と言っても、後編は明日中に出来ると思います。
幻想郷の地獄に、一人の怨霊がいた。
彼は元人間なのだが、ある禁術を使い怨霊となり、地獄を一度だけ抜け出した事に成功する。
しかし彼の認識は甘く、幻想郷の排除対象となってしまい、博麗の巫女によって再び地獄に落とされたのである。
しかも、怨霊となって地獄を抜け出したのもあって、彼の罪状は更に重くなり、一つ下の階層に落とされた。
地獄の責め苦を受けながら、男は博麗の巫女と、自分を受け入れてくれなかった幻想郷を怨み憎んだ。
それから月日が流れ、男に復讐のチャンスが訪れた。
――――――――――――――――
迷いの竹林を後にした四人は、怪物達を蹴散らしながら、人里付近を訪れていた。
しかし、そこには人里の姿は無く、代わりに牛の怪物達が何かを探すように辺りを彷徨いていた。
「人里がなくなってる・・・いえ、隠蔽されている?」
「慧音の仕業だな、これなら人里は大丈夫だれ。あとは――――――」
妹紅は視線を移す。
紅魔館、妖怪山に大量の牛の怪物が群がっていた。
「見境ないな・・・・・・」
「師匠の話によると、噂を具現化するって言ってたから、人間を標的にしているみたいね」
「紅魔館には咲夜、妖怪山には早苗がいる守矢があるからな。標的にされたみたいだ」
「あの二人なら大丈夫でしょ、レミリア達や神奈子大丈夫がいるんだし。私達は私達で、元凶を潰しましょ」
「それもそうだな。それじゃあ私達は元凶を倒しに行くか」
魔理沙は、永琳から貰った探知機を取り出す。するとそれは、魔法の森を指していた。
「げっ、魔法の森を指してやがる・・・・・・」
「魔法の森か・・・・・・確かにあそこなら、隠れるのにうってつけだな」
「私の家があるんだから、勘弁して欲しいぜ」
「ぼやかないぼやかない。それじゃあ行きましょ」
げんなりした魔理沙を尻目に、一同は魔法の森を目指す事にした。
途中、牛の怪物達が襲って来たのだが、四人に取っては物の数ではなく、すんなりと移動する事が出来た。
――――――――――――――――
ジンの魂を辿り、魔法の森を進む四人。どうやら、魔法の森の先にある無縁塚の方を指しているらしい。
四人は慎重に無縁塚を目指した。その途中で、四人は“修羅”とであう。
「な、何よこれ・・・・・・」
「うわぁ、これはひでぇ・・・・・・」
四人が見たのは、無惨に惨殺された牛の怪物達であった。そしてその中心に、一人の男が立っていた。
「香霖?」
それは霖之助であった。彼は魔理沙の声を聞くと、ゆっくりと振り向いた。
「ん? ああ魔理沙か、それに霊夢に、妹紅、永遠亭の妖怪兎くん」
霖之助は霊夢達の姿を見ると、持っていた刀を納めた。
「鈴仙です。それよりも、どうしたのこれ?」
鈴仙は怪物の残骸を指さしながら訪ねた。すると霖之助は体を震わせながら答えた。
「ああ、こいつらは僕の店を襲った不届き者さ。おかげで僕の店はメチャクチャだ。
元凶には制裁を加えないと、僕の気が収まらない・・・・・・」
そう言って、再び怒りをあらわにする霖之助。どうやら、よほど腹が立ったのであろう。彼がここまで怒るのは珍しい。
「そんな訳で、今回の異変は僕が解決させて貰う。黒幕には、たっぷりと賠償を払って貰わないとね」
「別に構わないけど、なんなら一緒に行かない? 目的が同じなら、協力し合うっても、一つの案だと思うけど?」
霊夢の言葉に、霖之助は驚く表情をし、そして何処か微笑まし表情をした。
「・・・・・・これは驚いたな。まさか、君がそんな事を提案するなんて」
「どう意味?」
「いやだってさ、昔の君なら協力なんて申し込まず、ライバルは蹴落とすって感じだったからね」
「私、そんな乱暴に見えるかしら?」
「何を今更言っているんだ?」
「異変の時なんか、容赦ないからねぇ・・・・・・」
「人間だろうが、妖怪だろうが、邪魔をする奴は片っ端から撃退するからな。そう見えても仕方ないな」
魔理沙、鈴仙、妹紅にズバッと言われ、流石の霊夢も落ち込んだ様子であった。
「まぁ、人は変わるものだし。ジンとの出会いが、君を変えたのかもね」
「そ、そうかしら?」
「彼はなかなか奇特な人物だからね。いろんな意味で、大事にした方が良いよ」
「今、その奇特な奴が、危篤状態なんだが」
「え? どういう事だい?」
魔理沙は霖之助に、これまでの経緯を説明した。
すると彼は、眼鏡を光らせた。
「なるほど、今回の黒幕は、僕にとことん喧嘩を売ったらしい。店だけじゃなく、僕のお得意様にまで手を出すなんて・・・・・・」
再び怒りをあらわにする霖之助。そして改めて、霊夢達に申し出る。
「そういう理由なら、協力は惜しまない。僕とて、お得意様を見殺しにするような事は、出来ないからね」
「決まりね。それじゃあ霖之助さん、今回はよろしくお願いね」
「ああ、こちらこそ」
こうして新たに霖之助を加えた霊夢一同。彼女達は再び、無縁塚を目指すのであった。
――――――――――――――――
無縁塚を目指し、進み続ける五人。
順調に思われたその時、彼女達の目の前に、思わぬ人物が現れる。
「まったく、相も変わらず、余計な邪魔立てをする奴らだな」
「お前は―――――」
「あの時の易者!?」
現れたのは、以前霊夢に退治された易者であった。これには霊夢は驚きを隠せなかった。
「あんた、何でここにいるのよ? たしか、私が地獄に叩き落とした筈だけど?」
「ああ、こちらの言い分を聞かずにな。まったく、酷い巫女が居たもんだ」
「ルールを破った奴の言い分は聞かない事にしているのよ。大抵みっともない事しか言わないから」
「ふん、所詮は妖怪の犬か、話にならないな」
「言っておくけど、私は人間巫女よ。妖怪巫女でも無いし、ましてや妖怪の犬になってる訳じゃない。幻想郷の秩序を守る為にやっているのよ」
「それが犬の所業だと言っているのだ。人里の人間を監視し、ルールを破った者を容赦なく排除する。
誰がどうみたって、妖怪の犬として動いているにしか見えないだが?」
易者は吐き捨てるように、霊夢に対して憎しみを込めて言った。
それに対して、霊夢はため息交じりで答えた。
「あのねぇ、誰が秩序を守らないと、世界はあっという間に崩壊してしまうのよ。
本能で動いて良いのは動物や妖だけ。人間と妖怪は、知性を持ってしまった以上、理性を持って生きて行く事が義務づけられるの。
縛られずに生きていきたいのなら、動物にでも妖にでもなれば良いじゃない」
「ここまで積み上げた知識を捨てろと? 冗談じゃない、それこそ私の全てを否定するのと同じではないか!」
「そう言ったのよ。あんたはルールを破った事によって、この幻想郷にも否定された。ここには、あんたの居場所は無い」
「くっ、ならば! そこの半妖はどうなんだ!? 人里に住む半獣は!? 奴等もどっち付かずの存在じゃないか! 奴等を何故罰しない!?」
易者の憤怒の叫び声。それに対して霖之助は――――――。
「いやー、懐かしいな。昔は君みたいな奴が多く苦労したよ。今はそんな事は無いけどね」
彼は懐かしむように呟く霖之助。一方妹紅は、霖之助とは正反対に怒りをあらわにしていた。
「おいくそガキ、いい加減その口を閉じろ」
「く、くそガキ?」
「ああ、お前の事だよくそガキ。黙って聞いていれば、私の友人に対して好き放題言ってくれたじゃないか」
そう言って一歩踏み出す妹紅。その足下は、ふつふつと小さな炎が上がっていた。
「あいつは望ん半獣になったんじゃない。それなのに親に捨てられ、人間達から迫害も受けた。それでもあいつは人を嫌いにならず、人々の為に尽力を尽くした。
だがお前はなんだ? 自分勝手に人間を辞めて、友人を騙し、認められないからってこんな八つ当たりをする。はっきり言ってやる、お前みたいな奴は、何処にも居場所なんか無いんだよ」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
駅前は喚くように叫ぶ、その顔はどんどん歪み、狂気染みていった。
そんな様子を見て、鈴仙と魔理沙は引いていた。
「うわぁ、波長が目茶苦茶だわ。でもまあ、最初っから正気でもなかったけどね」
「これが道を踏み外した奴の末路か・・・私も気をつけないとな」
一方易者は、既に我を忘れていた。そして、懐から一冊の魔導書を取り出す。
「どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって! なら見せてやるよ! 俺の力を!」
そう叫びながら、易者は本を高く掲げる。すると本は輝きを放ち、影が易者に纏わりつく。
「う、うごぉぉぉぉぉぉ!!」
易者の姿はみるみる変わり、そして最後には、牛の頭をした怪物――――ミノタウロスのような姿に変貌していった。
「うお!? 牛の怪物になったぞ!?」
「どうやらあの魔導書―――――“現像虚言”の力みたいだね。用途は、“不安を具現化する魔術の使用”だね。
不安が強ければ強い程、強力になるようだ」
霖之助は、自分の能力で易者が持っていた魔導書について解説をした。
「なるほど、“牛の首”という噂を流して、人々の不安を煽ったのは、その魔導書の力を増幅させる為だったのね」
「アア、オ前達ガ余計ナ事ヲシテクレタオカゲデ、完全デハナイ。ダガ、オ前達ヲ葬ルニハ十分ダ!」
そう言って、牛の怪物になった易者が、霊夢達に襲い掛かった。
――――――――――――――――
霊夢達と易者が戦っている頃、フードを被った男が水晶でその様子を覗いていた。
「ふん、あの程度で心を乱すとは、所詮は人間という事か。
まあいい、これで時間は稼げるか」
そう呟く男の目の前に黒い空間が開き、そこから一人の老人が現れた。
「お迎えにまいりました。おや? お二人と聞いておりましたが?」
首を傾げる老人に対しての、フードの男はなんでもないように答える。
「奴は来ない。私一人だが、問題はあるまい?」
「ええ、別に構いません。我々としては、対価さえ払っていただければそれで十分でございます」
老人はニヤリと口を閉じろ歪ませながら笑う。その笑顔はおぞましく、とても人形とは思えない表情であった。
「・・・・・・これで十分だろ?」
そう言って出したのは、ジンの魂が入った硝子ケースであった。それを見た老人は、目を輝かせた。
「おお! 素晴らしい! これほどの魂なら文句はありません!
人と鬼、この二つの要素を持った魂は非常に価値があります」
そう言って、ジンの魂を嬉々淡々と鑑定する老人。
一方フードの男は、そんな事に興味なさそうにしていた。
「人間の魂の価値はどうでも良い。その魂を対価に、俺を魔界に連れてけ」
「かしこまりました。それでは――――――」
老人がフードの男の手を掴もうとしたその時、黒い霧が二人を襲う。
そして霧は、ジンの魂が入った硝子ケースを奪う。
「くっ、しまった!」
「随分と面白い話を知るしているじゃないか、私も交ぜてくれないか?」
その言葉と共に霧は形どり、一人の鬼になった。その鬼こそ、山の四天王の一人の伊吹萃香であった。
「貴様は!?」
「私の友人の魂を通貨にしようとするとは、随分とふてぶてしい事をするじゃないか。“元死神”さん?」
「・・・・・・」
萃香の挑発染みた言葉に応えるように、男はフードを脱いだ。
フードの下から、壮年の男性の顔が現れた。
「よもや鬼が出てくるとは思わなかった。人間に愛想を尽かしたと思ったのだが?」
「まあ確かに、一時は愛想を尽かした。でも、やっぱり私は人間が好きだったんだ。いつか、昔みたいに人と鬼が共に有る光景を、また見たいと願った。
そして、その願いをこいつは一時でも叶えてくれたんだ」
萃香は大事そうにケースを抱きしめ、再度元死神の男を睨んだ。
「だから、何があってもこいつは守る。それが、あの日に誓った誓いさ」
それはまさに、我が子を守る母のような姿であった。
それに対して元死神は―――――。
「くだらん」
吐き捨てるように、一蹴した。
「そんな人間を守って何になる? 奴等はたかが百未満しか生きれない下等生物だ。どうせすぐ死ぬ、そんな奴らを守る価値はあるのか?」
「だからといって、寿命を無視して刈るのは、死神のルールに反しているんじゃないのかい?」
そう言って奥から現れたのは、同じ死神の小町であった。彼女は元死神に敵意を向けて立っていた。
「ルールを破った死神は、問答無用に地獄行き。それだけに、“寿命の干渉”は御法度なんだよ。何故、そんな事をしたんだい?」
死神のルールは幾つかあり、その中でも絶対にやってはいけないのは、生者の生き死に関与する事である。
死に行く者を助けたり、まだ生きている者を殺そうとしたり、これらは死神としては絶対やってはいけない事である。もし、破れば極刑は免れ無い。
小町の質問に対して、男は口を歪ませながら答えた。
「くっくっくっ、田舎死神には分からんだろうな。ここの地獄とは違って、外の地獄は激務なんだよ。
毎日数千の人間達は死に、それに対応する日々。そこから抜け出すには、出世するしかない。出世するためには、それなりの実績が必用なんだよ」
「実績・・・まさか!」
小町は元死神の言葉を聞いて、彼の目的が何なのか理解出来てしまった。
それを見た元死神は、ニヤリと笑った。
「ああ。死後、現世に留まる魂を連れて来る。それだけでも、かなりの実績だ。ましてや、自殺者の魂なら、比較的に評価されるからな」
死神の仕事の一つに、現世をさまよう魂を連れて行くものがある。
大抵の魂は、あの世に自動的に行くのだが、様々な理由で現世に留まってしまう場合が存在する。
それを見つけ、連れて行く事は、死神の界隈では実績が上がる行為である。さらに言うなら、その魂が怨霊に近ければ近いほど、評価も上がるのである。
「だからあんたは、ジンを追い詰めるような呪いを掛けたんだね。ありとあらゆるものを憎むような怨霊にする為に」
「今回も上手く行くと思ったんだが、予想外の出来事と思わぬ邪魔が入ってしまったがな」
元死神は忌々しと言わんばかりに舌打ちをした。
彼の言う予想外の出来事とは、ジンの幻想入りであった。
幻想郷に迷い込んだ彼は、妖怪に襲われながらも何とか生き伸び、神社にたどり着つき、呪いを博麗の巫女と厄神に解いて貰った。
極めつけは、冥界の管理者と出会った事により、この元死神の悪事が露見したのである。
「奴が死ななかったせいで、俺は全てを失った。だから返して貰うのさ、奴の魂を持ってな!」
そう叫んだ瞬間、元死神の影が浮かび上がり、萃香目掛けて襲いかかった。
その影を、白い包帯が絡めとる。
「まったく、さっきから聞いていれば、胸くそ悪い話だ。結局、あんたの自分勝手じゃない。
そんな事で、私の弟子に手を出さないでくれる?」
普段の口調とはうってかわった華仙が、影を絡めとりながら言う。
そして、元死神の真上には、元死神目掛けて落下していく勇義の姿があった。
「ああまったくだ。そんな下らない理由で、私達の友人に手を出した報いを受けな!」
「なっ!?」
「四天王奥義! “三歩必殺”!」
勇儀の必殺の一撃が、元死神に直撃。その衝撃で地面は抉れ、周囲の草木は吹き飛んだ。
「ちょっとちょっと! いくらなんでもやりすぎだよ!? こっちは生け捕りって言われているんだから!」
小町は慌てて、元死神の安否を確認する。色々と酷い事にはなってはいるが、一応息はしているようだ。
「必要最低限の加減はしてあるよ。元とは言え死神なんだろ? これぐらいで死なないだろ?」
「ま、まあ確かに死なないけどさ。これなら一思いにやってくれた方がマシだね・・・・・・」
「因果応報、自業自得って奴さ。さてと、あんたはどうするんだい? やるって言うなら相手になるよ」
そう言って勇儀は、元死神と取引をしていた老人を睨み付ける。すると老人は、頭を下げながら答える。
「生憎ですが、私はただ商談に来ただけです。ですので、そちらの方がどうなろうと、こちらの関わりのない事です」
「おや? 意外と薄情だねぇ。仲間じゃないのかい?」
「彼とはあくまでビジネス関係、仲間ではありません。それに、取引は成立されませんでしたので、今では赤の他人です」
「本当かい? なんだかんだ言って、実は期をうかがっているんじゃないかい?」
「滅相もありません。確かにその魂は魅了的ですが、私一人で貴女方四人を相手どるのは不可能。
利益にならない事はやらない。それが私のルールでして」
老人は淡々とそう言った。
老人の言葉を聞いていた勇儀は、それが嘘ではない事を感じ、ニヤリと笑いながら言う。
「そうかい、それは残念だ。ちょいと不完全燃焼だったから、あんたともやり合いたかったんだけどねぇ」
「お戯れを。私ごときでは相手になりませんので」
「・・・・・・まあいいさ、今回はジンの魂を救出と、こいつの捕縛が目的だからね。今回は見逃しておくよ」
「それはありがたいこと。それでは私は失礼させていただきます」
そう言って老人は、黒い空間に入って行き、再び一礼をすると、空間と共に消えて行った。
「やれやれ、食えない爺さんだ。まぁ、へこへこしない辺り、天狗よりマシだろうけどね」
そう呟きながら勇儀は、小町達がいる方へと歩き出した。
「これで一件落着だろ? いい加減、事の真相を教えてくれないかい?」
勇儀は小町に問い詰める。もちろん勇儀だけではなく、華仙や萃香もまた、事情を聞きたそうであった。
「え、えっと・・・言わなきゃ駄目?」
「駄目。さあ、ちゃちゃっと吐きなさい。でないと、最悪力づくで聞き出すわよ?」
「わかった! 話す! 話すってば!」
華仙の威圧的な態度に、観念した小町は、今回の事件の全貌を話始めた。
元死神の罪が発覚した本家の獄卒達は、密かにこの男の罪を裁こうとした。しかし、元死神は一瞬の隙をついて逃走。
しかも時が悪く、秘封異変で脆くなっていた結界を飛び越え、幻想郷に逃げ込んだのである。
「本家とこっちじゃあ管轄が違うから、私が動く事になったわけ。まったく、迷惑な話だよね」
「つまりこういう事ね。今回の騒動は、そちらの不手際が発端で、私達はその始末の手伝いをさせられたと?」
「簡潔に言うとそんな感じだね。それと最初に言ったけど、元死神の話は口外しない事。いいね?」
「ん? それはどうして?」
「輪廻転生を守る立場の存在が、私欲に生者を狩っていた事が公になれば、あの世にいる魂達が大反発する可能性があるからだよ。
“自分にはもっと寿命があったのでは?” “自分が下された判決は間違っているのでは?” そういった疑心暗鬼が、暴動という火を起こす。
そうなったら、あの世だけじゃなくて、現世にも悪影響出るからねぇ」
「それはそうだけど・・・・・・」
「それじゃあジンがあまりにも可哀想じゃないか、あいつは親も人生も目茶苦茶にされて、心もボロボロになったんだ。少しぐらい、浮かばれても良いんじゃないか?」
それは萃香の本心だけではなく、勇儀と華仙の気持ちも代弁した言葉であった。
しかしそれでも、小町の立場としては、それは許されない事である。
「気持ちは分かるけど、それは出来ない事なんだ。
あたい達、輪廻転生を守る側として、何者であっても肩入れをしてはいけないんだ。それが、どんなに親しい者であっても助けてはいけないし、どんなに憎い相手であっても殺してはいけない。
今回の件だって、こっちの事情絡みじゃなければ、いつも通り傍観していたさ。
それが、幻想郷が滅ぶ事であっても」
小町は何処か寂しそうにそう言った。そんな彼女の表情を見て、三人はこれ以上何も言わなかった。
「なんだか湿っぽくなっちまったね。
あたいはこいつを引っ張って行くから、後は頼んだよ」
小町は何とも軽い返事をし、元死神を引っ張って三途の川へと戻って言った。その際―――――。
「・・・・・・ごめんね」
そう小さく呟いた。その声はとても小さく、誰の耳に届く事はなかった。