東方軌跡録   作:1103

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 皆さんお待たせしました。苦しい二週間が終わり、ようやくいつものルーチンに戻りそうです。
 ただ、この時期は忙しいので、また投稿期間が空くかも知れません。
 なるべく、一週間ペースで投稿出来るように頑張りたいと思います。


図書館の制約魔書

ある日、パチェリーに呼ばれたジンは、紅魔館の地下図書館を訪れていた。

 

「お前から呼び出すなんて珍しいな。それで、用件はなんだパチェリー?」

 

「来てもらったのは他でも無いわ。あの泥棒魔法使いをどうにかしないのよ。協力して貰える?」

 

「泥棒・・・ああ、魔理沙の事か」

 

「ええ、日に日に強奪がエスカレートしていって、流石にこれ以上は看過出来ないわ。

どうにか阻止出来ないかしら?」

 

パチェリーの頼みを聞いて、ジンは考え始めた。

確かにこの幻想郷において、人を縛る法律は無い。だからといって、やって良いという訳では無い。何事も自尊心を持たなければ、待つのは破滅だけである。

 

(ここはパチェリー、そして魔理沙の為にも、人肌脱ごう)

 

そう考えたジンは、パチェリーにある秘策を伝えた。

 

――――――――――――――――

 

それから数日後のある日、魔理沙が大慌てでパチェリーの図書館にやって来た。

 

「おーいパチェリー! いるかー!」

 

「どうしたのよ魔理沙? そんなに慌てて?」

 

「いや、この新聞に書かれている事って本当か!?」

 

そう言って魔理沙が見せたのは、文々。新聞のある記事。そこに書かれていたのは――――――。

 

“紅魔館の地下図書館、一般貸し出し開始!”

 

という、見出しであった。

 

「本当にマジなのかこれ!?」

 

「マジよ」

 

「一体どういう風の吹き回しだ? 一体何を企んでいるんだ?」

 

「別に何も、ただ諦めただけよ」

 

「諦めた?」

 

「貴女に何を言っても、何をしても無駄って事に気づいたのよ。だから、こういう手を使ったのよ」

 

そう言って、パチュリーは一枚の書類を取り出した。

その書類は、制約魔書と呼ばれる魔法の制約書、ここに条件と制約を書き込む事で、制約魔法を発動させる事が出来る。

因みに、今回の制約内容とは―――――。

 

「“この地下図書館の一般貸し出しを許可する代わりに、無断持ち出しを禁ずる。

そして、貸し出し許可を貰う場合、この契約書にサインする事。”これが、制約内容よ」

 

そう言って魔理沙に制約の内容を説明するパチュリー。それを知った魔理沙は、げんなりする魔理沙。

 

「うげぇ、マジかよ。これじゃあ本を借りれ無いじゃないか」

 

「貴女の場合は盗むでしょうが。それに、契約書にサインをすれば普通に持ち出せるわよ」

 

「・・・・・・その契約書、本当に大丈夫か? サインした瞬間、お前の下僕になるのは嫌だぜ」

 

「疑い深いわね。ジンと小鈴、アリスはしっかりとサインしてくれたわよ」

 

そう言って、パチュリーは三枚の契約書を魔理沙に見せた。それには、確かに三人のサインが書かれていた。

 

「本当だ、あいつらのサインがしっかりと書かれている」

 

「契約書には、理不尽な事は書いていないわ。まあそれでもサインしたくなければしなくて良いわよ。図書館から本を持ち出せなくなるけどね」

 

パチュリーは勝ち誇った笑みを浮かべた。

制約魔法とは自身あるいは自分の所有物に制約を掛ける事によって、魔法の効果を強める魔法である。

今回のパチュリーは、図書館の一般貸し出しを開始する代わりに、無断持ち出したが出来ない魔法掛けた。

これにより、正式な手順を踏まえれば、誰でも図書館を利用出来る一方、手順を無視すれば、本は図書館から絶対持ち出せ無いのである。

 

「・・・・・・一先ず、契約内容を見させてくれ」

 

「はいどうぞ」

 

パチュリーから契約書を一枚貰う魔理沙。契約内容は以下の通りである。

 

“一、貸し出しの際、図書館カードを提示し、借りる本を貸し出しリストに明記する事。

 

二、本を破損、または紛失した場合、倍賞する事。

 

三、貸し出し期間は最大二週間。延長をしたい場合は、図書館で延長手続きをする事。

 

四、延滞した場合、本と同価値の物を差し押さえる。”

 

この四つが契約書に書かれていた。

 

「他はともかく、最後の差し押さえってなんだよ?」

 

「文字通りよ。延滞した場合は、貴女の物を差し押さえる。それがどんな物であってもね」

 

「こんな契約出来るか!」

 

魔理沙は契約書をテーブルに叩きつけながら叫んだ。それに対してパチュリーは、したり顔で言う。

 

「契約したくないのならしなくて良いわよ。でも、貴女は本を持ち出す事は出来ないわ」

 

パチュリーはそう言いながら、再び本を読み始めた。

魔理沙は悔しそうに、パチュリーに向かって言い放つ。

 

「これで勝ったと思うなよ! 最後に勝つのはこの私だ!」

 

魔理沙は足早に図書館を出ていった。その姿を見ていたパチュリーは、満足そうに微笑んでいた。

 

――――――――――――――――

 

「――――――という訳で、皆の力を貸して欲しい。協力してくれないか?」

 

鈴奈庵にて、魔理沙はアリス、小鈴、ジンの三人に協力を申し出ていた。しかし―――――。

 

「悪いけど、協力するメリットが無いわね」

 

「そうですね。特に困った契約内容では無いので」

 

「むしろ、人として当たり前の事しか書いていないと思うが?」

 

バッサリと断られていた。

 

「お前らは騙されている! 契約内容をちゃんと読んだか!?」

 

「えっと・・・一、貸し出しの際、図書館カードを提示し、借りる本を貸し出しリストに明記する事」

 

「二、本を破損、または紛失した場合、倍賞する事」

 

「三、貸し出し期間は最大二週間。延長をしたい場合は、図書館で延長手続きをする事。

特に変わったところは無さそうだが?」

 

 

「最後だ最後! 最後の四! 延滞した場合、本と同価値の物を差し押さえるってところだよ!」

 

魔理沙は声を荒げるが、三人――――特にジンとアリスは平然としていた。

 

「別に困らないわよ。要は、期間をしっかりと守れれば良いんだから」

 

「そうだな、それに俺の場合は魔導書目当てじゃないから、仮に差し押さえられても、大した物しか差し押さえられないと思う」

 

「それに二週間ですから、余程の事じゃない限り、延滞はしないと思います」

 

三人はまったく不満に思っていなかった。これが、ますます魔理沙を不機嫌にさせた。

 

「あーもういい! こうなったら、私一人であの制約魔法を破ってやるぜ!」

 

そう怒鳴りながら、魔理沙ら鈴奈庵を出ていった。

魔理沙が居なくなったのを見計らって、小鈴が口を開いた。

 

「あの・・・本当に良かったんですか?」

 

「良いんじゃない? 魔理沙もこれで少し懲りるだろうし」

 

「そうだな。それに、契約内容も理不尽な事は一切書かれていない。困るのは魔理沙だけだ。

これで、魔理沙の盗み癖が治れば良いんだが」

 

「そんなに酷いんですか? うちでは、普通にご利用されていますけど・・・・・・」

 

「それは、鈴奈庵が人里にあるからだ。人里で盗みを働けば、直ぐに顔が割れる、魔理沙みたいな有名人は特にな。そうなったらもう、人里では買い物出来なくなるだろう」

 

「買い物出来る場所があるのと無いのだと、生活がかなり変わってしまうのよ。たから、人里では盗みはしないでしょう」

 

「それ以外じゃあ、遠慮しないみたいだがな。特にパチュリーの図書館が一番被害にあっているらしい」

 

「あれは恐らく、嫉妬まじりでやっていると思うわ。

あれだけの魔導書を所持しているなんて、私から見ても羨ましいもの」

 

「そうですよね。私のコレクションなんか、パチュリーさんの図書館に比べると、米粒程度にしかならないんですよね・・・・・・」

 

「だからと言って、盗んで良いっていう訳じゃない。今回の件で、懲りてくれれば良いんだが」

 

そう願うジンであったが、魔理沙が簡単に引き下がる筈も無く、更なる騒動へと発展する事に、彼は思いもよらなかった。

 

――――――――――――――――

 

その日の夜。寝静まった紅魔館に、魔理沙は静かに侵入を果たしていた。

 

「よし、侵入成功。さて、ここからは慎重に行動しないとな」

 

魔理沙は辺りを見回す。幸いにも、メイド妖精の気配は無い。安全を確認した魔理沙は、早速行動を開始した。

 

 

魔理沙が訪れたのは、パチュリーの研究室前である。

そう、彼女の目的は、例の制約魔書をやぶる為であった。

一度でも制約魔書が破られたら、再使用には数年掛かる事を魔理沙は知っていたのだ。だからこうして、夜遅く侵入して来たのだが――――――。

 

「くっそー、やっぱ厳重にプロテクトが掛けられているぜ。どうにか解けないかな・・・・・・」

 

魔理沙は、ドアの解錠に挑むが、やはりパチュリーというべきか、幾重に魔法が掛けられており、魔理沙の腕では解錠おろか、魔法の解除も出来ない。

八方塞がりのこの状況に、一人の人物が魔理沙に声を掛けて来た。

 

「ねぇ、何をしてるの魔理沙?」

 

「うわぁ!? って、フランか、驚かすなよ・・・・・・」

 

声を掛けて来たのは、フランであった。

彼女は、この紅魔館の中では、魔理沙と親しい間柄である。だから、こうして見つかっても、直ぐに人を呼ばれたり、追い返されたりしないのである。

 

「何驚いているの? もしかして、やましいことでもしようしてたの?」

 

フランにそう聞かれ、魔理沙はどう誤魔化すか考えた。そして、ある妙案を思いつく。

 

「あー、実はパチュリーとゲームをしていてな」

 

「ゲーム?」

 

「そうゲーム、宝探しゲームだ。パチュリーが隠した宝を探しているんだ」

 

魔理沙がそう言うと、フランは目を輝かせ始めた。

彼女は遊びやゲームに目がない事は、魔理沙は知っていたので、それを利用しようと思いついたのである。

 

「おもしろそう! ねぇ、私も混ぜて!」

 

「ああいいぜ。早速だけど、この扉を壊してくれないか?」

 

「まかせて! キュっとして・・・どっかーん」

 

フランは能力を使って、扉に掛かった魔法ごとドアノブを破壊した。

 

「おっ、大分手加減が上手くなったフラン」

 

「えへへ♪」

 

魔理沙はフランの頭を撫でながら褒めると、彼女は嬉しそうに笑った。

壊したドアを開き、二人は部屋の中に入って行った。

 

「それじゃあ、宝探しを始めるぜ」

 

「おー♪」

 

こうして二人は、研究室を物色し始めた。

部屋の中は様々な実験道具や機材、資料などが豊富に揃っていた。しかし、肝心な制約魔書は何処にも見当たらなかった。

 

「くっそ~、一体何処にあるんだ?」

 

「一体何を探しているのかしら?」

 

「んー、パチュリーの制約魔書をちょっと・・・・・・って!」

 

魔理沙は慌てて後ろを振り返る。そこには大層ご立腹なパチュリーの姿があった。

 

「まさか、本当に泥棒になるなんて、見下げた奴ね貴女は」

 

「うるせぇ! 人様の弱味につけこむお前に言われたく無い!」

 

「何処がつけこんだっての? むしろ、最大譲歩したのよ。それでも飲まない貴女が悪いじゃない」

 

「あんな条件じゃ、安心して本を借りれ無いぜ! せめて、期限を死ぬまでにしてくれ!」

 

「呆れた・・・貴女にはどうやら、身をもって知らしてやらないと、ダメみたいね。

いいわ、格の違いを見せてあげる!」

 

「おう! 望むところだ!」

 

パチュリーか魔導書を開き、魔理沙かミニ八卦炉を構える。

一触即発のこの状況に、フランが走ってやって来た。

 

「魔理沙~、見つけたよ~」

 

彼女の手には、魔理沙が探していた制約魔書が握られていた。

 

「いつのまに!?」

 

「よし! でかしたフラン!」

 

驚くパチュリーに喜ぶ魔理沙。だが、この狭い研究室で走る行為が不味かった。

フランは足を止める躓き、転んでしまった。

 

「ふぎゃん!」

 

フランが倒れた衝撃で、机の上にあったフラスコが、テーブルから落ちた。それを見たパチュリーは、慌てた。

 

「不味い!」

 

パチュリーは直ぐ様転移魔法を使い、魔理沙とフランを連れて、研究室を脱出する。そして、フラスコが床に叩きつけられた瞬間――――。

 

“ドッカーン”

 

――――という音が鳴り響き、研究室は爆発に巻き込まれるのであった。

それからも、魔理沙は紅魔館に忍び込み、制約魔書を盗み出そうする。パチュリーはそれに対応する形となり、紅魔館はここしばらく、壮絶な戦場となってしまうのであるが、それはまた別の話である。

 

――――――――――――――――

 

それから時が経ったある日。博麗神社の縁側で、ジンはのんびり新聞を読み更けていた。

 

「なになに、“紅魔館、またもや謎の爆発。事件の影に、怪盗魔理沙の姿が” まだやっているのか・・・・・・」

 

やれやれと呆れるジンの元に、珍しく小悪魔がやって来た。

 

「こんにちはー」

 

「ん? 小悪魔じゃないか、今日はどうしたんだ?」

 

「実は、“預かっていた例の物を返して欲しい”と、パチュリー様から言伝をいただいているんです」

 

「あれを? 何でまた?」

 

「実はですね・・・・・・」

 

小悪魔は申し訳なさそうに、言伝ての内容を話すと、ジンは直ぐ様納得した。

 

「わかった。直ぐに用意するから、待っててくれ」

 

そう言って、ジンは家の中に入って行った。

しばらくすると、彼は一枚の紙を持って戻って来た。

 

「はい、“制約魔書の清書”」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

小悪魔は、ジンから制約魔書の清書を受け取った。

何故これがここにあるかと言うと、魔理沙が制約魔書を盗んで、制約魔法を無効化にしようとする可能性があったからである。

その為、万が一の事を考え、清書の方を信頼出来るジンに預け、ダミーの方を手元に置いたのである。

作戦は見事に成功し、魔理沙は未だに紅魔館で、有る筈も無い制約魔書を探し続けていたのである。

では何故、制約魔書を返す事になったかというと――――――。

 

「良いアイディアとは思ったが、被害が図書館から本館に移っただけとはな・・・・・・」

 

「この件に関しては、レミリア様は御立腹のようでして・・・・・・」

 

小悪魔の話によると、被害が本館に及んだ事によって、レミリア本人から制約の解除を言い渡されてしまった。

館の主の命令には、流石のパチュリーも従うしかなく、こうして小悪魔を使いに出したという。

 

「せっかく協力していただいて貰ったのに、こういう結果になるなんて、残念です・・・・・・」

 

「まあ仕方ないさ、こういう時もある。

そうだ、パチュリーに伝えてくれないか?」

 

「はいなんでしょうか?」

 

「“何か力になれるのなら、遠慮無く頼ってくれても構わない。友人として力を貸そう”って」

 

ジンのその言葉を聞いて、小悪魔は笑顔を見せた。

 

「はい、わかりました。パチュリー様にちゃんと伝えておきますね」

 

 そう言って、小悪魔は空へと飛び去って行った。

 こうして、制約魔書をめぐる戦いは終わりを迎えたが、パチュリーと魔理沙の戦いは、これからも続くのだろうと、ジンは密かに思うのであった


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