東方軌跡録   作:1103

157 / 194
今回はタイトルが思いつかず、安直な物にしました。題名を考えるのって、結構大変ですね。
 それと、来週と再来週は投稿をお休みします。やはり年末年始は忙しので、これが落ち着いたら再開する予定です。
 少し早いですが、来年もよろしくお願いいたします。


さとりの贈り物 思案編

幻想郷の地下深くにある旧地獄。そこを管理している地霊殿の主、さとりの趣味は読書である。

彼女の部屋には様々な本が置いてあるが、それでも限りがあり、長い時を生きる妖怪にとってはあまりにも数が少ない。

しかも、彼女は地上に出る事は無いため、新たな本を手にするには、本が幻想入りをして、旧地獄に落ちる事を願うか、ペットに頼んで本を買いに行かせるかのどちらかしかなかった。

しかし最近では、それ以外で本を手に入れる方法が出来た。それはというと――――――。

 

「さとり様ー、ジンから小包みを預かって来ましたー」

 

「ご苦労様お燐。そこに置いといてちょうだい」

 

「はーい」

 

お燐は言われた場所に小包みを置き、部屋を退室した。

お燐が退室したのを見計らい、さとりは心踊りながら小包みを開けた。

中には、一冊の本と一通の手紙が備わっていた。

その内容とは―――――。

 

“さとりへ。

元気かさとり、こっちも問題なく過ごしている。

冬が近づいているため、地上は寒くなって、そろそろ上着が必要になって来た。

旧地獄は問題は無いと思うが、もし地上に出るとしたら、気温の差があるから気をつけてくれ。妖怪だから大丈夫だとは思うが、念には念の為。”

 

それはジンからの手紙であった。

あまり知られていない事だが、実はこの二人は文通をする間柄なのである。

切っ掛けはほんの些細な事、ジンが地霊殿に訪れた時に、ふと本の話題が出た。二人の趣味嗜好が似ていた為、話しは思いの外盛り上がった。そして、さとりが本の入手が困難である事を伝えると――――――。

 

『それなら、おもしろい本を見つけたら、送ってやろうか?』

 

そう申し出たのである。

これにはさとりは驚いたが、ジンに打算的な考えを持っていない事が分かったのと、新しい本が欲しいという欲求があった為、彼の好意に甘える事にした。

それからというもの、ジンがおもしろいと思った本は、手紙と共に送られ、さとりもまた手紙で本の感想と、自分のオススメの本を贈るようになった。

こうして奇妙な文通が始まったのである。

さとりが手紙を読み終えると、次に手紙と一緒に送られた本を手にする。それは、さとりが持っている本の続きであった。

 

(ふふっ、こんなに早く続きが読めるなんて、本当に彼に感謝しないと。御返しに何か贈ろうかしら)

 

そんな事を思いながら、さとりはいつも通り読書を始めるのであった。

 

――――――――――――――――

 

それから数日後、さとりはある人物を地霊殿に呼び寄せていた。

 

「―――――という訳で、何か彼に御返しに何か贈ろうと思うのですが、何か贈ろうありませんか? “友人の易者さん”?」

 

その人物とは、かつて幻想郷のルールを破り人間を辞め、外からやって来た外来死神に加担した易者であった。

前歴だけ見れば、悪党なのだが、今はすっかり改心し、真面目に勤めを果たしているのである。

今回は、ジンの友人という事から、さとりの相談を請け負っていた。

 

「あいつに贈り物ですか・・・何でも良いんじゃないですか?」

(どんな物でも喜ぶからなアイツは)

 

「それでは困るのよ。つまらない物を贈って、気をつかわせてしまったら、本末転倒じゃない」

 

「そうは言われてもですね・・・・・・」

(お人好しのアイツなら、ガラクタでも喜びそうだが・・・実際、近所の妖精のプレゼントを大事そうにしていたし)

 

「貴方ねぇ・・・私がガラクタでも贈るとでも?」

 

「あ、いや、そういう訳では・・・・・・」

(や、やりづらい・・・・・・)

 

易者の心を読みながら、ため息をつくさとり。やはり、会話は苦手であると、改めて思うのであった。

 

(だけど、ジンとの会話は楽しかったわね)

 

ジンとの会話の場合は、彼は心を読まれる事を前提で会話していた。

彼はさとりが不快にならないように、自分の考えを隠さず素直に口に出し、余計な事は一切考えず、さとりとの会話を純粋に楽しんでいた。その為さとりは、普段ペットと接しているように、ジンとの会話はとてもリラックスして楽しめたのである。

 

(もしかしたら、目の前の彼も、そう言った理由で友人になれたのかしら?)

 

そんな事を考えていると、その前にいる易者が、こんな提案を出して来た。

 

「あっそうだ、アレなら喜ぶんじゃないですか?」

(勇儀の姐さんの旅館の宿泊券とか)

 

「旅館の宿泊券ですか・・・少しベタじゃないかしら?」

 

「まあベタですけど、これが一番無難だと思いますよ」

(それに風俗があ―――――)

 

易者の思考を読んだ瞬間、さとりは近くにあったポットを易者に投げつけた。

ポットの中身は易者ぶっかけられ、彼は熱湯に襲われた。

 

「あつつっ!? 一体何をするんだお前は!?」

(危うく死にかけたぞ! ・・・いや、もう死んでいるけど)

 

「それはこちらの台詞よ! 贈り物を考えているのに、何で卑猥な事を考えているの変態!」

 

「へ、変態って・・・そこまで言うか普通・・・・・・」

(男なら普通だと思うがなぁ・・・・・・)

 

「まあ確かに、異性に対してそう思うのは普通だと思うけど、今回は贈り物を考えているのよ。そんな卑猥な事をしたら、私の面子はまる潰れよ」

 

「ああ、そうだ言えばそうでした。すみません・・・・・・」

(ただ俺は、あいつの心境が心配だったのだが・・・・・・)

 

易者の何でもない心の呟きに、さとりは思わず興味を抱いた。

 

「心境? どうして心境が心配なの?」

 

さとりのその言葉を聞いて、易者はしまったと思ったが、彼女の前では隠しごとが出来ないと判断し、諦めて白状することにした。

 

「あーほら、アイツの住んでいるいるところ、女ばっかですから? だから―――――」

(発散しづらいかなー?って)

 

「え? あ、そういうこと?」

 

「あっ」

 

易者の言葉と心の声で、彼の心配事が分かったさとりは、何とも恥ずかしい気持ちになった。

 

(ま、まあ、彼も男だから、性欲を持っているのは当たり前ね・・・・・・)

 

さとりから見たジンの人物像は、優し過ぎるお人好しや聖人一歩手前と見えていたのだが、やはりそういうところもあるのだろうと、さとりは思った。

 

「・・・それで? 彼はどんなのが好みなのかしら?」

 

「好み?」

(そう言えば、年上が好みだと言っていたが・・・熟女好きなのかも知れん)

 

「え?」

「え?」

 

会話が僅かにズレた。そのズレのせいで、さとりは易者の煩悩を見るはめとなる。

 

「あ、いやその・・・・・・」

(ま、不味い! このままだと巫女、魔法少女、吸血鬼娘、メイド、侍少女、ナース、熟女系、妹系、獣娘、モンスター娘、ロリババ系、ロリ、熟女、年上、親子丼、姉妹丼、3P、ハーレム、巨乳、貧乳、ドS、ドM好みだとバレてしまう!)

 

易者の思考がダイレクトにさとりに伝わった。

あまりにも節操の無い好みに、流石の彼女も引いてしまう。

 

「あっ」

(し、しまった、思わず―――――)

 

「このド変態!!」

 

「のわぁぁぁぁぁ!?」

 

さとりはそう言って易者に、容赦なく弾幕を叩きつけた。

易者の断末魔が、地霊殿に響き渡るのであった。

 

――――――――――――――――

 

結局、ジンへの贈り物は決まらず、憂鬱な気持ちになったさとり。そんな彼女の元に、お燐がやって来た。

 

「さとり様ー」

(ご報告があります)

 

「あら、どうしたのお燐?」

 

「実はですね――――」

(石桜に関してで―――――)

 

石桜とは、大地に埋められた死体に残った魂が結晶化した物である。

通常、死んだ際に、魂は肉体に離れてあの世に行くが、その時に僅かながらの魂が死体に残ってしまうのである。

死体は土に還るが、残っていた魂の欠片は、そのまま地下奥深く、地獄はまで落ち、その仮定で純化し、結晶化し、地獄に舞い落ちる。

その光景は、舞い落ちる桜のような事から、“石桜”と呼ばれるようになった。

 

「石桜がどうかしたのお前?」

 

「その石桜ですが、例年より多いんですよ。

このままだと春頃には満開になってしまいます」

(そうなると、間欠泉を通して、外に飛び出る危険性があります)

 

「なるほど、それは手を打たな―――――あっ」

 

そこでさとりは、ある事を思いつき、にんまりと微笑んだ。

 

「それなら、来年の春に花見を解禁しましょう。そうすれば、被害は出ないでしょうし」

 

「でも良いんですかね?」

(一応、監視強化という名目で、花見禁止になっているんじゃあ―――――)

 

「その辺りは上手くやるから、貴女は何も心配しなくて良いわよ」

 

「はーい、それでは御触れを出しておきますね」

(やったー♪ 来年は旧都で花見だー♪)

 

表面上、平静を装っているお燐であったが、内面はうきうきしている事は、さとりは手に取るように分かっていた。

しかし、それを指摘する鹿野ではなかった。何故なら、彼女もまた、心を踊らせていたからである。

 

(ふふっ、来年が楽しみね)

 

さとりは、とても楽しそうに笑うのであった。

それから来年の春に、ジンはさとりから招待状を受け取る事になるのだが、それはまた別の話である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。