彼女の種族を考えると、話を組み上げるのは中々難しかったですが、一通り書けました。
彼女も、わりと好きなキャラなので、出番を増やせればいいなと思っています。
ここは霧の湖のほとり。そこで、影狼、蛮奇、わかさぎ姫の三人が、最近の出来事について雑談をしていた。
「――――――ってな事が人里であってね」
「この前、プリズムリバーのコンサートに―――――」
人里の出来事について話す蛮奇と影狼。
二人の話を聞いていたわかさぎ姫は、こんなことを呟いた。
「あーあ、私も人里に遊びに行きたいなー」
彼女のその言葉を聞いて、影狼と蛮奇はきょとんとした。
「遊びにって・・・・・・魚の貴女がどうやって人里に行くのよ?」
「魚じゃなくて人魚! それは分かっているけど、二人の話を聞いたら、興味を持っちゃったのよ。ねぇ、何か方法は無いかしら?」
わかさぎのこの願いに、二人はあれこれ考え始めた。
「大きな水槽を持って来て、その中には入るとか?」
「それじゃあ、私が見せ物じゃない!」
「そもそも、誰が持ち運ぶのよ? 言っておくけど、私は非力だからね」
「うーん・・・いい方法だと思ったんだけど・・・・・・」
「もうちょっと現実的に考えなさいよ」
「むっ、じゃあ蛮奇は何か思いついたの?」
影狼のその指摘に、何故か蛮奇は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「まあその・・・確実では無いけど、影狼よりは現実的な方法がある」
「え!?」
「なになに! その方法って!?」
二人は食い付くように、蛮奇に尋ねた。
彼女は意を決して、自分の考えを二人に伝える。
「・・・ま、魔法使いにお願いする事よ・・・・・・」
声を振り絞って言う蛮奇。
こんな御伽話しみたいな方法を言えば笑われる。彼女はそう思っていた。しかし―――――。
「あ、なるほど、それいいアイディアね」
「さっすが蛮奇、頼りになるわ」
「そ、それほどでも・・・・・・」
これはこれで恥ずかしいなと思う蛮奇であった。
「でもさぁ、そう簡単にお願い出来るかな? 魔法使いって、気難しい奴等ばかり何でしょ?」
「気難しいというか、タダではやってくれないと思う。何でも、等価交換を原則にしている連中だから」
「うーん・・・お料理を御馳走するとか?」
「いやいや、そんな事でやってはくれないでしょ」
「むしろ、この場合の対価は、わかさぎ自身だと思う」
「私自身?」
「人魚の肉を食らえば不老不死になるらしいじゃん。もしそれが本当なら、魔法使いにとっては、この上無い取引材料じゃない?」
蛮奇のその言葉に、わかさぎ姫の顔が青ざめる。
「わ、私食べられちゃうの!?」
「こら蛮奇! わかさぎを怖がらすんじゃない!」
影狼は、蛮奇の頭を叩き落とす。
蛮奇は落ちた自分の頭を拾い上げ、定位置に戻しながら言う。
「冗談だって。でも、本当にやるなら、それぐらい価値のある物を用意しないと、門前払いされるって事」
「そうは言っても・・・・・・」
「何も無いからねぇ・・・・・・」
わかさぎ姫と影狼は、深いため息をついた。
そんな時、一人の人物がこの場に現れた。
「あれ? わかさぎに影狼、それに蛮奇じゃないか」
現れたのはジンであった。
手に持っている本を見るに、どうやら紅魔館の地下図書館に、本を返しに行く途中らしい。
そんな彼の姿を見て、影狼は思いつく。
「そうだ! ねぇジン、貴方は顔が広いのよね?」
「ん? まあそれなりには」
「だったら―――――」
影狼は、これまでの経緯を、ジンに説明した。
「―――――ってな訳なのよ。協力してくれない?」
「なるほど分かった。そう理由なら、力を貸そう」
「やった♪」
「そんなあっさり受けていいの? 貴方が得する事なんて、一つも無いんだよ?」
蛮奇のその言葉に、ジンは当たり前の事のように言った。
「困っている者を助けるのは当たり前だろ? それが知人なら尚更だ」
「・・・・・・お人好し」
蛮奇は誰にも聞こえないように、小さく呟いた。
「とりあえず、わかさぎが地上で活動できる魔法が無いか、パチュリーに尋ねてみる」
「お願いねー」
「期待しているよジン」
ジンは三人に見送られながら、紅魔館へと向かって行った。
――――――――――――――――
それからしばらくすると、ジンはパチュリーを連れて戻って来た。
「話を聞かせて貰ったわ。貴女がジンが言っていた人魚ね」
「は、はい!」
「なるほど、これは興味深いわね」
パチュリーは舐めるような視線で、わかさぎ姫を観察していた。
一方わかさぎ姫は、ビクビクとただ怯えていた。
「パチュリー、あまり彼女を怖がらせないでくれ」
ジンの注意に、パチュリーは、はっと我に帰る。
「ごめんなさい、人魚を初めて見たからつい。」
「あ、あの・・・やっぱ対価は私の身体何でしょうか?」
恐る恐る尋ねるわかさぎに対して、パチュリーはくすりと笑いながら答えた。
「そうよ、と言いたいところだけど、今回はジンの頼みだから、特別無対価でやってあげるわ」
「え?」
「あれ? 魔法使いって、等価交換が原則じゃあ―――――」
「普通ならね。でも、こっちはそれなりにジンに世話になったから、今回はそれの御返し。だから、特別貴女達から取り立てる事はしないわ」
その言葉を聞いて、安堵する三人。だが、パチュリーは三人に対して、しっかり釘を刺す。
「言っておくけど、今回はジンの頼みだからこそやるだけで、貴女達だけだった場合は、容赦なく取り立てるつもりだから、その辺は勘違いしないで頂戴」
「「「は、はい・・・・・・」」」
「さて、今回使う魔法は、“人化の魔法”と呼ばれる物で、かつて人魚が人間と結ばれる為に考案した魔法なのよ。これを使えば、尾ヒレを人間の足に変える事が出来るわ。
ただし、完全に解析出来ていないから、数時間の効果しかないけど、それでも十分よね?」
「はい! 人里に遊びに行きたいだけなので」
「それじゃあ、改めて始めるわよ。覚悟は良い?」
パチュリーの言葉に、わかさぎ姫はしっかりと頷いた。それを確認したパチュリーは、呪文を詠唱はする。
「――――――、――――、―――――」
普通の言語とは異なる言語を用いて、呪文を詠唱するパチュリー。
すると、わかさぎ姫が光に包まれる。
「わっ! わっ! わっ!」
驚きの声を上げるわかさぎ姫であったが、パチュリーはそれを無視して、詠唱を続けた。
「――――、――――、――――――!」
詠唱が終わった瞬間、わかさぎ姫を包んだ光が弾けとんだ。それと同時に―――――。
ドボン。
―――――という音と共に、わかさぎ姫が湖に沈んだ。
「「「・・・・・・は?」」」
「え?」
予想外の事に、見守っていたジン達も、魔法を掛けたパチュリーも唖然となった。
だが、パチュリーは直ぐ様ある事に気がつく。
「しまった・・・人魚である彼女が、いきなり尾ヒレを失ったら―――――」
「泳げない!」
そう彼女は、わかさぎ姫が湖の中にいる状態で魔法を掛けてしまった。そんな状態で尾ヒレを人間の足に変えてしまえば、どんなに泳ぎが得意な人魚でも、溺れてしまうであろう。
それを理解したジンは、急いで湖に潜った。
ジンの迅速な行動によって、わかさぎ姫は無事救出された。
「はぁ、はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った・・・・・・」
「人魚が溺死なんて、洒落にならないぞ・・・・・・」
「迂闊だったわ、ごめんなさい」
「まあ、何とかなった訳だし、次気をつければ良いさ」
ジンはそう言って立ち上がり、わかさぎ姫に手を差し伸べた。
「立てるかわかさぎ?」
「え? あっ・・・・・・」
わかさぎ姫はようやく、自分に“足”がある事に気がつく。
彼女は、恐る恐るジンの手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。
「立った! わかさぎが立った!」
「それネタ?」
影狼の言葉に、思わず突っ込みを入れる蛮奇。
そんな二人をよそに、わかさぎ姫は、自分が大地に立ってる事に感激していた。
「これが“立つ”って事なのね。
ふふっ♪ なんだか不思議な気分」
わかさぎ姫は試しに歩いてみる。一歩二歩と、大地をゆっくり踏み締める度に、彼女は躍動感を感じ、思わずスキップをしてしまう。すると――――――。
「わととっ!」
「危ない!」
スキップをしようとして、転びそうになるわかさぎ姫を、ジンは直ぐ様支える。
「大丈夫かわかさぎ?」
「え、ええ、ありがとうジン」
「まだ歩き慣れていないみたいね。もう少し、歩く練習をしないといけないわね。その前に―――――」
パチュリーが指先を振ると、わかさぎ姫の足元に立派なゲタが現れた。
「サービスよ。裸足で歩くのは辛いと思うから、それを履きなさい」
「あ、ありがとうございます」
わかさぎ姫のそう礼を言いながら、パチュリーが用意してくれたゲタを履いた。
ゲタは、わかさぎ姫の足に、ピタリと填まった。
「これがゲタなのね」
わかさぎ姫は、未知なる感覚に、またはしゃぎそうになった。
それからしばらく彼女は、湖の周辺で歩く練習をするのであった。
――――――――――――――――
一通りの歩く練習を終えたわかさぎ姫は、遂に人里へ赴いた。
「わー、人がいっぱい! 人里なのね」
初めて見る里の様子に、わかさぎ姫は興奮していた。その後ろでは、ジン、影狼、ジンの三人が控えていた。
「そんなにはしゃいでいると、また転ぶぞ」
「大丈夫、大丈――――あっ!」
わかさぎ姫は足を躓き転んでしまった。
ジンはやれやれと呟きながら、わかさぎ姫を助け起こす。
「言ってる側からもう・・・・・・」
「ご、ごめん・・・・・・」
「まだ歩き慣れていないんだから、ゆっくり歩けば良いさ」
「う、うん」
ジンにそう言われ、わかさぎ姫は頷いて答えた。
そんな二人の様子を見ていた影狼と蛮奇は、何故かヒソヒソと話していた。
「ねぇ蛮奇、もしかして私達空気?」
「空気というか、おじゃま虫的な物になっていると思う」
「やっぱり? なんだか居づらい感じがする」
「ふむ・・・ならこうしょう」
蛮奇は何か悪巧みを思いつき、ジンとわかさぎ姫にこう言った。
「悪いけど、私達これから用事があって。今日は二人で人里を回って頂戴」
「え?」
「蛮奇?」
「ほら、 行くよ影狼」
「え? あっ、ちょっと!?」
蛮奇は影狼の手を引いて、何処かへと行ってしまった。
残されたジンとわかさぎ姫は、ただ呆然としていた。
「ど、どうしょう?」
「・・・まあせっかくだし、二人で回るか。人里にも色々あるから、案内するよ」
「あ、ありがとうジン」
こうしてジンとわかさぎ姫の二人だけで、人里を見て回る事になった。
――――――――――――――――
二人は最初に訪れたのは、いつもジンが利用している鈴奈庵を案内していた。
「ここが鈴奈庵だ。いろんな本があって、外来本とかもあるぞ」
「へー、人里にはこんな店があるのね」
「いらっしゃ―――あっ、ジンさん、それに―――――」
「あっ、初めまして、わかさぎと申します。以後お見知りおきを」
「あ、はい、御丁寧にどうも、私はここの一人娘の小鈴です」
互いに自己紹介を済ませた二人。
小鈴はわかさぎ姫に、店の説明をする。
「―――――という感じです。何か質問がありますか?」
「大体わかったわ。でも、、私は借りれないわね・・・・・・」
「え? どういう事ですか?」
「私、湖に住んでいるから」
「え?」
「私、人魚なのよ」
わかさぎ姫は、自分の事情を小鈴に説明した。
「なるほど、パチェリーさんの魔法で、人間の足を貰ったんですね。でも、大丈夫なんですか?」
「ん? 何が?」
「童話の話によると、人魚は尾を人間の足に変える薬を飲んでしまうと、様々な代償を負うらしいんです」
「もしかして、“人魚姫”の話しか?」
ジンの言葉に、小鈴は頷いて答えた。
一方わかさぎ姫は、書物に関しては疎く、二人が何の話をしているのか分からない様子であった。
そこでジンは、人魚姫のあらすじを話すと―――――。
「酷い! あんまりよ!」
予想通りの反応を示した。
やはり、同族の悲劇な話しは、精神的に堪えたのであろう。
「助けて上げたのに、まったく気づきもせずに、あろう事に、別の娘と結婚したなんて・・・その王子死ねば良いのに! いえ、寧ろ殺すべきよ!」
「ちょ! 落ちていてわかさぎさん!」
「そうだ! これはあくまで童話、フィクションなんだよ!」
「そうだとしてもあんまりよ・・・人魚姫が可愛そう・・・・・・」
そして更には泣き出してしまった。同じ人魚として、感情移入をしてしまったのであろう。
このままだと収まりがつかないので、ジンはある提案した。
「それなら、人魚姫のアニメ映画を見るか?」
「え? 映画?」
「ああ、外の世界に有名な会社が、リメイクした映画があるんだ。原作と違って、ハッピーエンドで終わるから、見て損はないと思うぞ」
「行きましょう! 直ぐに観に行きましょう!」
「あっ、ちょっと! 待てってわかさぎ!」
わかさぎ姫はジンの手を引き、映画が上映されている広場へと向かって行った。
――――――――――――――――
広場にある、河童の出張映画館。二人はそこで、人魚姫の映画を見ていた。
人魚姫が王子を助けるのは同じだが、細部が所々変わっており、最後はハッピーエンドで終わった。
「うっ・・・ううっ・・・・・・」
映画を見終わったわかさぎ姫は、涙を流していた。
どうやら、感動して涙を流しているようである。
ジンは彼女に、そっとハンカチを手渡した。
「ほら、これで涙を拭きな」
「あ、ありがとう・・・・・・」
わかさぎ姫はそれを受け取り、涙を拭いた。
「それでどうだった?」
ジンは映画の感想を尋ねると、わかさぎ姫はとても楽しそうに話し始めた。
「すっごく良かったわ! 特に魔女との戦いは、手に汗握るものだった! でも、最後はなんと言っても、二人が結婚して終わるって所ね!
原作も、あんな風になれば良かったのに」
そう力説するわかさぎ姫。
それに対してジンは、何処か冷めていた。
「・・・・・・俺は、原作の方が良いな」
「え・・・・・・?」
「確かに、人魚姫の最後は報われなかった。でも、彼女は最後まで愛を貫いた。
それは誰にでも出来る事じゃない。大抵の人は、王子を殺していただろうな」
「・・・・・・」
「俺は彼女の愛は真実の愛なのだと思う。俺も、ああいう愛を持ちたいと思う」
「・・・・・・私は嫌だよ。ジンが死ぬなんて」
「分かってる。俺だって、死ぬのはごめんだ。だけど――――」
「だけど?」
「いや、何でもない。それじゃあ、そろそろ帰ろう」
そう言って、ジンは歩き出した。
その後ろ姿はとても暗く、それを見たわかさぎ姫は、不意に不安を感じた。
彼女は思わず、彼の腕に抱きついた。
「わ、わかさぎ?」
「・・・・・・ちょっと疲れたから、少しだけ良い?」
「ま、まあ、それぐらいなら・・・・・・」
ジンは恥ずかしそうであったが、わかさぎ姫を振りほどく事はしなかった。
二人は寄り添うように、人里を後にした。
――――――――――――――――
それから翌日。元の姿に戻ったわかさぎ姫は、湖のほとりで、いつも通りに蛮奇と影狼と雑談していた。
「それでそれで? 昨日のジンとのデートはどうだったの?」
影狼がからかうように尋ねると、わかさぎ姫はそれを否定するように答える。
「デートって、そんなんじゃないわよ。ただ、人里を案内して貰っただけで―――――」
「最後は彼と腕を組んで歩いていたじゃない」
蛮奇のその言葉に、わかさぎ姫は顔を赤らめた。
「え!? 見ていたの!?」
「あの後、こっそりつけていたんだよ。見ている分は、かなり楽しめたけど」
「二人とも酷い!」
「まあ、少しは悪いと思ったけど、わかさぎ自身も楽しそうだったからね。おじゃまかと思って」
「そ、そんなに楽しそうに見えた私?」
「「そりゃもちろん」」
二人は揃って、同じ事を言った。
わかさぎ姫は、ますます恥ずかしくなった。
そんな時、向こうの方からジンの姿があった。
「あれ? あそこにいるのはジンじゃない?」
「あっ、本当だ。せっかくだし、昨日の御礼を―――――」
「待って二人とも!」
ジンを呼ぼうとした二人を、わかさぎ姫が止めた。
よく見ると、ジン一人だけでは無く、隣には霊夢の姿があった。
二人は楽しそうに歩き、そのまま過ぎ去ってしまった。
「・・・・・・」
「えっと・・・・・・」
何とも気まずい雰囲気が流れたが、わかさぎ姫は二人にこう言った。
「二人とも楽しそうだったわね。デートかしら?」
「わ、わかさぎ?」
「何かしら?」
「気にしないの?」
「何を?」
「ほら、ジンがさ・・・・・・」
影狼の一言で、二人が何を考えているのか分かったわかさぎは、二人にこう言った。
「別に、私とジンはただの友達よ。それ以上も以下でも無いわ」
「そ、そうなの・・・・・・」
(うーん、脈ありかと思ったんだけど・・・違ったのかな?)
「さあ、今日は何をしようかしら?」
こうして、草の根妖怪達は、いつも通りの日常を過ごすのであった。