それと、来週と再来週は投稿をお休みします。やはり年末年始は忙しので、これが落ち着いたら再開する予定です。
少し早いですが、来年もよろしくお願いいたします。
幻想郷の地下深くにある旧地獄。そこを管理している地霊殿の主、さとりの趣味は読書である。
彼女の部屋には様々な本が置いてあるが、それでも限りがあり、長い時を生きる妖怪にとってはあまりにも数が少ない。
しかも、彼女は地上に出る事は無いため、新たな本を手にするには、本が幻想入りをして、旧地獄に落ちる事を願うか、ペットに頼んで本を買いに行かせるかのどちらかしかなかった。
しかし最近では、それ以外で本を手に入れる方法が出来た。それはというと――――――。
「さとり様ー、ジンから小包みを預かって来ましたー」
「ご苦労様お燐。そこに置いといてちょうだい」
「はーい」
お燐は言われた場所に小包みを置き、部屋を退室した。
お燐が退室したのを見計らい、さとりは心踊りながら小包みを開けた。
中には、一冊の本と一通の手紙が備わっていた。
その内容とは―――――。
“さとりへ。
元気かさとり、こっちも問題なく過ごしている。
冬が近づいているため、地上は寒くなって、そろそろ上着が必要になって来た。
旧地獄は問題は無いと思うが、もし地上に出るとしたら、気温の差があるから気をつけてくれ。妖怪だから大丈夫だとは思うが、念には念の為。”
それはジンからの手紙であった。
あまり知られていない事だが、実はこの二人は文通をする間柄なのである。
切っ掛けはほんの些細な事、ジンが地霊殿に訪れた時に、ふと本の話題が出た。二人の趣味嗜好が似ていた為、話しは思いの外盛り上がった。そして、さとりが本の入手が困難である事を伝えると――――――。
『それなら、おもしろい本を見つけたら、送ってやろうか?』
そう申し出たのである。
これにはさとりは驚いたが、ジンに打算的な考えを持っていない事が分かったのと、新しい本が欲しいという欲求があった為、彼の好意に甘える事にした。
それからというもの、ジンがおもしろいと思った本は、手紙と共に送られ、さとりもまた手紙で本の感想と、自分のオススメの本を贈るようになった。
こうして奇妙な文通が始まったのである。
さとりが手紙を読み終えると、次に手紙と一緒に送られた本を手にする。それは、さとりが持っている本の続きであった。
(ふふっ、こんなに早く続きが読めるなんて、本当に彼に感謝しないと。御返しに何か贈ろうかしら)
そんな事を思いながら、さとりはいつも通り読書を始めるのであった。
――――――――――――――――
それから数日後、さとりはある人物を地霊殿に呼び寄せていた。
「―――――という訳で、何か彼に御返しに何か贈ろうと思うのですが、何か贈ろうありませんか? “友人の易者さん”?」
その人物とは、かつて幻想郷のルールを破り人間を辞め、外からやって来た外来死神に加担した易者であった。
前歴だけ見れば、悪党なのだが、今はすっかり改心し、真面目に勤めを果たしているのである。
今回は、ジンの友人という事から、さとりの相談を請け負っていた。
「あいつに贈り物ですか・・・何でも良いんじゃないですか?」
(どんな物でも喜ぶからなアイツは)
「それでは困るのよ。つまらない物を贈って、気をつかわせてしまったら、本末転倒じゃない」
「そうは言われてもですね・・・・・・」
(お人好しのアイツなら、ガラクタでも喜びそうだが・・・実際、近所の妖精のプレゼントを大事そうにしていたし)
「貴方ねぇ・・・私がガラクタでも贈るとでも?」
「あ、いや、そういう訳では・・・・・・」
(や、やりづらい・・・・・・)
易者の心を読みながら、ため息をつくさとり。やはり、会話は苦手であると、改めて思うのであった。
(だけど、ジンとの会話は楽しかったわね)
ジンとの会話の場合は、彼は心を読まれる事を前提で会話していた。
彼はさとりが不快にならないように、自分の考えを隠さず素直に口に出し、余計な事は一切考えず、さとりとの会話を純粋に楽しんでいた。その為さとりは、普段ペットと接しているように、ジンとの会話はとてもリラックスして楽しめたのである。
(もしかしたら、目の前の彼も、そう言った理由で友人になれたのかしら?)
そんな事を考えていると、その前にいる易者が、こんな提案を出して来た。
「あっそうだ、アレなら喜ぶんじゃないですか?」
(勇儀の姐さんの旅館の宿泊券とか)
「旅館の宿泊券ですか・・・少しベタじゃないかしら?」
「まあベタですけど、これが一番無難だと思いますよ」
(それに風俗があ―――――)
易者の思考を読んだ瞬間、さとりは近くにあったポットを易者に投げつけた。
ポットの中身は易者ぶっかけられ、彼は熱湯に襲われた。
「あつつっ!? 一体何をするんだお前は!?」
(危うく死にかけたぞ! ・・・いや、もう死んでいるけど)
「それはこちらの台詞よ! 贈り物を考えているのに、何で卑猥な事を考えているの変態!」
「へ、変態って・・・そこまで言うか普通・・・・・・」
(男なら普通だと思うがなぁ・・・・・・)
「まあ確かに、異性に対してそう思うのは普通だと思うけど、今回は贈り物を考えているのよ。そんな卑猥な事をしたら、私の面子はまる潰れよ」
「ああ、そうだ言えばそうでした。すみません・・・・・・」
(ただ俺は、あいつの心境が心配だったのだが・・・・・・)
易者の何でもない心の呟きに、さとりは思わず興味を抱いた。
「心境? どうして心境が心配なの?」
さとりのその言葉を聞いて、易者はしまったと思ったが、彼女の前では隠しごとが出来ないと判断し、諦めて白状することにした。
「あーほら、アイツの住んでいるいるところ、女ばっかですから? だから―――――」
(発散しづらいかなー?って)
「え? あ、そういうこと?」
「あっ」
易者の言葉と心の声で、彼の心配事が分かったさとりは、何とも恥ずかしい気持ちになった。
(ま、まあ、彼も男だから、性欲を持っているのは当たり前ね・・・・・・)
さとりから見たジンの人物像は、優し過ぎるお人好しや聖人一歩手前と見えていたのだが、やはりそういうところもあるのだろうと、さとりは思った。
「・・・それで? 彼はどんなのが好みなのかしら?」
「好み?」
(そう言えば、年上が好みだと言っていたが・・・熟女好きなのかも知れん)
「え?」
「え?」
会話が僅かにズレた。そのズレのせいで、さとりは易者の煩悩を見るはめとなる。
「あ、いやその・・・・・・」
(ま、不味い! このままだと巫女、魔法少女、吸血鬼娘、メイド、侍少女、ナース、熟女系、妹系、獣娘、モンスター娘、ロリババ系、ロリ、熟女、年上、親子丼、姉妹丼、3P、ハーレム、巨乳、貧乳、ドS、ドM好みだとバレてしまう!)
易者の思考がダイレクトにさとりに伝わった。
あまりにも節操の無い好みに、流石の彼女も引いてしまう。
「あっ」
(し、しまった、思わず―――――)
「このド変態!!」
「のわぁぁぁぁぁ!?」
さとりはそう言って易者に、容赦なく弾幕を叩きつけた。
易者の断末魔が、地霊殿に響き渡るのであった。
――――――――――――――――
結局、ジンへの贈り物は決まらず、憂鬱な気持ちになったさとり。そんな彼女の元に、お燐がやって来た。
「さとり様ー」
(ご報告があります)
「あら、どうしたのお燐?」
「実はですね――――」
(石桜に関してで―――――)
石桜とは、大地に埋められた死体に残った魂が結晶化した物である。
通常、死んだ際に、魂は肉体に離れてあの世に行くが、その時に僅かながらの魂が死体に残ってしまうのである。
死体は土に還るが、残っていた魂の欠片は、そのまま地下奥深く、地獄はまで落ち、その仮定で純化し、結晶化し、地獄に舞い落ちる。
その光景は、舞い落ちる桜のような事から、“石桜”と呼ばれるようになった。
「石桜がどうかしたのお前?」
「その石桜ですが、例年より多いんですよ。
このままだと春頃には満開になってしまいます」
(そうなると、間欠泉を通して、外に飛び出る危険性があります)
「なるほど、それは手を打たな―――――あっ」
そこでさとりは、ある事を思いつき、にんまりと微笑んだ。
「それなら、来年の春に花見を解禁しましょう。そうすれば、被害は出ないでしょうし」
「でも良いんですかね?」
(一応、監視強化という名目で、花見禁止になっているんじゃあ―――――)
「その辺りは上手くやるから、貴女は何も心配しなくて良いわよ」
「はーい、それでは御触れを出しておきますね」
(やったー♪ 来年は旧都で花見だー♪)
表面上、平静を装っているお燐であったが、内面はうきうきしている事は、さとりは手に取るように分かっていた。
しかし、それを指摘する鹿野ではなかった。何故なら、彼女もまた、心を踊らせていたからである。
(ふふっ、来年が楽しみね)
さとりは、とても楽しそうに笑うのであった。
それから来年の春に、ジンはさとりから招待状を受け取る事になるのだが、それはまた別の話である。