東方軌跡録   作:1103

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永琳の設定を見て、こんな話を思いつきました。正直言って、やっつけ感があります。

 それと、仕事の事情で週一の投稿が難しくなってきました。今後は週一じゃなくて、二、三週間開いての投稿になります。
 楽しみにしている方には申し訳ありませんが、落ち着いたら、また週一に戻すつもりでいます。
 今後も、本作をよろしくお願いいたします。
 


とある月の民の話

“鈴瑚の監視報告書。

現在幻想郷には、月の都の仇敵である純狐が度々訪れているのが確認されています。

彼女が幻想郷を訪れる理由は、ジンという人間目当てだと思もわれます。

監視した結果、彼女はジンに亡き息子の面影を重ねているようで、彼に養子にならないかと、誘った経緯も確認されています。

ジンはというと、養子の件はやんわりと断っているようではあるが、満更でも無い感じも見受けられました。これに関しては、彼が親を亡くした事が要因だと思われ、心の何処かで親を求めているのかも知れません。

さて、この二人が手を組み、月の都を襲撃するかと言うと、その可能性はほぼ無いどころか、刹那の可能性も無い。何故なら、ジンという人間は、今の生活をとても大切にしているからです。故に、月との戦争など、彼は起こすつもりは無く、起きようというものなら、それを止めるでしょう。

現に、純狐に月を攻め落とそうという提案を、彼は断り、止めさせた。楽観的ではあるが、彼が生きている限り、純狐は月を侵攻する可能性は、極めて低いと思われます。

それと、二人とはまた違った要注意人物も、幻想郷にいた事を報告します”

 

――――――――――――――――

 

月の都の執政室にて、報告書を読んでいた強面の男は、深いため息をついた。

 

「そうか・・・八意様が幻想郷に・・・・・・」

 

そう呟きながら、窓から空に浮かぶ地球を眺める男。

 

「もう千年になるか・・・・・・」

 

千年前、輝夜を連れ戻しに行った八意永琳。しかし、彼女は共に迎えに行った使者を皆殺しにし、輝夜と共に行方を眩ませた。

彼女の離脱は、月の都にとって大きな損失で、彼女がいない今、製造不可能な道具が多々ある。紺珠の薬もその一つである。

 

「さて、どうするか・・・・・・」

 

男は、先の会議の内容を思い出す。

 

――――――――――――――――

 

月の都の城にある、とある会議室にて、月の都重役達が話し合っていた。

その中には、サグメ、綿月姉妹、そして男の姿があった。

 

「だからこそ今がチャンスなのだ! 八意の所在がわかった今、部隊を送り奴を連れ戻すのだ!」

 

「そう簡単に言うな! 彼女は今や幻想郷の住民、下手をすれば奴等と戦争になるんだぞ!」

 

「所詮は下賤の妖怪と地上人。我らの物の数では無いわ」

 

「純狐との密約を忘れたか! 幻想郷に手を出せば、奴が動く!」

 

「それと、八雲紫もな。あれは妖怪と枠を越えた存在だ。あれを抑えられるのは、綿月姉妹しかおるまい」

 

「そこに、八意様が加われば・・・・・・あれ? これ詰んでませんか?」

 

「もはや強行策は通じん。ここは懐柔策をだな――――――」

 

「下賤な奴等に頭を下げるだと? そんな事出来るか!」

 

「ならどうすると? 八意殿を諦めるか?」

 

「それこそ無理だ、彼女しか製作出来ない物が多々存在する。彼女がいない今、それらが徐々に無くなりつつあるのだ」

 

「彼女がいなくなった月の文明はストップどころか、後退をしていますからねぇ」

 

「これも、輝夜という愚か者のせいだな」

 

「貴様! 輝夜様を侮辱するのは許さんぞ!」

 

会議は進むどころか、ただ口喧嘩をするだけのものとなってしまった。

付き合いきれないと思った強面の男、サグメ、綿月姉妹、そして何人かの重役達は、会議室を出ていった。男もまた、同じように出ていくのだった。

 

――――――――――――――――

 

会議の内容を思い出した男は、憂鬱な気持ちになった。

八意永琳が居た頃は、彼女が率先と引っ張ってくれていたので、先の会議のような不毛な言い争いは起きなかった。

彼女の知謀、能力は、月の民の誰よりも優れており、月の都一の賢者として謳われていた。そして、彼女の教えを請うた弟子達は皆優秀になり、その殆どが出世をする程である。

八意永琳は優秀である。しかし、優秀過ぎたのである。知らず知らずの内に、月の民達は、八意に依存するようになっていた。その表れが、蓬来山輝夜の事件であった。

 

(あの時は、大変な騒ぎだったな)

 

蓬来山輝夜の蓬来人化、この事件は月の都を震撼させた。理由としては、この事件に八意永琳が関わっていたからである。

通常蓬来の薬は、飲むどころか作る事も重罪、所持するのも重罪なのである。それ故に、八意永琳を処分しなくてはならなかった。地上追放という、重い罰を。当初の八意永琳は、それは覚悟をしていたようだったが、事態は彼女の思いもよらない方向に進んでいった。

 

(八意様の無罪放免。全ての罪を蓬来山輝夜に擦り付け、彼女を月に居させる・・・今思えば、愚かな行動だったな)

 

彼等にとって、蓬来山輝夜よりも、八意永琳の方が重要であった。その為、何がなんでも彼女の罪を握り潰した。その結果があの無罪放免である。

今思うと、重役達があれほど一致団結したのは、あの時だけだったのかも知れない。それほどまでに、八意永琳を必要としていた。

しかし彼等は、本人の気持ちまでは汲み取らなかった。

 

(彼女は優秀な故に、そのような結果が許せなかったのだろうな)

 

薬を作った自分は無罪で、教え子だけが罰を受ける。彼女にとって、それ以上ない苦痛だったのだろう。

彼女は直ぐ様、輝夜を月に戻れるように手配をした。彼女の弟子達はそれを手伝い、重役達は渋りながらも、それを了承した。

しかし、これが月の都最大の事件の始まりであった。

 

(八意様の逃亡。それが知れ渡った月の都は大騒ぎだったな)

 

八意永琳が去った月の都は大騒ぎになった。

“どうしてこうなった!?”、“何故逃げた!?”、“一体誰の責任だ!?”。そんな叫び声が、数ヶ月に渡って繰り返された。

直ぐ様追跡部隊を送り出されたが、八意永琳の所在を突き止める事は出来ず、月の都は重大な支柱を失ってしまった。

八意永琳が月の都を去ってから、彼女の弟子達の活躍により、何とか持ち直す事が出来た。しかし、以前のように何もかもスムーズに行かなくなり、何をするにも滞ってしまう。

そして、彼女以上の発明家がいないので、月の文明は千年前からストップし、徐々に後退の兆しも見え始めたのである。

 

(こうして見ると、我々は八意様に依存し過ぎたのだ。これからは我々は自身の足で立たなければならない)

 

そう思った男は、手紙を書き始めた。

 

――――――――――――――――

 

ここは永遠亭にある、永琳の研究室。永琳が何やらレポートを纏めていると、そこに鈴仙が入って来た。

 

「師匠、鈴瑚から手紙が来ています」

 

「彼女から? 何かしら・・・・・・」

 

不思議に思いながらも、永琳は手紙を受け取る。そして印を見ると、彼女から笑みがこぼれる。

 

「師匠?」

 

「何でもないわウドンゲ。ありがとう、下がって良いわよ」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

少し疑問に思いながらも、鈴仙は退室した。

一人になった永琳は、静かに手紙を読んだ。

 

“お久しぶりです八意先生、◇▽です。

急な手紙で驚かせてしまったかも知れませんが、貴女が幻想郷にいる事を知って、居ても立って居られず、こうして手紙を書きました。

先生が去ってから、月の都は大変です。上の重役達は先生を連れ戻そうとしていますが、迂闊に手が出せない状況なので、暫くは安全だと思います。しかし、油断は出来ません。こちらも、それなりに手を打つつもりです。

本当は先生に戻って来て欲しいですが、貴女は戻って来るつもりはないのでしょう。寂しく思いますが、貴女の選んだ道なら、邪魔をするつもりはありません。

先生、月の民の中では貴女を恨む者もいますが、私は恨んでおりません。我々は貴女に依存し過ぎました。だからこそ、これからは貴女に頼らず生きて行きます。まだまだ課題は山程ありますが、いつか貴女がいた頃よりも立派な都にするつもりです。何年掛かるかわかりませんが、やり遂げようと思います。

貴女の教えは、決して忘れません。さようなら、御元気で。◇▽より。

追伸、もし私の力が必要でしたら、鈴瑚に言ってください。

彼女は幻想郷の監視員ですが、私の腹心でもありますので、安全に連絡出来ます。”

 

手紙を読み終えた永琳の表情はとても穏やかで、空に浮かぶ月を見て微笑むのであった。


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