細菌についていろいろと調べたら、面白い話が出ました。
それについては、後書きで書きます。
秋の半ば、段々と寒くなって来た幻想郷。
そんなある日、博麗神社では、倉の整理が行われていた。
「結構倉の中もごちゃごちゃして来たわね」
「いる物といらない物とで整理しましょう」
「先ずは、中の物を外に出すか。みんな、倉の中は暗くて、物がいっぱいあるから、足元に気をつけろよ」
「「「「はーい」」」」
手伝いに来てくれたサニー達と、小柄な針妙丸に注意をしながら、ジンもまた作業を開始する。
そんな時、こういう時にもっとも無縁な人物が、ジンにある事を聞いて来た。
「なあ、手伝う代わりに、いらない物があったら、私にくれないか?」
そう言ったのは正邪であった。彼女の性格なら、掃除の手伝いなど絶対にしないのだが、今回は彼女なりに打算があっての事である。それはというと―――――。
「倉っていうのは、色んな物が置いてあるからな。大抵はガラクタだが、中には凄いお宝が眠っているかも知れないじゃん」
それが理由であった。
彼女の言うとおり、倉の中から希少価値がある骨董品が発見される事がある。
しかし、それはごく稀にである。大抵はガラクタの場合が殆どである。だからこそ、ジンも本気にはしていなかった。
「霊夢が許可出したのなら、持って行って良いんじゃないか?」
「よっしゃあ! なんだかやる気が出たぞー!」
「ねぇ、私達も探して良い?」
今度は、手伝いに来ていたサニー達が期待の眼差しで、ジンに尋ねて来た。
正邪に許可を出したので、サニー達にも同じ条件で、許可を出してあげた。
“どうせガラクタしかない” その時のジンはそう思っていた。だが、この倉には、お宝以上の物が眠っている事を、ジンは知らなかった。
――――――――――――――――
倉の整理は順調に進んでいた。
残念ながら、正邪の思惑通りには行かず、殆どの物がガラクタか、二束三文程度の価値しかない骨董品ばかりである。
「あーくそ、これじゃあ、ただ働きだ。何か無いのかよ・・・・・・」
ぶつぶつ呟きながら、作業を続ける。すると、ある小さな箱を見つける。
「ん? なんだこれ?」
興味を持った正邪は、箱を開けてみる。中には、丸い綿毛のような物が収まっていた。
「えーと・・・毛玉?」
正邪は首を傾げながら、その綿毛を手に取ろうした瞬間、綿毛から電気のような衝撃が走った。
「痛っ! あっ、こら!」
綿毛は正邪の手から逃れると、そのまま倉の外へと逃げて行った。
正邪は綿毛の後を追って外に出ると、その綿毛は霊夢に引っ付いていたのである。
「な、なによこれ? あーもう! 離れなさいよ!」
霊夢が腕や手を使って、綿毛を取ろうとするが、手で振り払おうと、腕を振っても、綿毛は彼女から離れようとしなかった。
「何なのよこれ!? ちょっと妖狐、これ取ってくれない?」
「は、はい、今―――ひぎゃあ!?」
妖狐が綿毛に触れた瞬間、正邪と同様の衝撃が流れた。
「妖狐!?」
「だ、大丈夫です・・・ちょっとビリッと来ただけです・・・・・・」
「そっか。それにしても、これ一体何なのかしら?」
「さあ? 木箱に入っていたぞ」
「正邪? それに木箱って・・・・・」
「おーい、一体どうした?」
騒ぎを聞いて、ジン達も倉から出て来た。
一通りの事情を聞いたジンは、霊夢に引っ付いている綿毛をマジマジと観察していた。
「なんだろうなこれ?」
「知らないわよそんなの、それよりもどうにかならない?」
「触れるとビリッと来るんだろ? それじゃあ迂闊に触れないな。木箱には何か無いのか?」
「何か、紙切れが一枚入っているだけだ」
そう言って正邪は、一枚の紙を取り出した。
「それを見せてくれ」
「はいよ」
正邪は紙をジンに渡した。ジンはそれを受け取り、広げてみる。中には説明文が書かれていた。
「なになに、“これは狐の玉と呼ばれる物で、江戸時代に流行った縁起物である。
狐の妖力そのもので出来ており、この玉を所持していると、狐の変化を見破れる”って書かれているな」
「それってメチャクチャ貴重品じゃない!」
「お、おい! 私が見つけたんだから、私の物だ! そういう約束だろ!」
「それはあくまで、“いらない物で、私が許可を出した場合”でしょ? 第一、あんたじゃあ触れないでしょ?」
「ぐぬぬっ・・・・・・」
霊夢は勝ち誇った笑みを浮かべ、正邪は真底悔しそうにしていた。
そんな中、妖狐だけが首を傾げていた。
「どうしたの妖狐?」
「ああいえ、狐の玉を初めて見たので・・・・・・」
「え? それってどういう事?」
「実はですね――――――」
妖狐の話によると、確かに狐の玉は存在するが、説明書きに書かれているような大層な物では無く、あくまで教材用との事。
更に、修行用の施設が出来た事から、今では作られていないのである。
「それじゃあ、この狐の玉は、江戸時代の物って事?」
「いえ、それから狐の妖力は感じないので、まったく別の物だと思いますよ」
「え? それじゃあこれは偽物なの?」
「少なくとも、狐の玉では無いと思います」
「なーんだ・・・・・・」
妖狐の話を聞いて、正邪はガックリと肩を落とす。
この毛玉が、狐の玉では無いと分かったが、一つの謎が浮かび上がった。
「じゃあ、この毛玉は一体何?」
針妙丸が残された謎を口にした。
狐の玉ではないのなら、これは一体何なのか?
こうして、謎の毛玉の調査が始まった。
――――――――――――――――
それから数日後、霊夢達は様々な者に協力してもらいながら、毛玉の正体について調査をし続けた。
その結果、ある生物だと判明したのである。それは―――――。
「これは恐らく、“ケセランパセラン”ですね」
そう言ったのは、調査に協力してくれた早苗であった。そしてその続きを、秘封倶楽部会長の菫子が言う。
「私の調べによると、ケセランパセランっていうのは未確認生物の一種らしいのよ。
持ち主に幸せを呼び寄せる事から、縁起物として重宝されているわ」
「幸せを呼び寄せるのね・・・まるでどっかの兎みたいね」
「その兎よりも、良いものだと思いますよ。あっちは長続きしませんから」
「それに、やり方次第では、ケセランパセランは増やせるから」
「え!? 増やせるの!?」
「ええ、もの凄い簡単な方法でね」
菫子の話を聞いた霊夢は、ある事を思いつき、彼女にその方法について尋ねた。
「・・・ねぇ、その方法を教えてくれない? それなりの御礼はするから」
その言葉を聞いた菫子は、にんまりと笑いながら答えた。
「良いわよ。ただし、もし成功したら、私にも分けてくれない?」
「あっ、私も欲しいです! 私だって調査に協力したんですから!」
「はいはい、上手く増やせたら、ちゃんと分けて上げるって」
こうして霊夢は、ケセランパセランの増殖方法を教えて貰い、実行に移すのであった。
――――――――――――――――
それから更に数日後。博麗神社では、ある催し物が行われていた。
「なになに、“幸せを呼ぶケセランパセラン、展示中”・・・・・・なにこれ?」
鳥居に掛けられた看板を見て、思わず首を傾げる華仙。そして神社の境内に目をやると、参拝客で溢れていた。
「一体何を展示しているのかしら?」
興味を抱いた華仙は、境内に足を踏み入れる。すると、見知った顔と出会う。
「ん? 華仙じゃないか、お前もケセランパセラン目当てか?」
「こんにちは魔理沙。ところで、ケセラ何とかって?」
「ケセランパセランだ。お前何も知らないのか? 結構話題になっているぜ?」
「悪かったわね知らなくて。それで、そのケセランパセランって何?」
「ああ、持っているだけで、幸せを呼ぶ幸運の生き物だぜ」
そう言って、魔理沙が自慢気に持っていたビンの中身を見せる。
中にはケセランパセランが一匹、ふよふよと浮いていた。
「え? それがケセランパセラン?」
「ああ。一見ただの綿毛だが、霊気を帯びているだろ?」
「・・・ええ、そうね。ただの綿毛なら、霊気なんて帯びないし、本当に本物なの?」
「ああ、それは本物だ」
そう言って現れたのはジンであった。
ジンは、華仙に今の神社の現状を説明した。
「霊夢がケセランパセランの増殖に成功してな、こうして販売しているんだよ」
「え? それって増やせる物なの?」
「実際に増えたんだからな。早苗や菫子の話によると、ケセランパセランは菌の一種みたいで、環境を整えれば増えるらしい」
「菌っ・・・本当に御利益があるのかしら?」
「詳しい事は分からないが、参拝客を見てれば何となく分かると思う。みんな、本当に幸せそうにしているだろ?」
そう言って、ジンは参拝客の方に視線を向けた。
参拝に来ている殆どの人達が、とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「本当だ・・・・・・」
「だからきっと、御利益はあるんだと思うな」
「ちょっとジン! いつまで油売っているのよ! 忙しいんだから、早く手伝いなさい!」
「ああ分かった! 霊夢に呼ばれたからもう行く。それじゃあ」
ジンはそう別けれを告げ、霊夢の元へと行ってしまった。
「幸せを呼ぶねぇ・・・ちょっと見てみようかしら」
「私はここいらで失礼するぜ。このケセランパセランを増やして、私も一儲けするからな」
そう言って、魔理沙は神社を後にした。
残された華仙は、展示されているケセランパセランを見に行った。
「・・・・・・なるほど、確かにこれは本物ね」
華仙は満足そうに笑みを浮かべた。その姿は、とても幸せそうに見えた。
――――――――――――――――
ここは永遠亭にある輝夜の部屋。彼女は部屋で、数日前に購入したケセランパセランを眺めていたのだが――――。
「むー、おしろを入れたのに、どうして増えないのよー?」
彼女はとても不満そうにしていた。
輝夜もまた、ケセランパセランを増やそうと考えたのだが、どうにも上手く行かず、こうしてにらめっこをしているのである。
「うーん・・・一体何足りないんだろう?」
「それは、“幸せ与える人”がいないからだよ」
そう言って部屋に入って来たのは、幸運の白兎と呼ばれるてゐであった。
「てゐ? 貴女何か知ってるの?」
「まあ、知ってるよ。知ったとしても、姫様ではそれを増やす事は出来ないけど」
「どういう事?」
「ケセランパセランというのは、実は神様の一種なんだよね。
古来より、菌は神様と見なされていた。
そして、ケセランパセランだけは信仰を失っていない唯一の菌の神様。だからこそ、幸せを呼ぶ力が未だに健在なんだよ」
「それは分かったけど、それが増やせないのと何の関係が?」
「ケセランパセランが神様っていう事なら、神様が一番力を発揮させる場所は?」
「あっ、分かった! 神社ね!」
「正解。神様を祀る神社なら、ケセランパセランの力を増幅させる事が出来る。でもね、それだけじゃあ駄目。一番必要な物が足りない」
「一番必要な物って?」
「それはね、“幸せを分け与える事が出来る人” それがケセランパセランにとって、一番の信仰なんだよ」
「それって、もしかしてジンの事?」
輝夜のその言葉に、てゐは微笑んだ。
「幸運は一時的な物だけど、幸せっていうのは、人の内から出てくる物。それを長続き出来るかどうかは、その人次第。
独占的な人からは、幸せは逃げてしまうけど、分け与える事が出来る人には、幸せに包まれる。ケセランパセランは、そういう人の優しさと幸せの心によって、増殖するんだ。まさに、“幸せのお裾分け”だね」
てゐの話を聞いて、輝夜は納得した。
どんなに豪華な豪邸を建てても、自分以外誰も居なければ、とても寂しく感じるであろう。
逆にボロ屋敷であっても、自分以外の人と一緒に住み、毎日騒がしくも楽しい日々を過ごせれば、それはとても幸せな日々ではないだろうか?
一人より二人、二人より三人、人と人の繋がり――――縁によって、幸せは形成されるのだろうと、輝夜は思った。
「なるほど、確かに、ジンにピッタリな言葉ね。私も誰かに、お裾分けしようかしら?」
「じゃあ先ずは私から――――」
「よし、先ずは永琳からしよう! いつも世話になってるし。
何か喜ぶ物は無いかしら?」
「ちょっと姫様ー、それは無いんじゃないかなー」
「冗談よ、ちゃんとてゐの分まで用意してあげるから。もちろん、鈴仙の分もね♪」
「やったー♪ 姫様大好きー♪」
そう言って、てゐは輝夜に抱きつくのであった。
その日の夜、永遠亭はいつも以上に穏やかで、幸せな空気が流れた。
細菌があるのと無いので、世界はがらりと変わります。
まず発酵食品は出来ませんし、ペニシリンも出来ません、そしてキノコも存在しません。下手すれば、地球の生態系ががらりと変わると思います。いえ、そもそも私たち人類、ひいては地球上の生物は生まれなかったと思います。
それだけに、菌と私たちは切っても切れない存在なのです。
茨歌仙の中でも、菌は神様とされていると書かれていましたが、あながち間違いではないと思います。