これは、次の話しに繋げる為ものです。
それとリアル事情で、次の投稿は再来週くらいになるかも知れません。
ある時期、“牛の首”という噂が人里に広まっていた。
何でも、その話の内容を知るというものであったが、誰もその話の内容は知らなかった。それも筈である、聞いた人が死ぬのなら、その話を知る者はいないのだから。
しかし、人々は不安は拭いきれず、その噂は徐々に広まっていった。
――――――――――――――――
ここは博麗神社。ジン、霊夢、魔理沙の三人が、“牛の首”について話し合っていた。
「結構噂が広まっているみたいだぜ。
子供達は怖がっているし、大人達は戯れ言と思っているが、不安を隠せない様子だ」
「不味いわね・・・このままだと、その噂が具現化してしまうかも知れないわ」
「え? どうしてだ霊夢? もうオカルトボールは無いんだろ? だったら――――――」
「実は・・・一個だけ残っているんだぜ」
「え? あれは全部異変の時に―――――」
「菫子が作った方はな。でも、サグメが作ったオカルトボールはまだ幻想郷あるんだ」
「それじゃあ、このままだと―――――」
「あの時みたいに、その噂が具現化するかもね」
「急いで対処しないと――――ちょっと待ってくれ」
「どうしたのジン? 」
「いや、何かおかしい気がしてな」
「おかしい?」
「その牛の首の話は、内容が不明なんだろ? その状態で具現化しても、中途半端になるんじゃないか?」
「言われてみれば確かな、噂が具現化しても、内容不明のままじゃあ、実被害が無いという事になる」
「でも、放ってはおけないわ。さっそく調査に向かうわよ」
こうしてジン達は、牛の首の調査に乗り出すのであった。
――――――――――――――――
それから数日後。調査を行った三人だったが、あまり結果が芳しくなかった。
しかし一方で、僅ながら変化があった。
「え? 新しい噂?」
「ああ、何でも、“牛の首の噂を三人以上、知らない奴に広めれば、話の内容を知っても死なない”っていう話だ」
「巧妙ね。それなら自分の安全の為に、進んで噂をながす奴が増えて行くでしょうね」
「もしかして、誰かが意図的に流しているとか?」
「可能性は大いにあり得るわ。ともかく、噂の出所を掴めないと―――――」
その時、大きな悲鳴が上がった。
ジン、霊夢、魔理沙の三人は急いで悲鳴が上がった場所に向かうと、そこには人だかりと、その周囲に向かって何かを言っている男がいた。
「本当に見たんだ! あれは、牛の頭をした怪物だった!」
男の言葉に、周囲ざわめき始める。
イマイチ状況が掴めない三人は、男に事情を聞く事にした。
「一体何があったの?」
「おお巫女さん! 聞いてくれ! 実はさっき、“牛の頭をした”奴をそこで見かけたんだ!」
そう言って、男はなにもない場所を指を差した。
「何もいないじゃない」
「ほんのさっきまでそこに居たんだ!」
男の話によると、うずくまっている人がいたので、心配して声を掛けてみると、その人が振り返ると―――――。
「首から上が、牛の頭だったんだ!」
男の言葉に、再び周囲がざわめき始める。そんな中、騒ぎを聞きつけたのか、小鈴がひょっこり現れた。
「一体何の騒ぎなんですか?」
「ああ小鈴か。実はあの人が牛の頭をした人間を見たって」
「牛の頭って・・・もしかして今流行っている牛の首の―――――」
「それは分からないな。でも、今なら見間違いなで済むかもな」
「え?」
「それってどういう事だ魔理沙?」
「まあ見ていれば分かるぜ」
そう言って魔理沙は、霊夢に視線をやった。
「・・・貴方、お酒を飲んでいない?」
「へ? そりゃあさっきまでそこで飲んでいたが・・・・・・」
「それじゃ、酔っ払って白昼夢でも見たんでしょ。確かに牛の首っていう噂が蔓延しているけど、あれはただの与太話なのよ。
私の知り合いに、そういった話に詳しい子がいるから」
霊夢は話術を巧みに操って、噂の信憑性を下げ、人々を安心させようとしていた。
しかし、目撃した男は、それでも納得出来なかった。そこで―――――。
「ジン、ちょっと良い?」
霊夢に呼ばれて、彼女の元に行くジン。すると彼女はこんな事を言った。
「今から彼に、ここに何が居たのかを見て貰うわ。それでハッキリするでしょ?」
霊夢のこの提案に、男は異論はなかった。
ジンは早速、過去の軌跡を視ようとした時、霊夢が耳打ちをした。
「ジン。何かあったとしても、“何も無かった”と言いなさい」
「え?」
「そう言わないと、里の人が余計に不安を抱くじゃない。あんたが嘘を嫌うのは知っているけど、時には嘘も必要よ」
ジンは霊夢の言葉を聞いて、少し複雑な気持ちになったが、彼女の言い分が正しいと感じ、無言で頷いた。
「ありがと。それと、ごめんね」
それだけ伝えると、霊夢はジンから離れた。
ジンは早速、能力で男が言っていた付近の軌跡を見てみるのだが――――――。
「・・・・・・」
「どうジン? 何か見えた?」
「・・・・・・いや、“姿は見えないな”」
その言葉を聞いた里の人達は安堵と、“人騒がせな”という溜め息をつきながら、その場を去っていった。
男は、おかしいなぁ? と思いがらも、やはり自分は幻を見たのかと、最後は納得して帰っていった。
人だかりが無くなり、残ったのはジン、霊夢、魔理沙、小鈴の四人であった。
「お疲れ霊夢。なかなかの煽動だったぜ」
「人聞きの悪い事を言わないでちょうだい。こっちは里の人の為にやっているんだから」
「冗談だぜ。ところでジン、本当に何も無かったのか?」
「え? さっきジンさんが何も無かったって―――――」
「あれは方便に決まっているぜ。大方、霊夢に言われてそう言ったんだろうけど」
「本当なんですか霊夢さん?」
霊夢は、余計な事を・・・と呟きながら、小鈴の問いに答えて上げた。
「ええそうよ。余計な事を言って不安にさせたら、元も子も無いわ。嘘も方便って言うしね」
「はあ・・・それで、実際に居たんですかジンさん?」
小鈴は恐る恐るジンに訪ねる。すると彼は、難しい顔をしながら答えた。
「確かにそこに“何か”いたらしいが、何なのか“分からない”」
「え? どういう事よそれ?」
「それが・・・“何か”居たのかは分かっているんだが、モヤみたいなものを纏っていて、正体が掴めないんだ」
「でも、あの時は酔っ払いハッキリと言ってたぜ? “牛の頭をした怪物”って」
「それは分かっているんだが、軌跡には黒いモヤしか視えない」
「それって、あの男の人が黒いモヤと牛の怪物を見間違いをしたんじゃ―――――」
「それは違うわ小鈴ちゃん。ジンが軌跡を視るって事は、“その場にあった真実を視る”って事なのよ」
「??」
「分かりやすく言うと。如何なるまやかしであろうと、ジンの眼を誤魔化す事は出来ないわ。何故なら、軌跡っていうのは、“実在しているものにしか出ないからよ”。
例え姿を消そうが、化けようが、ジンの眼なら看破出来るの。ある意味、化け狸や化け狐の天敵ね」
「あと、姿を消すのが得意な妖精や、波長を操る兎なんかの能力もある程度無力化出来るぜ」
「あくまで視覚だけだ。他の五感を狂わされたら、どうにもならないが」
「ともかく、ジンが視えるの物が、全てにおいて真実なのよ。だから、この場に黒いモヤの軌跡があるのなら、あの男の人が目撃したのは牛の怪物ではなく、黒いモヤではなくちゃおかしいのよ」
「単に見間違えをしたのでは?」
「牛の怪物と黒いモヤを? それはちょっと不自然じゃない?」
「そうだな。いくら酒を飲んでいたからって、泥酔していた訳じゃないから、見間違えするとは思えない」
「でもよ、あいつハッキリと“牛の怪物”って断言していたぜ?」
「そこがわかんないのよねぇ・・・・・・」
「「「「うーん・・・・・・」」」」
四人は頭を捻りながら考えたが、やはり答えは出なかった。
しばらく考えていると、小鈴がある提案を打数。
「とりあえず、私の家に来ませんか? ここで考えるのもなんですし」
「それもそうだな。よし、小鈴の所で作戦会議だ!」
「作戦も何も、立てられる状態では無いけどな」
「そこ! 挙げ足を取るんじゃないぜ!」
「作戦会議はともかく、小鈴ちゃんの家に行くのは賛成ね。ゆっくり出来る場所の方が、考えをまとめやすいし」
「それじゃあ、決まりですね。美味しいお茶をと茶菓子も用意しますね」
こうして四人は、鈴奈庵に向かう事にした。
――――――――――――――――
鈴奈庵に着いた四人は、お茶や茶菓子を食べながら、今回の件について話し合っていた。
「やっぱあの男の見間違えなんじゃないのか? ジンの眼には、居たのは黒いモヤしかなかったんだろ?」
「それはそうだが、あそこまでハッキリと言っているんだ。見間違えってのいうだけでは片付けられない」
「そこが問題なのよねぇ・・・曖昧だったのなら、見間違えって片付けられるんだけど・・・・・・」
話は相変わらず平行線で、一向に進展しなかった。
三人の考えに煮詰まっていると、小鈴がこんな事を言った。
「こういう時は、考える方向性を変えると良いですよ」
「方向性を?」
「はい。推理小説の主人公が、調査に行き詰まった時に、よくやる方法なんですよ」
「でも、あくまで本の中での話だろ? 上手くいくのか?」
「やるだけやってみましょう! もしかしたら、何か閃くかもしれませんし」
「それもそうね。それじゃ、何から考える?」
「ここはやっぱり、“俺と男が見たものの相違”からだな」
「それはやっぱ、男の見間違えじゃあ――――」
「そもそも、何故見た物がこんなに違うのか? 先ずはここから考えてみよう」
「違い・・・ところでジン、質問があるんだけど、いいかしら?」
「ん? なんだ」
「貴方の能力を欺く事って出来る?」
その質問を受け、ジンは考えながら答えた。
「自分から言うのもなんだが、かなり難しいと思う。
サニーのように、光を屈折させて姿を消しても、あくまで視えなくなるだけだから、軌跡は残るだろう。こいしも、あくまで存在感を無くしているだけだから、軌跡は残ってしまう。
鈴仙の波長を操る能力でも、軌跡を消して動く事は出来ないだろう」
「それじゃあ、欺く事なんて出来ないじゃないか」
「だが、世界と同化している奴や、別世界に行き来している奴、あるいは瞬間移動出来る奴なら、軌跡を残さず移動は出来るだろうな。まあ、何かするときは残るだろうかも知れないけどな」
「おいおい、聞けば聞くほど、質が悪い能力じゃないか。
その気になれば、覗きにも使えそうだよな」
「そんな事に使うか!」
「ジンがそんな事に使う訳無いじゃない」
「ええ、ジンさんがそんな人ではありません。魔理沙さんだって、それは知っていますよね?」
「まあな。とりあえず、ジンの眼を欺く事はほぼ不可能って事だな・・・って、これじゃあ振り出しに戻っただけじゃないか!」
「あっ・・・・・・」
「やっぱ、本の通りに上手くいく筈無いか・・・・・・」
「「「はぁ~・・・・・・」」」
魔理沙、小鈴、霊夢は深く溜め息を吐いた。
しかしジンは、先程の話からある可能性を思いついた。
「・・・もしかしたら、あの男の人は、幻覚を見せられていたんじゃないか?」
「幻覚を?」
「ああ。幻覚はあくまで脳内で起こる物だから、軌跡には残らない。それなら、食い違いが起きてもおかしくはない」
「なるほど。あの男の人は、“見間違えた”ではなく、“牛の怪物の幻を見せられた”っていう訳ね」
「たぶんそれであっていると思う」
「さっすがジンさん! よく思いつきましたね」
「小鈴のおかげさ。考える方向性を変えるって言ってくれたおかげで、たどり着いたんだから」
「いや~、それほどでも♪」
「ごほん。ともかく、これで謎は一つ解決したわね。次は、黒いモヤの正体についてだけど―――――」
「やっぱアレかな、“今回の騒動を起こした黒幕”」
「間違いないわ。でも、ジンの能力を阻害出来る妖怪なんて、いるのかしら?」
「うーん・・・・・・」
四人は考えたが、そんな簡単に思いつく筈もなく、再び暗礁に乗り上げてしまった。
「また、考える方向を変えてみるか」
「どうします?」
「そうだな・・・“阻害出来る妖怪”じゃなくて、“どういう能力を使えば、阻害出来るか”を考えてみよう」
「能力ねぇ・・・そんな簡単に思いつくか?」
「逆よ魔理沙。これさえ分かれば、犯人はかなり限定出来るもの」
「そっか、ジンの能力は看破に特化している分、それを阻害出来る能力となると、限られているよな」
「そういうこと」
「よーし、少しやる気が出たぜ。小鈴、何か資料になりそうな本ってあるか?」
「今持って来ます」
そう言って、小鈴は書庫へと向かい。妖怪に関する本を引っ張って戻って来た。
「参考になりそうな物は、これくらいですかね?」
「多っ!?」
「仕方ないわ、手分けして探しましょう」
こうして四人は、手分けして、犯人にあたりそうな妖怪を調べ始めた。
調べ始めてからそれなりの時間が経過したが、やはり簡単には行かず、なかなか進展しなかった。
「あー駄目だ、それらしい妖怪なんていないぜ・・・・・・」
「そうですね・・・どれもこれも、ジンさんの能力を阻害出来そうにありません」
「ここまで来て、行き詰まるとは・・・まさに“正体が分からない妖怪だな”」
何気無いジンの言葉。その言葉を聞いて、霊夢はある妖怪の存在を脳裏に掠めた。
「・・・ねぇジン」
「ん?」
「“正体を無くす能力”を使った場合、軌跡はどうなるの?」
「正体を無くすか・・・いや、待てよ」
ジンは霊夢の言葉を聞いて、ある可能性にたどり着いた。
もし、犯人が正体を無くす能力を使った場合、軌跡はどう残るか、通常通りに残るか? 否、正体を無くされているのだから、例え軌跡であっても、正しく反映されない可能性がある。事実、男が見た物を、ジンは正しく認識出来ていなかった。
「・・・・・・可能性としては、十分あるかもな」
「やっぱりね・・・・・・」
「おい、何の話だ? 私にもわかるように説明してくれ」
「魔理沙、白蓮の時の異変を覚えている? あの時、UFOが飛んでいたでしょ?」
「ああ。でも、あれは飛倉の破片だったんだろ?」
「ええ、ぬえが能力を使って、それをUFOに見せていたのよ。
それで魔理沙、その状態でジンの能力を使って破片を視たら、どういう風に視えるかしら?」
「それはUFO・・・には視え無いよな」
「ええ、あれは私達がそう見えていただけで、他の人からは違って見えるでしょうね」
「なら、飛倉の破片に視えるんじゃないか?」
「そう視えるかも知れない。でも、視え無い場合はどう映る? 例えば、“黒いモヤ”のようなものとか」
「おい霊夢、それってあれか? ぬえが能力を使って、あそこにいた“何か”の正体を隠したっていう事か?」
「可能性は十分あるわ。ともかく、確かめに行きましょう」
新たな手がかりを求め、四人は命蓮寺へと向かう事となった。
――――――――――――――――
命蓮寺に到着した四人は、さっそくぬえに話を聞く事にするが、彼女から予想外の言葉が出た。
「そうだよ。あれは私がやった」
「あ、あっさり認めるのね・・・・・・」
「ここに来たって事は、大体の真相にたどり着いたって事だから、今更あーだこーだ言ったら、みっともないから」
彼女の話によると、マミゾウと結託して、今回の騒動を起こしたという。
マミゾウの部下に、牛の頭をした怪物に化けて貰い、そしてその正体を自身の能力で隠した。
ジンが黒いモヤしか見えなかったのは、霊夢の考えた通り、ぬえの能力であった。
「潔いですね・・・ところで、どうしてこんな事をしたんですか?」
小鈴の疑問に、ぬえはあっけらんと答えた。
「退屈だったから」
「・・・・・・え?」
「最近は人間の恐怖が足りないから、牛の首の話を使って、恐がらせようと思って」
「傍迷惑な話だな・・・・・・」
「だって仕方ないじゃない、妖怪は人間の恐怖を糧とする存在。この世に恐怖が無くなれば、存在出来なくなる。だから、定期的に刺激は必要じゃん。だから、マミゾウと結託して、やったんだ」
「あんた、寺に帰依したんじゃないの?」
「しているよ。でも、全ての妖怪が白蓮のいう存在になれる訳じゃない。そういった妖怪の為にも、こういった事は必要なのよ」
ぬえの主張に、ジンは内心共感を覚えた。
生きている限り、何かを犠牲にしなくてはいけないのが、世の常である。そう考えれば、ぬえの行動は迷惑であっても、犠牲が無い分、かなり良識的である。
(そう考えている俺は、かなり妖怪寄りなんだな・・・・・・)
ジンは少しだけ罪悪感を覚えたが、それをすぐに内にしまった。
「さて、犯人がわかったところで、覚悟はいいかしらぬえ?」
そう言って、霊夢はお祓い棒を構える。するとぬえは、こんな事を言って来た。
「言っておくけど、私達が牛の首の話を広めた訳じゃないから」
「この期に及んで言い訳をするの?」
「言い訳じゃない、事実だよ。私とマミゾウは、ただそれに便乗しただけ」
ぬえの言葉には迷いが無く、嘘を言っているようには思えなかった。
すると霊夢は、なにを思ったのか、お祓い棒をしまった。
「あれ? わたしを退治しなくて良いの?」
「あんたを退治しても、事態が収拾しなさそうだし。そこにいる、こわーい笑顔をしたお坊さんにあとを任せるわ」
「え?」
ぬえは恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはにこやかな笑顔をした白蓮が立っていた。
「ぬえ~? 少しだけお話ししましょうか?」
「ひ、ひぃぃぃ!?」
ぬえの恐怖の叫び声が境内に響き渡るが、霊夢達は気にせず、寺を後にするのであった。
――――――――――――――――
寺を後にした四人は、人里に通じる街道を歩きながら、今後の事について話していた。
「さて、これからどうしょうかしら?」
「え? 犯人もみつかったから、これで解決じゃあ?」
「噂の方が残っているだろ。あれをどうこうしなくちゃ、無害であっても具現化してしまうからな。そうなると、色々と面倒な事になる」
「事実を里の人に伝えては?」
「それが一番簡単な方法だが、俺個人としてはやって欲しくない。命蓮寺の評判が落ちるし、妖怪との不和が生じる。それによって様々な問題も出る。
なるべく穏便に解決したい」
それはジンにとっての願いでもあった。
世界は平等ではない、種族、能力、思想において、一つ一つ違うのであるだから、平等になる事は決してない。しかし、争う事が出来るのなら、分かり合うことも出来る筈。
ジンが最も望む事は、共存である。それを壊れるような事は、彼にとって避けたい事なのだ。
「・・・・・・仕方ないわね。こうなったら、私が一肌脱ぐわ」
「霊夢?」
「何か良い案があるのか?」
「まあね、目には目、歯には歯、“噂なら噂”で対抗するのよ」
そう言って霊夢は、にんまりと微笑むのであった。
――――――――――――――――
それから数日後、霊夢は牛の首の正体を、牛頭天皇という神様という噂と、彼女が作ったビラを家に張る事で襲われない噂を流した。
鈴奈庵が牛頭天皇のビラを発行し、それを里の人に配る。御利益を信じた人々は、それを家に張る事により、噂を上書きする事に成功し、怪談としての牛の首の噂は、完全に消え去ったのである。
そして霊夢達は、鈴奈庵にて、その事を満足そうに話していた。
「これにて一件落着ね。神社の宣伝にもなったし、一石二鳥ね♪」
「鈴奈庵の宣伝にもなりましたから、一石三鳥ですよ」
「しかし、こんなビラで安心するなんて、人間って安い生き物だよな」
魔理沙はそんな事を呟きながら、牛頭天皇のビラを眺めていた。
「人は、正体が分からない物に恐怖するから、嘘の正体でも、正体不明よりそっちを信じてしまうのよ」
「人にとっては、未知は恐怖の対象でもあるしな」
「好奇心の対象でもありますけど」
「小鈴ちゃんが言うと、説得力あるわね・・・・・・」
「それほどでも。ところで、結局牛の首を流した張本人って、一体誰なんですかね?」
「さあ? 子供が勘違いじゃない? たまたま流れた噂を、ぬえ達が煽ったとか?」
「それが妥当じゃないか? おーいジン、お前はどう思――――――」
魔理沙が立ち読みをしているジンに声を掛けたその時、彼はまるで糸が切れた人形のように倒れた。
「ジン!?」
「ジンさん!?」
「おいどうしたんだ!?」
三人は慌てジンの元に駆け寄る。
必死の呼び掛けにもかかわらず、ジンは目を覚ます事は無かった。
牛の首の事件は、この後起こる異変の序曲に過ぎなかった事を、霊夢達はこの後知るのであった。
つづく。