魔法の森にある一軒の家。そこには一人の魔女が住んでいた。
魔女の名はアリス・マーガトロイド。魔界人にして、生粋の魔法使いである。
そんな彼女に、最大のピンチが訪れていた。
「あー・・・まさか風邪を引くなんて・・・・・・」
そう、彼女は風邪を引いていたのである。
顔は赤く、咳も出て、何とも苦しそうな顔をしていた。
「運悪く薬を切らしちゃったし、こんな事なら、永遠亭の置き薬を買えば良かった・・・・・・」
薬の調合が出来る故に、永遠亭の薬は要らないと思ったアリスであったが、今回はそれが完全に裏目に出てしまっていた。
(調合するにも、薬を買いに行くにも、外に行かないといけないけど、こんな状態じゃあ、自衛出来るかどうか・・・こういうところが、一人暮らしの不便さよね。あーあ、誰か来てくれないかしら?)
心の片隅に思った願い。そんな願いに応えてくれたかのように、扉が開かれた。
「アリスー! 遊びに来たわよー!」
現れたのは、幼い少女。
彼女の名はメディスン・メランコリー。人形から妖怪となった付喪神で、アリスが目指す、自立人形の完成形でもある。
そういう事から、二人はそれなりに交流をする間からなのである。
「ああ、メディスン。ちょうど良かったわ・・・・・・」
「どうしたのアリス? 何だか元気が無いみたいだけど?」
「少し風邪を拗らせちゃって。更に悪いことに、薬も薬の材料も切らしているの」
「大変じゃない! 私に出来る事は無いかしら?」
「永遠亭に行って薬を買って来てくれないかしら? お願い出来る?」
「永淋のところからお薬を貰って来ればいいの? それくらいお安いご用よ」
「ありがとう。それじゃあお願いねメディスン」
こうしてメディスンは、アリスの為に永遠亭に向かう事となった。
――――――――――――――――
メディスンが最初に訪れたのは、人里にある寺子屋であった。
迷いの竹林を抜けるには、妹紅、てゐ、鈴仙の何れかに案内して貰う必要があった。
そこでメディスンは、妹紅と親しい慧音に、彼女の所在を尋ねたのだが――――――。
「生憎、妹紅は自警団の仕事で、里の外周を見回っている。帰って来るのは夕方頃だ」
「そ、そんなに待てないよ! 今だって、アリスは苦しい思いをしてるのに・・・・・・慧音先生、なんとかならない?」
「そうは言われても、私は竹林に詳しく無いからな。誰か他に―――――」
「どうしたんだ慧音?」
そこに現れたのは、寺子屋で授業を教えに来てくれたジンであった。
彼の姿を見て、慧音は閃いた。
「そうだジン、メディスンを永遠亭まで案内してくれないか? 今日の分の授業は終わったのだろう」
「まあそうだが、一体何があったんだ?」
「アリスが風邪をひいちゃって、お薬を買いに行きたいの」
「風邪を? それは大変だ。よし、直ぐに行こう」
こうしてメディスンは、ジンの助けを得て、永遠亭に向かうのであった。
――――――――――――――――
ジンの協力の元、メディスンは永遠亭にたどり着いた。
早速薬を貰おうと、中に入るのだが――――――。
「永琳いるー?」
「八意様は今、所用で出かけているわ。要件なら私が―――――」
「あれ? 依姫じゃないか。どうしたんだ一体?」
現れたのは永琳ではなく、月にいるはずの依姫であった。
彼女がここにいる事に、ジンは驚いていたが、当の本人はもっと驚いていた。
「え!? な、なんでジンがここに!?」
「まあ、この子の付き添いでな。竹林を抜けれる者は限られてるしな」
「知り合い?」
「ああ。昔、色々とお世話になった事があってな」
「くっ、迂闊だったわ・・・こんな事なら、恥ずかしくても変装しておくべきだったわ・・・・・・」
「もう、だから言ったじゃない。顔見知りと鉢合わせしたら、面倒事になるかも知れないって」
その言葉と共に、奥から眼鏡を掛けたナース服の女性が現れた。
彼女の言動から、ジンは何となくナース正体がわかった。
「もしかして、豊姫?」
「あら? バレちゃった?」
「いやまあ、話の流れからして、そうじゃないかと」
「結局、変装していても、正体がまるわかりじゃないですかお姉さま」
「依姫が最初から変装していれば、違う結果になっていたかも知れないじゃない」
「それは詭弁です!」
ジンとメディスンを他所に、依姫と豊姫はわいわいと、言い合いを初めてしまった。
ジンは、アリスの事もあって、直ぐ様仲裁をすることにした。
「ちょっと二人とも、言い合いするのは、こちらの用件を終わらせてからにしてくれないか?」
「用件?」
「森に住んでいるアリスが、風邪を引いて寝込んでいるのよ」
「それは大変ね。その人の種族は?」
「確か、魔界出身って聞いた事がある」
「あそこの出身か、それならこの薬が効くわよ」
そう言って、依姫は粉末の入った小瓶を、メディスンに差し出した。
「食後に服用しなさい。食前に服用すると、腹痛に苛まれるから」
「わかった」
「それとジン。私が永遠亭に出入りしている事は―――――」
「他言無用だろ? 何をしているか知らないけど、何か理由があっての事なんだろうし、詮索はしない」
「そうして貰えると助かるわ」
ジンの言葉を聞いて、依姫は安堵した。
ただ永淋に会いに来ただけなんて知られたら、きっと幻滅してしまうだろうし、そもそも幻想郷の連中にこの事を知られたら、弱味を見せる失態に繋がってしまう。
そう言った意味でも、今回の相手がジンで良かったと依姫は思った。
(次から変装しておいた方が良いかしら? でも、あまり恥ずかしいのは嫌ね。うむむむ・・・・・・)
そんな事で頭を悩ましている依姫を見て、豊姫はニヤニヤと笑うのであった。
――――――――――――――――
薬を無事買うことが出来、メディスンとジンはそのままアリスの家へと向かった。
「アリスー!お薬買って来たよー!」
「ありがとうメディスン。あら、ジンも来てくれたのね」
「メディスンから話を聞いてな。見舞いに来たついでに粥を作ってやろうと思ってな。台所使わせて貰うぞ」
「別に構わないけど・・・変な物は作らないでね」
「粥なら、変な風にはならない。むしろ、絶品粥を作ってやるよ」
「私も手伝う!」
「よし、なら一緒に作るか」
ジンとメディスンは、お粥を作りに一緒に台所へと向かった。
それからしばらくして、メディスンはお粥が入った土鍋を持って戻って来た。
「アリス、お粥出来たよ」
「ありがとう。あれ? ジンは?」
「そろそろ帰らないと、霊夢達が心配するかもって言って帰った」
「そう。今度何か御礼をしないといけないわね」
そんな事を言いながら、アリスはお粥を口にした。
「あら、凄く美味しいわ」
「でしょー♪ 一生懸命作ったのよ」
「ふふ、頑張ったわねメディスン。今度一緒に何か作らない? ジンの御礼を含めて」
「うん!」
メディスンは満面の笑みを浮かべて頷くのであった。
――――――――――――――――
それから数日後、アリスとメディスンは、手作りクッキーを持って、博麗神社を訪れていた。
「あら、アリスにメディスンじゃない。今日はどうしたの?」
境内で掃除をしていた霊夢に声を掛けられた。
アリスは、持っていた手作りクッキーを見せながら、事情を説明した。
「この前、風邪を引いた時にお世話になったから、クッキーを持って来たのよ」
「私とアリスの合作よ」
「あいつ、そんな事までしてたのね。まあ良いわ、クッキーは渡しておくけど、しばらくは食べれないかも」
「どうしたの?」
「昨日の茸鍋を食べて、運悪く毒茸に当たちゃってね・・・・・・」
「え? 大丈夫なの?」
「私達は大丈夫だったんだけど、しばらく安静にしなさいって、鈴仙に言われて、自室で寝ているわ」
「そう、それじゃあ日を改めて―――――」
「ねぇ霊夢、台所を貸してくれない?」
「え? 台所を?」
「うん、ジンにお粥を作って上げようと思って」
それは純粋なメディスンの好意であった。
あの人間嫌いだったメディスンが、こんな申し出するなんて、出会った当初は考えられない変化だと、二人は思った。
「それじゃ、皆で一緒に作って、ジンを驚かせてやらない?」
「そうね。きっと驚くわね彼」
「おもしろそう! やってみたい!」
メディスンはとても楽しそうに笑った。
それからジンにお粥作り、彼を大層驚かせたという。