東方軌跡録   作:1103

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書き終えて読み返してみると、この設定で行くと、正邪も千年単位の妖怪になってしまっているんですね。今思うと、かなり無茶な設定だと思います・・・・・・。

それでも、親子ネタがやりたかったので、後悔はありません!


サグメと正邪 後編

ここは月の都の宮殿。そこにはサグメが事務仕事をしていた。

 

「・・・・・・はあっ」

 

時折出るため息が、彼女が憂鬱である事を物語っていた。

そんな彼女に、声を掛ける者をがいた。

 

「そんなに正邪の事が気になるのなら、会いに行けばいいだろ」

 

「誰!?って、貴方は!?」

 

侵入者の姿を見て、サグメは驚いた。そこには地上人であるジンがそこに立っていたからである。

 

「あの厳重な警備をどうやって・・・まさか!?」

 

「ああ、紺珠の薬を使ったんだ」

 

そう言って、空の小瓶をサグメに見せる。

 

「呆れた・・・死にかけたのにまた使うとは、地上人は愚かね」

 

「自分の娘をほったらかししたあんたには言われたくない」

 

「・・・・・・」

 

「また黙りか・・・まあいいさ。こっちはこっちで用件を済ませる」

 

「用件?」

 

「単刀直入に聞こう。あんたは正邪とどうしたいんだ

?」

 

核心をつく言葉に、サグメは動揺したが、直ぐに冷静を取り戻し、口を紡ぐ。

そんなサグメをお構い無しに、ジンは言葉を続けた。

 

「大体の事情は永琳から聞いた。あんたが正邪の前から去ったのは自分の能力があいつに害を及ばせないという事も知った。それであえて言う・・・・・・ふざけんなよお前」

 

「!?」

 

「害を及ばせないように遠ざけた? 正邪の為? ちゃんちゃらおかしい話だな。

ハッキリと言って、お前は正邪の為に何一つしていない。自分の能力を言い訳に、あいつから逃げたんだ!」

 

「違う!」

 

サグメはこの時、我を忘れて叫んだ。それを見たジンはニヤリと笑った。

 

「何が違うんだ? お前が正邪から離れた後、あいつがどんな目にあったか、知っているんだろう? なら、何故助けなかった? あんたの立場なら、やりようがあったんじゃないのか?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「正邪が何故、都に火をつけたか知っているか? あれはあんたを呼びたいが為にやった事なんだよ!」

 

「なっ!?」

 

「騒ぎを起こせば、自分を怒りにやって来るかも知れない。もしくは、心配して来るかも知れない。そう思って火をつけたんだよ。あいつは」

 

「ど、どうしてそんな事が―――――」

 

「言えるかって? そりゃ永琳から聞いたよ、当時のあんたの自慢話を。

あいつ昔から人を困らせてばかりいたんだってな。そんで、あんたに怒られる時は、いつだって舌を出して、“ごめんなさい、もうしません”って言って笑っていたらしいな。そんな仕草が愛らしくて、あんたはついつい許してしまったんだろ?」

 

「あっ・・・・・・」

 

「だからこそ言える。あいつの望みは、母親のあんたと一緒に居たかったんだ。ただそれだけだったんだよ」

 

「うっ、ううっ・・・セイジャ・・・・・・」

 

サグメはその場で泣き崩れてしまった。自らの能力を恐怖するあまり、我が子の想いを悟られ無かったんだ自分の愚かさと、そのせいで辛い思いをさせてしまったセイジャに対しての、謝罪の涙であった。

 

「サグメ、もう一度聞く。あんたは正邪とどうしたいんだ?」

 

「・・・・・・あの子に謝りたい、出来る事なら、もう一度母親として・・・・・・」

 

「それが、あんたの望みか?」

 

「ええ・・・でも、もう無理ね。あの子はきっと私を許さないわ」

 

「そんな事無いさ、あいつはああ見えても、筋をとおす奴だから、ちゃんと話せば分かるさ。それに、この時をもって今、“運命は逆転した”」

 

「何を言って―――――あっ!」

 

「ああそうだよ。今まで“最悪”だった関係が、今この瞬間から“最良”の関係に向かって逆転し始めた。あんたの能力でな」

 

「まさか・・・貴方はこれを狙って―――――」

 

サグメのその言葉を聞いて、ジンは微笑む。

 

「どんな能力だって、使いようだ。怖がっていちゃ、結局その力に飲まれるだけだ。違うか?」

 

「だ、だが、それでもはやり、この能力であの子が危険に晒されると思うと・・・・・・」

 

「そんな運命は、俺が全部覆してやるよ。だからあんたは、母親としてあいつに会いに行きな。じゃないと、一生後悔するぞ、あんたにしても、正邪にしても」

 

そう言って、ジンは手を差し出した。サグメはその手を、恐る恐る手に取った。

 

――――――――――――――――

 

ここは稗田家の秘密の別荘。サグメは落ち着かない様子で部屋にいた。

 

(何だか緊張してしまう・・・こんなに緊張したのは何年振りだろう)

 

長い時間を生きていたサグメにとって、少しだけ新鮮味を感じる一時であった。

そんな時である、部屋の戸が開かれた。

 

「正邪を連れて来たぞ」

 

「んー! んー!」

 

サグメは正邪の姿を見て驚愕した。簀巻きにされた上に、テープで口を塞がれ、ジンに担がれていたからである。第三者が見たら、確実に拉致被害者である。

 

「セイジャ!? ちょっと貴方! 一体何を―――――」

 

「こいつが駄々をこねたから、強引に連れて来た。後は二人でじっくり話し合ってくれ」

 

そう言って、ジンは正邪を部屋に放り込みと、そのまま退室してしまった。

サグメは頭を抱えてしまうが、とりあえず正邪を解放する事にした。

 

「大丈夫セイジャ?」

 

「いつつ・・・あの野郎、本当にわたしに対して容赦無いんだから」

 

「ごめんなさい、私のせいで・・・・・・」

 

「・・・・・・何であんたが謝んだよ」

 

「え?」

 

「ジンの野郎が勝手にやった事だろ? ようは、あんたも被害者だ。そうだろ?」

 

「え、ええ・・・・・・」

 

正邪の言葉に刺が無い事に、サグメは戸惑った。彼女は、正邪の心を探った。

 

――――――――――――――――

 

それはほんの少し前、サグメが正邪を待っていた時の出来事ある。

ジンは正邪を連れて来る前に、彼女にすべてを打ち明けていた。

 

『これが、サグメがお前の前から去って行った理由だ』

 

『・・・・・・嘘だ』

 

『正邪?』

 

『そんなの嘘だ! そんな事言って私は騙されないぞ!』

 

『信じるかどうかはお前次第だが、本当は分かっているんじゃないのか?』

 

『な、なにが?』

 

『彼女がやった事は確かに誉められたものじゃない。けど、決してお前を愛さなかった訳じゃなく、寧ろ愛していたからこそ、自分から遠ざけた。

まあ、結局それが裏目に出てしまったが』

 

『・・・・・・そんな事、今さら言われても困る』

 

『正邪?』

 

『今さらそんな事を言っても遅いよ! 私がどんな思いで生きて来たか、どんな惨めな思いをして来たか!

憎んださアイツの事、ずっとずっと憎んださ! でも、今さらそんな事を聞かされたら、私どうしたら・・・・・・』

 

『お前はどうしたいんだ正邪? 今回だけはひねくれず、正直に言ってみろ』

 

ジンがそう言うと、正邪は戸惑いながらも、自分の心中をジンに語りだした。

 

『・・・・・・母さんと話がしたい。ちゃんと話がしたい』

 

『そうか、それなら行くぞ』

 

『行くって?』

 

『サグメを既に連れて来ている。今は阿求から借りた別荘にサグメにいる』

 

『え? いや、どうやって連れて来たんだ? あいつまがりなりはなも、月の重役なんだぞ? それをどうやって・・・・・・』

 

『細かいことは気にするな。ともかく、話し合うのなら今がチャンスだ』

 

『・・・・・・もしかして、今から会いに行けと?』

 

『ああ、その為に連れて来たんだ』

 

『・・・・・・なあ、また今度にしてくれないか? 流石の私も、心の準備というものが―――――』

 

『問答無用。さっさと行くぞ』

 

『うわぁ!? 何を――――』

 

ジンは有無を言わさず、木獸を使ったら正邪を縛り上げ、そのままサグメの元へと連れ去ったのである。

 

――――――――――――――――

 

一部始終を見たサグメは、ジンの行動に呆れ果てていた。

 

(彼って、セイジャに対して本当に容赦ないのね・・・・・・まあでも、心の底から嫌っている訳じゃないみたいね、お互いに)

 

呆れる一方で、二人の奇妙な関係に、強い関心をもった。

一方で正邪は、どうすればいいのか分からず、酷く戸惑っていた。

 

(あーもう! 確かに話したいとは言ったけど、少し心の準備くらいさせてくれよ・・・・・・)

 

そんな正邪の心を汲み取ったサグメは、先に口を開いた。

 

「あのねセイジャ。私、貴女に伝えたい事があるの」

 

「・・・・・・」

 

「先ず一つは、貴女に対する謝罪。私は自分の事しか考えず、貴女の気持ちを考えていなかった。今さらこんな事を言う資格は無いのかも知れないけど、本当にごめんなさい」

 

そう言って頭を下げるサグメ。そんな彼女に対して、正邪は言う。

 

「本当、今さらだよな。私がどんな思いをしたか、本当に分かっているのか?」

 

「・・・・・・」

 

「あれからもう長い年月が過ぎているんだ。そう簡単に許してやらない」

 

正邪の言葉を聞いて、やはり駄目かと思うサグメであったが、次の正邪の言葉を聞いて、顔を上げた。

 

「だから、今後私の我が儘を絶対に聞く事。それでチャラにしてやるよ」

 

「セイジャ・・・・・・」

 

「言っておくけど、私の言う事を聞くって事は、私の子分になれって事だからな。勘違いするなよ」

 

「ええ、それで良いわ。貴女がそう望むのなら・・・・・・」

 

「それじゃ、最初の命令(おねがい)は―――――」

 

正邪は少し恥ずかしそうにして、最初の命令(おねがい)を口にした。

 

――――――――――――――――

 

その頃ジンは、別荘から少し離れた場所で寝転んでいた。

 

「疲れた・・・・・・いくらやり直しが出来るからと言って、安易に使う能力じゃないなこれ・・・・・・」

 

ジンがこの結末(エンディング)に辿り着く為にやり直した回数は、軽く百は越えていた。途中で数えるのを辞めてしまったので、もしかしたらもっと回数は上かも知れない。

 

(やっぱり、難所は月の宮殿だったな。かなり厳重だった・・・・・・)

 

月の宮殿の侵入はとても金なんで、ジンは何度もやり直した。パターンを見極め、情報を集め、少しずつ攻略していき、遂にはサグメの部屋まで辿り着いた。

 

(その次が大変だったよな・・・・・・)

 

サグメの説得にも、それなりのやり直しをした。何故なら、彼女は頑なに口を開こうとしなかったのである。

しかも、一定時間が過ぎると、人が来てしまうので、中々にシビアであった。

様々な障害を乗り越え、ジンはようやく望む結末に辿り着いた。しかし、それにはそれ相応の代償があった。

 

(うぐっ、かなり負担が強いな・・・・・・)

 

ジンは懐から、紺珠の薬と共に貰った、副作用を抑える薬を飲む。すると僅かばかり痛みが引いた。

 

(早いとこ、永琳の所に行って、解毒薬を処方して貰おう・・・・・・)

 

ジンは立ち上がり、永遠亭に向かおうとした。そんな彼に、ある人物が声を掛けて来た。

 

「紺珠の力をまた使いましたねジン」

 

ジンの目の前には、ドレミーが立っていた。

ジンは彼女に対して、まるで友人のように接した。

 

「よおドレミー、こんにちは」

 

「随分呑気ですね。私がここに来た理由くらいは、察していますよね?」

 

「紺珠の薬を使った事に関してだよな。やっぱり怒っているか?」

 

「・・・ややずれた回答ですが、概ねその通りです。

ジン、貴方にとって紺珠の力は過ぎた力です。それなのに何故、再びそれを使おうと思ったですか? こんなボロボロになってまで、あの二人に肩入れをするのですか?」

 

ドレミーはそうジンを問い詰めた。

ジンは少し考えてから、彼女の問いに答えた。

 

「・・・やっぱ俺さ、嫌なんだよな。誰かが悲しい目にあっているのに、それを黙って見ているのは」

 

それが、ジンの行動理念であった。誰かが泣いていたり、悲しんでいる事をジンは最も嫌っていた。

今回の件も、サグメが泣いていたからこそ、それを黙って見ている事が出来なかったからである。

 

「その為には、自分を犠牲もいとわないと?」

 

「そんな事をしたら、霊夢達が悲しむだろ? だからやるとしたらギリギリだ」

 

「そのわりには、結構死にかけていますよ貴方」

 

「そう言われると、何者言い返せないな・・・・・でも、それが俺だから」

 

ジンの言葉を聞いて、ドレミーはやれやれとため息をついて、踵返した。

 

「どうやら、貴方を監視するだけ無駄のようですね。貴方みたいな人なら、その力を悪用しないでしょうし」

 

「そう言って貰えると、嬉しいな」

 

「別に誉めた訳ではありません。単に、貴方に割く時間が無意味だと思ったからです。皆が皆、貴方の様に、他人の為に力を行使しないのです。力に目覚めた殆どの人間が、私利私欲の為に力を使うのです。

だからこそ、私は力ある人間を監視するのです」

 

「そっか、確かに力っていうのは、使いようでは人を傷つけるものになってしまうからな。肝に命じておく」

 

「・・・力に目覚めた者が、貴方ばかりだったら楽なんですけどね」

 

そう言い残し、ドレミーは去って行った。

彼女が去った後、ジンはふらつきながら永遠亭に向かうのであった。

 

――――――――――――――――

 

それから数週間後、正邪はまたしてもイラついていた。その理由というと――――。

 

「約束通り来たわよ正邪」

 

「来たわよ。じゃねぇーよ! 来すぎだろ!」

 

サグメが毎日のように博麗神社にやって来るようになってしまったからである。

確かに、たまにで良いから会いに来て欲しいとは言ったが、こうも頻繁に来られると、逆に迷惑である。と正邪は思っていた。

 

「大体、仕事の方はどうなんだよ? あんた、まがりなりにも、重役なんだろ? こんな頻繁に抜け出して、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫。純狐の監視という名目で来ているから」

 

「監視って・・・ただ井戸端会議しているだけじゃねーか!」

 

最初は真面目に監視をしていたサグメであったが、互いに母親という事もあって、それなりに話が合ってしまい。今では、普通に世間話をするようになっているのである。

 

(こんなのが重役なんて、月の都が終わったな)

 

「それじゃあセイジャ、今日はどうし――――ん?」

 

すると突然サグメは耳に手を当てて、誰かと話始めた。

 

「サグメよ。一体なにがあったの? ・・・・・・わかった、直ぐに戻るわ」

 

話が終わると、サグメはやや不機嫌そうな顔をした。

 

「どうした?」

 

「仕事のトラブル。部下が重要書類を間違って裁断機に入れちゃったらしいのよ・・・それの後処理で、しばらくこっちに来れないかも」

 

「そっか・・・・・・」

 

「そんな顔をしないでセイジャ。終わったら、直ぐに戻って来るから、少しの辛抱よ」

 

「う、うっせー! 余計のお世話だよバーカ!」

 

正邪はあっかんべーをして、サグメを見送った。

それから博麗神社には、月の女神がちょくちょく来るようになった。


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