

重苦し空気の中、霊夢が口を開く。

 

「・・・・・・幻滅した? 私がこんな汚れ仕事をしている事に」

 

霊夢は恐る恐るジンに尋ねた。

ふと彼女の手を見ると、僅かに震えていた。

ジンはそんな霊夢の側に寄り、手をそっと重ねた。

 

「幻滅なんかしていない。霊夢は塩屋敷の旦那を助けたかっただけなんだろ?」

 

「まあね・・・・・・」

 

「なら、今回のは間が悪かっただけだ。霊夢は霊夢なりに最善を尽くしたんだろ。それで文句を言う奴は、俺がぶん殴ってやるよ」

 

「ぶん殴るって・・・ちょっと過激じゃない?」

 

「人の頑張りを馬鹿にする奴には、それぐらいがちょうど良いんだよ」

 

「過激な事をして、神社の評判を落とさないでよね」

 

「・・・それもそうだな。それなら、バレないようにやるさ」

 

「・・・・・・」

 

何を思ったのか、霊夢はいきなりジンの頬をつねり始めた。

 

「いててて! 何をするんだよ霊夢!」

 

「いや、なんからしく無い事を言うからさ、誰が化けているのかなって」

 

「そんなにらしくないか?」

 

「だって、いつもは暴力は控えるような事を言うじゃない」

 

「時と場合だろそういうのは。俺は家族や身内に悪意を向ける奴等には、容赦しないからな」

 

「何だか天狗の連中みたいな考えね。もしかしたら、天狗の血も混じっているんじゃない?」

 

「そんなまさか」

 

「冗談よ。あんたの先祖がなんであれ、私の家族には変わり無いもの」

 

霊夢はそう言って、微笑んだ。それを見たジンは、心がとても安らいだ。

 

――――――――――――――――

 

翌日、塩屋敷の旦那の葬儀が行われた。

病死と言われているが、彼が持病を持っていたという話しはなかった。だが、最近の豹変ぶりを考えれば、何か病気に掛かっていたのでは無いかと、人々はそう思って納得した。

なお、葬列を遠くから眺めている霊夢とジンの姿があったらしいが、誰も気にとめなかった。


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