東方軌跡録   作:1103

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 今頃になって、メディスンを出していないことに気づきました。そんな訳で、彼女を出す話を作りました。



メディスンのお使い

魔法の森にある一軒の家。そこには一人の魔女が住んでいた。

魔女の名はアリス・マーガトロイド。魔界人にして、生粋の魔法使いである。

そんな彼女に、最大のピンチが訪れていた。

 

「あー・・・まさか風邪を引くなんて・・・・・・」

 

そう、彼女は風邪を引いていたのである。

顔は赤く、咳も出て、何とも苦しそうな顔をしていた。

 

「運悪く薬を切らしちゃったし、こんな事なら、永遠亭の置き薬を買えば良かった・・・・・・」

 

薬の調合が出来る故に、永遠亭の薬は要らないと思ったアリスであったが、今回はそれが完全に裏目に出てしまっていた。

 

(調合するにも、薬を買いに行くにも、外に行かないといけないけど、こんな状態じゃあ、自衛出来るかどうか・・・こういうところが、一人暮らしの不便さよね。あーあ、誰か来てくれないかしら?)

 

心の片隅に思った願い。そんな願いに応えてくれたかのように、扉が開かれた。

 

「アリスー! 遊びに来たわよー!」

 

現れたのは、幼い少女。

彼女の名はメディスン・メランコリー。人形から妖怪となった付喪神で、アリスが目指す、自立人形の完成形でもある。

そういう事から、二人はそれなりに交流をする間からなのである。

 

「ああ、メディスン。ちょうど良かったわ・・・・・・」

 

「どうしたのアリス? 何だか元気が無いみたいだけど?」

 

「少し風邪を拗らせちゃって。更に悪いことに、薬も薬の材料も切らしているの」

 

「大変じゃない! 私に出来る事は無いかしら?」

 

「永遠亭に行って薬を買って来てくれないかしら? お願い出来る?」

 

「永淋のところからお薬を貰って来ればいいの? それくらいお安いご用よ」

 

「ありがとう。それじゃあお願いねメディスン」

 

こうしてメディスンは、アリスの為に永遠亭に向かう事となった。

 

――――――――――――――――

 

メディスンが最初に訪れたのは、人里にある寺子屋であった。

迷いの竹林を抜けるには、妹紅、てゐ、鈴仙の何れかに案内して貰う必要があった。

そこでメディスンは、妹紅と親しい慧音に、彼女の所在を尋ねたのだが――――――。

 

「生憎、妹紅は自警団の仕事で、里の外周を見回っている。帰って来るのは夕方頃だ」

 

「そ、そんなに待てないよ! 今だって、アリスは苦しい思いをしてるのに・・・・・・慧音先生、なんとかならない?」

 

「そうは言われても、私は竹林に詳しく無いからな。誰か他に―――――」

 

「どうしたんだ慧音?」

 

そこに現れたのは、寺子屋で授業を教えに来てくれたジンであった。

彼の姿を見て、慧音は閃いた。

 

「そうだジン、メディスンを永遠亭まで案内してくれないか? 今日の分の授業は終わったのだろう」

 

「まあそうだが、一体何があったんだ?」

 

「アリスが風邪をひいちゃって、お薬を買いに行きたいの」

 

「風邪を? それは大変だ。よし、直ぐに行こう」

 

こうしてメディスンは、ジンの助けを得て、永遠亭に向かうのであった。

 

――――――――――――――――

 

ジンの協力の元、メディスンは永遠亭にたどり着いた。

早速薬を貰おうと、中に入るのだが――――――。

 

「永琳いるー?」

 

「八意様は今、所用で出かけているわ。要件なら私が―――――」

 

「あれ? 依姫じゃないか。どうしたんだ一体?」

 

現れたのは永琳ではなく、月にいるはずの依姫であった。

彼女がここにいる事に、ジンは驚いていたが、当の本人はもっと驚いていた。

 

「え!? な、なんでジンがここに!?」

 

「まあ、この子の付き添いでな。竹林を抜けれる者は限られてるしな」

 

「知り合い?」

 

「ああ。昔、色々とお世話になった事があってな」

 

「くっ、迂闊だったわ・・・こんな事なら、恥ずかしくても変装しておくべきだったわ・・・・・・」

 

「もう、だから言ったじゃない。顔見知りと鉢合わせしたら、面倒事になるかも知れないって」

 

その言葉と共に、奥から眼鏡を掛けたナース服の女性が現れた。

彼女の言動から、ジンは何となくナース正体がわかった。

 

「もしかして、豊姫?」

 

「あら? バレちゃった?」

 

「いやまあ、話の流れからして、そうじゃないかと」

 

「結局、変装していても、正体がまるわかりじゃないですかお姉さま」

 

「依姫が最初から変装していれば、違う結果になっていたかも知れないじゃない」

 

「それは詭弁です!」

 

ジンとメディスンを他所に、依姫と豊姫はわいわいと、言い合いを初めてしまった。

ジンは、アリスの事もあって、直ぐ様仲裁をすることにした。

 

「ちょっと二人とも、言い合いするのは、こちらの用件を終わらせてからにしてくれないか?」

 

「用件?」

 

「森に住んでいるアリスが、風邪を引いて寝込んでいるのよ」

 

「それは大変ね。その人の種族は?」

 

「確か、魔界出身って聞いた事がある」

 

「あそこの出身か、それならこの薬が効くわよ」

 

そう言って、依姫は粉末の入った小瓶を、メディスンに差し出した。

 

「食後に服用しなさい。食前に服用すると、腹痛に苛まれるから」

 

「わかった」

 

「それとジン。私が永遠亭に出入りしている事は―――――」

 

「他言無用だろ? 何をしているか知らないけど、何か理由があっての事なんだろうし、詮索はしない」

 

「そうして貰えると助かるわ」

 

ジンの言葉を聞いて、依姫は安堵した。

ただ永淋に会いに来ただけなんて知られたら、きっと幻滅してしまうだろうし、そもそも幻想郷の連中にこの事を知られたら、弱味を見せる失態に繋がってしまう。

そう言った意味でも、今回の相手がジンで良かったと依姫は思った。

 

(次から変装しておいた方が良いかしら? でも、あまり恥ずかしいのは嫌ね。うむむむ・・・・・・)

 

そんな事で頭を悩ましている依姫を見て、豊姫はニヤニヤと笑うのであった。

 

――――――――――――――――

 

薬を無事買うことが出来、メディスンとジンはそのままアリスの家へと向かった。

 

「アリスー!お薬買って来たよー!」

 

「ありがとうメディスン。あら、ジンも来てくれたのね」

 

「メディスンから話を聞いてな。見舞いに来たついでに粥を作ってやろうと思ってな。台所使わせて貰うぞ」

 

「別に構わないけど・・・変な物は作らないでね」

 

「粥なら、変な風にはならない。むしろ、絶品粥を作ってやるよ」

 

「私も手伝う!」

 

「よし、なら一緒に作るか」

 

ジンとメディスンは、お粥を作りに一緒に台所へと向かった。

 

 

それからしばらくして、メディスンはお粥が入った土鍋を持って戻って来た。

 

「アリス、お粥出来たよ」

 

「ありがとう。あれ? ジンは?」

 

「そろそろ帰らないと、霊夢達が心配するかもって言って帰った」

 

「そう。今度何か御礼をしないといけないわね」

 

そんな事を言いながら、アリスはお粥を口にした。

 

「あら、凄く美味しいわ」

 

「でしょー♪ 一生懸命作ったのよ」

 

「ふふ、頑張ったわねメディスン。今度一緒に何か作らない? ジンの御礼を含めて」

 

「うん!」

 

メディスンは満面の笑みを浮かべて頷くのであった。

 

――――――――――――――――

 

それから数日後、アリスとメディスンは、手作りクッキーを持って、博麗神社を訪れていた。

 

「あら、アリスにメディスンじゃない。今日はどうしたの?」

 

境内で掃除をしていた霊夢に声を掛けられた。

アリスは、持っていた手作りクッキーを見せながら、事情を説明した。

 

「この前、風邪を引いた時にお世話になったから、クッキーを持って来たのよ」

 

「私とアリスの合作よ」

 

「あいつ、そんな事までしてたのね。まあ良いわ、クッキーは渡しておくけど、しばらくは食べれないかも」

 

「どうしたの?」

 

「昨日の茸鍋を食べて、運悪く毒茸に当たちゃってね・・・・・・」

 

「え? 大丈夫なの?」

 

「私達は大丈夫だったんだけど、しばらく安静にしなさいって、鈴仙に言われて、自室で寝ているわ」

 

「そう、それじゃあ日を改めて―――――」

 

「ねぇ霊夢、台所を貸してくれない?」

 

「え? 台所を?」

 

「うん、ジンにお粥を作って上げようと思って」

 

それは純粋なメディスンの好意であった。

あの人間嫌いだったメディスンが、こんな申し出するなんて、出会った当初は考えられない変化だと、二人は思った。

 

「それじゃ、皆で一緒に作って、ジンを驚かせてやらない?」

 

「そうね。きっと驚くわね彼」

 

「おもしろそう! やってみたい!」

 

メディスンはとても楽しそうに笑った。

それからジンにお粥作り、彼を大層驚かせたという。


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