東方軌跡録   作:1103

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 少し間を開けた投稿になりました。
今回はオリジナル異変の話なので、うまく書けるか不安もあります。しかし、今のうちに書いておかないと、この話を出すタイミングが失われると思い。思いっ切って書いてみました。
 今回の異変で、ジンの人生が何故狂ったのがわかります。本当は過去編を全て終わらせてからの方が良かったのですが、それだと何年掛かるか分からないので断念しました。
 初の試みなので、荒い部分もあると思いますが、読んで頂けると幸いです。


牛首異変 前編

前回までのあらすじ。

 

人里では、牛の首という噂が流れ、里の人達は不安を感じていた。

事態を深刻に感じた霊夢達は、調査に乗りだし、見事解決したのである。

一件落着に思われたが、ジンが突然倒れ、意識を失ってしまうのである。

 

――――――――――――――――

 

ジンが意識を失う直前、彼は鈴奈庵で一冊の本を見つける。そのタイトルはなんと―――――。

 

「牛の首・・・・・・」

 

そう、最近まで噂が流れていた牛の首の本であった。

ジンはその本を手にした。

 

(まったく。いくら何でも、この時期にこんな本を置くなんて、恐いもの知らずだな小鈴は)

 

そう軽く考えていたジンであったが、実はそれが罠である事に気づかなかった。

ジンが興味本位で開いたその瞬間、そこから白骨の腕が現れ、ジンの胸を貫いた。

 

「がっ・・・・・・」

 

そしてジンから、何かを抜き取ると、再び本の中に戻っていった。

 

「おーいジン、お前はどう思――――――」

 

魔理沙の呼ぶ声が聞こえるが、ジンはそれに応える事が出来ず、そのまま地面に倒れ伏せた。

 

――――――――――――――――

 

一方その頃、人里から離れた場所に、二人の男が何やら話していた。

 

「上手く行ったか?」

 

「ああ、上々だ。多少力が弱くなってしまったが、奴の魂を抜き取る事が出来た」

 

そう言って、フードの男はガラスのケースに入っている魂を見せる。するともう一人の男はニヤリと笑う。

 

「さて、これからどうする?」

 

「当初の予定通り、事を起こす。多少噂が変異してしまったが、術式を変更すれば問題はあるまい。

騒ぎが起こっている間に、魔界に逃げ込めば、奴等も手は出せまい」

 

「俺としては、直ぐにでも復讐を果たしたいのだが・・・・・・」

 

「文句を言うな。今の現状では、幻想郷の賢者には勝てんし、追っ手もいる。当初の予定通り、魔界に逃げ込むのが得策だ」

 

「仕方ない。まっ、これでも十分あの巫女に復讐を果たせた。今回はそれで我慢しよう」

 

そう言って、男の一人は歪な雰囲気を漂わせる本を取り出した。

 

「・・・さあ行くが良い負の化身達。その力を持って、人間達を蹂躙せよ!」

 

男は本開きを高く掲げる。すると本は、怪しく光り輝いた。

 

――――――――――――――――

 

一方霊夢達は、倒れたジンを永遠亭に運び、永琳に治療を頼んでいた。

三人が応接室で待っていると、永琳が戻って来た。

 

「治療が終わったわよ。といっても、応急処置程度だけど」

 

「ジンは・・・大丈夫なの?」

 

霊夢は恐る恐る訊ねる。すると永琳は、静かに首を振った。

 

「良くないわ。どんなに頑張っても、明日には死ぬでしょうね」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

「おいお前医者だろ! 何とかならないのか!?」

 

「私だって何とかしたいわよ。でも、“魂を奪われている状態”じゃあ、どんな処置をしても無駄なのよ」

 

「魂を奪われてるって、どういう事ですか?」

 

「それはこっちが知りたいわよ。ジンは何者かに魂を奪われて、仮死状態になっているのよ。

魂が無い状態じゃあ、肉体はどう頑張っても、明朝までしか持たない。助けるのなら、魂を奪い返すしか無いわ」

 

永琳の話によると、今のジンの状態は空っぽの器であるとのこと。今はギリギリ命を繋ぎ留めてはいるが、魂が無ければ、いずれは死を迎えてしまうのである。

 

「でもよ。それって、ジンを殺したい奴の仕業って事だよな? そんな奴、幻想郷にいるか?」

 

魔理沙の疑問も最もである。

少なくともこの幻想郷において、彼に殺意を覚える者はほぼいないと言ってもいい。仮に居たとしても、博麗の巫女の身内に手を出す命知らずは、この幻想郷にはいないであろう。だから、消却法で考えるのなら―――――。

 

「もし居るとするなら、余程の自信家か命知らずか、あるいは―――――」

 

「外からやって来た者って事ですか?」

 

「居るとしたらね」

 

小鈴の言葉に、永琳は頷いてこたえた。

幻想郷の者で無いのなら、必然的に外来による仕業だと考えるのが普通である。

だが、結局は犯人の正体には至らないのも、また事実である。

 

「犯人の素性なんかどうでもいいわよ! それよりも、ジンを助ける方が先決よ!」

 

「だな。永琳、どうすればジンを助けられるんだ?」

 

霊夢と魔理沙の問いに、永琳は簡潔に答える。

 

「手段は簡単よ。奪われたジンの魂を取り戻し、肉体に戻すだけ。そうすれば、私が絶対に蘇生させるわ。ただ―――――」

 

「何かあるの?」

 

「その相手の事が、何一つ分からないって事よ。

何の手かがりも無い上に、時間も無い。正直かなり絶望的な状況よ。

せめて、何かしらの手かがりがあれば良いんだけど・・・・・・」

 

どうにもならない現状に、苛まれる永琳。

そんな時、小鈴が遠慮がちに手を上げた。

 

「あの~、少しよろしいでしょうか?」

 

「何かしら?」

 

「ジンさんが倒れた付近にこれが落ちていたんです。気になったので、一緒に持って来ました」

 

そう言って、小鈴が取り出したのは、一冊の本であった。その本には、“牛の首”と書かれていた。

 

「牛の首だって!? 何でそんな物が!?」

 

「わからないです。ただ、ジンさんの付近にこれが落ちていたので・・・・・・」

 

「それ、見せて貰えるかしら?」

 

「は、はい」

 

小鈴はおずおずと、本を永琳に手渡した。

永琳は、本を開こうとせず、じっと観察し始める。そして、ある結論に至る

 

「彼が倒れたのは、これが原因ね。オカルトボールに似た力を感じるわ」

 

「オカルトボールに?」

 

「オカルトボールは、噂を具現化する力がある。それと類似した力を使って、ジンの魂を引き抜いたようね」

 

「たしか、牛の首の話を知ると、死ぬっていう噂だったよな」

 

「でも、それって新しい噂を流した事で、解決したんじゃ―――――」

 

「それは大衆の為に流した嘘の噂。彼はそれを知っていたから、その噂は適応されず、最初の噂の呪いを受けてしまった。私はそう考えているわ」

 

噂とは、相手に“もしかして”という疑惑を植え付けるものである。

事の真相が不明瞭であればあるほど、噂の力は増大する。

今回のジンは、牛の首という噂を、心の何処かで完全に否定出来ていなかった。その心の隙をつかれ、魂を奪われたのだと、永琳は考えた。

 

「つまり、相手はオカルトボールを所持している奴って事か?」

 

「或いは、それに似た力を使っているって事ね。でも、噂が変異したせいで、十全の力は出せていないみたい」

 

そう言って永琳は、本に液体を足らす。すると液体が浮かび上がり、矢印の形を取る。それを透明のケースに入れた。

 

「ジンの魂の残滓が残っていたわ。この残滓示す先に―――――」

 

「今回の黒幕がいるのね?」

 

霊夢のその分言葉に、永琳は頷いて答えた。

 

「なら善は急げだ。ちゃちゃっとやっつけて、ジンの元に魂を取り戻してやろうぜ」

 

魔理沙と霊夢は立ち上がり、直ぐ様行動を開始しようとする。

すると、永琳が二人を呼び止める。

 

「待ちなさい二人とも」

 

「何よ? まだ何かあるの?」

 

「うどんげを連れて行きなさい。人手が多い方が良いでしょ」

 

「太っ腹だな。どんな風の吹き回しだ?」

 

「彼は私の恩人でもあるのよ。本当は私が行ければ良いんだけど、輝夜の側を離れる訳にはいかないから」

 

「すんなり許可を出しそうな気がするけど」

 

「便乗して、本人が動くかも知れないじゃない。私は彼女の従者として、彼女を守る責務があるのよ」

 

「まっ、そっちの事情はどうでもいいわ。この際、猫だろうが兎だろうが、手を借して貰えるのなら、借りるわ」

 

「だそうよ。うどんげ、準備は既に出来ているかしら?」

 

「もっちろんです師匠! 完全フル装備にしました!」

 

そう言って現れた鈴仙の姿を見て、霊夢達おろか、永琳も度肝を抜かした。

何故なら彼女は、スーパーパワードアーミー―――SPAと呼ばれるパワードアーマーを着てやって来たからである。

超高性能センサーを各種搭載し、両肩にグレネードランチャー、両腕にはガトリングガン、胸部にはミサイルランチャーが備わっており、圧倒的火力で敵を制圧するというコンセプトで作られた決戦兵器である。

それを見た永琳は、呆れ返った。

 

「うどんげ、その装備は置いて行きなさい」

 

「ええ!? なんでですか!?」

 

「いくら何でも過剰火力よ。貴女、戦争でもする気?」

 

「そりゃもう、相手を見敵必殺するつもりですよ」

 

「張り切るのは良いけど、そんな大火力で黒幕を撃ったら、ジンの魂もひとたまり無いでしょう」

 

「あっ・・・・・・」

 

どうやら鈴仙は、その事を失念していたようである。

永琳はやれやれとため息をついた。その時である―――――。

 

「ちょっとちょっと! 大変だよー!」

 

てゐが慌てた様子で、部屋に入って来た。

永琳は何事かと訊ねる。

 

「いったいどうしたのてゐ?」

 

「なんか変な怪物が、永遠亭に押し寄せて来てるんだけど!」

 

「何ですって!?」

 

その言葉を聞いて、霊夢と魔理沙は直ぐ様立ち上がった。

 

「霊夢!」

 

「ええ! 小鈴ちゃんは危ないから、ここにいなさい!」

 

「は、はい!」

 

小鈴をその場に残し、霊夢達は急いで外へと向かった。

 

――――――――――――――――

 

永遠亭の外には、牛の顔をした怪物が群がっていた。

しかし、奴等ら永遠亭に浸入出来ていなかった。何故なら、月の姫と不死鳥の少女によって阻まれていたからである。

 

「よしっと、これで百四体目だ」

 

「あら、私は百十よ」

 

「へん、直ぐに追い越してやるよ!」

 

そう言って、妹紅は再び開始に炎を放った。輝夜もまた、負けじと光弾を放つ。

二人の弾幕が、怪物達を蹂躙していく。

そんな様子を、先程駆けつけた霊夢達は問の前で眺めていた。

 

「・・・・・・私たちの出る幕じゃないわね」

 

「ああ、そうだな・・・・・・」

 

「わ、私の出番は・・・・・・?」

 

「まったく輝夜ったら・・・後で説教ね」

 

それから十数分後、輝夜と妹紅によって、怪物達は瞬く間に殲滅されるのであった。

 

 

怪物達の殲滅が終わり、輝夜は永琳の説教を受け、霊夢、魔理沙、鈴仙、妹紅の四人は、怪物達の正体を調べていた。

 

「それにしても、こいつら一体何なんだ? 低級の使い魔みたいだが・・・・・・」

 

「数は多いけど、全然弱いわね。それに、実体化しきれていない」

 

そう言って霊夢は、怪物の死骸に触れてみる。すると、まるで煙のように四散していった。

他の死骸も、時間が経つと同じように消えていった。

 

「一体何なのかしらこれは?」

 

「何かしらの魔術要素があるみたいだが・・・・・・」

 

「これも恐らく、黒幕の力ね。あの本と同じ力を感じるわ」

 

説教を終えた永琳は、怪物の残滓に触れ、更にこう言った。

 

「これは牛の首とは違う嘘を具現化した物のようね。最近物だと、牛頭天皇かしら?」

 

「牛頭天皇だって? あれは解決為に流した、でっちあげの噂を流だろ?」

 

そう、魔理沙の言うとおり、霊夢は“牛の首”の噂を牛頭天皇の噂に上書きする事で、その噂の無力化を図った。

結果は上手く行き、人々の不安を取り除いた筈だった。しかし――――

 

「知っているわ、牛頭天皇が正体っていう噂ね。だけど、人里の人達はそれを嘘の噂だと知らないでしょ?」

 

そこで霊夢達はようやく気づく。

例え流した本人が嘘の噂だと知っていても、第三者にはそれが分からない。そして、不明瞭である部分がある以上、噂として機能してしまうのである。

 

「それなら何で、こいつらは襲って来たんだよ? 噂の元は牛頭天皇っていう神様なんだろ?」

 

「確証は無いけど、確かあの噂は、ビラを持つ人間は襲わないという物があったわよね」

 

「そうか! 逆に言えば、ビラを持たない人間は襲われるって事か!」

 

霊夢達が流した噂には、牛頭天皇のビラを張れば、襲わないという部分があった。

逆に言えば、それを持っていない者は、先程のように牛の怪物に襲われてしまうのである。

この不結果に、霊夢は頭を抱えた。

 

「うかつだったわ・・・まさか逆手に取られるなんて」

 

「むしろ、そのおかげで被害が軽微になったかも知れないわね。

もし仮に、あの噂のままだったら、人里は全滅していたかも知れないわ」

 

それを聞いて霊夢と魔理沙は背筋が凍った。もし噂が変わっていなかったら、黒幕はおそらく、牛の首の内容を適当な話にでっちあげてから、人々に聞かせ。噂を具現化していたのだろう。

しかし今回、ぬえが途中で噂を改竄してくれたおかげで、その方法を封じる事が出来た。ある意味、怪我の功名である。

 

「でも、それって話す相手も死ぬんじゃないですか?」

 

鈴仙のその指摘に対して、永琳はこう述べた。

 

「あら、忘れたのかしらうどんげ? この幻想郷には死者や私たちのような不死者もいるのよ。彼等が“牛の首”を話したとしても、死ぬ事は無いでしょうね」

 

「それじゃあ今回の黒幕は――――」

 

「少なくとも死者か、私達のような不死者、或いはあの世の関係者、ということになるわね」

 

「なんだってそんな奴等がこんな事をするんだ? 特に、あの世の連中達は秩序を守る方だろ」

 

あの世のに住むものは、世界の秩序を保つ事に一役買っている者が多い。そんな人達が、わざわざ秩序を乱すような事をするのだろうか? 妹紅はそう思った。

 

「さあね、向こうの事情はよく知らないもの。強いて言うなら、何かしらの問題が起きているという事よ」

 

問題、という言葉に、霊夢と魔理沙はうんざりとした表情をした。

彼女達は口には出さないものの、他所のトラブルを幻想郷に持ち込まないで欲しいと、密かに思っていた。

 

「ともかく、さっさと黒幕をやっつけて、この異変を解決するわよ」

 

「だな」

 

「私も付き合うよ。どうせ乗り掛かった船だからな」

 

「助かるわ。人手は多い方が良いもの」

 

「なら私も―――――」

 

「ひ~め~?」

 

輝夜も一緒に行こうとしたのだが、永琳のにこやかな威圧を受け、あえなく同行を断念した。

霊夢達は、小鈴を永遠亭に預け、迷いの竹林を後にするのであった。


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