東方軌跡録   作:1103

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 今回は、茨歌仙のケセランパセランが出る話しです。
細菌についていろいろと調べたら、面白い話が出ました。
それについては、後書きで書きます。



幸せのお裾分け

秋の半ば、段々と寒くなって来た幻想郷。

そんなある日、博麗神社では、倉の整理が行われていた。

 

「結構倉の中もごちゃごちゃして来たわね」

 

「いる物といらない物とで整理しましょう」

 

「先ずは、中の物を外に出すか。みんな、倉の中は暗くて、物がいっぱいあるから、足元に気をつけろよ」

 

「「「「はーい」」」」

 

手伝いに来てくれたサニー達と、小柄な針妙丸に注意をしながら、ジンもまた作業を開始する。

そんな時、こういう時にもっとも無縁な人物が、ジンにある事を聞いて来た。

 

「なあ、手伝う代わりに、いらない物があったら、私にくれないか?」

 

そう言ったのは正邪であった。彼女の性格なら、掃除の手伝いなど絶対にしないのだが、今回は彼女なりに打算があっての事である。それはというと―――――。

 

「倉っていうのは、色んな物が置いてあるからな。大抵はガラクタだが、中には凄いお宝が眠っているかも知れないじゃん」

 

それが理由であった。

彼女の言うとおり、倉の中から希少価値がある骨董品が発見される事がある。

しかし、それはごく稀にである。大抵はガラクタの場合が殆どである。だからこそ、ジンも本気にはしていなかった。

 

「霊夢が許可出したのなら、持って行って良いんじゃないか?」

 

「よっしゃあ! なんだかやる気が出たぞー!」

 

「ねぇ、私達も探して良い?」

 

今度は、手伝いに来ていたサニー達が期待の眼差しで、ジンに尋ねて来た。

正邪に許可を出したので、サニー達にも同じ条件で、許可を出してあげた。

 

“どうせガラクタしかない” その時のジンはそう思っていた。だが、この倉には、お宝以上の物が眠っている事を、ジンは知らなかった。

 

――――――――――――――――

 

倉の整理は順調に進んでいた。

残念ながら、正邪の思惑通りには行かず、殆どの物がガラクタか、二束三文程度の価値しかない骨董品ばかりである。

 

「あーくそ、これじゃあ、ただ働きだ。何か無いのかよ・・・・・・」

 

ぶつぶつ呟きながら、作業を続ける。すると、ある小さな箱を見つける。

 

「ん? なんだこれ?」

 

興味を持った正邪は、箱を開けてみる。中には、丸い綿毛のような物が収まっていた。

 

「えーと・・・毛玉?」

 

正邪は首を傾げながら、その綿毛を手に取ろうした瞬間、綿毛から電気のような衝撃が走った。

 

「痛っ! あっ、こら!」

 

綿毛は正邪の手から逃れると、そのまま倉の外へと逃げて行った。

正邪は綿毛の後を追って外に出ると、その綿毛は霊夢に引っ付いていたのである。

 

「な、なによこれ? あーもう! 離れなさいよ!」

 

霊夢が腕や手を使って、綿毛を取ろうとするが、手で振り払おうと、腕を振っても、綿毛は彼女から離れようとしなかった。

 

「何なのよこれ!? ちょっと妖狐、これ取ってくれない?」

 

「は、はい、今―――ひぎゃあ!?」

 

妖狐が綿毛に触れた瞬間、正邪と同様の衝撃が流れた。

 

「妖狐!?」

 

「だ、大丈夫です・・・ちょっとビリッと来ただけです・・・・・・」

 

「そっか。それにしても、これ一体何なのかしら?」

 

「さあ? 木箱に入っていたぞ」

 

「正邪? それに木箱って・・・・・」

 

「おーい、一体どうした?」

 

騒ぎを聞いて、ジン達も倉から出て来た。

 

 

一通りの事情を聞いたジンは、霊夢に引っ付いている綿毛をマジマジと観察していた。

 

「なんだろうなこれ?」

 

「知らないわよそんなの、それよりもどうにかならない?」

 

「触れるとビリッと来るんだろ? それじゃあ迂闊に触れないな。木箱には何か無いのか?」

 

「何か、紙切れが一枚入っているだけだ」

 

そう言って正邪は、一枚の紙を取り出した。

 

「それを見せてくれ」

 

「はいよ」

 

正邪は紙をジンに渡した。ジンはそれを受け取り、広げてみる。中には説明文が書かれていた。

 

「なになに、“これは狐の玉と呼ばれる物で、江戸時代に流行った縁起物である。

狐の妖力そのもので出来ており、この玉を所持していると、狐の変化を見破れる”って書かれているな」

 

「それってメチャクチャ貴重品じゃない!」

 

「お、おい! 私が見つけたんだから、私の物だ! そういう約束だろ!」

 

「それはあくまで、“いらない物で、私が許可を出した場合”でしょ? 第一、あんたじゃあ触れないでしょ?」

 

「ぐぬぬっ・・・・・・」

 

霊夢は勝ち誇った笑みを浮かべ、正邪は真底悔しそうにしていた。

そんな中、妖狐だけが首を傾げていた。

 

「どうしたの妖狐?」

 

「ああいえ、狐の玉を初めて見たので・・・・・・」

 

「え? それってどういう事?」

 

「実はですね――――――」

 

妖狐の話によると、確かに狐の玉は存在するが、説明書きに書かれているような大層な物では無く、あくまで教材用との事。

更に、修行用の施設が出来た事から、今では作られていないのである。

 

「それじゃあ、この狐の玉は、江戸時代の物って事?」

 

「いえ、それから狐の妖力は感じないので、まったく別の物だと思いますよ」

 

「え? それじゃあこれは偽物なの?」

 

「少なくとも、狐の玉では無いと思います」

 

「なーんだ・・・・・・」

 

妖狐の話を聞いて、正邪はガックリと肩を落とす。

この毛玉が、狐の玉では無いと分かったが、一つの謎が浮かび上がった。

 

「じゃあ、この毛玉は一体何?」

 

針妙丸が残された謎を口にした。

狐の玉ではないのなら、これは一体何なのか?

こうして、謎の毛玉の調査が始まった。

 

――――――――――――――――

 

それから数日後、霊夢達は様々な者に協力してもらいながら、毛玉の正体について調査をし続けた。

その結果、ある生物だと判明したのである。それは―――――。

 

「これは恐らく、“ケセランパセラン”ですね」

 

そう言ったのは、調査に協力してくれた早苗であった。そしてその続きを、秘封倶楽部会長の菫子が言う。

 

「私の調べによると、ケセランパセランっていうのは未確認生物の一種らしいのよ。

持ち主に幸せを呼び寄せる事から、縁起物として重宝されているわ」

 

「幸せを呼び寄せるのね・・・まるでどっかの兎みたいね」

 

「その兎よりも、良いものだと思いますよ。あっちは長続きしませんから」

 

「それに、やり方次第では、ケセランパセランは増やせるから」

 

「え!? 増やせるの!?」

 

「ええ、もの凄い簡単な方法でね」

 

菫子の話を聞いた霊夢は、ある事を思いつき、彼女にその方法について尋ねた。

 

「・・・ねぇ、その方法を教えてくれない? それなりの御礼はするから」

 

その言葉を聞いた菫子は、にんまりと笑いながら答えた。

 

「良いわよ。ただし、もし成功したら、私にも分けてくれない?」

 

「あっ、私も欲しいです! 私だって調査に協力したんですから!」

 

「はいはい、上手く増やせたら、ちゃんと分けて上げるって」

 

こうして霊夢は、ケセランパセランの増殖方法を教えて貰い、実行に移すのであった。

 

――――――――――――――――

 

それから更に数日後。博麗神社では、ある催し物が行われていた。

 

「なになに、“幸せを呼ぶケセランパセラン、展示中”・・・・・・なにこれ?」

 

鳥居に掛けられた看板を見て、思わず首を傾げる華仙。そして神社の境内に目をやると、参拝客で溢れていた。

 

「一体何を展示しているのかしら?」

 

興味を抱いた華仙は、境内に足を踏み入れる。すると、見知った顔と出会う。

 

「ん? 華仙じゃないか、お前もケセランパセラン目当てか?」

 

「こんにちは魔理沙。ところで、ケセラ何とかって?」

 

「ケセランパセランだ。お前何も知らないのか? 結構話題になっているぜ?」

 

「悪かったわね知らなくて。それで、そのケセランパセランって何?」

 

「ああ、持っているだけで、幸せを呼ぶ幸運の生き物だぜ」

 

そう言って、魔理沙が自慢気に持っていたビンの中身を見せる。

中にはケセランパセランが一匹、ふよふよと浮いていた。

 

「え? それがケセランパセラン?」

 

「ああ。一見ただの綿毛だが、霊気を帯びているだろ?」

 

「・・・ええ、そうね。ただの綿毛なら、霊気なんて帯びないし、本当に本物なの?」

 

「ああ、それは本物だ」

 

そう言って現れたのはジンであった。

ジンは、華仙に今の神社の現状を説明した。

 

「霊夢がケセランパセランの増殖に成功してな、こうして販売しているんだよ」

 

「え? それって増やせる物なの?」

 

「実際に増えたんだからな。早苗や菫子の話によると、ケセランパセランは菌の一種みたいで、環境を整えれば増えるらしい」

 

「菌っ・・・本当に御利益があるのかしら?」

 

「詳しい事は分からないが、参拝客を見てれば何となく分かると思う。みんな、本当に幸せそうにしているだろ?」

 

そう言って、ジンは参拝客の方に視線を向けた。

参拝に来ている殆どの人達が、とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

「本当だ・・・・・・」

 

「だからきっと、御利益はあるんだと思うな」

 

「ちょっとジン! いつまで油売っているのよ! 忙しいんだから、早く手伝いなさい!」

 

「ああ分かった! 霊夢に呼ばれたからもう行く。それじゃあ」

 

ジンはそう別けれを告げ、霊夢の元へと行ってしまった。

 

「幸せを呼ぶねぇ・・・ちょっと見てみようかしら」

 

「私はここいらで失礼するぜ。このケセランパセランを増やして、私も一儲けするからな」

 

そう言って、魔理沙は神社を後にした。

残された華仙は、展示されているケセランパセランを見に行った。

 

「・・・・・・なるほど、確かにこれは本物ね」

 

華仙は満足そうに笑みを浮かべた。その姿は、とても幸せそうに見えた。

 

――――――――――――――――

 

ここは永遠亭にある輝夜の部屋。彼女は部屋で、数日前に購入したケセランパセランを眺めていたのだが――――。

 

「むー、おしろを入れたのに、どうして増えないのよー?」

 

彼女はとても不満そうにしていた。

輝夜もまた、ケセランパセランを増やそうと考えたのだが、どうにも上手く行かず、こうしてにらめっこをしているのである。

 

「うーん・・・一体何足りないんだろう?」

 

「それは、“幸せ与える人”がいないからだよ」

 

そう言って部屋に入って来たのは、幸運の白兎と呼ばれるてゐであった。

 

「てゐ? 貴女何か知ってるの?」

 

「まあ、知ってるよ。知ったとしても、姫様ではそれを増やす事は出来ないけど」

 

「どういう事?」

 

「ケセランパセランというのは、実は神様の一種なんだよね。

古来より、菌は神様と見なされていた。

そして、ケセランパセランだけは信仰を失っていない唯一の菌の神様。だからこそ、幸せを呼ぶ力が未だに健在なんだよ」

 

「それは分かったけど、それが増やせないのと何の関係が?」

 

「ケセランパセランが神様っていう事なら、神様が一番力を発揮させる場所は?」

 

「あっ、分かった! 神社ね!」

 

「正解。神様を祀る神社なら、ケセランパセランの力を増幅させる事が出来る。でもね、それだけじゃあ駄目。一番必要な物が足りない」

 

「一番必要な物って?」

 

「それはね、“幸せを分け与える事が出来る人” それがケセランパセランにとって、一番の信仰なんだよ」

 

「それって、もしかしてジンの事?」

 

輝夜のその言葉に、てゐは微笑んだ。

 

「幸運は一時的な物だけど、幸せっていうのは、人の内から出てくる物。それを長続き出来るかどうかは、その人次第。

独占的な人からは、幸せは逃げてしまうけど、分け与える事が出来る人には、幸せに包まれる。ケセランパセランは、そういう人の優しさと幸せの心によって、増殖するんだ。まさに、“幸せのお裾分け”だね」

 

てゐの話を聞いて、輝夜は納得した。

どんなに豪華な豪邸を建てても、自分以外誰も居なければ、とても寂しく感じるであろう。

逆にボロ屋敷であっても、自分以外の人と一緒に住み、毎日騒がしくも楽しい日々を過ごせれば、それはとても幸せな日々ではないだろうか?

一人より二人、二人より三人、人と人の繋がり――――縁によって、幸せは形成されるのだろうと、輝夜は思った。

 

「なるほど、確かに、ジンにピッタリな言葉ね。私も誰かに、お裾分けしようかしら?」

 

「じゃあ先ずは私から――――」

 

「よし、先ずは永琳からしよう! いつも世話になってるし。

何か喜ぶ物は無いかしら?」

 

「ちょっと姫様ー、それは無いんじゃないかなー」

 

「冗談よ、ちゃんとてゐの分まで用意してあげるから。もちろん、鈴仙の分もね♪」

 

「やったー♪ 姫様大好きー♪」

 

そう言って、てゐは輝夜に抱きつくのであった。

その日の夜、永遠亭はいつも以上に穏やかで、幸せな空気が流れた。




 細菌があるのと無いので、世界はがらりと変わります。
まず発酵食品は出来ませんし、ペニシリンも出来ません、そしてキノコも存在しません。下手すれば、地球の生態系ががらりと変わると思います。いえ、そもそも私たち人類、ひいては地球上の生物は生まれなかったと思います。
 それだけに、菌と私たちは切っても切れない存在なのです。
茨歌仙の中でも、菌は神様とされていると書かれていましたが、あながち間違いではないと思います。

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